Claudeで賃貸の修繕依頼に対応する手順 — 負担区分の仕分けから業者手配メモ・入居者返信まで
入居者から届いた設備不具合のメールと写真をClaudeに渡し、貸主負担か入居者負担かの仮仕分け、緊急度、業者手配メモ、入居者への返信案を作る手順。民法606条・607条の2の使いどころも示します。
入居中の部屋で給湯器が動かない、エアコンが効かない、天井から水が落ちてくる。こうした連絡が入居者から届いたとき、管理会社やオーナーが最初に決めることは3つです。貸主が直すのか、入居者の負担になるのか。どれだけ急ぐのか。誰に何を頼むのか。
この3つの判断の下書きと、業者への手配メモ、入居者への返信案までを、Claudeで作る手順をまとめます。条文に当てはめて「どちらの負担になりそうか」を仮に仕分けるところまでは任せられます。最終的な負担の決定は、契約書の特約と現場の状況を見る人が行います。
修繕依頼の一次判断は民法の3つの条文で足りる
賃貸物件の修繕について、民法は貸主の義務と、借主が自分で直せる場合を定めています。仕分けの軸になるのは次の条文です。
修繕依頼の仕分けに使う民法の条文
606条1項: 貸主の修繕義務
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは、この義務は生じません。
607条の2: 賃借人による修繕
修繕が必要な場合に、賃借人が修繕をできるのは2つのときです。賃借人が貸主に通知したのに(または貸主が知ったのに)相当の期間内に直されないとき。もう1つは急迫の事情があるときです。
615条: 賃借人の通知義務
賃借物が修繕を要するときは、賃借人は遅滞なく貸主に通知する必要があります。貸主がすでに知っている場合は例外です。
606条1項の但書が、負担区分の分かれ目です。入居者の責めに帰すべき事由で壊れたのなら、貸主に修繕義務はありません。たとえば入居者が壁を壊した、というケースがこれにあたります。ただ、条文は「責めに帰すべき事由」の具体例を挙げていないので、メールの文面だけで決めることはできません。
607条の2は、貸主側が手配を遅らせたときに意味を持ちます。条文は「相当の期間」も「急迫の事情」も数値や例で定めていません。受付の時点で「何日たったら入居者が自分で業者を呼んでよい状態になるか」を、機械的に決める根拠は条文にありません。
もう1つ押さえておきたいのが608条です。賃借人が貸主の負担に属する必要費を支出したときは、貸主に対して直ちに償還を請求できます。入居者が先に業者を呼んで立て替えた場合、請求を受ける可能性があるわけです。
Claudeに任せる範囲と、人が決める範囲
| 作業 | Claudeに任せられる | 人が決める |
|---|---|---|
| メールと写真の事実整理 | Claudeに任せられる症状・場所・発生時期の抜き出し | 人が決める現地の確認 |
| 負担区分の仮仕分け | Claudeに任せられる条文と契約書の特約に照らした論点の列挙 | 人が決める負担の最終決定 |
| 緊急度の判定 | Claudeに任せられる運用基準に沿った候補の提示 | 人が決める緊急連絡先への連絡 |
| 業者手配メモ | Claudeに任せられる症状・立会い条件・連絡先の整形 | 人が決める業者の選定と発注 |
| 入居者への返信 | Claudeに任せられる文面の下書き | 人が決める約束してよい内容の確認と送信 |
入居審査のように、Claudeの判断が人の権利に直結する用途とは性質が違います。修繕の受付で作るのは下書きと論点の一覧です。それでも「貸主負担です」「入居者負担です」と断定した返信を、確認なしに送ってはいけません。入居者の可否を判断する用途の線引きは、Claudeで入居審査をしてよいかで扱っています。
渡す情報を決める: 氏名と連絡先は外す
最初に、Claudeへ渡さない情報を決めておきます。業者手配メモには入居者の連絡先が必要ですが、仕分けの段階では要りません。
