設備投資のNPV・IRR・回収期間をClaude for Excelで試算する手順
投資額と年次キャッシュフローを表にし、NPV・IRR・回収期間を数式で出して、割引率と達成率の感度表まで作る手順。データテーブル非対応を踏まえ、稟議に貼れる根拠表にまとめる。
設備投資の稟議で求められるのは、「いくらで、何年で回収でき、前提がぶれても成り立つのか」の3点です。回収期間・NPV(正味現在価値)・IRR(内部収益率)の3指標と、前提を動かした感度表があれば、この問いにはひととおり答えられます。
Claude for Excelは、数式の関係を保ったまま値を変え、新しいモデルを自然文の指示から組めるExcelアドインです。この記事では、投資額1,200万円・6年間の増分キャッシュフローという仮の設備投資を題材に、指標の式を組み、検算し、稟議に貼れる根拠表にまとめるところまでを手順にします。
設備投資の試算を任せる前に押さえる制約
Claude for Excelは、Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで使えます。動く環境は、Excel on the web、Windows版(Microsoft 365契約でビルド16.0.13127.20296以降)、Mac版(16.46以降)です。Excel 2016・2019の永続ライセンス版、iPad版、Android版では起動しません。
試算の設計に響く制約は3つあります。
- データテーブル(What-If分析)とマクロ・VBAは未対応です
- 最終成果物や監査に直結する計算は、人の確認なしでの利用が推奨されていません
- 外部から受け取ったファイルには、Claudeを操作する隠れた指示が入っている恐れがあります
1つ目は感応度表の作り方を決めます。「データテーブルで感応度を出して」とは頼めないので、この記事では各セルに式を直接書く方式にします。同じ事情での組み方は不動産投資の収支シミュレーションでも扱っています。
2つ目は、稟議の根拠表をそのまま確定値にしないという運用の話です。数値の最終確認は人が行い、Claudeには式の組み立てと検算の補助を任せます。
3つ目は、設備メーカーから届いた見積・効果試算のExcelに関わります。そのファイルをClaudeに開かせて編集させるのではなく、必要な数値だけを自分で作った信頼できるブックへ転記します。
前提シートに置く値
最初に「前提」シートを作り、ここに入れた値だけを後続のシートが参照する構成にします。割引率を変えたときに指示する範囲が1か所で済みます。
| セル | 項目 | 例(仮置き) |
|---|---|---|
| B2 | 項目初期投資額(万円) | 例(仮置き)1,200 |
| B3 | 項目割引率(社内のハードルレート) | 例(仮置き)6% |
| B4 | 項目回収期間の社内基準(年) | 例(仮置き)4 |
数値は説明用の仮置きです。割引率は資金調達コストや社内の最低要求利回りから決める値で、実際の値は会社ごとに違います。年ごとのキャッシュフローは、次の「CF」シートの入力セルに置きます。
「前提」シートを作成してください。A列に項目名、B列に値を入れます。
B2 初期投資額(万円) 1200、B3 割引率 6%、B4 回収期間の社内基準(年) 4。
入力セルは青字にしてください。通貨や桁区切りの好みは、サイドバーの設定にある「Instructions」欄に書いておくと、毎回の会話に効きます。公式の例は「桁区切りを付ける」「見出しを太字にする」といった書式の指定です。「金額は万円単位」と書いておけば、案件ごとのブックでも指示を繰り返さずに済みます。この設定はExcel専用で、WordやPowerPointとは別です。
キャッシュフロー表を組む
次に「CF」シートを作ります。年0に初期投資を置き、年1〜6に設備投資で増える営業キャッシュフロー(税引後)を並べる表です。
| 行 | 項目 | B列(年0) | C列〜H列(年1〜6) |
|---|---|---|---|
