Claude Media
看護記録に生成AIを使う看護師の線引き — Claudeにどこまで任せられるか

看護記録に生成AIを使う看護師の線引き — Claudeにどこまで任せられるか

医療AIプラットフォーム技術研究組合のガイドライン第2版は、看護記録の作成を文書作成支援の一例に挙げます。患者情報の入力条件、確認者、AI利用の明記を、Claudeの利用面ごとに当てはめました。

医療AIプラットフォーム技術研究組合の「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」は、看護記録の作成を生成AIの利用例として挙げています。ただし、看護記録だけを扱う節はありません。看護師が使うなら、文書作成支援の章と、利用者に共通する注意点を読み合わせる必要があります。この記事では、その読み合わせを看護記録に絞って行い、Claudeで何を入力し、誰が確認し、どう明記するかまで落とし込みます。

ガイドラインは看護記録をどこに置いているか

第2版は2025年7月11日付で、令和5年度に厚生労働省の補助を受けて行われた研究の成果として取りまとめられています。医療機関・薬局等で生成AIを使う人と、開発に携わる人が対象です。

看護記録が出てくるのは、4章のユースケース「ドキュメントワーク支援(文書自動作成、システム自動入力)」です。主な利用者に医師や医療事務職員と並んで看護師が挙がり、「その他の例」に看護記録や主治医意見書の作成が入っています。

もう一つ、患者等への説明・接遇支援のユースケースにも看護師が登場します。看護記録等を解析し、説明文や声掛け文を作る流れです。記録を書く場面だけでなく、記録を読んで使う場面もガイドラインの視野にあります。

前提として、ガイドライン自身が次のように断っています。

  • 記載のリスクと対策は、政府の具体的方針が出る前の「研究班の見解」である
  • 第2版の変更点は、著作権・プライバシー等の表記変更と誤記の修正である

つまり、法令ではありません。組織の利用ルールを作るときの物差しです。

「患者情報を入れてはいけない」とは書かれていない

よくある誤解から先に。ガイドラインは、患者識別情報の入力を一律に禁じてはいません。書かれているのは条件です。

文書作成では医療情報(患者の個人識別情報を含む情報)を入力する可能性が高くなります。このとき、入力データが再学習に利用される設定のまま、本人の同意なく個人情報を入力すると、個人情報保護法の第三者提供に抵触する場合がある、というのが第一のリスクです。

第二のリスクは、3省2ガイドラインです。次のような場合に違反になりうるとされています。

  • 生成AIを用いる医療情報システムの安全管理や監査を適切に実施していない
  • 医療情報を格納するサーバ等が、国内法の適用を受けない場所にある
  • 医療機関・薬局等と生成AIを接続するネットワークがセキュアでない
  • 医師が最終確認したドキュメントへの電子署名が、法定要件を満たしていない

ここから読める線引きは、次のとおりです。

使い方ガイドラインの扱い
組織が利用可能と判断したサービスに、看護記録の素材を入力ガイドラインの扱い再学習されない設定・セキュリティ要件を満たせば選択肢になる
組織が未承認のサービスに、患者の情報を入力ガイドラインの扱い想定外。医療情報を扱わず、参考情報の収集に限る
未承認のサービスで、一般的な看護知識の調べ物ガイドラインの扱い用途を限定した私的利用として想定されている

三つ目の行が意味するのは、個人アカウントのClaudeで看護記録の下書きを作る運用が、そのまま許容されるわけではないことです。医療情報を入れない前提でも、用途は参考情報の収集などに絞るよう求められています。

この点は、Claude側の契約形態と直結します。厚生労働省のQ&Aとの関係は医療情報システム安全管理ガイドラインで生成AI入力はどう扱われるかにまとめています。

Claudeの利用面ごとに、入力できる範囲が変わる

「組織として利用可能と判断されたサービス」に当たるかどうかは、Claudeのどの面を使うかで変わります。Anthropicが公開しているBAA(事業提携契約)の案内をもとに、看護記録の文脈へ当てはめると次のとおりです。BAAは米国のHIPAAに基づく契約なので、日本の3省2ガイドラインへの適合を保証するものではありません。この対応は別途確認が要ります。

