記帳代行の仕訳をClaudeで半自動化 — 摘要から勘定科目を割り当てるルール表の作り方
顧問先の過去仕訳から摘要と勘定科目の対応表を作り、Claude for Excelで新しい明細に科目を当てます。一致しない行と曖昧な行だけを人が見る運用の組み方です。
記帳代行の仕訳入力で時間が溶けるのは、金額の計算ではなく、通帳やカードの摘要を見て科目を決める判断の繰り返しです。同じ取引先からの同じ摘要は、翌月も同じ科目になります。この繰り返しは、摘要と勘定科目の対応を「ルール表」として蓄積すれば、Excelの数式で機械的に割り当てられます。Claude for Excelに任せるのは、過去仕訳からルール表の原型を作る作業と、割り当てられなかった行の洗い出しです。
この記事では、顧問先1社分の過去仕訳からルール表を作り、新しい明細に科目を当て、例外の行だけを人が確認するところまでを手順にします。銀行明細と科目表の差分から仕訳案を出す方法はClaudeで取引照合し経理を自動化する、会計ソフトへの接続はClaudeとfreee会計の連携が扱っています。ここで作るのは、その手前にある「摘要から科目を決めるルール」そのものです。
ルール表にすると何が半自動になるか
半自動と呼ぶのは、全行を機械に決めさせるのではなく、判断を3つに分けるからです。
明細1行の3つの行き先
ルールに1件だけ一致
そのまま科目を採用します。人は見ません。
ルールに一致しない
初めて出てきた摘要です。人が科目を決め、ルール表に1行足します。
複数のルールに一致
キーワードが重なっています。優先順位か金額条件で決まるかを人が見ます。
人が見る行は、月が進むほど減ります。新しい取引先が出たときと、ルールが曖昧なときだけ手が入るからです。
過去仕訳からルール表の原型を作る
元データを用意する
会計ソフトから、直近1年分ほどの仕訳帳をCSVかExcelで出力します。使う列は、日付・摘要・借方科目・貸方科目・金額の5つで足ります。預金の出金なら借方側、入金なら貸方側が「摘要で決まる科目」になるので、相手科目が普通預金や現金の行だけに絞って渡すと扱いやすくなります。
Claude for Excelは、Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで使えるExcelのアドインです。ブラウザ版のExcelのほか、Windows版・Mac版でも動きます。iPadとAndroid、Excel 2016と2019の永続ライセンス版には対応していません。事務所のPCがどの版かを先に見ておきます。
ルールの候補を件数つきで出させる
仕訳帳のシートを開いた状態で、サイドバーから依頼します。ルール表は自分で設計した形に出させるのがコツです。
このシートは顧問先A社の過去1年分の仕訳です。
摘要から借方科目を決めるルール表を、新しいシート「ルール」に作ってください。
列は A:キーワード B:勘定科目 C:税区分 D:過去件数 E:科目の種類数 とします。
- キーワードは摘要から取引先名や定型語を切り出し、全角にそろえる
- 同じキーワードが2種類以上の科目に使われていたら、E列にその数を入れる
- 件数の多い順に並べる
- 推測で科目を補わず、過去仕訳にある組み合わせだけを載せる最後の一文が大事です。過去の仕訳に無い組み合わせをClaudeが「それらしく」補うと、ルール表に根拠のない行が混ざります。
出てきた表では、E列が2以上の行を最初に見ます。たとえば「アマゾン」が消耗品費にも事務用品費にも使われているなら、キーワードだけでは決められません。この行は削除するか、金額帯や補助キーワードで分けるかを人が決めます。Claude for Excelの依頼文は自然言語で書けるので、「E列が2以上の行を黄色にして」のような指示で色付けまで頼めます。
ルール表の列を決める
原型ができたら、運用に必要な列を足します。
| 列 | 内容 | 使いどころ |
|---|---|---|
| キーワード | 内容摘要に含まれる語 | 使いどころ数式の検索対象 |
| 勘定科目 | 内容割り当てる科目 | 使いどころ仕訳の借方・貸方 |
| 税区分 | 内容課税・非課税など | 使いどころ科目と組で決まる場合のみ |
| 金額下限 | 内容この額以上のときだけ適用 | 使いどころ修繕費と資本的支出の分かれ目など |
