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Claudeに査読中の原稿をアップロードしてよいか — 出版社の規定と線引き

Claudeに査読中の原稿をアップロードしてよいか — 出版社の規定と線引き

査読を引き受けた原稿をClaudeに入れてよいかは、出版社の規定で決まります。Elsevierの学術誌と書籍、Nature Portfolioの査読者向け記述を比べ、自分の査読メモだけを直す場合の線引きと、編集部への確認の仕方をまとめます。

査読を引き受けた原稿をClaudeに渡してよいかは、Claude側の機能ではなく、依頼元の出版社と学術誌の規定で決まります。ここで調べた3つの規定は、どれも原稿そのものを生成AIに入れることを認めていません。違いが出るのは、自分が書いた査読レポートの言い回しや構成を直すために使えるかどうかです。

Elsevierの学術誌向け規定は、守秘が保たれる「private」なツールなら認めています。Elsevierの書籍・委託コンテンツ向け規定は、レポートの推敲でも入れないよう求めています。この記事では、各規定が査読者に何を求めているかを並べ、自分のメモだけを直す場合の線引きと、迷ったときに編集部へ送る確認の文面をまとめます。

規定の確認が先で、Claudeの設定は後になる理由

原稿を受け取った時点で、査読者は守秘の義務を負います。ツールの安全性をいくら調べても、依頼元が入力自体を禁じていれば使えません。順序は「規定、担当編集者の回答、Claude側の設定」です。

Claudeの設定が効くのは、規定が「守秘が保たれるツールなら可」と読める出版社に限られます。その場合も、どの水準から守秘が保たれると見なされるかは、出版社の定義に従います。

Elsevierの学術誌向け規定は何を認めているか

Elsevierは、学術誌(journals)と書籍・委託コンテンツ(books and commissioned content)で、別のページに規定を置いています。学術誌の査読を引き受けたなら、まず前者です。ページ末尾の更新表記は「Policy updated June 2026」でした。

査読者向けの節(For reviewers)が述べているのは、次の4点です。

学術誌

Elsevier学術誌の査読者向け規定の4点

  • 原稿は一部も入れない

    提出された原稿を、全体でも一部でも、AIツールに入れないよう求めています。著者の守秘と知的財産の権利、含まれる個人情報の保護が理由です。

  • 入れてよいのは自分のレポート

    AIツールは補助的な使い方に限られます。例として、レビューレポートの言語と構成の改善、背景となる文献検索が挙がっています。

  • private なツールだけ

    使うのはprivateなAIツールだけです。入力内容を保持せず、再利用せず、第三者と共有せず、学習にも使わないバージョンを指します。

  • 使ったら開示する

    使ったツールと目的を、レポート内の著者向けコメント欄に書くよう求めています。綴りや文法だけの確認は開示が要りません。

評価そのものはAIに任せられません。批判的な思考と独立した評価はAIで代替できず、誤り・不完全・偏った結論を出す恐れがあるとして、レポートの内容への責任は査読者に残るとされています。

「private」の確かめ方も書かれています。プライバシーポリシーと利用規約で、データの保持とモデルの学習についての記述を探すこと。無料のツールより有料版や法人版を優先すること。ただし法人版でも保証されるわけではなく、確認が必要とされています。

また、FAQには「privateと説明されているツールでも、原稿を入れれば未公開の研究を第三者のシステムと共有することになる」という注意があります。privateなら原稿を入れてよい、という意味ではありません。

Elsevierの書籍・委託コンテンツ向けは一段厳しい

書籍と委託コンテンツのページ(Generative AI Policies for Books and Commissioned Content)は、同じElsevierでも査読者への要求が違います。更新表記は「Policy updated: July 2026」です。

  • 原稿と、その一部をAIツールに入れない
  • 査読者向けの質問票、報告書、やり取りの文面も入れない。言語や読みやすさの改善だけが目的でも同じ
  • 査読の評価にAIを使わない

学術誌向けでは言語と構成の改善が認められていたのに対し、書籍向けでは報告書の推敲目的の入力も求められていません。FAQの「編集者や査読者は査読の過程でAIツールを使ってよいか」への答えも「No」です。書籍の査読を引き受けた場合、自分のメモの推敲にもClaudeは使わない運用になります。

Nature Portfolioは「リスクの3段階」で書いている

Nature Portfolioは、ツールの種類ではなく利用のリスクで3段階に分けています。著者・査読者・編集者に同じ枠組みを当てる作りです。

段階位置づけ査読に関わる例
緑(許可)位置づけ表現・整理・効率を助ける低リスクの利用査読に関わる例査読コメントの翻訳・構造化・明確化、方法論の選択肢の比較
琥珀(注意)位置づけ解釈や評価に影響しうる利用。検証と開示が前提査読に関わる例統計モデルの出力を平易な言葉で説明する、結果を既存文献と比べる
赤(不可)位置づけ学術的判断の代替、または守秘を破る利用査読に関わる例査読をLLMに任せる

査読者の役割として挙がっているのは、次の3点です。

  • 独立した専門的評価の責任は査読者に残る
  • 査読にAIを使ってよいが、原稿の内容を非公開でない・公開のAIツールへ入れてはならない
  • 批評や判断をAIに委ねてはならず、AI利用は開示する

冒頭の基本方針には、原稿、査読報告書、機微なデータを「unsecured or public AI systems」と共有してはならないとあります。守秘が保たれるツールでの補助自体は排除していません。ただし、このページには「unsecured or public」の定義が載っていません。

