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ヒヤリハット報告の分析をClaudeで — 匿名化・集計・再発防止案の下書き

ヒヤリハット報告の分析をClaudeで — 匿名化・集計・再発防止案の下書き

ヒヤリハット報告の自由記述は、患者名や職員名が混ざりやすい資料です。Excelで匿名化してからClaudeに集計と再発防止案の下書きを任せ、件数と原文を突き合わせる手順を示します。

ヒヤリハットやインシデントの報告をClaudeで分析するときの要点は2つあります。患者名と職員名を消してから渡すこと、そして返ってきた集計を元の行数と原文で確かめることです。再発防止案はあくまで委員会に出す下書きで、原因の判断は人が行います。

報告書の自由記述欄は、書き手の善意で固有名詞が混ざる場所です。分析の前に何を消し、消えたことをどう確かめ、集計をどう検算するか。Excelの表を前提に、順番に並べます。

渡す前に、報告書のどこに個人が残っているか

ヒヤリハット報告は「発生日時・場所・内容・影響度・背景要因・対策案」のような列で管理されることが多く、選択式の列は匿名化の心配がほとんどありません。問題になるのは自由記述の列です。

列の種類個人が残る例扱い
報告者・関係職員個人が残る例氏名、職員番号、「Aさんが」扱い列ごと削除し、役割(新人・中堅など)だけ残す
患者に関する欄個人が残る例氏名、ID、生年月日、部屋番号扱い列ごと削除する
発生日時個人が残る例日付と分単位の時刻扱い月と時間帯(日勤・準夜・深夜など)に丸める
発生場所個人が残る例病棟名、ベッド番号扱い病棟は残し、ベッド番号は削除する
内容・背景要因の自由記述個人が残る例「田中様の点滴を…」「302号室の」扱い検索で拾って置換し、残りを目視する

列を消せば済むのは上の4行までです。自由記述は消し漏れが出る前提で、機械的な検索と目視を組み合わせます。氏名のほかに、珍しい疾患名や特定の日の出来事のように、組み合わせると個人が絞られる記述も残ります。

匿名加工情報と仮名加工情報の違いや、加工後に残る再識別リスクは仮名加工情報と匿名加工情報をClaudeに渡す前の加工に整理しています。ここでは報告書の集計に絞って、実務の手順に落とします。

匿名化はClaudeに渡す前にExcelで済ませる

Claude for Excelは、開いているブックの内容をClaudeが読めるアドインです。Pro、Max、Team、Enterpriseの各プランで使えます。使用量は既存のClaudeアカウントと同じ上限に数えられます。

匿名化をClaudeに頼むこともできますが、消し漏れの確認は別の手段で行います。原本のブックは触らず、コピーを作ってから進める流れが安全です。Claude for Excelの案内も、広く編集を頼む前に信頼できるコピーで始めることを挙げています。

手順

匿名化から集計までの流れ

  1. 1

    原本を複製する

    原本のブックは保管し、作業用のコピーだけをアドインで開きます。

  2. 2

    個人が入る列を削除する

    報告者・患者に関する列を削除します。発生日時は月と時間帯の列に置き換えます。

  3. 3

    自由記述を検索して置換する

    職員名簿と患者の姓の一覧を使い、自由記述に残る氏名を探して「[職員]」「[患者]」に置換します。

  4. 4

    消し漏れを数式で確かめる

    名簿に載る名前が自由記述に1件も残っていないことを数式で確認します。

  5. 5

    集計と下書きを頼む

    匿名化後のコピーだけで、カテゴリ別の件数と再発防止案の下書きを頼みます。

消し漏れを数式で数える

名簿の姓を縦に並べた範囲を名簿とします。自由記述がC列にあるなら、次の数式で各行に名簿の姓が含まれる数を出せます。

=SUMPRODUCT(--ISNUMBER(SEARCH(名簿, C2)), --(名簿<>""))