| 最終確認日 | 内容人が妥当と確認した日 | 使いどころ古いルールの棚卸し |
| 根拠メモ | 内容決めた理由 | 使いどころ引き継ぎと税務調査の説明 |
金額下限の列は、摘要だけでは科目が決まらない取引のためにあります。工事の摘要が同じでも、金額によって修繕費か資本的支出かが分かれる場合は、判定の考え方を修繕費と資本的支出の判定をClaudeで進める手順で扱っています。ルール表では、その判定をルールに焼き込まず「要確認」に回す行として置くのが安全です。
根拠メモは、後から効いてきます。担当者が替わったとき、なぜ「出光」が車両費で「ENEOS」が旅費交通費なのかが分からなくなるのが、ルール表のいちばん典型的な劣化です。
明細に科目を当てる数式と状態列
ルール表を使う側のシートを作ります。ここは数式で組み、マクロには頼りません。Claude for ExcelはVBAとマクロの操作に対応していないため、数式で完結する形にしておくと、Claudeに作らせても人が直しても同じ土俵で扱えます。
明細シートの列を、A:日付、B:摘要、C:金額、D:一致数、E:科目候補、F:状態とします。
D2: =SUMPRODUCT(--ISNUMBER(SEARCH(ルール!$A$2:$A$200,B2)),
--(ルール!$A$2:$A$200<>""))
E2: =IF(D2=0,"",XLOOKUP(1,
ISNUMBER(SEARCH(ルール!$A$2:$A$200,B2))*(ルール!$A$2:$A$200<>""),
ルール!$B$2:$B$200,""))
F2: =IF(D2=0,"未登録",IF(D2>1,"複数一致","一致"))D列は、摘要にルールのキーワードが何個含まれるかを数えます。キーワード欄が空の行は、検索すると必ず一致してしまうので、空欄を除く条件を入れてあります。E列は、ルール表の上にある行を優先して科目を返します。優先順位は行の並びで表すため、特殊なルールほど上に置きます。
上の数式はそのまま貼る前に、手元のExcelで数行を試します。XLOOKUPを使える版かどうかも含め、数式の書き方は環境で変わるためです。Claudeに「この数式を、うちのExcelで動く関数に直して」と頼む場合も、結果は5行ほど目で追って確かめます。
摘要の表記ゆれも、一致しない原因の筆頭です。銀行の摘要は半角カナで、会計ソフトの仕訳は全角、ということがよくあります。その場合は検索前に表記をそろえる作業列を足します。この処理も「摘要を全角にそろえた列Gを作って」と依頼すれば足りますが、依頼後に半角のままの行が残っていないかを必ず見ます。
例外の行だけを人が確認する
F列の状態で絞り込むと、確認すべき行が出ます。見る順番は次のとおりです。
例外確認の順番
- 1
未登録を先に片付ける
初めて出た摘要です。科目を決めたら、ルール表に1行足します。足した瞬間に、翌月からは自動の行になります。
- 2
複数一致の科目を比べる
一致したルールの科目が同じなら問題ありません。科目が違うときだけ、ルールの順序か金額条件を直します。
- 3
一致した行を抜き取る
「一致」の行も、各月で数行は人が見ます。ルールが古くなっていないかを見る検査です。
3つ目の抜き取りを省くと、ルール表の誤りが静かに積み上がります。一度誤ったルールを入れると、その誤りは該当する全ての明細に同じ形で出るからです。抜き取りで見つけた誤りは、ルール表の該当行を直し、根拠メモに理由を残します。
月次の成績は、一致・複数一致・未登録の件数を数えれば分かります。一致の割合が毎月上がっていくなら、ルール表が育っています。下がったなら、取引先の構成が変わったか、ルールが古くなっています。
顧問先の帳簿を扱うときの前提
顧問先の取引データは、個人情報や取引先名を含みます。Claude for Excelを使う前に、次の点を押さえておきます。
- Claude for Excelは、確認なしの顧客向け成果物、検証していない監査上重要な計算、機密性の高い・規制対象のデータを管理なしで扱う用途には推奨されていません。仕訳案は必ず人が確認してから会計ソフトに取り込みます
- 入力と出力はバックエンドで受信から30日以内に削除されます。会話の履歴は、利用者のブラウザのIndexedDBにローカル保存され、Anthropicのサーバーには保存されません
