不動産投資の収支をClaude for Excelでシミュレーションする手順
家賃・空室率・修繕費・金利を入力シートに置き、キャッシュフローと返済比率(DSCR)を数式で出し、感応度表まで組む手順。Claude for Excelのデータテーブル非対応を踏まえた作り方つき。
賃貸物件や収益物件の収支シミュレーションは、入力が少なく数式も単純です。それでも「空室率が10%になったら」「金利が1%上がったら」と前提を動かすたびに、手で数式を直して表を作り直すことになりがちです。
Claude for Excelは、数式の関係を保ったまま値を変え、新しいモデルを自然文の指示から組めるExcelアドインです。この記事では、入力シート・収支シート・感応度表の3枚を作り、前提を変えたときの毎月の手残りと返済比率を確かめるところまでを手順にします。
Claude for Excelで収支表を組むときの前提と使える環境
Claude for Excelは、Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで使えるExcelアドインです。対応する環境は次のとおりです。
- Excel on the web
- Windows版Excel(Microsoft 365契約、ビルド16.0.13127.20296以降)
- Mac版Excel(バージョン16.46以降、ビルド21011600以降)
Excel 2016・2019の永続ライセンス版、iPad版、Android版では動きません。物件の収支表を家のPCと外出先のタブレットで使い回している場合、タブレット側ではアドインが起動しない点に注意が要ります。
導入はMicrosoft AppSourceの「Claude for Microsoft 365」から行い、Excelでアドインを有効にしてClaudeアカウントでサインインします。組織で配る場合はMicrosoft 365管理センターから展開できます。
感応度表で外せない制約
不動産の収支表で定番の感応度分析といえば、Excelの「データテーブル」(What-If分析)です。ところがClaude for Excelの未対応機能にはデータテーブルとマクロ・VBAが挙がっています。「データテーブルで感応度表を作って」と頼む設計は成り立ちません。
そこでこの記事では、感応度表の各セルに計算式を直接書く方式にします。行見出しの空室率と列見出しの金利を参照する式を1つ作り、表全体へコピーするだけなので、データテーブルがなくても同じ表ができます。むしろ式が見えるぶん、検算しやすい作りです。
入力シートに置く項目と、数式の置き方
最初に「前提」シートを作ります。ここに入れた値だけを後続のシートが参照する構成にしておくと、前提を変えたときにClaudeへ指示する範囲が1か所で済みます。Claude for Excelは値を更新する際に下流のセルが再計算されるよう数式の関係を保つので、入力を1か所に集める設計とよく噛み合います。
| セル | 項目 | 例(仮置き) |
|---|---|---|
| B2 | 項目物件価格 | 例(仮置き)5,000万円 |
| B3 | 項目自己資金 | 例(仮置き)500万円 |
| B4 | 項目借入額 | 例(仮置き)=B2-B3 |
| B5 | 項目金利(年) | 例(仮置き)2.0% |
| B6 | 項目返済期間(年) | 例(仮置き)30 |
| B7 | 項目満室時の月額賃料 | 例(仮置き)30万円 |
| B8 | 項目空室率 | 例(仮置き)5% |
| B9 | 項目管理費率(実効収入に対して) | 例(仮置き)5% |
| B10 | 項目固定資産税・都市計画税(年) | 例(仮置き)20万円 |
| B11 | 項目修繕費率(満室賃料に対して) | 例(仮置き)5% |
| B12 | 項目保険・その他(年) | 例(仮置き)3万円 |
例の数値はあくまで説明用の仮置きです。実際の物件の値に置き換えてから使います。
前提シートをClaudeに作らせる指示
空のブックを開き、サイドバーに次のように頼みます。項目名とセル位置を指定しておくと、後の手順で参照先がずれません。
「前提」シートを作成してください。A列に項目名、B列に値を入れます。
B2 物件価格 5000(万円)、B3 自己資金 500、B4 借入額は =B2-B3、
B5 金利 2.0%、B6 返済期間 30、B7 満室時の月額賃料 30、
B8 空室率 5%、B9 管理費率 5%、B10 固定資産税等(年) 20、
B11 修繕費率 5%、B12 保険その他(年) 3 としてください。
