Claudeで人材紹介の推薦文を匿名化して作る手順 — レジュメの渡し方
候補者レジュメの氏名や社名を手元で置き換えてからClaudeに渡し、求人企業向けの推薦文に仕上げる手順です。職業安定法5条の5と指針の個人情報規定、再識別チェックまで並べます。
人材紹介の推薦文をClaudeに書かせるなら、レジュメは「渡す前に手元で匿名化する」のが基本線です。氏名・連絡先・社名をClaudeに見せず、仮の呼び名に置き換えた文書だけを渡し、返ってきた推薦文に実名を戻して送ります。
注意したいのは、匿名化したつもりの文書が、法律上は個人情報のままである場合があることです。職歴の組み合わせだけで人が特定できるなら、氏名を消しても扱いは変わりません。この記事では、置き換えの手順、Projectsに置く指示文、再識別チェックを順に示します。法的な判断を代わりにするものではなく、社内ルールを作る前の下書きとして読んでください。
氏名を消しても個人情報のままになる理由
職業紹介事業者が求職者の情報を扱う場面には、二つの法令が重なります。
一つは職業安定法の5条の5です。職業紹介事業者は、求職者の個人情報を収集・保管・使用するとき、業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして収集し、その収集目的の範囲内で保管・使用しなければなりません。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は例外です。個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じる義務も、同じ条文の第2項にあります。
もう一つは個人情報保護法です。「個人情報」の定義には、他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できるものも含まれます。氏名と連絡先を消した推薦文でも、「大手商社の海外事業部で◯年、直近の職位は部長補佐」のような記述が並べば、登録名簿と突き合わせて本人に行き着く場合があります。
法律には「仮名加工情報」「匿名加工情報」という別の区分もあります。後者は、特定の個人を識別できないように加工し、元の個人情報を復元できないようにしたものです。推薦文のためにClaudeへ渡す文書は、数百人を対象にした統計的な加工ではなく、一人の職歴を残したまま作る個別の文書です。復元できない状態とは言いにくいので、この記事では「匿名化したあとも個人情報として管理する」前提で組みます。
指針が求めること
職業安定法5条の5を受けて、厚生労働大臣が定めた指針があります。職業紹介事業者や求人者がその責務に適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)で、個人情報の取扱いに関する第五の内容は、推薦文の作り方に直結します。
- 個人情報の保管と使用は、収集目的の範囲に限る。他の目的で使うときは、目的を示して本人の同意を得る
- 同意を求めるときは、同意を求める事項を可能な限り具体的かつ詳細に示す。目的に必要な範囲を超える収集・保管・使用への同意を、紹介の条件にしない
- 個人情報を正確かつ最新に保つ措置、漏えい・滅失・毀損を防ぐ措置、権限のない者のアクセスを防ぐ措置、保管の必要がなくなった情報を破棄・削除する措置を講じる
- 人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想・信条、労働組合への加入状況は、特別な職業上の必要性がある場合を除いて収集しない
最後の項目は、推薦文の作成にも効きます。レジュメに本籍や出生地が書かれていても、推薦文に持ち込む理由はありません。Claudeに渡す文書の段階で、削る対象に入れておきます。
職業安定法51条には、業務上知り得た人の秘密を正当な理由なく漏らしてはならず、個人情報をみだりに他人に知らせてはならないという定めもあります。5条の5と51条の本文は、外部のAIサービスへの入力を名指ししていません。入力が「他人に知らせる」にあたるかどうかは条文から読み切れないため、本文に実名を載せない設計にしておけば、その論点に踏み込まずに済みます。
Claudeに渡す前に手元で消すもの
推薦文に必要なのは、「どんな経験を積み、何ができ、なぜその求人に合うか」です。本人を直接指す情報は、ほとんど使いません。レジュメの項目を三つに分けて考えると、迷いません。
| 項目 | 扱い | 置き換えの例 |
|---|---|---|
| 氏名・連絡先・生年月日・顔写真 | 扱い削除する | 置き換えの例「候補者A」 |
| 勤務先・取引先・出身校・資格の登録番号 | 扱い仮称に置き換える | 置き換えの例「国内大手メーカーX社」 |
