Claude Media
Claudeに限定提供データを入力してよいか — 取引先データと契約の確認

Claudeに限定提供データを入力してよいか — 取引先データと契約の確認

取引先から受領したデータセットは、不正競争防止法の限定提供データに当たるのか。条文の定義と、Claudeへの入力可否を左右する提供契約の確認項目をまとめます。

結論:入力の可否を決めるのは、条文より先に提供契約

取引先から受領したデータセットをClaudeに渡す前に、確かめることは2つあります。1つは、そのデータが不正競争防止法の「限定提供データ」に当たるかどうか。もう1つは、提供契約が目的外の利用や第三者への開示をどう縛っているかです。

実務で先に効くのは後者です。限定提供データに当たっても、条文が禁じているのは主に不正な取得と、不正の目的を伴う使用・開示です。業務の処理のためにデータを入力する行為が、それだけで不正競争になると読める条文はありません。

一方で、契約に目的外利用の禁止や再委託の制限があれば、条文とは別に、契約違反の問題が生じます。限定提供データか営業秘密かの切り分けは、契約を読む順番を決める役割です。

Claude側の条件も分かれます。会社契約のアカウント(Team・Enterprise・API)では、Commercial Termsが顧客のコンテンツでの学習を禁じています。個人向けプランでは、モデル改善の設定が結果を左右します。

本記事は一般的な整理であり、法的助言ではありません。個別の契約や事案は、弁護士などの専門家に確認する前提で読んでください。

限定提供データとは何か

不正競争防止法の第2条第7項は、限定提供データを次のように定義しています。

業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く)

要素に分けると、次の4つです。

要素条文の言葉取引先データでの見方
提供の相手条文の言葉業として特定の者に提供する取引先データでの見方取引先が事業として、特定の相手に出しているデータか
蓄積条文の言葉電磁的方法により相当量蓄積取引先データでの見方一定のまとまりがあるデータセットか
管理条文の言葉電磁的方法により管理取引先データでの見方提供側が電子的な管理をかけているか
除外条文の言葉営業秘密を除く取引先データでの見方秘密管理されているなら、営業秘密の側で見る

条文は「相当量」の水準を、件数や容量で定めていません。管理の具体的な手段も、数値や方式では書かれていません。ここは当てはめの判断になるため、断定せず、提供契約の記載と合わせて法務に確認する領域です。

営業秘密との切り分け

定義の末尾の括弧書きが、2つの制度を分けています。営業秘密は「秘密として管理され、公然と知られていない」情報で、秘密管理性が決め手でした。この論点は営業秘密の秘密管理性は生成AIへの入力で失われるかで扱っています。

限定提供データは、特定の相手に提供することを前提にしたデータです。取引先が秘密として管理せず、契約の相手に広く提供するデータは、営業秘密には当たらなくても、限定提供データに当たる余地があります。

受領した側から見ると、同じデータセットが営業秘密にも限定提供データにもなり得る、という点が混乱のもとです。両方の可能性を残したまま、次の節で何が禁じられているかを見ます。

不正競争になるのは、どんな行為か

限定提供データに関する不正競争は、第2条第1項の第11号から第16号に並んでいます。取得・使用・開示のそれぞれに、不正の経路があるかどうかで分かれます。

号行為の型要点
11号行為の型不正取得とその後の使用・開示要点窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段で取得する
12号行為の型不正取得が介在したことを知っての取得要点取得時に不正取得の介在を知っている
13号行為の型取得後に知ってからの開示要点取得後に不正取得の介在を知り、開示する
14号行為の型提供を受けた者による不正の使用・開示要点不正の利益を得る目的、または保有者に損害を加える目的で行う。使用は、管理の任務に違反する場合に限る
15号行為の型不正開示の介在を知っての取得・使用・開示要点14号の不正開示が介在したことを知っている
16号行為の型取得後に知ってからの開示要点取得後に不正開示の介在を知り、開示する

取引先から正規に受領した人に最も関わるのは、14号です。データを示された側の使用と開示で、要件が違います。

  • 使用: 次の2つを両方満たすものだけが対象になる
    • 不正の利益を得る目的、または保有者に損害を加える目的がある
    • 限定提供データの管理に係る任務に違反して行う
  • 開示: 任務違反の要件は付かず、上の目的の要件だけで足りる

