Claudeのセキュリティチェックシートに一次資料で答える方法
日本企業の情報セキュリティチェックシートでよく聞かれる項目に、Anthropicの一次資料だけでどこまで具体的に回答できるかをまとめます。
Claudeのセキュリティチェックシートに書ける一次情報
委託先評価のセキュリティチェックシートで一般的に問われるのは、認証取得状況・データ保持期間・データ所在地・委託先管理の4項目です。Anthropicはこの4項目すべてに一次資料を公開しています。窓口はプライバシーセンター(privacy.claude.com)とTrust Portal(trust.anthropic.com)の2つです。
ただし、プライバシーセンターの記事は「商用製品向け」と「Consumer製品(Free・Pro・Max)向け」に分かれており、同じ質問に別の答えが載っています。回答欄に貼る前に、どちらの記事かを確かめるのが最初の作業です。
認証取得状況の欄には何を書けるか
「第三者認証の取得状況」を問う欄には、商用プラン(Claude for Work・API)向けの記事に載っている認証をそのまま列挙できます。
| 認証 | 対象範囲 | 備考 |
|---|---|---|
| SOC 2 Type I & Type II | 対象範囲セキュリティ全般の内部統制 | 備考Trust Portalで関連書類のコピーを請求できます |
| ISO 27001:2022 | 対象範囲情報セキュリティマネジメント | 備考国際規格です |
| ISO/IEC 42001:2023 | 対象範囲AIマネジメントシステム | 備考AIマネジメントシステムの国際規格です |
| HIPAA対応構成(BAA提供可) | 対象範囲医療情報を扱う契約 | 備考認証ではなく、BAA締結で対応する契約形態です |
この一覧は「What Certifications has Anthropic obtained?」1本に集約されています。記事は「認証書類のコピーはTrust Portalで請求できる」と案内しているので、「認証書のコピー添付」欄にはこの記事のURLではなく、Trust Portalから取得した書類を付けます。
HIPAAの欄は、「ある・ない」の二択では埋まりません。BAAは契約を結んだ組織1つだけが対象で、機能ごとに対象かどうかが違うためです。この切り分けは次の節で扱います。
BAAとZDRとCovered Modelsが衝突する場面
HIPAA、ゼロデータ保持(ZDR)、最新モデルの利用を同じシートで問われると、公式の記事同士が両立しない場面に当たります。
BAAの対象になる条件と、Covered Modelsの条件
BAAの側
Claude CodeはZDRを有効にしたときだけBAAの対象になります。Claude Console、Cowork、ベータ機能のClaude Design・Slides・Docsは、BAAの対象外または利用不可です。
Covered Modelsの側
Covered Modelsは、入力と出力を30日間保持する前提でのみ提供されます。ZDRを有効にした組織では、原則として使えません。Anthropicから通知を受けた一部の組織は、ZDRのままFableを使えます。
2つを掛け合わせると、「Claude CodeをBAAの下で使う組織は、Covered Modelsを使えない」という結論になります。BAA記事自身も、同じ趣旨の注記を載せています。Covered Modelsの保持ポリシーは2026年6月9日に発効しました。対象はMythos級のモデルと、今後同様の能力を持つとして指定されるモデルです。
保持されるのは30日間で、既定ではAnthropicの担当者が保持中の会話を読むことはありません。30日後に自動削除されます(フラグが付いた内容と法的保持を除く)。顧客管理の暗号鍵とアクセス透明性の監査ログも、オプションとして用意されています。
HIPAAの欄には、BAAの版も関わります。Enterpriseのチャットなどは2025年12月2日以降に承諾したBAAの版で、Messages APIの各機能は2026年4月1日以降に承諾した版で対象になります。API側では、Batch API・Files API・Skills API・Code Execution・Computer Use・Web Fetchが、BAAの対象外でHIPAA-Ready APIの利用者も使えない機能です。
チェックシートに「最新モデルを利用しているか」「HIPAA対応で運用しているか」が並んでいる場合は、両方に「はい」と書ける構成かどうかを、契約前に確かめておく必要があります。MCPやコネクター経由で第三者へ送るデータも、BAAの対象外です。管理者が有効化した場合、法令遵守の責任は管理者側にあると記事に書かれています。BAA締結の前提条件はClaude EnterpriseのBAA締結条件で詳しく扱っています。
保持期間は製品ごとに数値が変わる
