指導案・保護者連絡文をClaudeで作るときの文科省ガイドラインの勘所
指導案は著作権法35条の範囲内、保護者連絡文は範囲外になりやすいという違いを軸に、文科省ガイドラインver2.0を教員の実務にどう当てはめるかを示します。
指導案と保護者連絡文で、ガイドラインの扱いが分かれる理由
文部科学省の初等中等教育局は、2024年12月26日付で学校向け生成AI利活用ガイドラインver2.0を公表しました。教職員の校務での利活用例を並べた表には、「授業準備」の区分に教材や確認テスト問題のたたき台づくりが、「学校からの情報発信」の区分にお便り・通知文・案内文のたたき台づくりが載っています。どちらも「たたき台」を作る作業ですが、著作権法第35条との関係は同じではありません。
第35条は、授業の過程での複製や公衆送信を著作権者の許諾なしにできるとする権利制限規定です。授業目的を超える利用には及びません。保護者向けの文書は、その「超える側」に入りやすい文書です。部活動の地域クラブ向けの案内なら、地域クラブの活動計画と保護者案内の作り方で同じ考え方を扱っています。
なお、著作権侵害になるかどうかは、既存の著作物との類似性(創作的表現が共通していること)と依拠性(既存の著作物をもとに作ったこと)で決まります。生成物が既存の著作物に似ていなければ、第35条を持ち出すまでもありません。以下の違いが効いてくるのは、Claudeの下書きが既存の表現に似てしまったときです。
第35条との関係は、文書の行き先で変わる
指導案・教材など授業準備の文書
授業の過程での利用なので、許諾なしに複製や公衆送信ができます。生成物が既存の著作物に類似していても、授業の過程で使うかぎり著作権侵害にはなりません。
学級だより・お便りなど保護者向けの文書
学校のHP掲載、保護者向けの学級通信、職員会議、PTA活動での利用は、授業目的の範囲を超えます。既存の著作物と同一または類似の内容は、他の権利制限規定も当てはまらなければ著作権侵害となる可能性があります。
ガイドラインver2.0全体の構成や、教育委員会が押さえるべき導入判断の論点は文科省の生成AIガイドラインver2.0を学校のClaude導入にどう活かすかで扱っています。本記事は、個々の教員が指導案・保護者連絡文を作る場面に絞り、ver2.0の該当箇所の当てはめ方を掘り下げます。
指導案は授業の過程にとどまる間だけ第35条の内側にいる
「授業で取り扱う教材や確認テスト問題のたたき台を作成する」は、校務での利活用例として明記されています。指導案という語そのものは例示にありません。ただ、授業準備にあたる作業なので、同じ考え方で扱えます。
たとえば、教員が既存教材の構成を参考にした指導案の下書きをClaudeに作らせる場面が、これにあたります。
ただし、同じ文書が授業の外へ出た時点で扱いが変わります。同じ指導案でも、自分の授業準備に使う段階と、会議資料として配る段階とでは、第35条の及ぶ範囲が変わりえます。
もう1つ見落としやすいのが、生成する段階と使う段階の切り分けです。ガイドラインは、生成物を作る段階(複製)には権利制限規定が適用されても、使う段階(公衆送信など)には適用されない場合があると述べています。例として、私用のPCで既存の画像に似た生成物を作るのは私的使用の範囲内でも、それをSNSにアップロードすると範囲外になる、という場合が挙がっています。
第35条が及ばない場面は、問題集でも示されています。児童生徒が各自で購入する前提で売られている問題集を1部だけ買ってコピーし、配付する行為は、著作権者の利益を不当に害する場合として、同条の適用がないと考えられています。ガイドラインは、生成AIを使う場合も同じ考え方だとしています。問題集の本文をそのまま読み込ませて、ほぼ同じ内容の類題を作って配る使い方は、この考え方に照らした見直しが必要です。
先行事例では、宮城県岩沼市の岩沼北中学校が、授業で使ったワークシートと生徒の振り返りをPDFにまとめて生成AIに読み込ませ、テスト問題のたたき台を作りました。知識・技能を問う問題、思考・判断・表現を問う問題など、評価の観点ごとに分けて提案させています。
保護者連絡文は授業目的の範囲を超えやすい
校務での利活用例のうち「学校からの情報発信」には、学年だより・学級だより・給食だより・保健だよりなどのお便り、通知文、案内文、学校行事のHP掲載文や報告記事が並びます。外部対応の区分にも、外部向け講演会の挨拶文があります。これらはどれも授業の過程の外に出る文書です。
Claudeの下書きに既存の著作物と似た表現が混ざったとき、指導案なら許された使い方が、保護者連絡文では許されない場合があります。他校の通信や既存の定型文を真似させる使い方は、著作権侵害のおそれが高まります。伝えたい要点を自分の言葉でプロンプトに書き出し、新しい文章を作らせる使い方が考えられます。
ガイドラインが、第35条が適用されない場合に取り組むことが望ましいとしているのは、次の確認です。
公表前に既存の著作物との類似を避ける手順
- 1
プロンプトを残しておく
キャラクター名などの特定の固有名詞を入れて、既存の著作物に似たものを意図的に作らせないことが前提です。そのうえで、生成に使ったプロンプトなど、生成物ができた過程をあとから確認できる状態にしておきます。
- 2
インターネット検索で類似を調べる
生成物を使う前に、インターネット検索などで既存の著作物に似ていないかを調べます。
- 3
迷ったら文化庁の相談窓口を使う
侵害にあたるかの最終判断は個別の事案ごとの司法判断です。判断に迷う場合は、文化庁が開設している相談窓口を使う選択肢が示されています。