名簿に空白セルが混ざると、SEARCHは空文字を「見つかった」と返します。後ろの--(名簿<>"")はその行を数えないための条件です。合計が0になれば、名簿にある名前は残っていません。

この確認で拾えるのは名簿にある名前だけです。「看護助手の山本さん」のように名簿に無い人名、「3階の新人」のように役割で絞られる書き方は、目視で読んで潰します。件数が多いときは、自由記述を50行ほど無作為に選んで声に出して読むと、置換漏れの型が見えてきます。

集計は、観点を決めてから頼む

匿名化済みのコピーに対して、まず集計の観点を指定します。観点を決めずに「分析して」と頼むと、返ってくる切り口が毎回変わり、前月との比較ができなくなります。

観点は自院で使っている分類をそのまま使います。影響度の段階や事象の種類は、病院ごとに定義が違います。Claudeに新しい分類を作らせると、過去の報告との継続性が切れます。

添付の匿名化済みブックを集計してください。
・列: 発生月、時間帯、病棟、事象の種類、影響度
・事象の種類×影響度のクロス集計を新しいシートに作る
・時間帯別と病棟別の件数を、同じ新しいシートに並べる
・元のシートは編集しない
・集計に使ったセル範囲を、各表の下に書く

最後の1行が検算の足場になります。Claude for Excelの回答は、セル単位の引用付きで返ります。引用をクリックすると該当セルへ移れるので、集計の根拠をたどれます。

件数が少ない病棟や月の集計は、少数の報告に引きずられます。「3階が最多」と見えても、母数が10件なら1件の違いで順位が入れ替わります。ここは数式を足して病床あたりに直すなど、人が補います。

集計結果は、3つの方法で検算する

返ってきた表をそのまま委員会資料に貼る前に、次の3つを確認します。

  1. 総数の一致
  2. 内訳の一致
  3. 原文との照合

総数は、クロス集計の合計と元のシートの行数が同じかを確かめます。ずれる原因の多くは、空欄や表記ゆれの行が集計から外れていることです。

=COUNTA(元データ!A2:A500)
=SUM(集計!B2:F10)

内訳は、自分で組んだCOUNTIFSと照らします。たとえば「投薬・点滴」かつ「夜間」の件数を、Claudeの表の該当セルと見比べます。1か所でも違えば、表全体を疑う合図になります。

=COUNTIFS(元データ!E:E,"投薬・点滴",元データ!C:C,"準夜")

原文との照合は、件数が多い事象の種類から数件ずつ読みます。「投薬・点滴」に分類された報告の中に、実際は転倒の報告が混ざっていないかを見ます。分類の誤りは、総数や内訳の数式では出ません。

Claude for Excelは、監査に使う計算を検証なしで任せることを推奨していません。医療安全の資料は、まさにこの種の用途に当たります。数値の検証を省く運用は組まないでください。

表記ゆれと分類のずれを、集計の前に洗う

報告書を集計すると、同じ事象が別の言葉で並んでいることに気づきます。「点滴」「輸液」「ルート」が別の行として数えられ、実際の件数より小さく見えるのが典型です。

集計の前に、事象の種類の列だけを取り出し、重複を除いた一覧を出してもらいます。

事象の種類の列にある値を重複なしで一覧にし、
意味が近い値の組を挙げてください。
元のシートの値は書き換えず、統合案は別の列に出してください。

統合案は、自院の分類表と照らして人が確定します。統合を元の列に直接書かせない理由は、あとで「どの報告をどう動かしたか」を戻せなくなるからです。統合前と統合後の件数が合うことも、先ほどの総数の検算で確かめます。

分類が報告者ごとにずれている場合は、集計で埋めずに、現場への聞き取り事項として切り出します。「同じ出来事を、病棟によって別の種類で報告している」という発見は、集計の副産物として十分に価値があります。

再発防止案は「候補の下書き」として頼む

集計で山が見えたら、再発防止案の下書きを頼みます。ここで頼む相手は文章の整理役で、原因の判断役ではありません。報告書に書かれていない事実を根拠にした提案が混じる点に注意します。

