Claudeで研修用ケーススタディとロールプレイのシナリオを作る手順
社内で起きたトラブルを匿名化し、Claudeで分岐付きケーススタディとロールプレイ台本に仕立てる手順です。Artifactsで配布資料にし、Projectsで研修設定を使い回します。
研修用のケーススタディとロールプレイ台本は、実際に起きたトラブルを素材にすると効果が出やすい一方、匿名化と分岐設計に手間がかかります。Claudeに素材と学習目標を渡せば、匿名化した事例文、選択肢が分岐するシナリオ、役割別のロールプレイ台本まで一続きで下書きできます。仕上げはArtifactsで配布資料にします。
この記事では、その一連の流れを手順として書きます。事例は社内クレーム対応を仮定しますが、ハラスメント相談、新人の報連相、営業の失注振り返りにも同じ型が使えます。
研修シナリオ作りでClaudeに任せる範囲と人が決める範囲
Claudeに任せて効果が大きいのは、文章の量が多く、型が決まっている作業です。事例文の書き起こし、分岐の枝の展開、登場人物ごとの台本の作り分けがこれに当たります。
逆に、人が決めるべき部分ははっきりしています。
| 工程 | Claudeに任せる | 人が決める |
|---|---|---|
| 学習目標 | Claudeに任せる目標の言い換え案を出す | 人が決める何を身につけさせるか |
| 事例の匿名化 | Claudeに任せる固有名詞の置き換え案 | 人が決める個人が特定されないかの最終確認 |
| 分岐の設計 | Claudeに任せる枝と結末の展開 | 人が決める正解とみなす対応の基準 |
| ロールプレイ台本 | Claudeに任せる役ごとの台詞と性格づけ | 人が決める自社の対応方針との整合 |
| 講評の観点 | Claudeに任せる評価軸の草案 | 人が決める評価の重みづけ |
正解の基準を人が持つ点が要です。Claudeは「もっともらしい良い対応」を書けますが、自社の方針に合うかは判断できません。基準を最初に渡すと、分岐の結末がぶれにくくなります。
手順1: 学習目標・受講者・所要時間を先に決める
Claudeに素材を渡す前に、4点を決めます。この4点は、後で作る資料の骨格になります。
- 学習目標: 「クレームの初動で事実確認より先に謝罪しない」のように、行動で書く
- 受講者: 新人か中堅か、部署をまたぐか
- 所要時間: 個人ワークなら15分、グループ演習なら60分など
- 進め方: 個人で分岐を読む形か、2〜3人で役を演じる形か
目標が「クレーム対応を学ぶ」のように広いと、シナリオも散らかります。1本のシナリオで扱う学習目標は1〜2個に絞ると、講評もしやすくなります。
手順2: 実際のトラブルを匿名化して事例文にする
素材には、社内の報告書や対応メモを使います。ここで注意したいのは、Claudeに渡す情報の範囲です。会社の情報管理ルールに従い、渡してよい情報かを先に確認してください。固有名詞は、渡す前に自分で置き換えておくのが安全です。
置き換えは、次の順で進めると漏れが減ります。
- 人名を「担当者A」「お客様B」に置き換える
- 社名・店舗名・製品名を架空の名前にする
- 金額・日付・場所は、意味を保ったまま少しずらす
- 特定の事件だと分かる固有の経緯を、一般化した表現にする
そのうえでClaudeに、匿名化が十分かの再点検を頼みます。
以下は社内のクレーム対応の記録を、私が匿名化したものです。
研修用のケーススタディ(A4で1枚程度)に書き直してください。
条件:
- 個人・会社・製品を特定できる情報が残っていないか、最初に指摘してください
- 事実の経過は時系列の箇条書きにしてください
- 「担当者が何を判断したか」が読み取れる場面を3つ残してください
- 結末はまだ書かないでください(分岐で使います)
【匿名化済みの記録】
(ここに貼り付け)結末を書かせないのがコツです。結末が本文に入っていると、受講者は分岐を選ぶ前に答えを読んでしまいます。
手順3: 分岐シナリオに展開する
事例文ができたら、判断の場面ごとに選択肢を作らせます。選択肢は「明らかな誤り」「一見正しいが落とし穴のある対応」「望ましい対応」の3種類を混ぜると、議論の材料になります。
上のケーススタディを、分岐シナリオに展開してください。
- 判断の場面は3つ。各場面に選択肢を3つずつ
- 選択肢は「明らかな誤り」「もっともらしい落とし穴」「望ましい対応」を混ぜ、
順序はランダムにする
- 各選択肢の結果を2〜3文で書く
- 「望ましい対応」の基準は次のとおり: 事実確認を先に行い、謝罪は事実確認の後にする
- 最後に、講評用の観点を3つ挙げる出力は、たとえば次のような構造になります。以下は形を示す例であり、Claudeの実際の応答そのものではありません。
場面1: 電話でお客様が強い口調で返品を求めている
A. まず謝罪し、その場で返金を約束する
B. 購入日と状況を確認してから、対応方法を案内する
C. 担当外だと伝え、折り返しを約束して電話を切る