「データ保持期間」の欄を「30日」の1語で埋めると不正確になります。数値は、利用する製品と、何が起きたかで変わります。
保持期間の欄に出てくる数値
API入出力の標準
30日以内
受信または生成から、バックエンドで自動削除
チャット削除後
30日以内
履歴からは即時に消え、バックエンドからは30日以内に削除
利用ポリシー違反の疑い
最大2年
入出力の保持。信頼・安全性のスコアは最大7年
フィードバック送信分
5年
評価ボタンやバグ報告に紐づくデータ
APIの30日削除には例外があります。Files APIのような長期保持の機能を使っている場合、ZDRなどで別途合意している場合、利用ポリシーの執行や法令遵守で保持が必要な場合です。チャット系の商用製品は、ユーザーが会話を削除するまで履歴を保持します。シークレット(Incognito)チャットは、ポリシー違反の疑いで検知されなければ30日以内に自動削除されます。
Enterpriseの管理者が保持期間を設定できる範囲
Enterpriseプランでは、PrimaryOwnerまたはOwnerが組織設定の「Data and Privacy」から、チャットとプロジェクトの保持期間を設定できます。最短は30日で、1か月は30日として数えます。
設定しなければ、データは無期限に保持されます。ここに落とし穴があります。プロジェクトの保持期間はチャットの保持期間より優先されるので、プロジェクトに入れたチャットは、チャットの保持期間を短くしても消えません。プロジェクト側にも期間を設定していないときは、プロジェクト内のチャットは無期限に残ります。
保持期間を短縮して保存すると、期間外のデータは保存した時点で完全削除の対象になり、復元できません。また、この設定の適用範囲はチャットとプロジェクトの内容に限られます。Claude Design、Claude Tag、Claude Managed Agents、Claude Code on the webを土台にする機能には適用されません。設定変更や削除は監査ログに記録されます。
チェックシートの「ログ・データの保管期間を組織で制御できるか」という設問には、「Enterpriseでは30日以上の任意の期間を設定できる。ただし対象はチャットとプロジェクトで、前述の機能は含まれない」と書けば、実態とずれません。
ZDRが効く製品と、確認できる画面
ZDRを契約すると、標準の保持期間は適用外になります。ただしZDRはAnthropicの承認制で、組織ごとに審査・適用されます。複数の組織を持つ会社は、営業窓口にその旨を伝える必要があります。
対象は3つです。ZDR対象のAnthropic API、商用組織のAPIキーを使う製品(APIで利用するClaude Codeを含む)、そしてEnterpriseプランのClaude Codeです。Free・Pro・Max向けのConsumer製品は含まれません。ZDRの下でも、利用ポリシーを執行するための安全性分類の結果は保持されます。
Claude Platformの利用者は、組織にZDRが適用されているかを画面で確認できます。場所は「Settings」の「Privacy Controls」にある「Data retention period」です。「ZDRを契約しているか」の設問に対して、契約書だけでなく、この画面の表示を根拠に添えられます。契約形態ごとの適用範囲はClaude Zero Data Retentionが有効になる契約形態の切り分けに詳しくあります。
データ所在地の欄には何を書けるか
「データの保存場所」「越境移転の有無」に答えるときは、公式の記述を「処理」と「保存」に分けて読みます。
Anthropicは複数のクラウドサービスプロバイダーを使っており、既定ではリクエストを米国・欧州・アジア・オーストラリアの一部の国へルーティングする可能性があります。一方でデータの保存は米国で行われます。さらに、安全性レビュー、製品サポート、インシデント対応といった内部プロセスでは、Anthropicや関連会社が事業を行う国でデータを処理することがあります。「データ処理を行う国を全て開示せよ」という厳格な項目には、この例外まで含めて答えるのが正確です。
商用顧客には、ルーティング先を選ぶ手段があります。Claude Developer Platformの利用者と、使用量ベース課金のEnterpriseプランの利用者が対象です。ただし選べるのは「トラフィックの経路」で、「保存場所」ではありません。保存は米国のままなので、「日本国内保存が必須」の要件には、この設定だけでは応えられません。
国内リージョンの指定が要件なら、AWS BedrockやGoogle Cloud Vertex AI経由の利用が候補になります。ただしこの経路のデータ所在地は、Anthropic直販とは別の各クラウドの条件で決まります。その条件は各クラウドの公式ドキュメントで確かめます。経路ごとの違いはClaudeを日本から使う提供経路にまとめています。
委託先管理には更新の追い方を書く