- 入居者の氏名、電話番号、メールアドレスは、受付ID(例: R-0231)に置き換える
- 部屋番号は、仕分けに必要なときだけ残す
- 契約書は、修繕・原状回復・特約の条項だけを抜き出して渡す
- 写真に表札や郵便物が写っていないか確認する
置き換え表は手元に残し、業者手配メモを作る段階で人が戻します。この順にすると、仕分けと返信下書きの会話には個人を特定する情報が入りません。
手順1: メールと写真を事実の一覧にする
写真を見せる前に、メール本文だけで事実を並べさせます。ここで原因まで推測させると、後の仕分けが先入観に引っ張られます。
入居者から届いた次のメールを、事実だけの表にしてください。
列は「いつから」「場所」「症状」「入居者が試したこと」「メールに書かれていないこと」。
原因の推測は書かないでください。メールに無い情報は「記載なし」と書いてください。
【受付ID: R-0231】
(メール本文を貼り付け)「メールに書かれていないこと」の列が役に立ちます。水漏れなら止水栓を閉めたか、階下に被害が出ているか、給湯器ならエラーコードが出ているか、といった電話で聞き返す項目が見えてきます。
次に写真を添付します。claude.aiでは1回のメッセージに最大20枚、1枚あたり10MBまで添付でき、1枚の最大サイズは8000x8000ピクセルです。画像は1000x1000ピクセル以上を目安にし、小さすぎる画像や低解像度の画像は避けるよう、ヘルプが案内しています。
写真の読み取りには限界があります。低画質の画像、回転した画像、200ピクセル未満の画像では、誤った解釈をする場合があると説明されています。そこで写真の使い方は「見えているものの描写」に絞ります。
添付の写真3枚について、写っているものを描写してください。
「天井のシミの位置と大きさ」「配管の接続部の状態」のように、見えている事実だけを書きます。
原因・故障箇所・責任の所在は断定せず、写真から判断できない点は「判断できない」と書いてください。写真に基づく描写は、業者に渡すメモの材料になります。原因の特定は業者の現地確認の仕事です。
手順2: 負担区分は「論点の列挙」までを任せる
契約書の修繕条項と特約を貼り付けたうえで、民法の原則とずれる点がないかを出させます。民法の条文は原則であり、賃貸借契約の特約で小規模な修繕の費用負担などを定めていることがあるためです。特約の有効性の判断は弁護士などの専門家の領域です。Claudeには判断させず、論点として並べさせます。
次の【事実の表】と【契約書の修繕条項】を読み、負担区分の論点を出してください。
民法606条1項は「賃貸人は修繕義務を負うが、賃借人の責めに帰すべき事由による場合は除く」です。
出力は次の3つに分けてください。
1. 貸主の修繕義務が生じる方向の事実
2. 賃借人の責めに帰すべき事由が疑われる事実(疑いの根拠となる記述の引用つき)
3. 契約書の特約が関係しそうな箇所(条番号つき)
結論(貸主負担か入居者負担か)は書かず、人が現地で確認すべき点を最後に列挙してください。例えば次のような形の出力になります。これは出力の一例で、実際の文言は入力によって変わります。
1. 貸主の修繕義務が生じる方向の事実
- 入居から8年目の給湯器で、エラーコードが表示されている(メール2段落目)
2. 賃借人の責めに帰すべき事由が疑われる事実
- なし(メールに該当する記述がない)
3. 契約書の特約が関係しそうな箇所
- 第14条2項「消耗品の交換は賃借人の負担とする」(給湯器本体は消耗品に該当するか、人が確認)
現地で確認すべき点: 使用状況、設置時期、消耗品に当たる部品の特定「結論は書かない」と指示するのは、仕分けを論点の抜けを見つける作業にするためです。入居者負担の疑いがある案件は、感情的な行き違いになりやすいため、事実の根拠を引用で残しておくと後の説明が楽になります。
落とし穴
「入居者のせい」と読めるメールでも、その場で入居者負担と返信しない