→ Aを選んだ場合: 事実確認前の約束が、後の場面で…基準の1行が、分岐の質を決めます。基準を書かずに頼むと、Claudeが一般的な接客マナーに寄せた結末を書き、自社の方針とずれることがあります。生成された結末は、必ず自分で読んで直してください。
手順4: ロールプレイ用の台本と役割カードを作る
分岐を読む形式に加えて、2〜3人で演じるロールプレイを組むこともできます。役ごとに「その役だけが知っている情報」を分けたカードを作ると、演じる側に緊張感が出ます。
上のシナリオから、3人で演じるロールプレイ用の資料を作ってください。
- 役は「お客様」「対応担当者」「観察者」の3つ
- お客様カード: 怒っている理由、まだ言っていない本音、譲れない条件
- 対応担当者カード: 持っている権限と、使えない手段
- 観察者カード: 見るべき行動のチェックリスト(5項目)
- 各カードは、他の役に見せない前提で書く観察者の役は見落とされがちです。演じない人にもチェックリストを渡すと、振り返りの発言が具体的になります。
英会話の練習で使う役割指定の考え方は、Claudeを英会話の練習相手にする使い方にまとめています。役・レベル・訂正方法を最初の指示に書き込む型は、研修のロールプレイにも通じます。
手順5: Artifactsで配布資料に仕上げる
台本が固まったら、Artifactsで配布資料にします。Artifactsの利用には、設定のCapabilitiesで「Cloud code execution and file creation」をオンにする必要があります。Free・Pro・Maxは個人の設定、Team・Enterpriseは組織の設定が対象です。
Claudeは、内容が一定量あり、会話の外で編集・再利用しやすいときにArtifactを作ります。目安は15行を超える自己完結した内容です。事例文や台本はこの条件を満たすので、通常は自然にArtifactとして切り出されます。
資料の形は、用途で選べます。
| 配布物 | 向く形 | 作らせる指示の例 |
|---|---|---|
| 事例集・講師用ガイド | 向く形ドキュメント(Docs) | 作らせる指示の例「講師用ガイドとして、目的・進行表・講評観点を1つの文書にして」 |
| 講義の導入 | 向く形スライド(Slides) | 作らせる指示の例「事例の経緯を5枚のスライドにして」 |
| 受講者用ワークシート | 向く形ドキュメント | 作らせる指示の例「選択肢と記入欄だけの配布用ワークシートにして」 |
テンプレート(DocsとSlides)は有料プラン向けのベータ機能です。Pro・Max・Teamでは最初からオンですが、Enterpriseではオーナーが有効にするまで使えません。Freeではテンプレートが使えないため、チャットで資料を頼む形になります。iOSとAndroidのアプリは閲覧向きで、テンプレートからの開始や編集はWebかDesktopで行います。
テンプレートから始める場合は、メッセージ欄の「Output」から選ぶか、サイドバーのArtifactsタブで選びます。ドキュメントはWord、PDF、Markdown、Google Docsへ、スライドはPowerPointとPDFへ書き出せます。研修会場で紙に印刷するなら、WordかPDFへの書き出しが実用的です。ドキュメント側の操作はClaude Docsの使い方で扱っています。
直したい箇所は、ドキュメント上で範囲を選んで「Edit with Claude」から依頼します。「第2場面の選択肢Cだけ、より曖昧な言い回しにして」のように指定すれば、該当箇所だけが書き換わります。
手順6: 受講者がClaudeと直接練習できるロールプレイアプリにする
配布資料に加えて、受講者がClaudeを相手に何度でも練習できる小さなアプリも作れます。Artifactsは、Claudeを直接呼び出す小さなアプリにできる仕組みを持っています。
上のロールプレイ資料を、受講者が練習できるアプリにしてください。
- 受講者は「対応担当者」の役。Claudeが「お客様」を演じる
- お客様は、カードの本音を最初は明かさない
- 5往復したら、観察者チェックリストに沿った講評を出す
- 画面には、いま何往復目かを表示する作ったArtifactは最初は自分だけが開ける状態なので、受講者に渡すには共有の設定が要ります。共有の設定はWebかDesktopで行います。共有の詳細はClaude Codeで作ったArtifactの共有方法にあります。
このアプリの前提を、配る前に押さえておいてください。
- アプリはAnthropicのインフラ上で動き、作成者側にAPIキーの用意や費用は発生しない
- 利用者はClaudeアカウントでサインインし、使用量は各自のプランの上限に計上される
- Team・Enterpriseでは、組織内のメンバーが作成者に追加費用をかけずに使える
つまり、受講者全員がClaudeのアカウントを持っていることが条件です。アカウントがない受講者がいる研修では、印刷資料での演習に切り替える判断が必要になります。
