株式会社設立の定款を絶対的記載事項で点検する — Claudeに条文を当てる
株式会社設立の定款案を会社法27条の5項目に当て、Claudeで記載漏れと表現ゆれを洗う手順です。発行可能株式の総数が27条の事項ではない点も条文で確かめます。
会社法27条の5項目が絶対的記載事項
株式会社の定款に必ず書く事項(絶対的記載事項)は、会社法27条が5つ定めています。目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所です。
定款案の点検は、この5項目が過不足なく入っているかを見るところから始まります。1つでも欠けると定款として足りません。
ここで間違えやすいのが発行可能株式の総数です。ひな形の定款には必ず載っているため、27条の事項だと思い込みがちですが、27条の列挙には入っていません。扱いは後の節で条文に当てて確認します。
この記事は、定款案の文面をClaudeに渡し、条文と1項目ずつ照合させる手順です。Claudeが返す点検表は下書きです。有効かどうかの判断は、司法書士や弁護士のような専門家の領分に残ります。
27条の5項目と、点検で見る表現ゆれ
条文の列挙を、定款案のどこを見るかに言い換えると次の表になります。
| 27条の号 | 事項 | 点検で見る点 |
|---|---|---|
| 1号 | 事項目的 | 点検で見る点事業内容の記載が定款の中にあるか |
| 2号 | 事項商号 | 点検で見る点条文どおりの会社の種類の文字が入っているか |
| 3号 | 事項本店の所在地 | 点検で見る点所在地が書かれているか |
| 4号 | 事項設立に際して出資される財産の価額またはその最低額 | 点検で見る点金額が確定額か最低額かを読み取れるか |
| 5号 | 事項発起人の氏名または名称および住所 | 点検で見る点全員分があり、住所が揃っているか |
表現ゆれは、同じ事項が定款の中で違う書き方をされている状態を指します。たとえば商号が第1条では「株式会社アオバ商会」、末尾の発起人欄では「アオバ商会株式会社」となっているような場合です。条文は書き方の統一までは求めていませんが、設立後に食い違いが残ると読む側が迷います。Claudeに洗わせる価値が高いのは、この種の機械的な突き合わせです。
商号は6条にも当てる
商号については、27条2号の「記載があるか」に加え、会社法6条が中身を縛ります。
商号に関する会社法の条文
- 6条2項: 株式会社は、商号中に「株式会社」という文字を用いなければならない
- 6条3項: 他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を商号に用いてはならない
- 8条1項: 不正の目的で、他の会社と誤認されるおそれのある商号を使ってはならない
8条は定款の書式の問題ではなく、商号の選び方の問題です。定款案の点検では、6条の2つの項に反していないかまでを機械的に見て、8条にかかわる判断は商号を決めた人の側に残します。
本店の所在地はどこまで書くか
27条3号は「本店の所在地」と書くだけで、どの行政区画まで書けば足りるかは条文に出てきません。「東京都千代田区に置く」で足りるのか、番地まで必要なのかは、条文だけでは決まりません。管轄の登記所や専門家に確かめる項目として、点検表に「要確認」と残させるのが安全です。
発行可能株式の総数は27条の事項ではない
発行可能株式の総数(会社が発行できる株式の総数)は、27条の5項目に入っていません。根拠になるのは37条です。
37条1項は、発起人が発行可能株式の総数を定款で定めていない場合、株式会社の成立の時までに、発起人全員の同意で定款を変更して定めを設けなければならないとします。つまり、定款案に書かれていなくても、設立の段階で定款の定めにしておく必要があるという順序です。
3項には比率の条件もあります。設立時発行株式の総数は発行可能株式の総数の4分の1を下ることができません。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は適用されません。公開会社は2条5号で、株式の譲渡に会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社と定義されています。
Claudeに点検させるとき、この区別を指示に入れておかないと、発行可能株式の総数の記載漏れを「27条違反」と書いてくることがあります。条文に当てた結果として出す番号は、27条か37条かまで確認する必要があります。
落とし穴
発行可能株式の総数の漏れを27条違反と書かれる
27条の5項目に発行可能株式の総数は入っていません。指摘が出たら、根拠の条文が27条か37条かを点検表の列で必ず分けさせます。分けて出させるだけで、条文違反の指摘と設立手続き上の確認事項が混ざりません。
28条と29条は別の箱として読む
27条の5項目を満たしたあとに、28条と29条の整理が要ります。
28条は、定款に書かなければ効力を生じない事項(相対的記載事項)を挙げています。株式会社の設立では、次の4つです。
- 金銭以外の財産を出資する者の氏名・名称、その財産と価額、割り当てる設立時発行株式の数
- 会社の成立後に譲り受けることを約した財産と価額、譲渡人の氏名・名称
- 発起人が受ける報酬その他の特別の利益と、その発起人の氏名・名称
- 会社が負担する設立に関する費用(法務省令で定めるものを除く)
27条の事項が欠けると定款として足りないのに対し、28条の事項は、書いてなければそもそも効力が生じません。書き忘れが「なかったことになる」点が、27条と違います。定款案にこの種の約束事が書かれていなければ、点検表には「該当する取り決めが定款案にない」と出させ、取り決めを意図していたのに抜けたのかどうかを人が判断します。