利用面BAAの扱い看護記録への含意
Free・Pro・MaxなどのコンシューマープランBAAの扱い商用向けBAAの案内の対象外看護記録への含意組織の承認を得にくい。医療情報は入れない
Claude Enterprise(標準)BAAの扱い何もしなければBAAの対象外看護記録への含意有効化前はBAAの対象外のまま
Claude Enterprise(HIPAA対応を有効化)BAAの扱いPrimary Ownerが有効化しBAAに同意した範囲で対象看護記録への含意対象機能の範囲内で検討できる
Claude API(1P)BAAの扱い契約締結と営業チーム経由の有効化が必要看護記録への含意記録システムに組み込む場合の前提
Claude CodeBAAの扱いZDR(ゼロデータ保持)有効時のみ対象看護記録への含意看護記録の下書き用途には通常選ばない
CoworkBAAの扱い対象外看護記録への含意医療情報の入力は避ける

MCPやコネクタを通じて第三者へ送られるデータも、BAAの対象外です。電子カルテや外部サービスをつなぐ運用では、ここが穴になります。

BAAと3省2ガイドラインの要件の突き合わせは、Claudeの医療機関向けBAAと3省2ガイドラインの要件を突き合わせるで項目ごとに追っています。

医師の最終確認は看護記録にどこまで及ぶか

ガイドラインの「医師による最終確認」は、医師法を根拠にしています。診断書や処方箋等の文書は医師が作成する決まりで、生成AIで作った文書を医師が確認・修正せずに使うと違反になる、という書き方です。文書作成支援のユースケースでも、組織のルールとして「生成AIで作成した医療文書は、医師が最終確認を行った後に発行」を定めるよう求めています。

では看護記録はどうなるか。ガイドラインは看護記録の確認者を名指ししていません。診断書や診療情報提供書と同列に「医師が最終確認」と読むのは飛躍で、かといって確認不要とも書かれていません。ここは組織が決める部分です。

決めるときに押さえたい点は三つあります。

  1. 利用者(個人)は、出力が正しいかを自ら確認する。これはガイドラインの個人向けポイントの一つ
  2. 入力する記録データは正確に入れる。誤った素材からは誤った文章が出る
  3. 誤りが出たときの責任の所在を、利用ルールに書いておく

医師が確認する記録と、看護師が自分で確認して確定する記録を、記録の種類ごとに線引きしておくと運用が回ります。文書の種類ごとに確認者を分ける考え方は、病院薬剤師の生成AIガイダンスでも薬歴文書について整理しています。

組織が先に決めておく4項目

ガイドラインは、組織向けのポイントとして利用ルールの規定を求めています。看護記録の作成支援に当てはめると、決めておくのは次の4項目です。

項目ガイドラインの例看護記録での決め方の例
禁止事項ガイドラインの例法令違反の利用・不適正利用を禁止看護記録での決め方の例患者名・IDを含む入力の可否、未承認サービスの利用禁止
留意点ガイドラインの例虚偽データの生成を意図したプロンプトの入力を禁止看護記録での決め方の例実施していないケアを記載させる指示の禁止
定期点検ガイドラインの例監査で半年に1回、利用状況をチェック看護記録での決め方の例病棟ごとに利用ログと下書きの修正履歴を抽出
利用状況の把握ガイドラインの例利用時は管理部署へ申請看護記録での決め方の例病棟単位で利用申請、利用範囲を台帳に記録

さらに研修の実施と、受講後のテスト、未受講者のフォローを検討するよう求めています。

社内規程全般の項目立ては、社内AI利用規程にAI事業者ガイドラインは何を求めるかが参考になります。

Claudeに渡す指示と、AI利用の明記

利用ルールを決めたら、指示文にも同じ線引きを写しておきます。次は、承認済みの環境で使う場合の指示文の一例です。ガイドラインの文言をそのまま引いたものではなく、ここまでの整理から起こした案です。

