特定個人情報をClaudeに入力する前に — マイナンバー法が事業者に課す制限
従業員のマイナンバー(特定個人情報)をClaudeに貼り付ける前に、番号法の利用・提供・収集保管の制限と委託の考え方を確認し、伏せてから渡す実務までまとめます。
従業員のマイナンバーをClaudeに貼る前に確認する3つの制限
給与や年末調整の書類を整理させようとして、従業員のマイナンバーが写ったPDFをそのままClaudeに渡す。担当者なら一度は考える場面です。
結論から言うと、番号法(マイナンバー法)は個人情報保護法より厳しく、番号を含む個人情報の利用・提供・収集と保管を限定しています。個人情報保護法では認められる「本人の同意があれば使える」という逃げ道もありません。Claudeに番号ごと渡す運用は、この3つの制限に照らして説明がつかなくなりがちです。
個人情報保護委員会(PPC)のガイドラインは、個人番号をその内容に含む個人情報を「特定個人情報」と定義しています。従業員から預かった番号だけでなく、番号を含む書類や台帳のデータも対象です。番号法の適用を受けるのは全ての事業者で、従業員を雇う会社にも当てはまります。
| 制限 | 何を縛るか | Claudeへの入力で問われる点 |
|---|---|---|
| 利用の制限 | 何を縛るか番号を使える事務の範囲 | Claudeへの入力で問われる点書類の下書きや要約が、その範囲に入るか |
| 提供の制限 | 何を縛るか別の法人に番号が移ること | Claudeへの入力で問われる点番号を含む内容の送信が「提供」に当たるか |
| 収集・保管の制限 | 何を縛るか番号を集める・持ち続けること | Claudeへの入力で問われる点番号入りのファイルや履歴が手元に残らないか |
この記事は、個人の手続き書類を確認する使い方を扱ったClaudeでマイナンバーと年金の手続き書類を確認する方法の裏側にあたる、事業者側の論点です。
本人の同意があっても番号は使えない
個人情報保護法では、本人の同意を得れば利用目的を超えて個人情報を使える場面があります。特定個人情報ではそうなりません。
ガイドラインは、番号は番号法があらかじめ限定した事務の範囲から具体的な利用目的を特定して使うのが原則だとしています。そのうえで、事業者は本人の同意があっても、例外として認められる場合を除き、その事務以外で個人番号を利用してはならないと明記しています。健康保険組合等を除く一般の事業者が番号を使うのは、源泉徴収票や社会保険の届出書へ番号を記載して提出する事務に限られます。
具体例もガイドラインに出ています。
- 給与の源泉徴収事務のために従業員へ番号の提供を求めるのは認められる
- 従業員の営業成績を管理する目的で番号の提供を求めたり保管したりするのは認められない
- 社員番号として個人番号を使ってはならない
Claudeに「この従業員台帳を要約して」と番号列ごと渡す使い方は、番号を源泉徴収などの事務の外で扱う形になりかねません。番号を使う正当な事務の中で使うのか、それとも事務の外で使うのかが、最初の分かれ目です。
なお、ここでいう「個人番号」は数字そのものより広い概念です。ガイドラインは、番号の一部だけを使ったものや不可逆に変換したものでも、番号の唯一無二性などを個人の特定に使っていれば個人番号に当たると判断されることがあると注記しています。「下4桁だけ残したから安全」と決めつけられない点は、伏せる作業のときにも効いてきます。
Claudeに送る行為は「提供」「収集」のどこに当たるか
提供の制限(番号法第19条)は、限定された場合を除いて特定個人情報を「提供」してはならないと定めています。ガイドラインは、提供を法的な人格を超える特定個人情報の移動と説明します。同一法人の内部の部署間の移動は提供ではなく「利用」ですが、別法人への移動は、同じ系列の会社間であっても提供です。
Claudeの提供元であるAnthropicは、利用者の会社とは別の法人です。この定義を素直に当てはめると、番号を含む内容をプロンプトに入れて送る行為は、法人格を超えた移動に見えます。提供が許されるのは、従業員の特定個人情報を税務署や日本年金機構といった行政機関等へ提出するような、番号法が挙げた場合です。生成AIに下書きさせる目的は、その列挙に含まれるとは説明しにくいでしょう。
ここで論点になるのが、委託の枠です。Claudeを「番号を扱う事務を任せた相手」と捉えられれば、提供の例外として整理できる余地があります。ただしその場合、委託元は委託先に対して必要かつ適切な監督を行う義務を負います。この扱いは次の節で見ます。
収集・保管の制限(番号法第20条)についても、ガイドラインは範囲を具体的に示しています。「収集」は集める意思を持って自己の占有に置くことで、番号を書いたメモを受け取る場合のほか、電子計算機を操作して番号を画面に表示させ、書き取ったりプリントアウトしたりする場合も含みます。一方、番号の提示を受けただけでは収集に当たりません。
