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Claudeに保険の健康告知書を入れる前に — 機微情報の扱い方

Claudeに保険の健康告知書を入れる前に — 機微情報の扱い方

保険の健康告知書をClaudeに入れる前に、立場別(契約者・募集人)の規律、病歴の置き換え方、告知するかどうかの判断を任せない線引きをまとめます。

保険の健康告知書は、病歴・通院歴・健診結果がまとまった書類です。Claudeに入れる前に決めておくのは、誰の立場で入力するのか、病名などをそのまま入れるのか、そして「何を書くか」の判断までClaudeに任せないことの3点です。

この記事は、保険法・保険業法・個人情報保護法の条文を、健康告知書の入力という場面に当てはめて確認します。個別の契約や事案の判断は、保険会社・代理店の担当者や専門家への確認が前提です。

入力する人の立場で、かかる規律が変わる

同じ告知書でも、契約者本人が自分の分を整理するのか、代理店が顧客の分を扱うのかで、適用される規律はまったく違います。

くらべる

立場ごとに効く規律

私的な整理

契約者・被保険者本人

個人情報保護法の義務を負うのは、個人情報データベース等を事業の用に供している者(法の定める取扱事業者)です(法第16条第2項)。自分や家族の告知書を整理する個人は、この規律の直接の名宛人ではありません。論点は法令よりも、入力後にデータがどう保持・利用されるかという設定と契約の側に寄ります。

顧客情報の取扱い

保険募集人・代理店

顧客の病歴は要配慮個人情報にあたり、個人情報保護法の取得・提供・委託の規律に加えて、保険業法の施行規則が定める安全管理措置、特別の非公開情報の目的外利用を防ぐ措置、漏えい時の報告が重なります。

保険会社の社員が業務で扱う場合も、施行規則第53条の10に、保健医療などの特別の非公開情報について同趣旨の措置が定められています。以降は、条文が重く及ぶ募集人・代理店側の話を中心に、本人の入力にも触れていきます。

告知書の記載は、どの類型の情報にあたるか

告知義務の中身から確認します。保険契約者または被保険者になる者は、生命保険契約の締結に際し、危険に関する重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたものについて、事実の告知をしなければなりません(保険法第37条)。傷害疾病を対象とする定額保険にも同じ構造の規定があります(第66条)。

告知書には、この「告知を求められた事項」への回答が並びます。典型的には、次のような記述です。

  • 過去の傷病名、入院・手術の有無
  • 通院期間や服薬の状況
  • 健康診断や人間ドックの結果、再検査の指示

法第2条第3項の要配慮個人情報は、病歴などを含む個人情報です。告知書の回答は、これに当たるものが大半です。11類型の見分け方と「受診した事実」の境界は、要配慮個人情報をClaudeに入力してよいかで整理しています。

保険業法の側にも、病歴を特別に扱う規定があります。保険募集人は、顧客に関する人種、信条、門地、本籍地、保健医療または犯罪経歴についての情報その他の特別の非公開情報を、業務の適切な運営の確保その他必要と認められる目的以外に利用しないことを確保する措置を講じなければなりません(施行規則第227条の10)。条文は「保健医療」を明記しています。

募集人・代理店がClaudeに入れるとき、法的に問われること

顧客の告知書を代理店がClaudeに入れる行為は、個人情報保護法の3つの規律で評価されます。

  1. 取得: 要配慮個人情報は、例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ずに取得できません(法第20条第2項)。告知書を顧客本人から受け取る場合、本人が自ら書いて渡した経路なので、取得の面は通常は問題になりません。
  2. 提供: 個人データを第三者に提供するには、原則として本人の同意が必要です(法第27条第1項)。
  3. 委託: 利用目的の達成に必要な範囲で取扱いを委託する場合、提供先は第三者にあたりません(同条第5項第1号)。ただし委託元には、委託先への必要かつ適切な監督義務が残ります(法第25条)。

Claudeへの入力が提供と委託のどちらに評価されるかは、契約内容とデータの用途によります。切り分けは個人情報を含むプロンプト入力は第三者提供にあたるかに詳しく書いています。