なお、2026年9月16日より前にチャットで作ったArtifactsは「レガシー」として扱われ、動作と共有は続きますが、新規には作れません。古い研修用ツールを流用する場合は、この違いを頭に入れておくと混乱しません。
受講者の回答を保存するときは共有ストレージに注意
Artifactsは、セッションをまたいでデータを保存できます。保存は「個人」と「共有」の2種類で、個人は本人にだけ見え、共有は使う全員が同じデータを見ます。共有ストレージを初めて使うときは、データが他の利用者に見える旨の確認が出ます。
研修の回答を集めるつもりで共有を選ぶと、受講者の生の回答が全員に見えてしまいます。とくに、実際の失敗談や相談内容を書かせる演習では、入力前にどちらの保存かを確認してください。保存は1つのArtifactあたり20MBまでで、テキストのみです。画像やファイルは保存できません。保存機能はPro・Max・Team・Enterpriseが対象で、Free利用の受講者には使えません。
手順7: Projectsに研修の設定を保存して使い回す
同じ型で複数のシナリオを作るなら、Projectsに設定を保存します。Projectsは、専用のチャット履歴とナレッジベースを持つ作業スペースです。プロジェクトの指示欄に、役割や口調のルールを書いておけます。
指示欄には、たとえば次のような内容を入れます。
あなたは社内研修の設計を手伝います。
- 事例は必ず匿名化された形で扱い、固有名詞が残っていれば指摘する
- 分岐の選択肢は、誤り・落とし穴・望ましい対応の3種類を混ぜる
- 「望ましい対応」の基準は、ナレッジにある対応方針書に従う
- 結末は、私が指示するまで書かないナレッジには、自社の対応方針書や過去の講評メモを入れます。有料プランでは、ナレッジが大きくなるとRAGが自動で有効になり、容量が最大10倍まで拡張されます。方針書の分量が多くても扱えます。
Team・Enterpriseなら、プロジェクトを組織内で共有できます。権限は「閲覧のみ」と「編集可」の2段階で、特定のメンバーだけに共有することも、組織全体に公開することもできます。研修担当が複数いる場合は、方針書を1か所で更新すれば全員の作業に反映されます。法務レビューで似た標準化をした例はClaude Projectsで法務レビューのプレイブックを標準化する方法が参考になります。
配る前の点検リスト
資料が仕上がったら、配布前に次の点を確認します。
- 匿名化: 人名・社名・製品名だけでなく、経緯そのものから個人が推測できないか
- 結末の整合: 分岐の結果が自社の対応方針と一致しているか
- 事実の誤り: 法令や制度に触れる場面は、担当部署が内容を確認したか
- 配布形式: 印刷か画面か、受講者のアカウントの有無に合っているか
- 保存の設定: 回答を集めるアプリなら、個人保存か共有保存かを確認したか
Claudeの生成物は、そのまま研修で使える完成品として扱わないでください。下書きとして受け取り、講師が読んで直す前提で運用すると、事故が起きにくくなります。
よくあるつまずき
分岐がどれも似た結末になる
判断の場面ごとに「望ましい対応」の基準を書くと解消しやすくなります。基準が1つだけだと、Claudeはすべての場面で同じ型の結末を書きがちです。
ロールプレイのお客様が、すぐに折れてしまう
カードに「まだ言っていない本音」と「譲れない条件」を明記します。条件がないと、演じる側が早い段階で折れて、緊張感のない練習になります。
Artifactが作られない
内容が短いと、Artifactではなくチャット内の返答になることがあります。「ドキュメントとして作って」と明示するか、テンプレートから始めてください。設定でCloud code execution and file creationがオフのままの場合も、Artifactは使えません。
アプリでエラーが出る
エラー表示の近くにある「Try fixing with Claude」を押すと、エラーの詳細が新しいメッセージに入ります。それを送れば、Claudeが原因を調べて修正案を出します。ただし修正の成功は保証されません。
資料をたくさん作りたい
TRPGのハンドアウトのように資料が多い場合は、Artifactsの使い分けがClaudeでTRPGシナリオの作り方で詳しく書かれています。研修のシナリオでも、登場人物ごとの資料を切り出す考え方は同じです。
まとめ
研修用のケーススタディとロールプレイは、学習目標と「望ましい対応」の基準を人が決め、匿名化した事例をClaudeに渡すと、分岐シナリオから役割カードまで短時間で下書きできます。
配布資料にはArtifactsのドキュメントやスライドを使い、Word・PDFへ書き出せば紙の研修にも対応できます。受講者が自分でClaudeと練習するアプリは、各自のClaudeアカウントとプランの上限が前提です。回答を集めるなら、共有ストレージに誰の入力が見えるかを、入力前に確かめてください。
ゲームのような対話型ツールを作る流れはClaude Artifactsでゲーム制作する方法にも近い手順があります。研修アプリのゲーム化を考えるなら、あわせて読む価値があります。