| 年収・年齢・在籍年数 | 扱いレンジにする | 置き換えの例「現年収は700万円台」「30代後半」 |
| 本籍・出生地・思想信条・組合加入など | 扱い削除し、推薦文にも書かない | 置き換えの例(記載なし) |
| 担当した業務・実績の数字・使ったツール | 扱いそのまま残す | 置き換えの例(置き換えなし) |
置き換えのコツは、特定につながる固有名詞だけを消し、仕事の中身は残すことです。「ECサイトの在庫管理システムを刷新し、欠品率を8%から3%に下げた」のように、実績の数字と手段は推薦文の中核になります。一方で、「社名を伏せたのに、売上規模や所在地や創業年から会社が割れる」ことは起こります。業界名と規模感だけを残し、細部はレンジにします。
置換スクリプトと対応表
手作業で置き換えると、2か所目以降の見落としが出ます。レジュメをテキスト化したうえで、簡単なスクリプトに通すと確実です。対応表はmapping.jsonに作り、候補者ごとに手元で保管します。Claudeには渡しません。
{
"山田太郎": "候補者A",
"株式会社サンプル商事": "国内大手商社X社",
"サンプル商事": "国内大手商社X社"
}メールアドレスと電話番号は正規表現で落とします。次のスクリプトは、長い語から順に置き換えるので、「株式会社サンプル商事」と「サンプル商事」が混在しても崩れません。
import json
import re
import sys
mapping = json.load(open("mapping.json", encoding="utf-8"))
text = open(sys.argv[1], encoding="utf-8").read()
text = re.sub(r"[\w.+-]+@[\w-]+\.[\w.-]+", "[メール]", text)
text = re.sub(r"0\d{1,4}-\d{1,4}-\d{3,4}", "[電話]", text)
for real, alias in sorted(mapping.items(), key=lambda kv: -len(kv[0])):
text = text.replace(real, alias)
print(text)python3 mask.py resume.txt > masked.txt正規表現は、ハイフンなしの電話番号や全角表記を拾いません。住所、最寄り駅、学部名、所属学会など、対応表に入れ忘れた語も残ります。出力されたmasked.txtは、Claudeに貼る前に目で一度読み、実名や固有の組織名が残っていないかを確かめます。
Projectsに推薦文の型を置く
推薦文の型を毎回チャットに書くと、担当者ごとに書式がずれます。ClaudeのProjectsは、独自のチャット履歴とナレッジベースを持つ作業スペースで、プロジェクトごとに指示文(project instructions)を決められます。推薦文の型は指示文に、求人票や過去の推薦文の見本はナレッジに置く、と分けるとそろえやすくなります。
指示文の一例です。文面は自社の運用に合わせて直してください。
あなたは人材紹介会社のコンサルタントの下書きを手伝います。
入力は、氏名・社名などを仮称に置き換え済みのレジュメです。
次のルールで求人企業向けの推薦文を作ります。
1. 構成は「推薦ポイント(3つ以内)」「根拠となる経歴」「確認が必要な点」
2. レジュメに書かれている事実と、あなたの所見を分けて書く
- 事実: 経歴・役割・数字・使ったツール(レジュメの記述のみ)
- 所見: 求人要件との適合についての推測。文頭に「所見:」を付ける
3. レジュメに書かれていない内容は補わない。不明は「記載なし」とする
4. 仮称はそのまま使い、実名や社名を推測して書かない
5. 年齢・性別・出身・家族・健康に関する記述は書かない
6. 面談での本人の希望は、渡された「本人希望メモ」にある範囲だけを書く5番は、指針が収集を制限している社会的差別の原因になりうる事項と同じ方向のルールです。推薦文は求人企業の選考の入口になるので、年齢や出身のような属性を文面に残さない運用にしておくと、後からの点検が楽になります。
推薦文は「事実」と「所見」を分けて作る
匿名化した文書を渡したあとは、推薦文の中身を詰める段階です。Claudeに任せきりにすると、「リーダーシップに優れ、課題解決力が高い人材です」のような、根拠の見えない形容が並びがちです。事実と所見を分け、所見には必ず根拠の経歴を紐づけさせます。
形容詞だけの推薦文を、根拠つきに直す
直す前
課題解決力が高く、チームを牽引できる即戦力です。物流領域の経験が豊富で、貴社のポジションに最適です。
直した後
