PMI100日計画をClaudeで作る — DD指摘から担当・期限の台帳へ
M&A成立後の統合(PMI)で、DDの指摘事項を統合タスクに分解し、Claude for Excelで担当・期限・先行タスクの台帳にする手順。指摘との対応漏れと期限の矛盾を式で検出します。
PMI(M&A成立後の統合作業)の100日計画は、DD(デューデリジェンス)で挙がった指摘事項を起点にすると組みやすくなります。指摘を1件ずつ統合タスクに分け、各タスクに担当・期限・先行タスクを持たせて、Excelの台帳に落とします。Claude for Excelには、この分解と台帳の整合チェックを任せられます。
この記事では、クロージング日を起点に「Day 0からDay 100」の期限を式で出し、指摘に対応するタスクが無いものと、先行タスクより早く始まってしまうタスクを自動で洗い出す台帳を作ります。担当者の割り当てと優先度の最終判断は、人が決める前提です。
台帳に入れる前に押さえるClaude for Excelの制約
Claude for Excelは、Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで使えるExcelアドインです。動く環境は、Excel on the web、Windows版(Microsoft 365契約でビルド16.0.13127.20296以降)、Mac版(バージョン16.46以降・ビルド21011600以降)です。Excel 2016・2019の永続ライセンス版、iPad版、Android版では起動しません。
100日計画の台帳づくりに響くのは、次の4点です。
- マクロ・VBAとデータテーブルは未対応なので、期限の計算は通常の数式で組みます
- 条件付き書式とデータ検証のドロップダウンは、Claudeに直接頼めます
- 最終成果物や監査に直結する計算は、人の確認なしでの利用が推奨されていません
- 外部から受け取ったファイルには、Claudeを操作する隠れた指示が入っている恐れがあります
4点目はこの用途で特に効きます。DD報告書や売り手から受領したデータルームの資料は、まさに外部ファイルだからです。受領したExcelを開いたままClaudeに編集させず、指摘事項だけを自分で作った信頼できるブックへ転記します。転記した指摘の文面は、機密性の高い案件ほど要約にとどめます。
データの扱いも確認しておく点です。入出力はバックエンドで受信または生成から30日以内に削除され、チャット履歴はブラウザのIndexedDBに保存されます。一方で、組織が設定したカスタムのデータ保持設定は引き継がれず、アドインの活動はEnterpriseの監査ログにも含まれません。ただしCompliance APIを有効にしているEnterpriseでは、Claude for Excelのセッションが取得対象です(公開ベータで、追加設定は不要です)。案件の社内ルールと照らす材料になります。
台帳は3枚のシートに分ける
シートは「設定」「DD指摘」「統合台帳」の3枚にします。1枚にまとめると、指摘との対応関係を式で追えなくなるためです。
3枚のシートの役割
設定
クロージング日を1セルに置きます。セルB1を「クロージング日(Day 0)」とし、期限の日付はすべてここから計算します。クロージングが後ろにずれたときは、このセルを書き換えるだけで全期限が動きます。
DD指摘
DDの指摘事項を1行ずつ転記する表です。列は、指摘ID・区分(財務・法務・税務・人事・IT・事業など)・指摘内容・重要度の4つで足ります。
統合台帳
統合タスクの一覧です。列は、タスクID・ワークストリーム・タスク・出所(指摘ID)・担当・開始Day・期限Day・先行ID・期限日・状態・チェック結果の11列を想定します。
「出所」列が要です。各タスクが、どの指摘から生まれたかを指摘IDで持ちます。この列があると、次の2つが式で確かめられます。
- 対応するタスクが1件も無い指摘がないか
- 指摘に紐づかないタスクが、意図した追加項目かどうか
