Claudeで返品・交換の店頭対応を台本にする — 規定から口頭説明と断り文へ
返品・交換の規定と過去のトラブルをClaudeのProjectsに置き、レジ前で言える口頭説明と断り文に直す手順です。法定の根拠が違う不良品の場合と気が変わった場合を分け、規定にない例外を言わせない指示も示します。
返品・交換の規定は文章で書かれていますが、レジ前で必要なのは30秒で口に出せる説明です。規定の条文をそのまま読み上げると冷たく響き、アルバイトが言い換えると規定からずれます。この差を埋める台本を、規定を読み込ませたClaudeに作らせられます。
規定と過去のトラブルをClaudeのProjectsに置き、「理由の説明」「断り文」「代わりに出せる案」「店長に引き継ぐ合図」の4つに分けて台本にします。ここで作るのは店頭で言う言葉で、返品に応じるかどうかを決める判定は含みません。規定と事例を突き合わせて可否の案を出す作業は返品・返金の規程と対応事例の突き合わせで扱っています。
台本が必要なのは「規定の言い換え」で差が出るから
店頭で揉めやすいのは、規定の中身よりも、伝え方が人によって違う場面です。同じ「開封済みは返品できません」でも、理由を添える人と添えない人で、客の受け取り方は変わります。
台本にしておくと、次の3点が揃います。
- 理由の言い方が揃う(規定の何条にあたるかを、口語で言える)
- 断ったあとの代替案が必ず出る(交換、修理、メーカーへの案内など)
- 判断できない場面で、誰に引き継ぐかが決まっている
Projectsは、規定や事例のナレッジと、返答の型を決める指示文を、プロジェクト内のすべてのチャットで共通に使える仕組みです。台本を作るたびに規定を貼り直す手間が省けます。
気が変わった返品と不良品は、台本の分岐を最初に分ける
台本を作る前に、規定の側で分けておくことがあります。「気が変わった」型の返品と、「不良品・違うものが渡された」型の対応は、根拠が別だからです。
民法562条は、引き渡された商品が種類・品質・数量について契約の内容に適合しないとき、買主が売主に修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しによる追完を請求できると定めています。563条は、相当の期間を定めて追完を催告しても追完がないときに、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できるとしています。ただし562条2項のとおり、不適合が買主の責めに帰すべき事由によるときは、追完を請求できません。
この2条が対象にするのは、商品が契約の内容に適合しない場合です。気が変わった場合の返品は、これらの条文の対象ではありません。店頭販売でそれを受け付けるかどうかは、店の規定で決まります。
参考までに、通信販売には特定商取引法のルールがあります。消費者庁の特定商取引法ガイドによると、クーリング・オフが認められる取引類型のうち、通信販売には規定がありません。通信販売は、郵便等で申込みを受けて行う販売を指すため、レジで対面して買う取引とは別の話です。
台本の側では、次のように分けて持ちます。
| 客の言い分 | 根拠の置き場所 | 台本の中心 |
|---|---|---|
| 買ったが気が変わった、サイズが合わない | 根拠の置き場所店の返品・交換規定 | 台本の中心規定の条件(期間、未使用、レシート)を口語で伝える |
| 動かない、破れている、違う色が入っていた | 根拠の置き場所不適合への対応(交換、修理、代替品) | 台本の中心まず状態を確認し、対応方法を示す |
| 使ったが期待と違った | 根拠の置き場所規定に書かれていれば規定、なければ責任者の判断 | 台本の中心即答せず、引き継ぎの合図を出す |
3行目の「即答しない」場面が、新人の事故が出やすいところです。この行は、台本の中でも「言ってよい文」より「言わない文」を先に決めます。
Projectsに置く3種類の資料
ナレッジには、次の3つを置きます。
ナレッジに置く3つの資料
返品・交換の規定
条番号つきの規定。サイトに載せている規定と店頭に貼っている規定の文面が違うなら、両方置き、どちらが現行かを冒頭に書きます。
過去のトラブル事例
匿名化した記録。状況、客の言い分、店が言った言葉、その後の結果を1件ずつ。客の氏名や会員番号は入れません。
言い方のルール
使わない言葉と、必ず添える言葉。「できません」を単独で言わない、など店ごとの決まりを短く書きます。
過去のトラブルは、台本の質を決める材料です。規定どおりに言って揉めた場面と、揉めずに収まった場面の両方があると、Claudeは「規定に書いてあるが、この言い方は火に油になる」という例を拾えます。
無料アカウントでもProjectsは使えますが、作れるプロジェクトは5つまでです。有料プランでは、ナレッジが上限に近づくと自動でRAGモードに切り替わり、容量が最大10倍まで広がります。店の規定と事例集の程度なら、通常は容量の心配はありません。
指示文は「規定にないことを言わせない」を最優先にする
プロジェクトの「Set project instructions」から指示文を保存します。保存した指示は、そのプロジェクトのすべてのチャットで使われます。台本づくりでは、次のような書き方が土台になります。
あなたは小売店の接客台本を作る補助です。
- 台本の根拠は、ナレッジの「返品・交換の規定」だけにする
- 規定にない例外(「今回だけ」「特別に」)を、店員の台詞に入れない
- 規定に書かれていない場面は「規定に記載なし。店長に確認」と書く
- 台本は「理由」「断り文」「代わりの案」「引き継ぎの合図」の4部構成にする
- 1文は口に出して息が続く長さ(40字程度)にする
- 返品に応じるかの判定はしない。判定は店長が行う「今回だけ」を禁止する理由は、台本が店の約束として一人歩きするからです。台本に「今回だけ交換します」とあれば、次に来た客にも同じことを言われます。例外は店長が個別に出すもので、台本の標準文に混ぜません。