単位は万円で統一し、入力セルは青字にしてください。通貨や桁区切りの好みは、アドインの設定にある「Instructions」欄に書いておくと毎回の会話に効きます。公式に挙がっている例は「桁区切りを付ける」「見出しを太字にする」といった書式の指定です。「金額は万円単位」と一度書いておけば、物件ごとのブックでも指示を繰り返さずに済みます。この設定はExcel専用で、PowerPointやWordの設定とは別です。
キャッシュフローと返済比率を数式で出す
次に「収支」シートを作り、年間の収入から返済までを上から順に並べます。
「収支」シートを作成し、前提シートの値だけを参照して
次の行を作ってください。値の直打ちはしないでください。
1 満室時の年間賃料 = 前提!B7*12
2 実効収入 = 前提!B7*12*(1-前提!B8)
3 管理費 = 実効収入*前提!B9
4 修繕費 = 満室時の年間賃料*前提!B11
5 固定資産税等 = 前提!B10
6 保険その他 = 前提!B12
7 営業純収益(NOI) = 実効収入-管理費-修繕費-固定資産税等-保険その他
8 年間返済額 = -PMT(前提!B5/12,前提!B6*12,前提!B4)*12
9 税引前キャッシュフロー = NOI-年間返済額
10 返済比率(DSCR) = NOI/年間返済額PMTは元利均等返済の毎月の返済額を返す関数で、結果は支払いを表す負の値になります。式の頭にマイナスを付けて正の値に直し、12倍して年額にしています。
上の仮置きで手計算すると、年間の実効収入は342万円、NOIは約284万円、年間返済額は約200万円で、税引前キャッシュフローは年84万円前後、返済比率は1.4倍台になります。Claudeが組んだ表の値がこれと大きくずれていたら、式の参照先を疑う手がかりになります。
数式の中身を確かめる指示
組み終えたら、結果の数字より先に式を読ませます。Claude for Excelは、数式の意味の説明や、ある数値がどのセルから導かれたかの追跡に対応していて、回答にはセル単位の出典が付きます。出典をクリックすると該当のセルへ移動できます。
収支シートのDSCRが何から計算されているか、参照しているセルを
順にたどって説明してください。前提シートの値を直接打ち込んでいる
セルがあれば教えてください。値の直打ちが残っていると、前提を変えても表が動かず、感応度表の数字も実態とずれます。この確認は初回に一度やっておく価値があります。
前提を変えたときの影響を見る
収支表が組めたら、前提を動かして結果を見ます。ここで使うのが、Claude for Excelの「数式の関係を保ったまま値を更新する」機能です。公式の例も「割引率を8%に変えて、依存する計算を更新して」のような頼み方です。
- 「空室率を10%に変えて、年間キャッシュフローとDSCRがどう変わるか教えてください」
- 「金利を1.0ポイント上げたときの年間返済額の増分を示してください」
- 「修繕費率を8%にして、NOIの変化を前提シートの元の値と並べてください」
Claudeに任せるときは、元の値に戻す手間を考えて、変更前の値を別のセルに控えてからにします。Claudeは既存データを上書きする前に警告を出しますが、控えがあれば確認の判断も早くなります。
感応度表を数式のまま作る
複数の前提を同時に動かした結果を一覧したいときは、感応度表を作ります。縦軸に空室率、横軸に金利を置き、年間の税引前キャッシュフローを並べる表です。
表のレイアウトと数式
「感応度」シートの行と列を次のように決めます。
- B15:F15に金利(1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%)
- A16:A20に空室率(0%、5%、10%、15%、20%)
- B16に次の式を入れ、B16:F20へコピー
=前提!$B$7*12*(1-$A16)*(1-前提!$B$9)-前提!$B$10
-前提!$B$7*12*前提!$B$11-前提!$B$12
+PMT(B$15/12,前提!$B$6*12,前提!$B$4)*12式の中の $A16 は行見出しの空室率、B$15 は列見出しの金利を指します。$ の付け方で、コピーしても参照が正しい見出しに追従します。式は表示上3行に折っていますが、セルには1行で入れます。PMTが負の値を返すため、末尾の +PMT(...)*12 が年間返済額の引き算になっています。
Claudeには次のように頼みます。式まで指定するのが肝心で、自然文だけで任せると、データテーブルを使おうとして行き詰まる可能性があります。
