二重価格表示を景品表示法の観点でClaudeに点検させる — 比較対照価格の根拠確認
チラシやPOPの二重価格表示で問われる比較対照価格の根拠を、価格履歴から人が確かめる手順と、Claudeに任せる範囲と任せない範囲を示します。
二重価格表示で問われるのは比較対照価格の根拠です
二重価格表示とは、自社の販売価格に、それより高い別の価格(比較対照価格)を並べて安さを見せる表示です。「通常価格58,000円 → 40,000円」や、赤字の二本線で消した元値がこれに当たります。消費者庁の「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」は、内容が適正なら二重価格表示は消費者の商品選択と価格競争に役立つとしています。問題になるのは、比較対照価格の内容が実際と違う、またはあいまいなときです。
この指針は、チラシ広告や店頭の表示を含め、一般消費者に向けた価格表示なら媒体を問わず適用されると明記しています。チラシでもPOPでもECサイトでも、見るべき点は同じです。
Claudeに点検させるうえで押さえたいのは、点検の中心が文言ではなく根拠だという点です。「通常価格」と書いてあること自体は誤りではありません。その価格で実際に売っていた事実があるかどうかが争点になります。文言はテキストで確かめられますが、販売実績はレジやPOSの記録でしか確かめられません。この記事では、Claudeに文言と履歴の突き合わせを任せ、実績の真偽は人が確かめる分担を組みます。
景品表示法の全体像や有利誤認表示の一般論は、景品表示法の表示チェックはClaudeでどこまでできるかにまとまっています。ここでは二重価格だけを扱います。
比較対照価格の種類ごとに人が確かめる根拠
指針は、比較対照価格を過去の販売価格、将来の販売価格、希望小売価格、競争事業者の販売価格などに分けて考え方を示しています。チラシやPOPの原稿を点検するときは、まず比較対照価格がどの種類かを特定し、それぞれに必要な根拠を手元の資料で確かめます。
| 比較対照価格 | 誤認のおそれが出る場面 | 人が確かめる根拠 |
|---|---|---|
| 過去の販売価格(「当店通常価格」など) | 誤認のおそれが出る場面最近相当期間売っていない価格を通常価格として使う | 人が確かめる根拠価格履歴(日付・価格・販売場所) |
| 将来の販売価格 | 誤認のおそれが出る場面セール後にその価格で売る予定がない、またはごく短期間 | 人が確かめる根拠セール後の販売計画、仕入・製造の資料 |
| 希望小売価格 | 誤認のおそれが出る場面メーカー等が設定し事前公表した価格とはいえない | 人が確かめる根拠カタログ・商品本体の印字など公表の証拠 |
| 競争事業者の価格・市価 | 誤認のおそれが出る場面同一商品の最近時の価格とはいえない | 人が確かめる根拠調査日・調査店舗・競合の名称 |
| 同一でない商品の価格 | 誤認のおそれが出る場面品質や規格の違いが価格差に混ざる | 人が確かめる根拠銘柄・規格の一致、新品か中古品か |
最後の行は見落としやすい点です。新品と中古品、傷物、旧型は同一の商品とは考えられません。色やサイズだけが違う衣料品のように同じ価格で売られる商品は、同一と扱えます。
過去の販売価格は「8週間」で履歴を数える
チラシで最も多いのは、セール前の価格を元値に置く形です。指針は、比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」かどうかを、一般的には次の基準で見るとしています。
過去の販売価格の目安となる判定
- 1
セール開始日から8週間さかのぼる
商品の販売期間が8週間に満たないときは、その期間だけを見ます。
- 2
その価格で売った期間が過半かを見る
比較対照価格で売っていた日数が、その商品を売っていた期間の半分を超えているかを数えます。
- 3
例外の2点を確かめる
その価格での販売が通算2週間未満の場合と、その価格で売った最後の日から2週間以上たっている場合は、相当期間とはいえないとされます。
数字の読み方を具体例で確かめます。次の価格履歴は、判定の仕組みを見るために作った例です。10月1日にセールを始める商品で、8週間前は8月6日にあたります。
期間 価格 日数
8/6 - 9/9 12,000円 35日