「落として割ってしまった」とメールに書かれていても、いつ、何が原因で、どの程度の損傷なのかは現地で確認しないと決まりません。606条1項の但書は、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要になったとき、という限定つきです。返信では「状況を確認したうえで、費用の負担を含めてご連絡します」と、判断を保留する文面にします。
手順3: 緊急度を3段階に分け、入居者が先に動く場合を見分ける
緊急度は、管理会社ごとの運用基準でそろえます。基準が文書になっていないと、同じ症状でも担当者によって対応が変わります。次の表は運用基準の一例です。自社の基準に置き換えて、Claudeに渡してください。
| 緊急度 | 症状の例 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 高 | 症状の例水漏れが止まらない、ガスや焦げた臭い、玄関の鍵が開かない | 対応の目安当日中に緊急連絡先・業者へ |
| 中 | 症状の例給湯器の停止、トイレの詰まり、エアコンの故障 | 対応の目安翌営業日までに業者を手配 |
| 低 | 症状の例建具のきしみ、網戸の破れ、照明の不点灯 | 対応の目安週内に日程を調整 |
この表を貼ったうえで、次のように指示します。
次の基準で緊急度を判定し、理由を1行で書いてください。
迷う場合は、高い側の緊急度を選び、「迷った理由」を添えてください。
基準: (上の表を貼り付け)「迷ったら高い側」と指示しておくのは、緊急度を低く見積もったときの影響のほうが大きいためです。ガスの臭いや水漏れの疑いは、Claudeの判定を待たずに、運用基準どおり緊急連絡先へつなぎます。
607条の2の「急迫の事情があるとき」にあたるかも、この段階で意識しておきます。賃借人が貸主の手配を待たずに修繕できるのは、貸主に通知して相当の期間が過ぎたとき、または急迫の事情があるときです。条文は急迫の基準を示していません。深夜に配管から水が噴き出し、貸主にも管理会社にも連絡がつかないといった場面では、入居者が業者を呼ぶ可能性があります。その場合に備えて、緊急連絡先を入居者へ周知しておく、受付の返信に載せておく、といった運用にしておくと、費用をめぐる行き違いが減ります。
Claudeには、受付から何日経過したかの管理も任せられます。
受付日が2026-10-12の次の案件について、本日(2026-10-20)時点の経過日数と、
入居者へ最後に連絡した日からの日数を表にしてください。
7日以上動きがない案件には「要フォロー」と付けてください。
(案件一覧を貼り付け)「7日」は例です。607条の2が定める「相当の期間」は日数で決まっていないため、自社の運用で定めた目安日数を使います。目安を超えた案件を見落とさないことが目的です。
手順4: 業者手配メモを作る
業者に伝える情報は、症状、場所、緊急度、立会いの可否の4点です。入居者の氏名や電話番号は、手配の段階で人が戻して貼ります。
次の情報から、設備業者への手配メモを作ってください。
- 受付ID: R-0231
- 物件: Aハイツ 203号室
- 症状: (手順1の表から)
- 写真の描写: (手順1の描写から)
- 緊急度: 中
- 入居者の在宅時間: 平日18時以降、土日終日
書くこと: 症状 / 場所 / 写真から見える状況 / 希望の訪問時間帯 / 事前に業者から確認してほしいこと。
書かないこと: 原因の推測、費用負担の見込み、入居者の責任に触れる表現。「費用負担の見込み」を書かせないのは、業者から入居者へ負担の話が伝わると、貸主と入居者の協議が済む前に既成事実になるためです。手配メモは、症状と訪問条件だけに絞ります。
見積が届いたあとのオーナーへの報告は、別の手順です。月次の報告書に修繕の金額と承認の要否を載せる方法は、賃貸管理のオーナー報告を作る手順にまとめています。
手順5: 入居者への返信案を作る