匿名化済みの「投薬・点滴」の報告のうち、影響度が高い12件を読み、
共通する背景要因の候補を3つ以内で挙げてください。
・各候補に、根拠となる報告の行番号を付ける
・報告に書かれていない事実は推測として別にする
・対策案は、対策の種類(手順・設備・教育など)ごとに分ける

行番号を付けさせると、委員会で「この対策の根拠はどの報告か」を聞かれても答えられます。報告に無い事実を推測として分けておけば、事実確認が必要な箇所が一目で分かります。

下書きが出たら、現場で起きた経緯を知る人が読み、実情に合わない案を外します。たとえば「ダブルチェックを必須にする」という案は、夜間の人員配置を知る人から見ると実行できないことがあります。再発防止の優先順位は、人員・設備・既存の手順を知る担当者が決めます。

医療安全の制度や事業は、厚生労働省の医療安全対策のページから探せます。このページには、医療事故の調査や情報収集に関する制度・事業、「医療安全支援センター」、「医療法に基づく立入検査」といった項目が並んでいます。自院の報告制度を見直すときの入口になります。

使う前に押さえる、アドイン側の制約

Claude for Excelの案内には、集計作業に直接関わる制約がいくつかあります。

項目内容
推奨されない用途内容人のレビューのない最終成果物、検証のない監査用の計算、管理が不十分な機微・規制対象データを含むモデル
非対応の機能内容データテーブル、マクロとVBA
非対応の環境内容Excel 2016・2019の永続版・ボリュームライセンス版、iPad、Android
活動記録内容Enterpriseの監査ログには含まれない
保持設定内容組織で決めたカスタムのデータ保持設定を引き継がない

入力と出力はバックエンドで受領または生成から30日以内に削除されます。例外は、データ保存期間に関する別のヘルプ記事に定めがあります。会話履歴はブラウザ内のIndexedDBに保存され、設定画面からいつでも消せます。共用の端末で使うなら、作業後に履歴を消します。

もう1つ、見落としやすいのがプロンプトインジェクションです。外部から届いたファイルに、Claudeを操る隠し指示が仕込まれていることがあります。報告書の集計ブックは自院内で作る信頼できるファイルのはずですが、他院や外部機関から受け取った事例集を同じブックに貼り込むときは、貼り付け前に確認してください。

医療機関向けのBAAや入力の可否は医療情報システム安全管理ガイドラインと生成AI入力のQ&Aにあります。Excelアドインの案内に、BAAの適用範囲についての記載はありません。匿名化を済ませたデータだけを渡す運用を基本にし、契約上の扱いは別に確認します。

記録の生成AI利用とは、別の判断になる

看護記録や薬歴にClaudeを使う場合は、個々の患者の記録を作る作業になります。患者情報の入力条件や確認者の問題が前面に出ます。その整理は看護記録に生成AIを使う看護師の線引きにあります。

ヒヤリハットの集計は、個人を消した表から傾向を取り出す作業です。扱うデータの性質が違うので、必要な判断も違います。

  • 記録の作成: 個人が特定される情報を前提にする。入力できる範囲の確認が先に来る
  • 報告の集計: 個人を消したデータだけを渡す。消し漏れの検査と、集計の検算が先に来る

Excelに限らず、CSVに書き出して分析する手もあります。手順はClaude CSV分析の使い方にあります。Claude Coworkでブックを処理する方法はCoworkのExcel・スプレッドシート分析で扱っています。

まとめ

ヒヤリハット報告の分析は、匿名化、観点の指定、検算の3段で成り立ちます。このうちClaudeが力を発揮するのは集計と下書きの部分です。匿名化の確認と、結果の検算は、数式と目視で人が担います。

最初に試すなら、過去の報告を50件ほど抜き出した練習用のコピーが向いています。名簿検索の数式で消し漏れが出るか、集計の合計が元の行数と合うかを確かめれば、本番の運用に必要な確認項目が見えてきます。

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