Claude翻訳の訳抜けチェック — Claude for Excelで原文と訳文を行単位に検査
原文と訳文を二列に並べたブックで、訳抜け・数字の食い違い・固有名詞の訳し分けを行ごとに拾う納品前QAの手順です。Claude for Excelに検査列を組ませます。
訳抜け、数字のずれ、固有名詞の取り違えは、納品前に行単位で機械的に絞り込めます。原文と訳文を二列に並べたブックをClaude for Excelに開かせ、字数比・数字の並び・用語集の照合という3本の検査列を足せば、人が読み直す行を数十行にまで減らせます。
ここでは、検査用ブックの列設計、3つの検査式、5行のサンプルで見る判定の出方、Claudeへの依頼文、この方法では拾えない誤訳を順に示します。翻訳そのものの精度検証はClaude翻訳の精度を検証してから確定するワークフローが扱っているので、ここは「訳し終えた表を、行ごとに検査する」段に絞ります。
訳抜けは字数・数字・用語の3つで絞り込む
Claude for Excelは、開いているブックについて質問し、セル単位の根拠つきで答えるアドインです。数式の関係を保ったまま値を変えたり、エラーの原因をたどったりでき、Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで使えます。対応する環境はExcel on the web、Windows版のMicrosoft 365、Mac版のExcelです。
翻訳の検査に当てはめると、役割は次のように分かれます。
| 検査 | 何を見るか | 判定の主体 |
|---|---|---|
| 字数比 | 何を見るか訳文が原文に比べて極端に短い・長い行 | 判定の主体関数(Claudeが式を組む) |
| 数字の並び | 何を見るか原文と訳文で数字が増減・変化した行 | 判定の主体関数(Claudeが式を組む) |
| 固有名詞 | 何を見るか用語集で決めた訳語が訳文に入っているか | 判定の主体関数と用語集シート |
| 原因の仕分け | 何を見るか引っかかった行がなぜ引っかかったか | 判定の主体Claudeの案を人が決める |
検査の大半は関数で決まる判定にします。訳したのと同じモデルに「訳抜けはありませんか」と読み直させるより、同じ入力に同じ結果を返す式のほうが、行を飛ばしたり言い換えたりしません。Claudeには式の作成、判定理由の説明、引っかかった行の仕分けを任せます。
検査用ブックの列を決める
シートは「検査」と「用語」の2枚に分けます。検査シートは1文(または1セグメント)を1行にします。翻訳支援ツールから書き出した原文・訳文の二列表も、そのまま貼れます。
| 列 | 中身 |
|---|---|
| A | 中身行番号(セグメントID) |
| B | 中身原文 |
| C | 中身訳文 |
| D・E | 中身原文の字数・訳文の字数 |
| F | 中身字数比(E÷D) |
| G | 中身字数比の判定 |
| H・I | 中身原文の数字・訳文の数字 |
| J | 中身数字の判定 |
| K | 中身用語の判定 |
| L | 中身確認結果(OK / 修正 / 要確認 の3語だけ) |
用語シートは、A列に原文の用語、B列に指定した訳語を1語ずつ入れます。
判定列は条件付き書式で色を付けておくと、引っかかった行がひと目で分かります。Claude for Excelは、並べ替え・フィルター・条件付き書式・データ検証のドロップダウンを、そのまま依頼できる操作として挙げています。L列を入力規則のドロップダウンにしておけば、確認者の入力ゆれも防げます。
字数比で訳抜けの候補を挙げる
訳抜けがあると、訳文は原文に比べて極端に短くなります。D列に =LEN(B2)、E列に =LEN(C2)、F列に =E2/D2 を入れ、全行の中央値を基準にします。
=IF(F2<MEDIAN($F$2:$F$500)*0.6,"短すぎ",
IF(F2>MEDIAN($F$2:$F$500)*2,"長すぎ",""))言語ペアによって字数の比は大きく違います。英語から日本語なら訳文のほうが短く、日本語から英語なら長くなります。そのため固定のしきい値は置かず、文書全体の中央値に対する倍率で見ます。0.6倍と2倍は出発点で、引っかかる行が多すぎるなら下げ、少なすぎるなら上げます。
この検査が拾うのは、文や節がまるごと落ちた行です。語が1つ抜けただけの行は字数がほとんど変わらず、拾えません。短い文が混ざる表では比がばらつくので、「短すぎ」は訳抜けの断定ではなく、読み直す行の候補と考えます。
数字は並びを取り出して比べる
数字の食い違いは、金額・数量・日付・割合の取り違えとして納品後に響きます。検査は、原文と訳文からそれぞれ数字だけを取り出し、同じかどうかを比べるだけです。