9/10 - 9/30 9,800円 21日12,000円で売った日数は56日のうち35日で、過半を超えています。それでも、12,000円で売った最後の日(9/9)からセール開始(10/1)まで22日あるため、2週間以上たっています。この場合、12,000円を「当店通常価格」として元値に使うのは避けたほうがよい形です。直前の9,800円のほうが実態に近い価格といえます。
過半を満たしていても例外に引っかかる点は、数え間違いの起点になります。ここがClaudeに先に計算させて、人が再計算する価値のある箇所です。
指針にある不当表示のおそれの例も、履歴と照らす型として使えます。
- 実際は45,000円で売っていた商品に「当店通常価格58,000円」と付ける
- 今回初めて売る商品に「当店通常価格」と付ける
- 8週間のうち最初の2週間だけ売った価格を通常価格として使う
- 具体的な販売期間を書かずに、実際は2日間だけ売った価格を元値にする
「販売されていた」の意味にも条件があります。通常の売り場と違う場所に置いたり、比較対照価格にするための実績作りで一時的にその価格にしたりした場合は、売っていたとはみなされません。価格履歴には日付と価格に加えて、販売した場所や売り場を残しておくと、この点も突き合わせられます。
将来価格・割引率・競合価格で追加して見る点
将来の販売価格を比較対照にする表示(「お試し価格4,800円、○月○日以降は6,000円」)について、消費者庁は2020年12月に執行方針を出しています。比較対照の将来価格で売る確実な予定があることが前提で、セール期間を通じて合理的かつ確実に実施される販売計画を持っている必要があります。具体的なセール期間や期限を示さない表示は、計画がなかったことが強く疑われるとされています。点検では、販売計画の資料が手元にあるかと、期限が表示されているかを見ます。
割引率や割引額の表示(「5割引」「表示価格から3割引」)も、基本の考え方は二重価格表示と同じです。算出の基礎となる価格、対象商品の範囲、適用条件を明示する必要があります。一部の商品だけが対象なのに「家具5割引セール」と強調する表示や、直前に表示価格を引き上げてから割引率を示す表示が、指針の例に挙がっています。
競争事業者の価格や市価を比較対照にする場合は、同一商品の最近時の価格を正確に調べていることが前提です。特定の競合と比べるときは、その事業者の名称を明示します。調査した日付と店舗を記録に残しておけば、チラシの原稿と突き合わせられます。
Claude Projectsに価格履歴と点検基準を置く
価格履歴を何度も貼り直すのは手間なので、Claude Projectsを使うと点検の土台を固定できます。サポート記事によると、プロジェクトの知識ベースにアップロードした資料は、そのプロジェクト内のすべてのチャットで使われます。プロジェクトの指示は、すべてのチャットにかかる振る舞いの指定です。一方で、プロジェクト内でもチャット間の文脈は共有されません。知識ベースに入れた情報だけが引き継がれます。
置くものは2つです。
- 知識ベース: 商品別の価格履歴(CSVやテキスト)と、指針の該当部分から起こした点検基準のメモ
- プロジェクトの指示: 比較対照価格の種類を特定し、根拠資料との対応を出す、判定はしないという役割の指定
プロジェクトは無料アカウントでも使えますが、作成できるのは5つまでです。有料プランでは、知識がコンテキストウィンドウの上限に近づくとRAGモードが自動で有効になります。検索の仕組みについてはClaude ProjectsのRAG検索の仕組みと全文投入との違いで扱っています。行数の多い価格履歴では、全行を通して数える作業をClaudeだけに頼らず、表計算で再計算する前提にしておくと安全です。
プロジェクトの指示に入れる文面の例です。
あなたは価格表示の一次点検の補助です。法的な最終判断はしません。
入力されたチラシ・POPの原稿テキストから、二重価格表示と割引率の表示を
すべて拾い、次の表で出力してください。
| 商品名 | 販売価格 | 比較対照価格 | 表示上の名称 | 比較対照価格の種類 |
| 種類は 過去の販売価格 / 将来の販売価格 / 希望小売価格 /
競争事業者・市価 / 同一でない商品 / 不明 から選ぶ。
続けて、種類ごとに知識ベースの価格履歴や点検基準と突き合わせ、
次を列挙してください。
① 根拠資料が知識ベースにない項目(「根拠資料なし」と明記)
② 過去の販売価格: 8週間の窓での日数と、通算2週間未満かの計算過程
③ 販売期間・調査日・競合の名称など、表示に書かれていない項目