返信に入れるのは、受け取ったこと、次に何が起きるか、入居者にお願いすることの3つです。負担の話は、確認が済むまで書きません。
入居者への返信文を作ってください。
入れること: 連絡を受け取ったお礼 / 業者を手配すること / 訪問の候補日(下記) /
入居者にお願いすること(止水栓を閉める、ブレーカーを落とすなど、受付時に決めた応急対応)
入れないこと: 費用負担の結論、原因の断定、「必ず直ります」などの約束
候補日: 10/22(水)18時以降、10/25(土)終日出力した文面は、そのまま送らずに次の3点を確認します。
- 候補日が業者の手配状況と合っているか
- 応急対応の案内が、受付時に決めた内容から外れていないか
- 賃料の扱いに触れていないか
賃料の扱いには注意が必要です。611条1項は、賃借物の一部が使用及び収益をすることができなくなった場合で、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、賃料がその部分の割合に応じて減額されると定めています。たとえば給湯器の故障で風呂が使えない期間が長引くと、この規定が問題になる余地があります。返信で「賃料は変わりません」と書くと、入居者に誤った説明をする恐れがあります。賃料に関わる質問が来たら、返信案には載せず、担当者が内容を見てから答えます。
この返信の組み立ては、募集時の反響メールとは別物です。内見の日程調整を含む募集段階の返信は、賃貸の反響メールに返信し内見日程まで調整する手順にあります。
入居者が先に直した場合と、退去時の精算に回る場合
入居者が先に業者を呼んで修繕した場合は、領収書と作業内容の写真が届きます。この書類の読み取りもClaudeに任せられます。
添付の領収書と作業報告書から、次の項目を表にしてください。
作業日 / 作業内容 / 金額 / 修繕の対象箇所 / 領収書に書かれた但書。
金額は領収書の数字をそのまま写し、計算し直さないでください。そのうえで、608条の「貸主の負担に属する必要費」に当たるかを人が判断します。607条の2の要件(通知から相当の期間、または急迫の事情)を満たしていたかどうかが、まず確認する点です。受付の記録に通知日と対応日を残しておくと、この確認が早く済みます。
退去時に入居者の負担になるかどうかは、別の条文の領分です。621条は、賃借人が受け取った後に生じた損傷について、賃貸借の終了時に原状に復する義務を定めています。通常の使用による損耗と経年変化は除かれます。入居中の受付で「入居者負担の疑い」とした記録は、退去の精算で参照されることがあります。精算書の作り方はClaudeで敷金精算書を作るで扱っています。契約の更新時に修繕の履歴を整理したい場合は、賃貸借契約の更新手続きをClaudeで回す手順も参照してください。
つまずきやすい点
修繕受付でよくある行き違い
写真から原因を言い切らせてしまう
写真の読み取りには誤りが出ることがあります。描写と原因の推測を、指示の段階で分けておきます。
特約を見ずに民法だけで仕分ける
民法の条文は原則です。契約書の修繕条項を貼らずに仕分けさせると、特約が関係する案件を見落とします。
受付の記録が会話の中にしか残らない
仕分けの結果、返信日、業者の訪問日は、管理システムか表に転記します。会話は後から探しにくいためです。
同じ管理会社で何件も扱うなら、緊急度の基準、返信の型、禁止事項をまとめた指示文をProjectsに登録しておくと、毎回貼り直さずに済みます。ただし、入居者の個人情報はProjectsにも置かない運用にしておきます。
送る前の確認項目
- 入居者の氏名・連絡先を外した状態で、仕分けを行った
- 写真から読み取った内容は、描写にとどまっている
- 負担区分の結論は、Claudeの出力ではなく人が決めた
- 契約書の特約を確認した
- 緊急度が「高」の案件は、運用基準どおり緊急連絡先へ連絡した
- 返信案に、費用負担の断定と賃料に関する説明が入っていない
- 受付日、通知日、対応日を記録に残した