注意が要るのは語順です。英語と日本語では数字の出てくる順が入れ替わることがあります。そのため、取り出した数字は並べ替えてから比べます。H列(原文の数字)に入れる式の一例です。
=LET(
s, SUBSTITUTE(B2,",",""),
n, SEQUENCE(LEN(s)),
c, MID(s,n,1),
nx, MID(s,n+1,1),
k, IF(ISNUMBER(--c), c,
IF((c=".")*ISNUMBER(--nx), ".", " ")),
t, TRIM(CONCAT(k)),
IF(t="", "", TEXTJOIN(" ", TRUE,
SORT(TEXTSPLIT(t," "),,,TRUE))))桁区切りのカンマを消し、数字と、数字に挟まれた小数点だけを残して、残りを空白に置き換えます。空白で区切った数字を並べ替えて1つの文字列にします。I列には同じ式で C2 を対象にしたものを入れ、J列で =IF(H2=I2,"","数字不一致") と比べます。
LET・SEQUENCE・TEXTSPLITは新しい世代の関数です。ブックを開く環境で動くか、まず1セルで試してください。TEXTJOINは、範囲や文字列を区切り文字でつなげる関数です。符号の「−」は拾わないので、負の数が混ざる文書では符号の確認を別に依頼します。全角の数字は、あらかじめ半角にそろえておきます。
この式が引っかかりやすい場面は、あらかじめ知っておくと仕分けが速くなります。
- 単位の換算: 「1.2 million」と「120万」は数字が違うので、すべて不一致になります
- 数字の言い換え: 「March」と「3月」、「two」と「2つ」は、片側にしか数字が出ません
- 日付の書式: 「10/20/2026」と「2026年10月20日」は、並べ替えれば一致します
誤検知を減らしたいなら、不一致の行だけをClaudeに渡し、「単位換算や月名の言い換えで説明がつく行を除いてください」と頼みます。
固有名詞は用語集シートと照合する
固有名詞や用語の訳し分けは、用語シートとの照合で拾います。原文に用語が出ているのに、指定した訳語が訳文に入っていない行を探す考え方です。K列の式の一例です。
=TEXTJOIN("、",TRUE,
IF((用語!$A$2:$A$50<>"")
* ISNUMBER(FIND(用語!$A$2:$A$50,B2))
* (1-ISNUMBER(FIND(用語!$B$2:$B$50,C2))),
用語!$A$2:$A$50,""))結果の欄には、訳語が入っていない用語の原文表記が並びます。FINDは大文字と小文字を区別するので、英語の用語は表記を用語シートと同じにそろえます。
この式には限界があります。訳語の表記ゆれ(「ハートウェル・ロジスティクス」と「ハートウェルロジスティクス」)は、別の語として扱われます。許容する表記は、用語シートに行を足して並べます。また、原文に無い固有名詞が訳文に現れる逆向きのずれは、この式では拾えません。逆向きの確認は、後で述べるClaudeへの依頼文に含めます。
用語集そのものの作り方や、Projectsに置いて訳をそろえる方法は、Claudeで英文プレスリリースを翻訳するが扱っています。
5行のサンプルで判定列の出方を見る
英語から日本語への訳を5行並べ、3つの検査を通します。固有名詞や数値は説明用の例で、実在の文書ではありません。用語シートには「Hartwell Logistics → ハートウェル物流」を登録してあります。
| 行 | 原文 | 訳文 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 1 | 原文The warranty period is 24 months from the date of delivery. | 訳文保証期間は納品日から24か月です。 | 判定検出なし |
| 2 | 原文Payment is due within 30 days. A late fee of 1.5% per month applies. | 訳文支払期限は30日以内です。 | 判定数字不一致 |
| 3 | 原文Order 4,500 units at $12.80 each. | 訳文1個12.80ドルで4,050個を発注します。 | 判定数字不一致、長すぎ |
| 4 | 原文Please contact Hartwell Logistics at the Osaka office. | 訳文ハートウェル・ロジスティクス大阪支店にご連絡ください。 | 判定用語不一致 |
| 5 | 原文Delivery will be made to the Tokyo warehouse before the end of March, subject to customs clearance. | 訳文3月末までに東京倉庫へ納品します。 | 判定短すぎ、数字不一致 |
