Claudeで図上訓練の状況付与カードを作る手順 — 課題整理表まで
地域防災計画と被害想定をClaudeのプロジェクトに置き、時刻ごとの状況付与カード(道路寸断・避難所の定員超過・通信途絶)を作って、訓練後の課題整理表に落とす手順です。
状況付与カードの準備が、図上訓練でいちばん重い作業になる
図上訓練の準備で手間がかかるのは、会場でも参加者の調整でもなく、状況付与カードです。カードとは、訓練の進行に合わせて参加者(プレイヤー)に渡す「いま起きていること」の紙片を指します。
松山市の風水害対応の図上型訓練は、コントローラーからの状況付与でプレイヤーが災害対応をする、ロールプレイング型のブラインド方式でした。参加者は約130名で、大雨による浸水や土砂災害、道路被害が想定されています。群馬県の災害対策本部の訓練も、種別は「状況付与型ブラインド方式」です。
ブラインド方式では、参加者に進行表を見せません。起きる事象を知らされるのはカードが届いた時点だけです。そのため、カードの質がそのまま訓練の質になります。
防災科研の研究ポスターは、従来の防災図上訓練ではシナリオを1つだけ作り、状況付与カードは手作業で作る、と説明しています。図では、その枚数が数百枚規模で描かれています。さらに同じポスターは、状況付与カードを生成AIで作るシステムの開発を目指していると書いています。
この記事の手順は、そこまで大がかりなシステムを使いません。Claudeのプロジェクトに地域防災計画と被害想定を置き、カードの下書きと訓練後の課題整理表をClaudeに作らせます。カードの内容を決めるのは人です。
カードを作って課題整理表に落とすまで
- 1
プロジェクトに計画と被害想定を置く
計画の該当章、被害想定、施設一覧を入れ、カードの書式を指示文に書きます。
- 2
時間軸の骨格を人が決める
何時に何が起きるかを、5〜10行の表にします。
- 3
骨格からカードを展開させる
1行を1〜数枚のカードにし、宛先の役割と付与方法を付けます。
- 4
矛盾を洗ってから印刷する
時刻の前後、復旧済みの道路が再び通れないことになっていないかを確かめます。
- 5
訓練後に記録を課題整理表にする
カード番号を軸に、対応の遅れと計画の記述のずれを洗い出します。
手順1: 地域防災計画と被害想定を、プロジェクトの知識に置く
プロジェクトは、独自のチャット履歴と知識ベースを持つ作業スペースです。文書をアップロードして文脈を与え、その上で個別のチャットを進められます。無料アカウントでも使えますが、作れるプロジェクトは5つまでです。
知識ベースには、次の4種類の資料を入れます。
- 自治体の地域防災計画(今回の訓練に関係する章だけでよい)
- 被害想定(震度分布、浸水想定、避難者数の見込みなど)
- 避難所の一覧(名称、所在地、収容人数)
- 前回までの訓練の課題メモ(あれば)
名前と説明欄に書いた内容は、Claudeからは読めません。プロジェクトを作るときに入力する名前と説明は、ヘルプセンターに「Claudeはこれらの内容にアクセスできない」と書かれています。訓練の目的や対象災害は、名前に書いて済ませず、プロジェクト指示文に書いてください。
プロジェクト指示文は、知識ベースの画面にある「Set project instructions」から保存します。カード作成用には、次のような内容を置きます。
あなたは自治体の防災担当者を支援する訓練企画の補助役です。
- 状況付与カードは、知識ベースの被害想定と地域防災計画に書かれた範囲で作る。
- 被害想定に数値がない項目は、数値を作らず「数値は担当者が設定」と書く。
- カードは次の項目で出す: カード番号 / 付与時刻 / 宛先の役割 / 付与方法 / 本文 / 想定される対応 / 関連する計画の節
- 本文は、現場から入ってくる報告の口調で書く。対応の答えは本文に書かない。
- 付与方法は、電話・無線・FAX・口頭・メモ持参のいずれかにする。最後の2行が要点です。カードの本文に「どう対応すればよいか」を混ぜると、参加者は考えずに答えを読むだけになります。答えは「想定される対応」の欄に分け、コントローラー側だけが持つ形にします。
知識ベースが大きくなったときは、有料プラン(Pro、Max、Team、Enterprise)では、容量の上限に近づくと検索拡張生成(RAG)のモードが自動で入ります。ヘルプセンターの説明では、これで容量が最大10倍に広がります。計画書をまるごと入れても、基本的には動きます。