Day 1に必要な項目(銀行口座の名義変更、給与支払いの継続、取引先への通知など)は、DD指摘とは別に必ず出てきます。これらは出所を空欄にせず、「共通」のような固定値を入れておくと、後の集計で区別できます。
DD指摘から統合タスクを洗い出す
指摘の表ができたら、Claudeに統合タスクの案を出させます。ここで頼み方に条件を付けるのが、台帳として使える出力にするコツです。
次のような依頼文が出発点になります。
「DD指摘」シートの各行について、統合後に必要な作業を
「統合台帳」シートの末尾に1行ずつ追加してください。
- 出所列に、元の指摘IDを必ず入れる
- 1つの指摘から複数のタスクが出るときは行を分ける
- 担当列は空欄のままにする
- 期限Dayは0〜100の整数で、根拠が書けない場合は空欄にする
- 追加した行数を最後に報告する「担当は空欄のまま」と指定するのは意図的です。担当は社内の人員体制や兼務の状況に依存し、DDの文面からは決まりません。Claudeに決めさせると、もっともらしい名前や部署が入り、確認せずに残る恐れがあります。
期限Dayも同じです。根拠が書けない行は空欄で返させ、人が埋めます。Claudeが出す期限は、あくまで叩き台として扱います。
一括で追加させた後は、行数が指摘の件数と合うかを確かめます。指摘が40件で追加が35行なら、分解しなかった指摘が5件あります。この確認は、次の節の式でも行えます。
期限は「クロージング日+Day」で出す
期限日の列には、クロージング日にDayを足す式を入れます。次のような形です。
=IF(G5="","",設定!$B$1+G5)G列が期限Dayです。空欄なら期限日も空欄になり、未確定の行が日付に化けません。営業日で数えたい場合は、WORKDAY関数でクロージング日からの営業日数を出す形に変えます。ただし100日計画の節目(Day 1、Day 30、Day 60、Day 100)は暦日で置くことが多いため、まず暦日で組み、営業日が必要なタスクだけ別列にするほうが崩れにくくなります。
Day 1、Day 30、Day 100の区切りは、案件ごとに変わる設計です。区切りの日数とワークストリームの分け方は、ここでは例として置いています。自社の統合方針に合わせて、「設定」シートに節目の一覧を持たせると、タスクの期限が節目内に収まっているかも式で見られます。
対応漏れと期限の矛盾を式で検出する
台帳の価値は、書いた後に矛盾を見つけられることにあります。2種類のチェックを式で入れます。
指摘に対応するタスクがあるか
「DD指摘」シートの右端に列を追加し、各指摘を出所に持つタスクの件数を数えます。
=COUNTIF(統合台帳!$D:$D,A5)A列が指摘IDです。結果が0の行は、統合作業に反映されていない指摘です。条件付き書式で0を赤くするよう、Claudeに頼めます。ただし、対応不要と判断した指摘もあるはずなので、その場合は「対応不要」の理由を指摘シートの備考に書く運用にします。0件のまま放置される状態と、理由付きで対応しない状態は区別します。
先行タスクより早く始まっていないか
統合台帳のチェック結果列に、先行タスクの期限Dayと自分の開始Dayを比べる式を入れます。
=IF(H5="","",
IF(INDEX($G$5:$G$200,MATCH(H5,$A$5:$A$200,0))>F5,
"先行が未完了","OK"))H列が先行ID、G列が期限Day、F列が開始Day、A列がタスクIDです。先行タスクの期限Dayが自分の開始Dayより後ろなら、「先行が未完了」と表示されます。先行IDが台帳に存在しないときはMATCHがエラーを返すため、IDの打ち間違いもここで見つかります。
先行IDは1行に1つしか持てません。先行が複数あるタスクは、列を「先行ID1」「先行ID2」と分けるか、先行を最も遅く終わる1件に絞ります。後者のほうが、式が単純に保たれます。