先行事例では、武雄市の川登中学校が、あいさつ文、保護者あて文書、教育講演会の謝辞、学年だよりの添削に生成AIを使っています。生成された内容はあくまで例とし、作成者が内容を確認して修正・補足・追記する運用です。学年だよりや学級だよりの誤字・脱字のチェックを生成AIに任せたことで、教務主任、教頭、校長の確認時間が短くなった点も報告されています。
大阪市立の天王寺中学校は、学校行事の保護者案内文やスイスの姉妹校へのメッセージカードのたたき台を作り、プリントの英文作成などにかかっていた時間を大幅に短縮しました。京都市の美術工芸高校は、過去の学校HPの掲載記事を参照させながら、プロンプト入力、方向性の修正、修正指示のうえでの生成、掲載という流れで報告記事を作っています。3校に共通するのは、たたき台を作らせて人間が仕上げる姿勢です。
Claudeの生成物がいつ著作物として保護されるかは、Claude生成物の著作権で扱っています。詳細な指示と人間の加筆修正を重ねるほど、保護される可能性が高まるという論点です。
プロンプトに児童生徒・保護者の個人情報を入れない
教職員向けのチェック項目には「プロンプトに個人情報を入力していないか」があります。ただし、教職員が入力した個人情報を、サービス提供者が応答結果の出力以外の目的で扱わないと確認できている場合は除かれます。指導案に特定の児童のつまずきやテスト結果を書き込む、保護者連絡文の下書きに家庭の個別事情を含める、といった使い方はこの項目に直接触れます。
個人情報には、注意書きが2つ付いています。1つは、個人情報を含むプロンプトを入力するときは、提供者がその情報を機械学習に使うかどうかなどを十分に確認すべきだという点です。入力した情報が応答結果の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反する可能性があると書かれています。もう1つは、インターネットなどで公にされている情報も、個人情報に該当しうるという点です。公開されているから入れてよい、とは限りません。
個人情報とは別の線として、成績情報などの「重要性の高い情報」があります。教育委員会が示す教育情報セキュリティポリシーに従う必要があり、個別契約などに基づいて適切なセキュリティ対策を講じた環境で運用している場合を除き、プロンプトには入力できません。指導案に特定の児童の評価結果を書き込む場合や、保護者連絡文の下書きに個々の成績データを含める場合は、個人情報の論点とは別に、この観点からも見ます。
生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力する行為が、個人情報保護法の上でどう扱われるかは、委託の例外が効くかどうかで判断が分かれます。この分かれ目の考え方は個人情報を含むプロンプト入力は第三者提供にあたるかで整理しています。学校の実務では、氏名や写真などをそもそもプロンプトに入れないのが、入力の側でできる最も手前の対策です。指導案なら「クラス全体の傾向」、保護者連絡文なら「学年・学級の一般的な案内」という粒度に抽象化してから渡すと、チェック項目への答え方が明確になります。
使うアカウントと端末は、教育委員会の方針が先に決める
どのClaudeのプランで書くかより前に、ガイドラインは使う環境に条件を置いています。教育委員会の方針に基づいて使うこと、私用アカウントを使わないこと、教育情報セキュリティ管理者の許可を得ていない私用端末を使わないことです。教育情報セキュリティ管理者には、校長が充てられることが想定されています。個々の教員が自分でFree・Pro・Maxを契約して校務に使う前に、自分の自治体と学校の方針を見る必要があります。ガイドラインは個別のサービス名やプランを指定していません。
あわせて、出力結果のライセンスの所在など、サービス提供者が定める最新の利用規約を確認し、遵守する必要があります。外部サービスのリスクとして、次の点も挙げられています。現在は無償でも将来有料になる価格の変動、サービス停止などの提供条件の変動、利用規約の頻繁な変更です。日本の法令が適用されないことや、係争時の管轄裁判所が国外になることもあります。
米国のK-12の認証済み教員を対象にしたClaude for Teachersは、日本の学校の校務を想定した仕組みではありません。
出力は参考の一つ、最後は教員が判断する
ガイドラインは教職員の利活用について、一度で求める出力を期待せず、複数回の対話で近づけること、出力は参考の一つとして扱うこと、最後は自分で判断して成果物に責任を持つことを基本姿勢にしています。
チェック項目には、ハルシネーションやバイアスなどの特徴を理解したうえで、出力の適切性を判断できる範囲で使い、採用するかどうかを自分で決めているか、も入っています。指導案では、生成AIが誤った事実や存在しない参考資料を混ぜて提案するリスクがあります。保護者連絡文では、行事の日時や持ち物といった具体的な事実を取り違えるリスクがあります。公表前に、元の予定表や通知と突き合わせる工程を省かないことが、この項目への実務的な答えです。
まとめ
指導案は授業準備として第35条の内側で使え、保護者連絡文は授業目的の範囲を超えやすいため、作る前に「この文書はどこに出るのか」を決めておくと、類似を避ける確認の重さが決まります。あわせて、使うアカウントと端末は教育委員会の方針が先に決めます。
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