「感応度」シートを作成してください。B15:F15 に金利、A16:A20 に
空室率を入れ、B16 から F20 まで、前提シートを参照する数式で
年間の税引前キャッシュフローを計算してください。データテーブル
(What-If分析)は使わず、各セルに直接数式を入れてください。感応度表を読み、条件付き書式を足す
表ができたら、キャッシュフローがマイナスになるセルに色を付けます。Claude for Excelは条件付き書式やデータ検証のドロップダウンなど、Excel標準の操作も依頼できます。
感応度シートのB16:F20で、値が0未満のセルを赤背景にしてください。色が付いた範囲を見れば、空室率と金利のどの組み合わせから手残りが赤字に転じるかが一目で分かります。例の仮置きで赤字になるのは、空室率20%・金利3.5%の右下の1セルだけで、他の組み合わせは黒字です。
同じ作り方で、縦軸を修繕費率、横軸を賃料の下落率に変える表も作れます。軸を変えるときは、式の中の参照先が行見出しと列見出しに正しく向いているかを、先ほどの追跡の指示で確かめます。
完成した収支表を検算する手順
Claudeが組んだ表の最終確認は人間の仕事です。Claude for Excelの案内にも、監査に直結する計算や、人の目を通さない最終成果物には勧められないと書かれています。融資の打診や購入判断に使う数字は、次の順で見直します。
収支表を使う前の検算
- 1
電卓で1か所だけ確かめる
物件価格と金利から、月々の返済額を別の返済シミュレーターか電卓で求め、収支シートの年間返済額を12で割った値と照らします。
- 2
前提を極端な値にして動かす
空室率を100%にして、NOIが固定費分のマイナスになるかを見ます。式の組み間違いはこうした極端な入力で表に出ます。
- 3
追跡の指示で参照先を読む
DSCRと感応度表の1セルについて、どのセルを参照しているかをClaudeに説明させ、直打ちがないことを確かめます。
- 4
税・減価償却は別に確認する
ここで組んだのは税引前のキャッシュフローです。所得税・住民税や減価償却、借入金利息の経費算入は含まないので、税引後の手残りは税理士や専門のツールで確かめます。
収益物件の資料を読み込ませるときの注意
物件の販売図面、賃貸借契約の一覧、レントロール(賃料の一覧表)をExcelに取り込んで、収支表の入力に使う場面があります。このとき外部から来たファイルの扱いに気を付けます。
Claude for Excelの案内では、外部由来のファイルには隠れた指示が仕込まれ得ると警告されています。ダウンロードしたテンプレート、取引先のファイル、取り込んだデータが該当し、情報の抜き出しや記録の改変、破壊的な操作へ誘導される場合があるという説明です。リスクのある操作をClaudeが提案したときは実行前に確認が出るので、外部由来のファイルでは確認の中身を読んでから許可します。
実務では、仲介会社から受け取ったレントロールをそのまま収支ブックに貼らず、値だけを新しいブックへ写してから使う運用が安全側です。公式も、広い範囲を編集させる前に信頼できるコピーのブックで始めることを勧めています。
データの扱いにも触れておきます。入出力はバックエンド側で受信・生成から30日以内に削除されます。チャット履歴はブラウザのIndexedDBにローカル保存され、Anthropicのサーバーには保存されず、端末間でも同期されません。物件の所在地や借入条件など、機微な情報を含むブックは社内の取り扱いルールと照らしてから使います。
他の業務ブックとの使い分け
同じClaude for Excelでも、資金繰り表や予実対比のように「毎週・毎月の更新」が主題の使い方と、収支シミュレーションのように「前提を動かして比べる」使い方では、指示の型が変わります。更新型の手順は資金繰り表を週次で更新する手順や月次予実対比レポートの差異分析にまとめています。
数式の保持や監査要件でCopilotと迷う場合はClaude for ExcelとCopilotの比較が判断材料になります。PMTやXLOOKUPなど関数そのものの書き方を詰めたいときはClaude Excel関数の書き方が役に立ちます。
まとめ
収支シミュレーションをClaude for Excelで組むときの要点は2つです。1つは、前提を1枚の入力シートに集め、他の式は値を直打ちせずそこだけを参照させること。もう1つは、データテーブルが使えない代わりに、感応度表の各セルへ参照つきの数式を直接入れることです。
組んだ表は、電卓での1か所検算と極端な値での動作確認を通してから使います。税引後の数字と融資審査向けの資料は、このブックの外で確かめる前提です。