Claude for Excelは、式の関係を保ったまま値を書き換えられます。そのため、期限Dayを変更したときの影響範囲を、次のように確かめられます。
T-023の期限Dayを45から60に変更し、
チェック結果が「先行が未完了」に変わる行を一覧にしてください。変更後に警告が出た行が、遅れの連鎖を受けるタスクです。試算の前に台帳のコピーを取っておくと、元の台帳を壊さずに済みます。
落とし穴
DD指摘の文面を変えたまま転記する
指摘事項を要約して転記すると、元の報告書にあった前提や金額の根拠が落ちます。台帳には要約を置き、元の報告書の該当箇所(章・ページ)を示す列を1つ足しておくと、後でタスクの妥当性を検証するときに原本へ戻れます。
週次で回すときの運用
台帳は作って終わりでなく、100日の間に毎週更新します。運用で手間が減る点は、3つあります。
状態列にはデータ検証のドロップダウンを設定します。「未着手・進行中・完了・保留」のような選択肢を入れておくと、表記ゆれが出ず、集計が崩れません。Claudeに「状態列にドロップダウンを作って」と頼むだけで設定できます。
期限日が過ぎて状態が完了でない行は、条件付き書式で強調します。式は、期限日が今日より前で、状態が「完了」でない、という条件です。会議の前に、遅れている行だけを見られます。
書式や集計のルールは、アドインのサイドバーにある設定の「Instructions」欄に書いておけます。ここに書いた内容は、以後のExcelでの会話すべてに適用されます。たとえば「担当は空欄のままにする」「日付はYYYY/MM/DD形式で書く」と入れておけば、毎回の依頼文に書き足さずに済みます。この設定はExcelだけに効き、PowerPointやWordの設定とは別です。
役員向けの進捗報告は、台帳をもとにPowerPointのスライドに起こす流れが自然です。Claude for ExcelはPowerPoint・Word・Outlookのアドインと文脈を共有し、1つの会話で複数のアプリをまたげます。台帳の集計値をそのままスライドに引き継ぐ、という使い方です。
つまずきやすい点
最初に出るのは、タスクの粒度が揃わない問題です。「ITシステムの統合」と「給与計算ソフトのアカウント付与」が同じ行に並ぶと、期限の見積もりが意味を持ちません。粒度の目安は「担当者が1人で、完了を判定できる」単位です。Claudeに案を出させた後、粒度の大きすぎる行を分割するよう、追加で頼みます。
次に、先行関係が実態より多くなる問題です。先行が増えすぎると、チェック列が警告だらけになり、本当に守るべき依存が埋もれます。先行を付けるのは、前のタスクが終わらないと物理的に着手できないものに限る、と依頼文で指定します。
応答が遅くなったり止まったりするときは、1回の依頼で扱う行数が多すぎるのかもしれません。症状と上限値はClaude for Excelが応答しない・タイムアウトする原因にまとめています。指摘が多い案件は、区分ごとに分けて依頼すると、1回あたりの処理量を抑えられます。
最後に、台帳の数値は人が確認する前提です。このアドインは、最終成果物や監査に直結する計算を人の確認なしで使うことを推奨していません。経営会議に出す前に、期限・担当・先行の3列は担当者本人と突き合わせます。
前後の工程とのつながり
PMIの台帳は、M&Aの前工程の成果物とつながっています。譲渡側が出すノンネームシートの作り方はノンネームシートの作成にClaudeを使う手順に、DDで財務資料をどう読むかはデューデリジェンスの横断分析の記事にあります。事業承継・M&A補助金を使う案件では、統合後に取り組む計画を補助金の事業計画の点検と照らすと、計画間の食い違いを減らせます。
まとめ
PMI100日計画の台帳は、DD指摘を出発点に、出所・期限・先行の3列で組むと整合性を式で見張れます。Claudeには指摘からタスクへの分解と、チェック式・書式・ドロップダウンの設定を任せ、担当者と期限の確定は人が行います。DD資料のような外部ファイルは開いたまま編集させず、信頼できるブックに要点だけを転記してから使います。