再委託先の把握を問う項目は、日本企業のチェックシートで一般的に含まれます。Anthropicはモデルのホスティングに複数のクラウドサービスプロバイダーを使っており、顧客データを処理する事業者はSubprocessor list(サブプロセッサー一覧)に載っています。
一覧は更新される性質の資料なので、チェックシートに事業者名を転記すると、回答した時点から古くなり始めます。プライバシーセンターは、拠点や再委託先の変更を事前に知るための手段として、Trust Center News Feedの購読を案内しています。「再委託先の変更を継続的に把握する体制があるか」という設問には、一覧のURLと、ニュースフィードを購読して変更を受け取る運用を書く形が実務的です。
モデル学習への利用有無の欄には何を書けるか
「入力データがAIの学習に使われるか」の設問には、商用製品の既定を書きます。商用製品(Claude for Work・Anthropic API・Claude Govなど)では、入力・出力をモデル学習に使わないのが既定です。例外は、フィードバックやバグ報告を明示的に送った場合と、利用者が別途許可した場合です。
例外の中身は、設問への回答に効きます。評価ボタン(サムズアップ・サムズダウン)でフィードバックを送ると、関連する会話の全体が、カスタムスタイルや会話設定、モデル設定を含めて、最長5年保存されます。ユーザーIDと顧客IDとの紐付けは、利用前に外されます。フィードバックのデータには、Google Driveなどのコネクターや、リモート・ローカルのMCPサーバーから取得した生のコンテンツは含まれません。ただし、その内容を会話に直接コピーした場合は含まれます。
TeamとEnterpriseのOwnerは、フィードバックの送信を止められます。設定場所は「Organization settings」の「Data and Privacy」にある「Rate chats」です。「学習利用のオプトアウトは可能か」という設問には、既定で対象外であることと、例外の経路を止める設定があることの両方を書きます。Free・Pro・Max向けは別のポリシーなので、商用契約の担当者が回答するチェックシートでは、商用プランの条件だけを書きます。
従業員のデータアクセスは2つの場合に限られる
「技術面・組織面の安全管理措置」の設問には、具体的な回答が公開されています。ただし、この内容を載せているのはConsumer製品向けの記事です。商用契約(Claude for Work・API・Enterprise)の回答には、Trust Portalで請求できる資料も併せて使えます。チェックシートには、出典がConsumer向け記事である旨を1行添えると、監査人とのやり取りでずれが出にくくなります。
データは転送中も保存時も暗号化されます。既定では、Anthropicの従業員が会話にアクセスできるのは次の2つの場合に限られます。
- 利用者がフィードバックの一部として、明示的に共有に同意した場合
- 利用ポリシーの違反を調べる必要があり、指定されたTrust & Safetyチームの担当者が、知る必要のある範囲で確認する場合
システム面では、定期的なセキュリティ監視と脆弱性チェック、最新のマルウェア対策、リモートアクセス時の多要素認証、厳格なパスワード方針、モバイルデバイス管理、ネットワーク分離が挙げられています。組織面では、全従業員への年次のセキュリティ・プライバシー研修、定期的なセキュリティ評価、システム資産の管理、最小権限の原則に基づくアクセス管理です。「従業員教育を実施しているか」「アクセス権限は最小権限か」の設問には、この記述をそのまま根拠にできます。
EEA・英国域外へのデータ移転は、欧州委員会の十分性認定を受けた国への移転か、標準契約条項(SCC)を含む契約で保護されます。
契約書類(DPA)の扱い
GDPR・APPI対応を問う項目では、データ処理の役割と責任を定めるData Processing Addendum(DPA)の締結有無が聞かれます。商用製品向けの保持期間の記事は、プライバシー慣行の詳細についてTrust CenterとDPAを案内しています。SCCの組み込みだけでは日本の個人情報保護法への対応として不十分な場合がある点は、Claude DPAは何を定めるかで扱いました。「越境移転の法的根拠」欄はDPAの内容とセットで書きます。
Trust Portalで追加の証跡を請求する
ここまでの項目はプライバシーセンターの公開記事で埋まります。SOC 2報告書の原本など、個別の証跡を監査人が求める場合は、Trust Portalから資料をリクエストします。脆弱性そのものの報告経路はAnthropicの脆弱性開示ポリシーとバグバウンティの応募方法にあります。
まとめ
回答欄に貼る前に、出典が商用向けかConsumer向けかを見分けてください。迷う設問は、保持期間なら製品と契約形態、HIPAAなら使う機能とモデルの組み合わせを確かめてから書くと、監査人の再質問を減らせます。