断定できない箇所は「要確認」とし、問題なしとは書かないでください。原稿を貼るときの指示は短くて構いません。
次のチラシ原稿を点検してください。セール開始日は10月1日です。
(原稿のテキストを貼り付ける)「問題なしとは書かない」と指定するのは、Claudeが履歴にない根拠を補って整合させてしまうのを避けるためです。出力は「根拠が見つかった項目」と「根拠がない項目」の仕分け表として使います。
人が確かめる検証手順
Claudeの出力を受けて、人がやることを順番に並べます。
根拠確認の流れ
- 1
販売実績を元データで確かめる
価格履歴の日付と価格を、レジやPOS、受発注システムの記録と照らします。知識ベースに入れたCSVが手入力なら、ここで誤りが見つかります。
- 2
日数の計算を表計算で再計算する
Claudeが出した8週間の日数と、2週間の例外の判定を、自分の手で数え直します。
- 3
表示名称と実態をそろえる
根拠が足りなければ、価格を直すか、「セール前価格」と販売期間を具体的に書く形に改めます。名称を変えるだけでは、実態のない元値は救えません。
- 4
資料を残す
履歴、販売計画、競合の調査記録をセール終了後も保管します。指摘を受けたときに説明できるのは、これらの資料です。
4つ目の保管は、景品表示法26条に基づく表示の管理上の措置にも関わります。将来価格の執行方針は、これらの資料を確認しておくことが管理上の措置としても必要だとしています。小規模な事業者では、必ずしも文書にまとめておくところまでは求められず、販売計画を作る担当者が内容を認識していれば足りることもある、と書かれています。
Claudeに任せる範囲と任せない範囲
| 作業 | Claudeの扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 原稿から二重価格・割引率の表示を拾い出す | Claudeの扱い向いている | 理由貼ったテキストのパターンで検出できる |
| 比較対照価格の種類を分類する | Claudeの扱い向いている | 理由表示上の名称と文脈から判断できる |
| 表示に書かれていない項目(販売期間・調査日・競合名)の指摘 | Claudeの扱い向いている | 理由文言の有無の確認 |
| 価格履歴から8週間の日数を数える | Claudeの扱い補助まで | 理由計算ミスの可能性があるため人が再計算する |
| 販売実績が本当にあったかの確認 | Claudeの扱い向かない | 理由元データは貼った範囲に含まれない |
| 実績作りの販売でないかの判断 | Claudeの扱い向かない | 理由販売形態や意図の評価で、テキストからは見えない |
| 違反かどうかの結論 | Claudeの扱い向かない | 理由個別の事案ごとに判断される |
指針は、不当表示かどうかを個別の事案ごとに判断するとしています。Claudeの出力は一次点検の素材にとどめ、疑義が残る表示は弁護士や自治体・消費者庁の窓口に相談します。
つまずきやすい点
- 「当店通常価格」を別の言い方に変えれば済むと考える: 名称の問題ではなく、その価格で売っていた事実の問題です。
- 履歴に販売場所を残さない: 通常と違う売り場に置いた実績は、売っていたとはみなされない場合があります。
- セールの期間や期限を書かない将来価格表示: 「セール終了後は500円」とだけ書くと、販売計画がなかったことが疑われます。
- 対象商品が一部なのに「全品」の印象を出す: 割引率の表示は、対象の範囲と条件を明示します。
- POPとチラシで元値が食い違う: 同じ商品に別の元値が出ていると、どちらかの根拠が弱くなります。原稿を一括で貼って、商品ごとに比較対照価格を照合します。
通信販売のページに価格を載せる場合は、特定商取引法における通信販売の表示義務をClaudeで点検する方法の表示事項とあわせて点検できます。プロジェクトに点検基準を蓄積して使う運用は、Claude Projectsで法務レビューのプレイブックを標準化する方法と同じ型です。
まとめ
二重価格の点検は、表示の文言より、元値の根拠となる販売実績の確認が中心になります。Claudeには、比較対照価格の種類の分類、根拠のない項目の洗い出し、8週間の日数の下計算を任せられます。販売実績の真偽と日数の再計算、疑義が残る表示の判断は人の仕事です。価格履歴を日付・価格・販売場所の形で残す運用から始めると、点検の精度が上がります。