- 会話の履歴には添付したファイルの内容が含まれます。そのため、1台のPCを複数人が同じOSアカウントで使うと、履歴や接続情報を共有してしまいます。担当者ごとにOSアカウントを分けます
- 組織で独自のデータ保持設定をしていても、Claude for Excelには引き継がれません。監査ログにも活動は含まれません
さらに、外部から受け取ったファイルには、隠れた指示が仕込まれているおそれがあります。銀行やカード会社のCSV、取引先から届いたExcelを、そのまま開いたブックでClaudeに処理させるのは避けます。出力を会計ソフトで取り直したコピーに貼り付け、信頼できるブックの上で作業します。危険な操作はClaudeが確認を求めますが、その確認を流し読みしないのが前提です。
顧問先の情報をAIに渡してよいかは、契約書や事務所のルールに左右されます。社内の利用規程の作り方は中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインに生成AIの項を足すにまとめています。
顧問先ごとのルールをどこに置くか
Claude for Excelには、全ての会話に効く指示を設定する欄があります。ただし、この指示はExcelの全ての会話に共通で、顧問先ごとに切り替えるものではありません。ここに書くのは「摘要は全角にそろえる」「推測で科目を補わない」のような、どの顧問先にも通じる作業方針に留めます。
顧問先ごとのルールは、ブックの中のルール表に置きます。理由は2つあります。長い会話は自動で圧縮されて新しい会話に引き継がれるので、会話の中で教えた内容は残る保証がありません。また、会話の履歴は端末ごとの保存で、別のPCには同期されません。ルール表をブックに持たせれば、誰が開いても同じ状態から始められます。
使い回したい手順は、Skillsとして登録する選択肢があります。有効にしたSkillは、作業内容に合わせてClaudeが自動で適用します。サイドバーで / を入力すると、そのアプリで使えるSkillの一覧から選ぶこともできます。ただし、アップロードしたSkillは端末単位で保存され、同じストアを共有する全員に見えます。顧問先の固有名詞を手順に書き込まず、一般化した手順だけを入れるのが無難です。
ルール表を育てる月次の流れ
1か月の流れは、次の順に回ります。
- 当月の明細を明細シートに貼る
- 数式で科目候補と状態を出す
- 未登録と複数一致を人が確定し、ルール表に足す
- 一致の行から数行を抜き取って検査する
- 確定した仕訳を会計ソフトに取り込む
四半期に1回は、ルール表の棚卸しをします。最終確認日が1年以上前の行、過去件数が少ない行、金額条件が実態と合わない行が対象です。棚卸しも「最終確認日が古い順に並べて、直近1年で一度も使われていないルールを教えて」と依頼すれば、候補は出ます。消すかどうかを決めるのは人です。
ルール表運用でつまずきやすい点
落とし穴
短いキーワードで広く拾いすぎる
「電」のような1文字のキーワードを入れると、「電気」「電話」「電車」を全て同じ科目に当ててしまいます。キーワードは取引先名か、定型語として意味が通る長さにします。複数一致の件数が急に増えたら、短いキーワードの混入を疑います。
- 個人の引き落としが事業の科目に入る: 事業主の口座では、私的な支出と事業の支出が同じ摘要で並びます。この区別は摘要からは付かないため、事業主貸になるものは取引先名ではなく、人の確認を前提にした「要確認」のルールに回します
- ルール表をチャットだけで育てる: 「この摘要は消耗品費にして」と会話で伝えただけでは、次の会話に残りません。確定した内容は、その場でルール表のシートに書き込みます
- 未登録の行を、その場しのぎの科目で埋める: 仮の科目に入れて後で直すつもりが、そのまま確定してしまうことがあります。仮置きするなら状態列に「仮」と残し、取り込む前に0件にします
まとめ
ルール表は、人の判断を消す仕組みではなく、一度した判断を次の月に持ち越す仕組みです。過去仕訳から原型を作る作業と例外の洗い出しをClaude for Excelに任せ、科目を確定する判断と抜き取り検査は人が持ちます。最初の月は未登録が多く、手間は減りません。2か月目、3か月目と、人が見る行が未登録と複数一致に絞られていくところから効果が出ます。