保険募集人にはさらに、施行規則上の義務が上乗せされます。

条文募集人・仲立人に課される内容
施行規則第227条の9募集人・仲立人に課される内容顧客の個人情報の安全管理、従業者の監督、委託先の監督について、漏えい・滅失・毀損の防止に必要かつ適切な措置を講じる
第227条の9の2募集人・仲立人に課される内容個人データの漏えい、滅失、毀損が発生した、または発生したおそれがある事態が生じたとき、財務局長等へ速やかに報告するなど適切な措置を講じる
第227条の10募集人・仲立人に課される内容保健医療などの特別の非公開情報を、業務の適切な運営の確保その他必要と認められる目的以外に利用しない措置を講じる

つまり、代理店がAIツールを顧客対応に組み込むなら、社内規則や委託先の管理の整備が先にあるべき領域です。事故時の報告書の組み立ては個人情報の漏えい報告(速報・確報)をClaudeで下書きする際の注意点に手順があります。

「告知するかしないか」の判断をClaudeに任せない

入力の安全性とは別に、もう一つ線を引く場所があります。告知義務の中身そのものです。

保険者は、告知事項について故意または重大な過失により事実の告知をせず、または不実の告知をしたときに、契約を解除できます(保険法第55条第1項)。解除権は、保険者が原因を知った時から1か月行使しないとき、または契約締結から5年を経過したときに消滅します(同条第4項)。告知は、後から契約の効力に響く行為です。

募集人側にも禁止行為があります。保険業法第300条第1項は、重要な事項について虚偽のことを告げるよう勧める行為(第2号)と、重要な事実を告げるのを妨げ、または告げないことを勧める行為(第3号)を挙げています。保険法も、保険媒介者が告知を妨げた場合、または告げないことを勧めた場合には、解除できないと定めています(第55条第2項第2号・第3号)。

落とし穴

「これは書かなくてよいか」をClaudeに聞くと危うい

告知書の質問が何を聞いているか、どの書類に答えの根拠があるかをClaudeに整理させるのは、補助として成り立ちます。一方で「この通院歴は告知対象から外してよいか」をClaudeに判断させ、その答えを顧客への助言に使うと、条文の想定する「告げないことを勧める」状況に近づきます。質問票の範囲に当たるかどうかは、保険会社の所定の様式と質問文、必要なら担当者への照会で決めるものです。

Claudeに渡す範囲を、告知書の外側に寄せる

病歴そのものを入れずに済ませる方法が、実務では最も確実です。告知書の「質問文」は個人情報ではないので、Claudeには質問文だけを渡し、回答の中身は手元で書く形が取れます。

手順

病歴を入れずに告知書の作成を助けさせる手順

  1. 1

    質問文だけを貼る

    保険会社所定の様式から、質問の文言だけを抜き出します。氏名・生年月日・証券番号の欄は含めません。

  2. 2

    質問の意味と根拠書類を整理させる

    質問が聞いている範囲(期間、対象となる診療行為)と、答えを確かめられる書類の種類を整理させます。

  3. 3

    回答は手元で書く

    通院歴や検査結果は、診療明細・健診結果の原本を見ながら、本人または担当者が書きます。

  4. 4

    迷う項目は照会に回す

    範囲に当たるか曖昧な項目は、Claudeに結論を出させず、保険会社や担当者に質問する項目として一覧にします。

次のような指示になります。質問文は例示用の架空のもので、実際の文言は保険会社ごとに異なります。

以下は保険の告知書の質問文です(個人情報は含みません)。
1. 各質問が対象とする期間と診療行為の範囲を、箇条書きで整理してください。
2. 回答の根拠を確かめるのに使える書類の種類を、質問ごとに挙げてください。
3. 範囲に当たるかどうか判断が分かれそうな点は、判断せず
   「保険会社に確認する項目」として別に列挙してください。
 