台本を作らせるプロンプトと、出力の読み方
場面ごとに1チャットを開き、状況を貼ります。次は例です。
次の場面の台本を作ってください。
- 購入から10日後に来店。商品は開封済みで、使用の跡はない
- 規定は「未開封・購入から7日以内」
- 客の言い分:「サイズが違った。気が変わっただけだが、返したい」出力は、例えば次のような形になります。以下は規定の例を想定した例示で、実際の文面は規定とチャットごとに変わります。
| 部分 | 台詞の例 |
|---|---|
| 理由 | 台詞の例「お持ちいただいてありがとうございます。当店では、未開封で7日以内のお品を返品の対象にしておりまして、今回はそこから外れてしまいます」 |
| 断り文 | 台詞の例「ご希望に添えず申し訳ありません」 |
| 代わりの案 | 台詞の例「サイズ違いでしたら、在庫があれば交換のご相談を店長から申し上げます」 |
| 引き継ぎの合図 | 台詞の例「確認いたしますので、少々お待ちください」と言って店長を呼ぶ |
出力を店頭に出す前に、3点を読みます。
- 理由の台詞が、規定の条件(7日以内、未開封)と一致しているか
- 「代わりの案」が、規定に書かれた範囲に収まっているか(規定にない値引きや返金を約束していないか)
- 断り文が「できません」単独で終わっていないか
2番目に引っかかる出力は多いはずです。Claudeは丁寧な台本にしようとして、規定にない代替案を足すことがあります。そのときは、足された案を消すか、「店長判断」の合図に差し替えます。
過去のトラブルから「言ってはいけない一言」を抜き出す
事例集がある利点は、台本の禁止語を作れることです。事例集を貼ったチャットで、次のように頼みます。
ナレッジの過去トラブル事例から、客の反発を招いた店員の発言を
抜き出し、言い換え案を表にしてください。
事例にない発言は作らないでください。出力を店の「言い方のルール」に足していくと、台本の質が積み上がります。ただし、ナレッジの更新は人が行います。Claudeがチャットで作った表は、そのチャットの中だけに残ります。メモリー機能を使っていない場合、プロジェクト内でもチャット間で文脈は共有されません。表を次のチャットでも使うには、ナレッジに加えます。
規定に書かれていない場面を先に洗い出す
台本の穴は、規定の空白から生まれます。レシートがない、贈答品でもらった、セール品、複数点のうち1点だけ返したい、といった場面は、規定に書かれていないことが多く、現場がその場の判断で答えてしまいます。
規定をナレッジに置いた状態で、空白の洗い出しを頼みます。
ナレッジの返品・交換の規定を読み、店頭で起こりそうなのに
規定に書かれていない場面を10個挙げてください。
各場面に「規定に記載なし」と書き、店長が決めるべき論点を
1行で添えてください。答えは作らないでください。挙がった場面は、台本の「引き継ぎの合図」にまとめて回します。店長が決めた結果は規定に書き足し、ナレッジを差し替えてから、その場面の台本を作ります。順番を逆にすると、決める前の案が台本に混ざります。
台本を試す: Claudeに客役をさせる
台本ができたら、店頭に出す前にロールプレイで穴を探せます。
あなたは、返品を断られて納得していない客を演じてください。
先ほどの台本を店員が言うので、反応を返してください。
最初は穏やかに、台本が硬いと感じたら少しずつ強く迫ってください。
私が台詞を言い終えるたびに、台本のどこが効いたか、
どこで客が引かなかったかを一言で添えてください。台本は店員が読むと、書かれた文より硬くなります。客役のやり取りで「ここで突っ込まれる」という箇所が見つかったら、その返答を台本の「想定問答」に足します。客が声を荒らげる、長時間居座る、SNSに書くと言う、といった場面になった場合の記録の取り方は、カスハラ対応記録をClaudeで整理する手順にあります。返品ルールの台本はそこまでを範囲にしません。
店舗のチームで共有するときの注意
Team・Enterpriseプランでは、プロジェクトを組織内のメンバーと共有できます。権限は「Can view」と「Can edit」の2つです。Can viewは、プロジェクトの内容、ナレッジ、指示を見て、プロジェクト内でチャットできますが、編集はできません。
台本を使う店員には「Can view」を、規定を更新する店長に「Can edit」を割り当てると、台本の勝手な書き換えを避けられます。プロジェクトを組織全体に公開した場合でも、各自のチャットは他のメンバーから見えません。
落とし穴
規定を変えたのにナレッジが古いまま
返品期間を7日から14日に変えたのに、ナレッジの規定が7日のままだと、Claudeは古い期間で台本を作ります。規定を改定した日に、ナレッジの差し替えと、作り直す台本の一覧をセットで確認します。ナレッジの内容は、プロジェクトのどのチャットにも使われるため、更新漏れの影響は全場面に及びます。
客の個人情報を貼らない
過去のトラブル事例を作るときは、客の氏名、電話番号、会員番号、購入履歴を入れません。台本づくりに必要なのは、状況と発言であって、客が誰かではありません。どうしても個別の購入内容が必要なときは、商品の種類と購入からの日数だけにします。個人データを扱う際の判断の置き方は、保有個人データの開示請求対応をClaudeで整えるで、Projectsを使う場合の線引きを示しています。
まとめ
規定を台本にする作業で、Claudeに任せるのは言葉の整形です。気が変わった返品と不良品の対応は根拠が違うので、台本は最初から分けます。規定にない例外は台本に混ぜず、引き継ぎの合図で店長に渡します。
台本を店頭に出す前に、規定との一致、代替案の範囲、断り文の終わり方の3点を人が読む。そして規定を改定したら、ナレッジを差し替えてから台本を作り直す。この2つを運用の決まりにしておけば、レジ前の言葉は規定からずれにくくなります。