5行の字数比は、行1が0.29、行2が0.19、行3が0.70、行4が0.50、行5が0.17で、中央値は0.29です。0.6倍の基準線は0.17なので、「短すぎ」になるのは行5だけです。
各行の中身は次のとおりです。
- 行1: 24が両側にあり、字数比も中央値に近い。何も出ません
- 行2: 2文目の延滞損害金が丸ごと抜けています。字数比では0.66倍に収まって拾えず、数字の検査が「1.5」の欠落で拾いました
- 行3: 4,500個が4,050個に化けた転記ミスです。数字を並べ替えて比べるので、語順が違っても見つかります。「長すぎ」は短文で比が跳ねただけの誤検知です
- 行4: 指定の訳語「ハートウェル物流」が入っていません。数字にも字数にも現れず、用語の検査だけが拾います
- 行5: 「通関完了を条件とする」の節が抜けています。字数比が拾い、数字の欄にある「3」は「March」を月の数字にした言い換えによる誤検知です
行2と行5の違いが示すとおり、訳抜けは3つの検査のどれかに引っかかりやすいものの、どれが当たるかは行によって違います。1つの検査だけを信じず、判定列を3本そろえて見る意味はここにあります。
Claude for Excelへの依頼文を3段階に分ける
式を組む、結果を説明させる、仕分けるの順に頼みます。
検査列を作ってから原因を仕分けるまで
- 1
検査列を組ませる
「検査シートのB列が原文、C列が訳文です。D〜G列に字数と字数比の判定、H〜J列に数字の抽出と不一致の判定、K列に用語シートとの照合を入れてください。式の前提を日本語で説明し、元の列は書き換えないでください」
- 2
根拠を説明させる
「判定が空でない行について、引っかかった理由を、参照したセルを示して1行ずつ説明してください」
- 3
原因を仕分けさせる
「数字不一致の行を、転記ミス、訳抜け、単位換算や言い換えで説明がつく行の3つに分けてください。判断がつかない行は『要確認』にして、原文のどの部分に対応する訳が見当たらないかを書いてください。訳文にあって原文に無い固有名詞も、あれば挙げてください」
Claude for Excelの回答には、クリックで該当セルへ移れる根拠が付きます。2番目の依頼で、式が参照したセルを確かめられます。
判定列の表記を毎回そろえたいなら、アドインのサイドバーにあるSettingsのInstructionsに「確認結果の列は『OK』『修正』『要確認』の3語だけを使う」のような約束を書いておきます。Instructionsは、Excelでの会話すべてに効きます。PowerPointやWordに入れた指示とは別です。
納品前に人が見る範囲と使えない場面
この方法は、人が読む行を減らすためのものです。「検出なし」の行を読まずに納品する根拠にはなりません。
3つの検査が拾えない誤訳があります。典型は否定の取り違えです。「承認する」を「承認しない」と訳した行は、字数も数字も用語もほとんど変わりません。主語や目的語の取り違えも同じです。重要な契約文や規程の行は、Claudeに該当行を逆に訳し戻させ、原文と意味が合うかを読み比べます。訳し戻しの依頼の組み方は、冒頭で触れたワークフローの記事にあります。
そのほかの制約も、ブックを作る前に確かめておきます。
- 最終的な顧客向け成果物は、人のレビューなしでは推奨されていません。納品の可否は、人の確認結果(L列)で決めます
- マクロとVBA、データテーブルは対応していません。検査の自動実行をマクロで組むことはできません
- Excel 2016・2019の永続版・ボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動きません
- 機密性の高いデータや規制対象のデータを含むブックは、管理策が整っていない状態では推奨されていません
行ごとの差異を洗い出して原因別に仕分ける進め方は、請求書の突合でも同じです。表を作る型の参考として、運賃請求書を運賃表と突合する手順も見てください。
よくある質問
Claudeで訳した表にも、この検査を使えますか
使えます。検査は原文と訳文の二列さえあれば動き、誰が訳したかを問いません。式の判定は、訳した会話の流れに引きずられない点も利点です。
まとめ
訳抜け対策の要は、字数・数字・用語を別々の列で判定し、3本そろえて読むことです。字数比は文の丸ごとの脱落に、数字の検査は転記ミスと条件の欠落に、用語の検査は訳語の取り違えに強く、否定や主語の取り違えには効きません。この弱点を知ったうえで、重要な行だけは訳し戻しで読み比べ、最後の判断は人が持つ構成にすると、納品前の確認を行単位まで細かくできます。