| 1 | 項目経過年 | B列(年0)0 | C列〜H列(年1〜6)1、2、3、4、5、6 |
| 2 | 項目キャッシュフロー | B列(年0)=-前提!B2 | C列〜H列(年1〜6)300、320、340、340、320、300 |
| 3 | 項目累計 | B列(年0)=B2 | C列〜H列(年1〜6)=B3+C2(右へコピー) |
| 4 | 項目割引係数 | B列(年0)1 | C列〜H列(年1〜6)=1/(1+前提!$B$3)^C$1 |
| 5 | 項目割引後CF | B列(年0)=B2*B4 | C列〜H列(年1〜6)=C2*C4 |
| 6 | 項目割引後の累計 | B列(年0)=B5 | C列〜H列(年1〜6)=B6+C5 |
C2:H2の6つの数字だけが年次の入力で、青字にします。増分キャッシュフローの中身(人件費の削減、歩留まり改善、保守費の増減など)は、案件ごとに別のシートで積み上げてここへ渡すと追いやすくなります。
「CF」シートを作成してください。A列に項目名、B1:H1に経過年0〜6を数値で入れます。
B2は =-前提!B2。C2:H2は 300,320,340,340,320,300 を青字の入力値にします。
3行目は累計、4行目は割引係数 =1/(1+前提!$B$3)^C$1(B4は1)、
5行目は割引後CF、6行目は割引後の累計にしてください。
値の直打ちは入力セル以外に作らないでください。回収期間・NPV・IRRの式
指標は「結果」シートにまとめます。回収期間は関数がないので、累計が負から正に変わる年を拾い、その年の中での割合を足す補助行を使います。
CFシートの7行目に単純回収の補助行、8行目に割引後回収の補助行を置きます。
C7: =IF(AND(B3<0,C3>=0),B1+(-B3)/C2,"") 右へH列までコピー
C8: =IF(AND(B6<0,C6>=0),B1+(-B6)/C5,"") 右へH列までコピー「結果」シートの式は次のとおりです。
| セル | 指標 | 式 |
|---|---|---|
| B2 | 指標NPV(万円) | 式=NPV(前提!B3,CF!C2:H2)+CF!B2 |
| B3 | 指標IRR | 式=IRR(CF!B2:H2) |
| B4 | 指標回収期間(年) | 式=IF(COUNT(CF!C7:H7)=0,"未回収",MIN(CF!C7:H7)) |
| B5 | 指標割引後の回収期間(年) | 式=IF(COUNT(CF!C8:H8)=0,"未回収",MIN(CF!C8:H8)) |
手計算で押さえておく期待値
仮置きの数字で手計算すると、次の値になります。Claudeが組んだ表の結果がこれと大きくずれていたら、参照先を疑う手がかりになります。
- NPVは約373万円(6年間の割引後CFの合計1,573万円から、初期投資1,200万円を引いた額)
- IRRは約15.3%
- 単純回収期間は約3.7年(年3の累計がマイナス240万円、年4のCFが340万円)
- 割引後の回収期間は約4.3年(年4の累計がマイナス77万円、年5の割引後CFが239万円)
3.7年は社内基準の4年に収まりますが、割引後では4.3年となり基準を超えます。稟議で「回収期間」と書くとき、どちらの定義かを明記しておく理由がここにあります。
NPV関数で初期投資を二重に割り引かない
NPV関数は、最初のキャッシュフローが期間の終わりに発生する前提で割り引きます。初期投資を年0に置く設計では、投資額をNPV関数の引数に含めず、関数の外で足します。上の式で +CF!B2 を関数の外に出しているのはこのためです。
引数にB2から含めて =NPV(前提!B3,CF!B2:H2) と書くと、1,200万円の投資が1年後の出来事として割り引かれ、結果は約352万円になります。正しい値より約21万円小さく出るだけで、エラーは出ません。Claudeに式を組ませたあとは、この形になっていないかを必ず見ます。
IRRがエラーになるとき