29条は、27条・28条の事項のほか、会社法の規定により定款に定めがなければ効力を生じない事項と、法律の規定に反しないその他の事項を記載できるとします。任意的記載事項の入口で、定款案のうち27条にも28条にも当たらない条文は、この箱に入ります。
28条1号の現物出資や2号の財産引受が入っている定款案は、33条の検査役の選任の問題につながります。ただし33条10項は、現物出資財産等の価額の総額が500万円を超えない場合などを適用除外としています。ここは金額と財産の種類で結論が変わるため、Claudeには「28条の事項がある」ことの指摘までを求め、検査役の要否は専門家に渡す線引きが現実的です。
Claudeに定款案を点検させる手順
手順は4つです。条文を先に渡し、定款案をその条文に当てさせます。
点検の進め方
- 1
定款案をアップロードする
DOCX、PDF、TXTなどの文書を会話に添付できます。Claudeのヘルプによれば、チャットでは1ファイル500MB・20ファイルまで、プロジェクトのファイルは1ファイル30MBまでです。定款案はこの範囲に収まります。
- 2
条文を貼り付ける
27条から29条と37条の本文を、e-Govの法令検索から会話に貼ります。Claudeの記憶ではなく、手元の条文に当てさせるためです。
- 3
指示を渡す
下のプロンプトのように、判定の種類と出力の形を指定します。
- 4
点検表を人が読み直す
「要確認」と書かれた行と、根拠条文の番号を、貼った条文と見比べます。
指示文の例です。
添付の定款案を、貼り付けた会社法27条・28条・29条・37条だけを
根拠に点検してください。条文にない要件は足さないでください。
1. 27条の1号から5号まで、定款案の該当箇所を原文のまま引用し、
「記載あり」「記載なし」「不明」のいずれかで判定する。
2. 28条各号に当たる記載の有無を同じ形式で示す。
3. 商号・発起人名など同じ事項が複数の箇所に出る場合は、
表記が揃っているかを一覧にする。
4. 発行可能株式の総数は27条ではなく37条の問題として別の表に出す。
5. 条文だけでは判断できない点は「要確認」とし、理由を書く。出力の列は、「条文」「事項」「定款案の該当箇所(引用)」「判定」「備考」の5つがあれば足ります。引用を必ず求めるのは、Claudeが存在しない文言を拾っていないか、人が原文と突き合わせられるようにするためです。
点検表の形の例
次のような定款案があったとします。あくまで点検表の形を示すための架空の例で、Claudeの実際の出力ではありません。
- 第1条 当会社は、株式会社アオバ商会と称する
- 第2条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする
- 第3条 当会社は、本店を東京都千代田区に置く
- 第4条 当会社の発行可能株式の総数は、1,000株とする
- 第5条 設立に際して出資される財産の価額は、金100万円とする
この定款案を27条に当てると、点検表は次のような形になるはずです。
| 条文 | 事項 | 定款案の該当箇所 | 判定 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 27条1号 | 事項目的 | 定款案の該当箇所第2条 | 判定要確認 | 備考事業内容の列挙が続いているか |
| 27条2号 | 事項商号 | 定款案の該当箇所第1条 | 判定記載あり | 備考6条2項の文字を含む |
| 27条3号 | 事項本店の所在地 | 定款案の該当箇所第3条 | 判定要確認 | 備考所在地の書き方は条文に規定なし |
| 27条4号 | 事項出資財産の価額 | 定款案の該当箇所第5条 | 判定記載あり | 備考確定額での記載 |
| 27条5号 | 事項発起人の氏名・住所 | 定款案の該当箇所なし | 判定記載なし | 備考定款案に発起人欄がない |
この例では、5号が欠けていることが一目で分かります。発起人は26条1項で定款の作成と署名(または記名押印)を担う立場で、定款案から外れていれば設立の手続きが進みません。
Claudeの出力をそのまま信じない点
点検表は、条文との照合を速く回す道具です。次の3点は人の側に残ります。
- 判定が「記載あり」でも、記載の内容が妥当かは別の問題
- 条文の解釈が分かれる箇所(本店の書き方など)は、Claudeが断定していないかを確認する
- 28条の事項が出たときの検査役の要否や、金額の要件の当てはめ
法令を扱う点検は、条文を貼って根拠を限定する使い方と相性がよいです。株主総会の招集通知を会社法の記載事項に照らして点検する手順は株主総会の想定問答をClaudeのProjectsで作る手順にあり、定款案の点検も同じ「条文を先に渡す」型で組めます。利用規約を消費者契約法の条文に当てる流れは消費者契約法で利用規約の不当条項をClaudeに点検させる手順でも見られます。
Projectsを使えば、条文とひな形の定款をナレッジに置いて、案が変わるたびに同じ条件で点検し直せます。設立前の短い作業なら、チャットに条文を貼るだけで足ります。
次の版の定款案に引き継ぐこと
初回の点検で出た「要確認」は、専門家に渡した結果を、次の版の定款案に反映して終わりです。反映した版を再度同じ指示文で点検し、27条の5項目がすべて「記載あり」になったことと、商号や発起人名の表記が全箇所で揃ったことを確かめます。
指示文に「前回の要確認と、今回の差分だけを示す」を足すと、版が増えても読む量が増えません。
まとめ
27条の5項目は目的・商号・本店の所在地・出資財産の価額(または最低額)・発起人の氏名(名称)と住所で、発行可能株式の総数はそこに入りません。Claudeに点検させるときは、条文を貼って根拠を限定し、27条・28条・37条の番号を点検表で分けさせます。最後に残る「要確認」の行が、専門家に確かめる項目の一覧になります。