ただし、Claudeに計画の記述を引かせたいときは、章立てを自分で渡しておく方が、引用の範囲を確かめやすくなります。この流れは、避難所運営マニュアルの作成手順でも使っています。
手順2: 時間軸の骨格は、人が先に決める
カードを一気に生成させる前に、「何時に何が起きるか」の骨格を人が作ります。ここをClaudeに任せると、被害が右肩上がりに増えるだけの単調な訓練になりがちです。
骨格は、次のような表で十分です。時刻、事象の種類、影響を受ける班、訓練で確かめたいことの4列にします。
| 付与時刻 | 事象の種類 | 影響を受ける班 | 確かめたいこと |
|---|---|---|---|
| 発災後30分 | 事象の種類幹線道路の寸断 | 影響を受ける班物資・輸送班 | 確かめたいこと迂回路の判断と、避難所への物資経路 |
| 発災後2時間 | 事象の種類避難所の定員超過 | 影響を受ける班避難所班 | 確かめたいこと代替施設への案内の判断 |
| 発災後3時間 | 事象の種類通信途絶 | 影響を受ける班本部全体 | 確かめたいこと無線・メモ持参への切り替え |
| 発災後6時間 | 事象の種類要配慮者の搬送要請 | 影響を受ける班福祉班 | 確かめたいこと福祉避難所の開設判断 |
右端の列が、課題整理表につながる起点です。「確かめたいこと」が書けない事象は、カードにしても訓練の効果が出にくいため、骨格の段階で外します。
事象の選び方は、地域防災計画にある役割分担から逆算すると決まります。計画に「避難所班が定員超過を本部へ報告する」とあるなら、定員超過のカードは避難所班に届き、本部には届きません。この食い違いこそ、訓練で試したい部分です。
被害想定に基づく数値(浸水深、避難者数など)は、骨格の表に人が入れます。Claudeに新しい数値を作らせると、被害想定と食い違うカードが混ざります。指示文で「数値を作らない」と決めておく理由もここにあります。
手順3: 骨格の1行を、宛先つきのカードに展開させる
骨格ができたら、1行ずつ、または数行まとめてカードにします。チャットの冒頭は次のように書きます。
添付の骨格表の1行目(発災後30分、幹線道路の寸断)を、状況付与カードにしてください。
- 被害想定の道路の項目と、地域防災計画の輸送に関する章を根拠にする
- 同じ事象を、現場報告・住民からの問い合わせ・他機関からの連絡の3つの角度で3枚作る
- 宛先の役割が違うカードは、本文の語り口も変える同じ事象を複数の角度から届ける指示が、カードの枚数を増やしつつ訓練を厚くするコツです。現場の職員からは「国道の○○付近で通行止め」という報告が、住民からは「避難所に行く道が塞がっている」という問い合わせが、道路管理者からは復旧見込みの連絡が届きます。参加者は、それぞれの情報を突き合わせる作業を迫られます。
出力の形は、例えば次のようになります(書式の例示であり、数値や地名はダミーです)。
カード番号: 03
付与時刻: 発災後30分
宛先の役割: 物資・輸送班
付与方法: 無線
本文: こちら巡回班。□□橋の北側で道路が陥没し、車両の通行ができません。迂回できそうな道は確認できていません。
想定される対応: 迂回路の検討、避難所への物資経路の再確認、本部への報告
関連する計画の節: 輸送計画(緊急輸送道路の代替路)避難所の定員超過では、施設一覧にある収容人数が基準になります。「定員超過」と書けるのは、一覧の数字を超える人数が設定できるときだけです。数字は骨格表で人が決め、Claudeはそこからカードの文面を作ります。
通信途絶のカードは、付与方法に工夫が要ります。通信が切れたことを電話のカードで伝えると、矛盾になります。通信途絶のカードは、口頭か、メモを持った連絡員が届ける形にします。訓練の運営側が無線機を回収する、という運用の約束も一緒に決めておくと、参加者が混乱しません。
事象ごとに、カードで試したいこと
道路寸断
迂回路を探すだけでなく、その道を使う予定だった物資や人員を誰が把握しているかを試します。
避難所の定員超過
受け入れ先の変更を、誰が決めて、誰が住民に伝えるかを試します。
通信途絶
連絡手段を切り替える判断と、切り替えた後の情報の遅れを試します。
手順4: 印刷する前に、カード同士の矛盾を洗う
カードは複数のチャットに分けて作ることが多く、そこで矛盾が生まれます。ヘルプセンターには、プロジェクト内でもチャット間で文脈は共有されない、と書かれています。共有されるのは、知識ベースに入れた情報だけです。