開示の側は、目的の評価が結論を決めます。

Claudeへの入力は、この条件に当たるか

Claudeにデータを入力することは、データを第三者の事業者のサービスで処理させる行為です。この入力が、第三者事業者への「開示」と評価される余地は残ります。開示と評価されるなら、14号では任務違反の要件がなく、目的の評価だけで決まります。

社内の分析業務のために入力する場合、条文が要件とする「不正の利益を得る目的」や「損害を加える目的」には、通常は結びつきません。使用と見る場合も、目的に加えて任務違反が要るので、同じ結論です。

ただし、目的の有無は事案ごとの評価です。たとえば、受領したデータで作ったモデルや派生物を取引先と競合する事業に転用する場合は、目的の点で争いになり得ます。入力の方法がどうであれ、転用の目的が論点になるため、Claudeを使う局面だけで白黒がつく話ではありません。

適用除外も条文にある

第19条第1項第9号は、第11号から第16号までの不正競争について、次の行為を適用除外にしています。

  • 取引によって限定提供データを取得した者が、取得時に不正開示などの介在を知らなかった場合に、取引で得た権原の範囲内でその限定提供データを開示する行為
  • 相当量蓄積されている情報が、無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得し、使用し、開示する行為

前者の「権原の範囲内」は、提供契約で何を許されているかに直結します。契約が許す範囲を超えた開示は、この除外の外に出る可能性があります。後者は、公開情報と同一のデータなら対象外になる、という意味です。

契約で確認する5項目

不正競争防止法の側が、主に目的の要件で絞られている以上、入力の可否は提供契約の文言で決まる場面が多くなります。契約書でまず探す項目は、次の5つです。

確認項目契約書での探し方Claudeへの入力との関係
利用目的契約書での探し方「利用目的」「目的外使用の禁止」Claudeへの入力との関係分析・要約が許された目的に入るか
第三者への開示契約書での探し方「第三者」「開示の禁止」Claudeへの入力との関係クラウドの生成AIサービスが「第三者」に当たるか
再委託契約書での探し方「再委託」「委託先」Claudeへの入力との関係処理の委託を取引先の同意なしにできるか
管理要件契約書での探し方「管理」「アクセス制限」Claudeへの入力との関係提供側が求める管理水準を、入力先が満たすか
返還・廃棄契約書での探し方「返還」「削除」「終了時」Claudeへの入力との関係契約終了時に、入力先の保持をどう扱うか

生成AIが「第三者」や「委託先」に当たるかどうかは、契約書の定義によります。定義が曖昧なら、取引先に書面で確認するのが確実な経路です。

契約書の条項をClaudeに抜き出させる

契約書そのものを会社契約のClaudeに貼り、上の5項目を表で抜き出させる使い方もあります。契約書は取引先との秘密保持の対象になっていることが多いので、この作業も、入力先のアカウントを先に決めてから行います。

次のプロンプトは、一例として組んだものです。

以下は取引先A社とのデータ提供契約の本文です。
次の5項目について、該当する条項番号・原文の引用・解釈の余地がある点を表にしてください。
  1. 利用目的の定め
  2. 第三者への開示の禁止
  3. 再委託に関する定め
  4. 管理要件(アクセス制限・保管場所など)
  5. 契約終了時の返還・削除
該当する条項が見つからない項目は「記載なし」と書き、推測で埋めないでください。
最後に、クラウド型の生成AIサービスにデータを入力する行為が、
上記のどの条項に触れうるかを、断定せず論点として列挙してください。

「記載なし」と書かせるのは、読み手が空欄を推測で補わないための指示です。出力は条項番号と引用で検算できる形にし、最終的な解釈は法務が行います。

Claude側の条件:会社契約と個人向けで分かれる

契約を確認した後は、入力先のClaudeが何を約束しているかを見ます。

Commercial Termsが定めていること

Team・Enterprise・APIなど会社契約のサービスには、Commercial Termsが適用されます。データの扱いに関わる条項は3つあります。

  • 顧客は入力(Inputs)に関するすべての権利を保持し、出力(Outputs)を所有する。Anthropicは、サービスの顧客コンテンツ(Customer Content)でモデルを学習してはならない(Section B)
  • Customer Contentは、顧客の機密情報として扱われる(Section E.1)
  • 受領側は、機密情報を不正な使用・アクセス・開示から、自社の機密情報と同じ方法で、かつ合理的な注意を下回らない水準で保護する(Section E.2)