保管も同じ発想です。ガイドラインは、番号を扱う事務が終わり、法令上の保存期間も過ぎたら、番号をできるだけ速やかに廃棄または削除するよう求めています。Claudeのチャット履歴やアップロードしたファイルに番号が残り続けると、削除すべき番号を自分のアカウントの中に持ち続けることになりかねません。この点は私の読みであり、PPCがチャット履歴について述べたものではありません。
なお、自分自身と同一世帯に属する人の番号は、提供の求めの制限と収集・保管の制限が言う「他人」に含まれません。家族の手続き書類を自分のアカウントで扱う場面は、事業者が従業員の番号を扱う場面とは別の話です。
クラウド型サービスは委託に当たるか
外部のクラウドサービスを使うとき、番号法上の委託に当たるかどうかについて、PPCのQ&A(Q3-12)は次のように基準を示しています。
- 基準は、事業者が契約内容を履行するにあたって、個人番号をその内容に含む電子データを取り扱うかどうか
- 取り扱わない場合は、そもそも番号を扱う事務の委託を受けたとは言えず、番号法上の委託に該当しない
- 「取り扱わない場合」の例として、契約条項で個人番号を含む電子データを取り扱わない旨が定められ、適切にアクセス制御が行われている場合が挙がっている
一方、委託に当たらない場合でも、Q3-13は、委託先の監督義務は課されないものの、クラウドサービスを利用する事業者は自ら果たすべき安全管理措置の一環として、クラウド事業者内のデータに適切な安全管理措置を講じる必要があると答えています。
これをClaudeに当てはめるとどうなるでしょうか。入力欄に番号を含めれば、Claudeは番号を含む電子データを処理する形になります。「取り扱わない旨の契約条項とアクセス制御」の例にそのまま乗るとは考えにくいところです。Claudeの利用条件が番号を扱わない契約になっているかは、この記事で確認した一次ソースの範囲では確認できていません。確認できないまま番号を含めて入力するのは、根拠が薄い運用になります。
委託と評価する場合は、ガイドラインが求める必要かつ適切な監督が要点になります。監督には次の3つが含まれます。
- 委託先の適切な選定(設備、技術水準、従業者への監督・教育の状況などの確認)
- 安全管理措置を守らせるための委託契約の締結(秘密保持、目的外利用の禁止、再委託の条件、漏えい時の責任、契約終了後の返却または廃棄など)
- 委託先での特定個人情報の取扱状況の把握
Claudeの利用形態や契約形態でこれらを満たせるかは、法務や情報システム部門が契約書面で確認する領域です。Claudeへの入力を第三者提供と委託のどちらで整理するかという一般論は、個人情報を含むプロンプト入力は第三者提供にあたるかが個人情報保護法の側から掘り下げています。番号法は個人情報保護法の特例として、共同利用による第三者提供の例外も適用しません(番号法第30条第2項)。そのため、個人情報保護法の整理をそのまま持ち込めない点に注意が必要です。
違反したときに問われる責任
番号法の罰則は、個人情報保護法の類似規定より重く設計されています。ガイドラインの罰則の表から、入力の場面と関係が深い2行を抜き出します。
| 行為 | 行為者 | 法人 |
|---|---|---|
| 番号を扱う事務に従事する者が、正当な理由なく特定個人情報ファイルを提供(第48条) | 行為者4年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその併科 | 法人1億円以下の罰金(第57条) |
| 上記の者が、不正な利益を図る目的で個人番号を提供または盗用(第49条) | 行為者3年以下の拘禁刑もしくは150万円以下の罰金、またはその併科 | 法人1億円以下の罰金(第57条) |
罰則には「特定個人情報ファイル」の提供や「不正な利益を図る目的」といった構成要件があります。担当者が1件の番号を貼り付けただけで、直ちにこの表の行為に当たるとは限りません。一方で、従業員の業務に関して違反行為があれば、行為者に加えて法人にも罰金が科される仕組みです。
罰則の当否を個別に議論するより、番号を入れずに済ませる設計へ寄せるほうが実務では早道です。
番号を伏せれば個人情報保護法の世界に戻る
特定個人情報の制限は、番号そのものが情報に含まれているから重くなります。PPCのQ&Aは、番号部分を復元できない程度にマスキングまたは削除すれば、個人情報保護法の個人情報として扱えるという考え方を示しています。
- Q2-4: 個人番号部分を復元できないようにマスキング処理をして個人情報とすれば、個人情報保護法の規定に従って個人情報データベース等を作れる
- Q5-9: 提供できない特定個人情報の提供を求められた場合も、個人番号部分を復元できない程度にマスキングまたは削除すれば個人情報となり、個人情報保護法の規定に従う