あなたは看護師の記録作成を補助します。
- 入力された観察内容と実施したケアだけを使い、記録の下書きを作成する
- 入力にない所見・ケア・バイタル値を補わない
- 不明な項目は「未記載」と書き、推測で埋めない
- 診断や治療方針の判断は書かない
- 末尾に「生成AIによる下書き。看護師の確認前」と付ける

例えばこの指示に、看護師が入力した観察メモを続けて渡せば、SOAP形式などの下書きが返ってくる、という使い方になります(実際の出力は入力と環境に依存します)。

ここで効いているのは、ガイドラインが求める二つの点です。一つは、入力データの正確さで、入力にない事実を補わせない指示がそれを支えます。もう一つは、透明性です。ガイドラインは、生成AIの出力をそのまま使う場合は利用した旨を通知し、事務文書等には生成AIが作成したものであることを明記するよう求めています。

出力をそのまま使わない場合も、透明性の観点から通知することが考えられる、とされています。役割の説明を通知に含める例として、ガイドラインは会話の文字起こしと要約を生成AIが担った旨を挙げています。看護記録なら「下書きの作成に生成AIを用い、看護師が確認・修正した」と一文添える形になるでしょう。

看護記録を読んで患者向けの説明を作るとき

記録を「書く」側とは別に、記録を「読ませる」側の使い方もあります。看護記録から、患者や家族への説明文や声掛け文を作らせる用途です。ガイドラインはこれを、患者等への説明・接遇支援のユースケースとして別立てで扱っています。

正確性については、生成AIに入れる看護記録やカルテを正確に入力することと、出力された説明文を医療従事者が確認してから使うことが対策例です。書く側の使い方と同じで、素材の誤りは出力にそのまま出ます。

透明性では、患者への説明を医療従事者でなく生成AIが直接行う場合に、生成AIが出力したものであることを患者等に通知するよう求めています。通知しないと、患者が人の説明と誤解する恐れがあるためです。

さらに、栄養指導等の情報を生成AIが出力する場合は、医療従事者等が確認・修正してから指導します。確認なしで患者へ説明すると、健康増進法に違反する可能性がある、というのがガイドラインの見立てです。

看護師にとっての要点は、記録の下書きと患者向け説明では、通知の相手も確認の重さも違うことです。組織の利用ルールは、この二つを別の欄で定めておくほうが運用しやすくなります。

看護記録で残る論点

ガイドライン自体に答えがない論点もあります。

  • 確認者の範囲。前述のとおり、看護記録の確認者は記載がない
  • 電子署名。医師が最終確認した文書への電子署名は法定要件の対象だが、看護記録の署名の扱いは記載がない
  • 患者向け説明への転用。看護記録を解析して説明文を作る用途は別ユースケースで、患者への通知が論点になる

このあたりは、ガイドラインの外で自施設の記録管理規程と突き合わせる領域です。臨床の記録を扱う別職種の例として、臨床心理士の倫理綱領と生成AIでの所見作成も、匿名化と確認の線引きの参考になります。

まとめ

看護記録は、ガイドラインが文書作成支援の一例として名前を挙げた業務です。使えるかどうかを決めるのはClaudeの性能ではなく、入力先が組織の承認を得た環境か、再学習されない設定か、出力を誰が確認するか、AI利用をどう明記するか、の4点です。

個人アカウントのClaudeに患者の情報を入れる運用は、この4点のうち最初の関門で止まります。逆に、承認済みの環境で観察メモから下書きを作らせ、看護師が確認して確定する流れなら、ガイドラインの想定の内側に収まります。確認者を誰にするかだけは、ガイドラインが空白にしています。ここが最初に決める論点になります。

この記事を共有:XはてブLinkedIn