三つの規定を並べて見えること

やりたいことElsevier学術誌Elsevier書籍・委託Nature Portfolio
原稿の本文や一部を入れるElsevier学術誌不可Elsevier書籍・委託不可Nature Portfolio公開・非公開でないツールには不可
自分のレポートの言語・構成を直すElsevier学術誌可(privateなツール、開示あり)Elsevier書籍・委託不可Nature Portfolio緑の例に近い(報告書は公開ツールに共有しない)
査読の判断・結論をAIに出させるElsevier学術誌不可Elsevier書籍・委託不可Nature Portfolio赤(不可)
原稿由来の文言を含まない一般的な疑問Elsevier学術誌背景の文献検索は可Elsevier書籍・委託該当する記述なしNature Portfolio方法論の選択肢の比較が緑の例

三つに共通するのは、原稿を入れないことと、評価をAIに任せないことの2点です。分かれるのは、自分のレポートを入れてよいかどうかです。同じ操作でも、引き受けた媒体によって答えが変わります。

自分の査読メモだけを直す場合の線引き

規定が許す媒体の場合に限り、次の範囲が現実的な線です。

  1. 原稿の文言、図表の数値、著者名、固有の手法名を含めない
  2. 入れるのは、自分が書いた一般化した指摘文だけにする
  3. 評価(採択・修正・却下の判断)はClaudeに出させない
  4. 直した文面は、自分で読み直してから送る
  5. 規定が開示を求めるなら、ツール名と目的をレポートに書く

2に当たる入力例を示します。書籍の査読では使えない手順なので、依頼元の規定を確かめた後に限ってください。

次の文は、私が書いた査読コメントの下書きです。
内容は変えずに、丁寧な敬体の英語に直してください。
- 指摘の強さ(必須の修正か、任意の提案か)は変えない
- 新しい指摘や根拠を足さない
- 原文にない数値や文献を出さない
 
[指摘文: 原稿の固有名・数値を一般化した形]

この形なら、Claudeに渡るのは指摘の言い回しだけです。「内容は変えない」「新しい指摘を足さない」と明示するのは、手直しの途中で指摘が増減するのを防ぐためです。出力は、元の指摘と一つずつ照らして確認します。

使ったときの開示文はどう書くか

Elsevierの学術誌向け規定は、開示を著者向けコメント欄に入れるよう求め、次の形を提案しています。ツール名と目的を埋め、自分で確認・編集したうえで内容に責任を持つ、という3点が骨子です。

During the preparation of this report, I used [NAME OF TOOL / SERVICE]
in order to [REASON]. After using this tool/service, I reviewed and
edited the content as needed and I take full responsibility for my
critical assessment and feedback on this manuscript.

[REASON]には「言語の改善」「構成の整理」のように、実際にやったことだけを書きます。評価に使っていない以上、評価に触れる目的は書けません。綴りや文法だけを確かめるツールは、開示の対象外とされています。

Claude側で確認しておく設定

規定が使用を許す場合も、入力した内容がどう扱われるかは確認が要ります。Anthropicのプライバシーセンターの記事(Free・Pro・Maxなどの個人向け製品が対象)には、次の記述があります。

  • チャットは、利用者がモデル改善への利用を許可している場合に、モデルの改善に使われる
  • 安全性の確認対象としてフラグが付いた会話は、その分析に使われることがある
  • シークレット(Incognito)チャットは、モデル改善を有効にしていても、改善に使われない
  • 評価ボタン(サムズアップ・サムズダウン)でフィードバックを送ると、その会話全体が最長5年保存される

最後の点は見落としやすい箇所です。査読関連の文面を扱った会話では、評価ボタンを押さないほうが無難です。Elsevier学術誌の「private」の定義に照らすと、モデル改善を許可した個人向けの設定は、少なくとも入力を学習に使わない条件から外れます。

法人向けの製品は別の記事で扱われています。プラン別の学習オフの違いはClaudeの利用規約で商用利用はどこまで可能かにまとめています。どの設定が自分の媒体の守秘水準を満たすかは、媒体の判断に従います。

迷ったら編集部に送る確認の文面

「unsecured or public」の定義が規定に無く、「private」の判断も最終的には媒体側に委ねられます。使う予定のツールが許容されるかは、編集部に聞くのが確実です。聞くときは、使いたい範囲を先に区切って書きます。

Subject: Use of an AI tool when reviewing manuscript [ID]
 
Dear [Editor name],
 
Thank you for inviting me to review manuscript [ID].
Before I start, I would like to confirm the journal's policy.
 
I would not upload the manuscript or any part of it to any AI tool.
I would like to ask whether I may use a generative AI tool
only to improve the language of my own review comments,
without including any manuscript content.
 
If the journal requires disclosure of such use, please let me know how.
 
Best regards,
[Name]

返事が来るまでは、Claudeに入れずに進めるのが安全です。口頭の許可より、メールなど文面に残る回答のほうが、後で自分の判断を説明するときに役立ちます。

査読を受ける側の作業は別の記事で

自分の投稿論文に届いた査読コメントへの回答書を作る場合は、事情が逆になります。自分の原稿を扱うため、守秘の対象は共著者や未公開データになります。手順はClaudeで査読コメントへの回答書を下書きするに、投稿規定との照合はClaudeで論文の投稿規定への適合をチェック表で点検する手順にあります。

まとめ

査読を引き受けた原稿は、Claudeにも、その一部にも入れないのが出発点です。許されるのは、依頼元の規定がAI補助を認め、かつ原稿由来の情報を一切含めない範囲に限られます。

Elsevierの学術誌はprivateなツールでのレポート推敲を認め、書籍は認めません。Nature Portfolioは守秘が保たれるツールでの補助を認め、査読そのものの代替を赤と位置づけています。引き受けた媒体の規定を読み、判断がつかなければ、使いたい範囲を区切った文面で編集部に確認してください。

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