IRR関数は反復計算で答えを探し、20回試して収束しないと #NUM! を返します。見込み値(guess)を省くと10%から探索を始めるので、結果が期待とずれる、または #NUM! になるときは =IRR(CF!B2:H2,0.05) のように近い値を渡して再計算します。キャッシュフローに正と負が1つずつ以上ないと、IRRは計算できません。
IRRとNPVの関係は、検算に使えます。IRRで出した率を割引率にしてNPVを計算すると、ほぼゼロになるはずです。
「結果」シートのB6に =NPV(B3,CF!C2:H2)+CF!B2 を入れてください。
IRRを割引率としたNPVがほぼ0になることの確認用です。Claudeに数式を読ませて検算する
数字を眺める前に、式を読ませます。Claude for Excelは、数式の意味の説明と、ある数値がどのセルから導かれたかの追跡に対応していて、回答にはセル単位の出典が付き、クリックすると該当のセルへ移動できます。
結果シートのNPVが何から計算されているか、参照しているセルを順にたどって説明してください。
初期投資額を二重に割り引いている箇所や、前提シートの値を直接打ち込んでいるセルがあれば教えてください。稟議の根拠表は、あとで「この数字はどこから」と聞かれる資料です。式が前提シートまでたどれることを、提出前に一度確かめておきます。
感応度表を数式で作る
投資判断の議論は、たいてい「効果が計画の8割しか出なかったら」「割引率を上げたら」に行き着きます。割引率を横軸、効果の達成率を縦軸にして、NPVを並べる表を作ります。
データテーブルが使えないので、各セルにNPVの式を直接書きます。ここで使える近道があります。すべての年のキャッシュフローを同じ達成率で増減させるなら、NPVも同じ倍率になります。割引計算を達成率ごとにやり直す必要はなく、NPV関数の結果に達成率を掛ければ足ります。
「感応度」シートに次のように置きます。
- B1:E1に割引率(4%、6%、8%、10%)
- A2:A5に達成率(80%、90%、100%、110%)
- B2に次の式を入れ、B2:E5へコピー
=$A2*NPV(B$1,CF!$C$2:$H$2)+CF!$B$2$A2 が行見出しの達成率、B$1 が列見出しの割引率を指します。初期投資は倍率の対象外なので、掛け算の外に置いています。
「感応度」シートを作成してください。B1:E1に割引率4%,6%,8%,10%、
A2:A5に達成率80%,90%,100%,110%を入れ、B2に
=$A2*NPV(B$1,CF!$C$2:$H$2)+CF!$B$2 を入れてB2:E5へコピーしてください。
負のセルは赤字にしてください。仮置きの数字では、次のNPV(万円)になります。
| 達成率 | 割引率4% | 6% | 8% | 10% |
|---|---|---|---|---|
| 80% | 割引率4%142 | 6%59 | 8%-17 | 10%-86 |
| 90% | 割引率4%310 | 6%216 | 8%131 | 10%54 |
| 100% | 割引率4%477 | 6%373 | 8%279 | 10%193 |
| 110% | 割引率4%645 | 6%531 | 8%427 | 10%332 |
100%・6%のセルは、結果シートのNPV(約373万円)と一致します。一致しなければ、どちらかの式が壊れています。
この表からは、効果が8割に留まると、割引率8%以上でNPVがマイナスになることが読み取れます。「計画の8割まで下がっても割引率6%ならプラスだが、割引率が8%以上になると赤字」という言い方が、稟議の説明に使えます。
達成率の倍率で表せる感応度は、効果の増減だけです。投資額そのものが変わる場合や、特定の年だけCFが変わる場合は、前提シートの値を書き換えて再計算するか、軸を投資額に変えた別の表を作ります。前提を書き換えるときは、Claudeに「割引率を8%に変えて、依存する計算を更新して」のように頼めます。数式の関係は保たれ、既存データを上書きする前には警告が出ます。
入金日が不定期なときはXNPVとXIRR