つまり、2つ目のチャットで作るカードは、1つ目のチャットで作ったカードを知りません。片方で復旧済みと書いた道路を、もう片方が通れないことにする、といった食い違いが起きます。
対策は単純です。作ったカードの一覧を、知識ベースに追加します。カード番号、付与時刻、本文の要点だけの表で足ります。新しいチャットでは、その表を読ませてから次のカードを作らせます。
全カードが揃ったら、最後に別のチャットで検査をかけます。
知識ベースのカード一覧を、付与時刻の順に読んでください。
次の3点で、食い違いのある組み合わせをカード番号で挙げてください。
1. 同じ場所の状態(通行可・不可、開設・閉鎖)が、時刻の前後で矛盾していないか
2. 宛先の役割が、地域防災計画の役割分担と合っているか
3. 通信途絶の後に、電話や電子メールで届く設定のカードが残っていないかClaudeの指摘は、そのまま信じず、カード番号を手がかりに人が確認します。指摘が多すぎるときは、骨格の段階で事象を詰め込みすぎているのかもしれません。
手順5: 訓練記録を、課題整理表に落とす
訓練が終わったら、記録を課題整理表にします。参加者の発言メモ、コントローラーの記録、各班の振り返り用紙を、そのままチャットに貼ります。
添付の訓練記録を、課題整理表にしてください。
列は、課題 / 関係するカード番号 / 関連する計画の節 / 原因の区分 / 改善案 / 担当班 / 期限案 とします。
原因の区分は、計画の記述がない / 計画はあるが周知されていない / 資機材・手段の不足 / 判断の遅れ のいずれかにします。
記録に根拠がない課題は書かないでください。原因の区分を決めておくと、次の見直しで何を直すかが分かれます。「計画の記述がない」なら計画の修正、「周知されていない」なら研修や掲示、「資機材の不足」なら備蓄や配備の話になります。計画の修正が必要な課題は、地域防災計画の修正箇所を洗う記事の手順に引き継げます。
表の完成度は、記録の質に左右されます。コントローラーが「何時何分に、どのカードを、誰に渡したか」を残しておくと、課題とカード番号の対応が付けやすくなります。
複数人で使うとき、気をつけておくこと
TeamやEnterpriseのプランでは、プロジェクトを組織内の他のメンバーと共有できます。権限は「Can view」と「Can edit」の2段階です。「Can view」のメンバーは、内容を見て、プロジェクト内でチャットできますが、編集はできません。「Can edit」のメンバーは、指示文と知識ベースを変更できます。
訓練の企画チームで使うなら、カードの一覧を管理する人に「Can edit」を渡し、他の人は「Can view」にしておく運用が現実的です。管理者がプロジェクトの共有を無効にしている組織では、共有ボタンは使えません。
個人プランで作ったプロジェクトは、共有機能がありません。計画書やカードの一覧を同僚に渡すときは、ファイルとして出力し、組織の文書管理のルールに従って渡します。
住民の個人情報、要配慮者の名簿、実在の個人名が入った資料は、訓練の素材としてはプロジェクトに入れない運用が無難です。カードの本文は、役割と場所だけで足ります。
つまずきやすい点
落とし穴
カードの本文に、答えが書かれてしまう
「迂回路を使って物資を届けてください」のような指示が本文に入ると、参加者は判断をしません。指示文で、本文は「報告の口調」に限り、対応は別の欄に分けると決めておきます。
落とし穴
地名や数値が、被害想定とずれる
知識ベースにない地名や数値をClaudeが補う余地を残さないため、ダミーを使うカードは本文に「(仮)」と書き、被害想定にある値だけを本物として扱う運用にします。
落とし穴
カードの枚数が増えて、訓練が回らない
カードが多すぎると、コントローラーが渡すだけで手一杯になります。骨格の1行につき1〜3枚に収め、参加者の人数と時間から逆算して決めます。
まとめ
この手順でClaudeに任せるのは、骨格の1行をカードの文面にする作業と、訓練後の記録を課題整理表の形にする作業です。何を訓練で試すか、どの数値を使うかは、人が決めます。
特に効くのは、カードの宛先と付与方法を最初から項目にしておくことです。どの班に、どの手段で届くかが決まっていれば、計画の役割分担とのずれが訓練中に表に出ます。家庭向けの備えについては、家庭の防災計画とチェックリストの記事にまとめています。