質問: 過去5年以内に、病気やけがで、医師の診察・検査・治療・
投薬を受けたことがありますか。

通院歴をClaudeに入れて時系列に整理させたい場合は、何を落とせば入力が軽くなるかを、次の表で判断します。

告知書の項目扱い置き換えの例
氏名・住所・生年月日扱い入れない置き換えの例「契約者A」「被保険者B」、年齢は10歳刻み
証券番号・申込番号扱い入れない置き換えの例記号に置換
病名・診断名扱いできるだけ外す置き換えの例「疾患区分1」など手元の対応表で管理
診療科・医療機関名扱い条件次第置き換えの例診療科だけを残し、機関名は外す
通院・入院の期間扱い粗くして使う置き換えの例「約半年」「直近2年以内」
検査値扱い要点に絞る置き換えの例基準値内か否かの区別だけ

ここで注意したいのは、病名を外しても残る情報があることです。病院や薬局にかかった事実、診療科、通院の頻度は、診療に関する記述として要配慮個人情報の類型に残り得ます。仮名にしても元の名簿と容易に照合できる状態であれば個人情報のままなので、置き換えは「入力量を減らす手段」であって、免責にはなりません。

証券番号や日付を機械的に伏せたいときは、貼り付け前に手元で置換する方法があります。

sed -E -e 's/[0-9]{4}-[0-9]{4}-[0-9]{2}/[証券番号]/g' \
       -e 's/[0-9]{4}\/[0-9]{1,2}\/[0-9]{1,2}/[日付]/g' memo.txt

正規表現で伏せられるのは書式が決まった番号類だけです。氏名や病名は表記の揺れが大きく、置換漏れが残ります。出力を目で確かめてから貼ります。

入力した内容は、設定でどこまで残るか

病歴を入れざるを得ない場面では、入力後の保持と利用を設定で確認します。個人向けのFree・Pro・Maxと、そのアカウントで使うClaude Codeについて、サポート記事は次の点を挙げています。

  • モデル改善への利用をオンにしていると、チャットとコーディングセッションがモデルの改善に使われます。
  • 安全性の審査対象に振り分けられた会話は、設定にかかわらず、安全性の目的で使われ得ます。
  • 会話を削除すると履歴からは即時に消え、バックエンドの保存先からは30日以内に削除されます。
  • 親指マークでフィードバックを送ると、その会話全体が最長5年保存されます。

履歴に残したくない相談には、インコグニートチャットが使えます。インコグニートチャットは、モデル改善をオンにしていても学習に使われません。保持の長さやプロジェクト内で使えない点などの制約は、Claudeのインコグニートチャットの使い方と制限にまとめています。組織向けプランの学習・保持の扱いは契約によって異なるため、DPAなど契約書面の確認が先に立ちます。

病歴を含む会話では、フィードバックのボタンを押さない運用が実用的です。会話全体が長期保存の対象になるためです。

迷ったときの切り分け

切り分け

告知書の内容をClaudeに入れてよいかの切り分け

  1. Q質問文だけで足りる作業か?
    答えがいいえのとき

    病歴そのものを扱う作業です。次の問いに進みます。

    答えがはい
  2. Q自分の分の告知書か?
    答えがいいえのとき

    他人の分です。本人の了解を前提に、社内規則や委託先の管理に沿っているかを確かめます。顧客情報なら、施行規則第227条の9以下の措置に照らします。

    答えがはい
  3. Q病名を外しても作業が成り立つか?
    答えがいいえのとき

    病名が必要な作業です。入力先の学習・保持の設定と契約を確認し、インコグニートチャットなど残りにくい面を選びます。顧客分は社内の承認を得てから入力します。

    答えがはい

入力してよい形

質問文だけ、または病名や識別情報を置き換えた形です。回答の確定は手元で行います。

告知書は書く前に、入力の線を決めておく

契約者本人の整理なら論点は設定と保持、代理店なら取得・提供・委託と施行規則の措置です。どちらの立場でも、Claudeの役割は質問票の読み解きと書類の整理までにとどめ、「告げるか告げないか」の判断は保険会社の様式と担当者に残します。質問文だけを渡す運用なら、病歴を入力する場面そのものを避けられます。

家族の分を整理する場面では、保険法が告知義務を負う者に「被保険者になる者」も含めている点を思い出してください。入力する情報の持ち主は、書類の作成者とは別の人であることが多いのです。

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