さらに、Section L.1は、顧客が「サービスに入力を送るのに必要なすべての権利と許可を持つ」ことを表明・保証すると定めています。取引先のデータを入力するとき、この保証の中身が自社に成り立つかどうかが、契約上の論点になります。提供契約が入力先まで許していなければ、保証の前提が揺らぎます。

個人向けプランは設定で結果が変わる

Free・Pro・Maxなど個人向けでは、会話やコーディングセッションが学習に使われる場合が3つ示されています。

  • 利用者がモデル改善への利用を許可した場合
  • 会話が安全性の審査でフラグされた場合
  • 試験参加プログラムなどに明示的に参加した場合

インコグニートのチャットは、モデル改善の設定を許可していても学習に使われません。コネクタ(Google Driveなど)の生の内容は対象外で、会話に直接貼り付けた内容は含まれえます。

取引先のデータを入力する経路としては、個人アカウントは設定の変更を会社が強制できない点で不利です。設定ごとの違いはClaudeを学習させない設定で、情報の種類ごとの扱いはClaudeに機密情報を入力しても安全かで扱っています。

入力前の判断を表にする

ここまでの確認結果を、入力前の判断として並べます。表は一例で、各行の最終判断は契約書と法務の確認が前提です。

状況判断の方向
契約が分析目的での利用を明示し、第三者開示・再委託の制限がない判断の方向会社契約のClaudeで入力できる方向。個人アカウントは避ける
契約に「第三者への開示禁止」があり、クラウドサービスの扱いが不明判断の方向取引先に書面で確認してから入力する
契約に再委託の事前同意が必要とある判断の方向同意を得るまで入力しない
契約が、提供データのクラウドへのアップロード自体を禁じている判断の方向入力しない。要約や加工も、データを含む入力になる
データが公開情報と同一(無償で公衆に利用可能)判断の方向条文上の適用除外(19条1項9号ロ)に近い。ただし契約の定めは別に確認する
契約書が見当たらない、または口頭の提供だった判断の方向入力前に、利用範囲を取引先と書面で確定する

記録として残すもの

後から経緯を説明できるよう、データごとに「いつ・誰から・どの契約で受領し・どのサービスに入力したか」を台帳に残しておくと、判断の根拠を示せます。項目は次のとおりです。

台帳の項目記載例
データ名・受領日記載例取引先A社 販売実績2025年度 / 受領日
提供契約記載例契約名・条項番号(利用目的、再委託)
入力先記載例会社契約のClaude(Team)、Projectの名前
確認者・確認日記載例法務の担当、確認日
取引先への確認記載例書面確認の有無と日付

権利侵害のときの効果

限定提供データに関する不正競争の被害者には、法が用意する手段があります。

  • 差止請求: 侵害の停止または予防を請求できる(第3条)
  • 損害賠償: 故意または過失で侵害した者に請求できる(第4条)
  • 損害額の算定: 限定提供データの使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を、損害額として請求できる(第5条第3項第4号)
  • 消滅時効: 使用行為に対する差止請求は、保有者が事実と行為者を知った時から3年、行為の開始から20年で消滅する(第15条第2項による準用)

これらは、不正競争に当たる場合の話です。契約違反の場合は、契約書の損害賠償条項や解除条項が先に働きます。双方を分けて考える点が、取引先データの取り扱いで外せません。

自社が提供する側に立つとき

逆に、自社が取引先へデータを提供する立場なら、提供契約に次の事項を書いておくと、相手のAI利用の可否が曖昧になりません。

  • 利用目的と、禁止する目的外利用
  • 生成AIサービスへの入力を許すか、許すなら会社契約のサービスに限るか
  • 学習に使われない設定やプランを条件にするか
  • 契約終了時の削除と、その確認方法

限定提供データの保護は、提供側が契約と管理で枠を作ってはじめて機能します。受領側も提供側も、AI利用を契約の文言に落とすところが出発点です。

この記事を共有:XはてブLinkedIn