事実: 国内大手商社X社の物流部門で、倉庫管理システムの切り替えを担当(メンバー5名、期間10か月)。切り替え後の出荷ミスは月平均12件から4件に減少。
所見: 入荷から出荷までの業務を一通り経験しているため、貴社の「物流DXの推進担当」の要件に近い経歴です。ただし、SaaSベンダー側の経験は記載なし。
左の文は、誰にでも当てはまります。右の文は、レジュメに書かれた数字を事実として置き、求人要件との距離を所見として切り分けています。「記載なし」を残しておくと、面談で確かめる点がそのまま次の行動になります。
求人票を一緒に渡す場合も、求人企業名は仮称にします。求人側の固有情報が推薦文に混ざると、どちらの情報が由来かが分かりにくくなるためです。
再識別チェックと実名の戻し方
推薦文ができたら、送る前に二つの作業を挟みます。
送付までの流れ
- 1
別のチャットで再識別を試す
推薦文だけを新しいチャットに貼り、「この文章から、実在の会社や個人を特定できそうな手がかりを挙げてください。社名の候補は推測しなくて構いません」と頼みます。挙がった手がかり(珍しい資格、固有のプロジェクト名、地域名など)は、ぼかすか削ります。
- 2
対応表で実名を戻す
仮称を戻すのは手元の作業です。匿名のまま送る運用なら、戻さずに仮称版を送ります。実名入りで送る運用なら、
mapping.jsonの対応を逆引きして置換し、その結果を目で確認します。 - 3
本人の同意範囲を確かめる
求人企業に何の情報を、どの段階で見せるかは、登録時に本人へ示した目的と同意の範囲で決まります。範囲を超えるときは、先に本人へ確認します。
再識別のチェックは、Claudeに頼んだ時点で「特定できない」という保証にはなりません。Claudeが気づかない手がかりを、採用担当者が知っている可能性があります。チェックは見落としを減らすための補助として使い、最終判断はコンサルタントが持ちます。
入力する前に確認するプライバシー設定
匿名化した文書でも、入力先の扱いは確認しておきます。Free・Pro・Maxなどの個人向けプランでは、会話やコーディングセッションが次の場合にモデル改善に使われます。
- 設定でモデル改善への利用を許可している
- 会話が安全性の確認の対象としてフラグを付けられた
- 試験プログラムへの参加など、学習への利用に明示的に同意した
シークレット(Incognito)チャットは、モデル改善の設定を有効にしていても、モデル改善には使われないと説明されています。Claude for WorkやAPIなどの法人向け製品は、個人向けとは別の条件が適用されます。自社がどのプランで使うか、設定がどうなっているかは、レジュメ類を扱う前に管理者と確かめておきます。
コネクタ経由のデータについては、コネクタ側の生データはモデル改善の対象に含まれないものの、会話に直接コピーした内容は含まれうる、と書かれています。ATS(採用管理システム)をつなぐ場合も、チャットに貼り込んだ部分は会話の一部になります。ATS連携の考え方はClaudeとAshbyを連携する方法にまとめています。
起きやすいつまずき
落とし穴
仮称が揺れて、実名の戻し忘れが出る
「候補者A」「Aさん」「当該候補者」と呼び名が揺れると、置換の漏れが出ます。指示文で仮称の表記を固定し、最終確認ではmapping.jsonの実名がすべて消えている(あるいはすべて戻っている)ことを検索で確かめます。
落とし穴
対応表が会話に混ざる
対応表の中身を「確認のために」チャットへ貼ると、匿名化した意味が消えます。対応表は手元のファイルに留め、Claudeに渡すのは仮称の文書だけにします。
もう一つ、推薦文を使い回すときの注意があります。同じ候補者を複数の求人に推薦する場合、求人ごとに目的が違えば、渡す情報も変わります。指針は保管・使用を収集目的の範囲に限ると定めているので、推薦文のテンプレを使い回さず、求人ごとにClaudeで組み直す運用が安全です。保管の必要がなくなった情報は破棄・削除する措置の対象でもあるため、手元の対応表やマスク済みファイルも、選考が終わったら整理する前提で置き場を決めておきます。
職務経歴書の書き方側の支援はClaudeで職務経歴書の下書きを作る手順に、紹介会社との契約条件の点検は人材紹介契約書の返戻金・専属条項をClaudeで点検する手順にあります。匿名化の設計という点では、ノンネームシートの作成にClaudeを使う手順が、財務資料を対象に同じ考え方を扱っています。
まとめ
推薦文づくりでClaudeに任せるのは、整理と言語化の部分です。誰の話かを示す情報は、手元で仮称に置き換えます。そのうえで、置き換えた文書も個人情報として管理し、再識別チェックと本人の同意範囲の確認を、送付前の定番の作業にしておきます。法令の解釈に迷う論点は、社内の個人情報の管理規程と、顧問の弁護士や社労士に確かめてください。