NPV関数とIRR関数は、キャッシュフローが年次や月次のように等間隔で発生する前提です。支払いが検収日や分割の都合でばらつく案件では、日付付きで計算するXNPV関数とXIRR関数に切り替えます。
| 関数 | 式 | 注意点 |
|---|---|---|
| XNPV | 式=XNPV(割引率,金額の範囲,日付の範囲) | 注意点最初の日付が基準日。ほかの日付はそれより後であること |
| XIRR | 式=XIRR(金額の範囲,日付の範囲) | 注意点金額と日付の個数が違うと #NUM! |
どちらも日付を365日の年として割り引きます。日付は文字列ではなく、DATE関数かセルの日付値として入れます。文字列の日付だとエラーの原因になります。NPV関数と違い、最初のキャッシュフロー(初期投資)も引数の範囲に含めて構いません。
Claudeに頼むときは、日付の列を日付型で作るよう明示します。
「CF日付」シートを作成してください。A列に日付(日付型)、B列に金額を入れ、
最初の行は初期投資のマイナスにします。結果として XNPV と XIRR を出してください。稟議の根拠表にまとめる
最後に、稟議に貼る「サマリ」シートを作ります。検算を終えた値を参照するだけの出力専用シートにすると、貼り付け先で数字を直されにくくなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 前提 | 内容初期投資額、割引率、年次CF(6年分)、耐用年数 |
| 指標 | 内容NPV、IRR、単純回収期間、割引後の回収期間 |
| 判断基準との対比 | 内容NPVがプラスか、IRRが割引率を上回るか、回収期間が社内基準内か |
| 感応度 | 内容達成率×割引率のNPV表 |
「サマリ」シートを作成し、前提シート・結果シート・感応度シートの値を参照して、
前提、指標、判断基準との対比、感応度表の順に並べてください。
判断基準との対比は、NPV>0、IRR>割引率、回収期間<=前提!B4 の3項目を
「満たす」「満たさない」で表示してください。値の直打ちは禁止です。仮置きの数字では、NPVとIRRは基準を満たし、単純回収期間も基準内、割引後の回収期間は基準を超えます。3項目の合否を機械的に並べるだけで、稟議の本文は書きません。この表を貼ったうえで、文書としての稟議書の組み立てはClaudeで稟議書をテンプレート化する方法に委ねます。
稟議に出す前に、人が見る箇所を決めておきます。
- 年次キャッシュフローの根拠(削減できる人件費の算定など)が、現場の実績と合っているか
- 割引率が社内で決まっている値か
- 税引後のキャッシュフローとして、減価償却による節税効果を織り込んだか
- 感応度表の軸が、実際に議論になりそうな不確実性を覆っているか
うまくいかないとき
| 症状 | 見る場所 |
|---|---|
| NPVが想定より少し小さい | 見る場所初期投資をNPV関数の引数に含めていないか |
IRRが #NUM! | 見る場所正負のキャッシュフローが揃っているか、guessを渡したか |
| 回収期間が空欄や「未回収」 | 見る場所累計が6年以内にプラスへ転じているか、累計の行が前年を引き継いでいるか |
| 感応度表の100%の行が結果シートと合わない | 見る場所初期投資を倍率の内側に入れていないか |
XIRRが #NUM! | 見る場所金額と日付の個数、日付が文字列になっていないか |
まとめ
設備投資の試算は、回収期間・NPV・IRRのどれも式は短く、難所は式の組み立てより「初期投資をどこに置くか」「回収期間をどう定義するか」の約束事にあります。Claude for Excelには式を組ませ、数式の参照元をたどらせて検算させる使い方が合っています。数値の最終確認と、キャッシュフローの根拠は人が持つ部分です。
感応度表は、データテーブルが使えなくても、NPVの線形性を使えば1本の式で組めます。同じ前提で別の場面を試算したい場合は、値上げシミュレーションや要員計画の人件費と同じ入力シート中心の設計が流用できます。