つまり、書類の様式確認や文面の整理をClaudeに頼みたいなら、番号の桁を渡さないのが最も筋のよい扱いです。マスキングの程度は「復元できない」ことが基準です。透けて見える黒塗りや、番号の一部だけを残した状態は、先の注記のとおり個人番号と見なされる可能性が残ります。
給与・年末調整の書類を渡す前のマスク手順
実務の流れは次のとおりです。
- 渡す目的を決める(様式の確認、記載例の作成、集計表の体裁整理など)
- その目的に番号が要るかを確認する(要る場面はほぼありません)
- 番号を含む列・欄を削除するか、復元できない形で伏せる
- マスク済みファイルを目視で確認してから、Claudeに渡す
- 作業が終わったら、チャット履歴やアップロードしたファイルの扱いを見直す
テキストやCSVは、12桁の並びを機械的に置き換えておくと取りこぼしを減らせます。次のスクリプトは、標準入力のテキストから12桁の数字列(ハイフン・空白区切りを含む)を伏せ字に置き換えます。
import re
import sys
# 4桁-4桁-4桁(区切りは任意)の12桁並びを対象にする
PATTERN = re.compile(r"(?<!\d)\d{4}[-\s]?\d{4}[-\s]?\d{4}(?!\d)")
text = sys.stdin.read()
print(PATTERN.sub("[個人番号 伏せ]", text))python3 mask_mynumber.py < 従業員台帳.txt > 従業員台帳_masked.txt
grep -c "個人番号 伏せ" 従業員台帳_masked.txtこのスクリプトは口座番号など別の12桁も伏せます。取りこぼすよりも余分に伏せる側に倒した設計です。一方で、画像やスキャンPDFの中の番号、桁の途中で改行された番号、手書き文字は拾えません。それらは黒塗りやトリミングで番号欄を落とした版を作り、出力を目で確かめる工程が欠かせません。
伏せ字で渡すときは、プロンプトにも前提を書いておくと、番号の補完や推測を防げます。
添付の様式には、個人番号を「[個人番号 伏せ]」に置き換えてあります。
番号の桁を推測・補完せず、伏せ字のまま扱ってください。
記載漏れがないか、欄の埋まり方だけを確認してください。Claude Codeで社内の給与フォルダを扱う場合は、権限設定で読み取り自体を止める手もあります。Read のdenyルールに対象パスを書くと、Claudeのファイルツールがそのファイルやディレクトリを読めなくなります。
{
"permissions": {
"deny": [
"Read(./payroll/**)",
"Read(./hr-export/**)"
]
}
}パスは実際のフォルダ構成に合わせて置き換えます。マスク作業の前に、生の台帳を置く場所をこのルールで塞いでおけば、番号入りのファイルが誤って読まれる経路が減ります。個人の確定申告書類を伏せて渡す考え方はClaudeで確定申告・年末調整の下書きを作るときの注意点にもあり、事業者の場合はそれに社内の権限管理が加わります。
場面別に見る「渡してよい範囲」の目安
判断の目安を場面別に並べると、次のようになります。最終的な可否は、自社の安全管理措置と契約内容によって変わります。
| 場面 | 番号を含めたまま渡す | 番号を伏せて渡す |
|---|---|---|
| 源泉徴収票の様式・記載欄の確認 | 番号を含めたまま渡す避けたい | 番号を伏せて渡す支障が出にくい |
| 従業員名簿の集計・体裁整理 | 番号を含めたまま渡す避けたい | 番号を伏せて渡す番号列を削除すれば足りる |
| 扶養控除の申告書の記載漏れチェック | 番号を含めたまま渡す避けたい | 番号を伏せて渡す欄の埋まり方の確認なら成立する |
| 算定基礎届など社会保険書類の下書き | 番号を含めたまま渡す避けたい | 番号を伏せて渡す報酬額の整理なら番号なしで進む |
算定基礎届や月額変更届のような社会保険書類では、報酬額の整理や文面の下書きに番号は必要ありません。番号を除いて進める具体的な手順は、Claudeで算定基礎届と月額変更届を下書きする手順が扱っています。
まとめ
事業者がマイナンバーをClaudeに入力する場面は、番号法の利用・提供・収集保管の制限に照らして説明が要る領域です。本人の同意があっても番号を事務の外で使えず、Claudeへの送信は別法人への移動として「提供」や「委託」の整理が必要になり、番号が履歴やファイルに残る点も保管制限と隣り合わせです。
実務では、番号を復元できない形で伏せてから渡す運用がいちばん筋がよく、PPCのQ&Aも、マスキングにより個人情報保護法の枠へ戻す考え方を示しています。Claude側の学習設定や保存期間まで含めた確認の進め方は、Claudeに個人情報を入力する前に確認する一次資料とClaudeに機密情報を入力しても安全かが入口になります。番号を扱う事務そのものにClaudeを使うなら、契約と安全管理の確認を担当部門と済ませてからの話です。