Claudeで法人の取引時確認を種類別の表にする — 犯収法の確認事項と書類
犯収法の取引時確認で法人客に確認する4項目を、法人の種類別の表にClaudeでまとめる手順。実質的支配者の判定順と書類の組み合わせ、顧客情報を入れない運用まで。
法人客の取引時確認は、確認する事項そのものは法律で4つに決まっています。法人の種類によって変わるのは、使える書類の組み合わせと、実質的支配者を決める判定のルート、そして確認が簡略になる相手かどうかです。この差を法人の種類別に1枚の表へ落とせば、窓口で迷う時間が減ります。
表の下書きは、条文をClaudeに渡して作らせるのが早い作業です。ただし渡すのは法令の本文だけにします。実在の顧客の代表者名、住所、株主名簿は入れません。ここでは、条文の読み方、法人の種類別の表、実質的支配者の判定例、Claudeへの指示文と検算の方法を順に示します。
取引時確認の義務を負うのは誰か
取引時確認を求めているのは、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)第4条です。義務を負うのは「特定事業者」で、第2条第2項に列挙されています。士業では、司法書士、行政書士、公認会計士・監査法人、税理士が同項に並びます。宅地建物取引業者、貴金属等の売買を業とする者、金融機関なども含まれます。
弁護士は別扱いです。第4条の特定事業者から弁護士等は除かれ、同等の措置は日弁連の会則で定められます。弁護士の事務所が表を作るときは、条文の読み替えでなく会則を元にします。
特定事業者であっても、すべての取引で確認が要るわけではありません。確認の対象は、別表で業務ごとに定められた「特定取引」です。また、同じ顧客と過去に取引時確認を済ませ、確認記録を保存している場合は、第4条第3項により再確認が省かれる取引があります。表を作る前に、自分の事業が別表のどの区分に当たり、どの取引が特定取引なのかを先に決めておきます。
法人客に確認する4項目と担当者の確認
法人の場合、第4条第1項が求める確認事項は次のとおりです。方法は施行規則(主務省令)が定めています。
| 確認事項 | 内容 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 本人特定事項 | 内容名称、本店または主たる事務所の所在地 | 確認の方法書類の提示、登記情報、法人番号の公表事項などから選ぶ(規則第6条第1項第3号) |
| 取引を行う目的 | 内容取引の目的 | 確認の方法代表者等からの申告(規則第9条) |
| 事業の内容 | 内容法人の事業 | 確認の方法定款、登記事項証明書などの書類の確認(規則第10条) |
| 実質的支配者 | 内容事業経営を実質的に支配できる自然人 | 確認の方法代表者等からの申告(規則第11条第1項) |
これとは別に、実際に窓口に来て取引をする自然人(代表者等)がいるときは、その人の本人特定事項も確認します(法第4条第4項)。法人の登記と、来店した担当者の本人確認は別の手続きです。表にも別の列を立てておくと混ざりません。
事業の内容の確認に使う書類には、期間の条件が付くものがあります。登記事項証明書など、有効期間のない官公庁発行の書類は、確認する日の前6か月以内に作成されたものに限ります。定款はこの限定の対象外です。有効期限のある書類は、確認する日に有効なものを使います。
法人の種類で何が変わるか
種類別の表に行を立てる差は、条文の上では次の六つの区分に当たります。
| 法人の区分 | 確認事項の範囲 | 実質的支配者の決め方 | 書類・方法の注意 |
|---|---|---|---|
| 資本多数決法人(株式会社など、議決権が持株数に応じて与えられる法人) | 確認事項の範囲4項目すべて | 実質的支配者の決め方議決権の25%超を直接・間接に持つ自然人。いなければ支配的影響力を持つ自然人。それもいなければ代表者 | 書類・方法の注意通常の確認は申告のみ。厳格な確認では株主名簿や有価証券報告書など |
| 資本多数決でない法人 | 確認事項の範囲4項目すべて | 実質的支配者の決め方収益の配当・財産の分配を25%超受ける自然人、または支配的影響力を持つ自然人。いなければ代表者 | 書類・方法の注意厳格な確認では登記事項証明書など、代表権を持つ者を示す書類 |
| 外国に本店を置く法人 | 確認事項の範囲4項目すべて | 実質的支配者の決め方国内法人と同じ規則で判定 | 書類・方法の注意本人確認書類に外国政府・国際機関の発行書類が加わる。事業内容も外国法令上の書類で確認できる |
| 設立登記をしていない法人 | 確認事項の範囲4項目すべて | 実質的支配者の決め方国内法人と同じ | 書類・方法の注意登記事項証明書の代わりに、所轄の行政機関の長が名称と所在地を証する書類 |
| 国等(独立行政法人、国や地方公共団体が出資する法人、外国政府、金融商品取引法の施行令が定める有価証券の発行者など) | 確認事項の範囲担当者の本人特定事項のみ | 実質的支配者の決め方判定しない | 書類・方法の注意法第4条第5項により、法人としての目的・事業・実質的支配者の確認は不要 |
| 人格のない社団・財団 | 確認事項の範囲担当者の本人特定事項、目的、事業の内容 | 実質的支配者の決め方判定しない | 書類・方法の注意実質的支配者の確認は読み替えにより対象外 |
国等の範囲は施行令第14条が定めています。独立行政法人、国または地方公共団体が資本金などの2分の1以上を出資する法人、外国政府や国際機関、金融商品取引法の施行令第27条の2各号に掲げる有価証券の発行者が並びます。施行規則第18条は、これに準ずるものとして国民年金基金や企業年金基金、外国の市場に上場または登録している会社(国家公安委員会と金融庁長官の指定する国・地域のもの)などを加えています。
表でいちばん抜けやすいのは、国等の行です。国等の顧客は法人としての確認事項が担当者の本人特定事項に置き換わるので、他の行と同じ4項目を並べると過剰な確認になります。
実質的支配者を判定するときの特例もあります。国等は、その子会社も含めて「自然人とみなす」(規則第11条第4項。勤労者など一部の区分は除く)ので、株主に国等がいる場合はそこで判定が止まり、その先の株主を辿らなくて済みます。
実質的支配者を判定する順番
実質的支配者の判定は、規則第11条第2項の号の順に当てはめます。資本多数決法人の場合の流れは次のとおりです。
- 議決権の25%超を直接または間接に持つ自然人がいるか。いればその人。ただし、他の自然人が議決権の過半数を持つ場合や、支配する意思・能力がないことが明らかな場合は除きます
- いなければ、出資、融資、取引などを通じて事業活動に支配的な影響力を持つ自然人がいるか
- どちらにも当たる人がいなければ、法人を代表して業務を執行する自然人
間接保有の計算は、第3項に定めがあります。自然人本人の議決権割合に、その人の支配法人(自然人が議決権の過半数を持つ法人)が持つ議決権割合を合計します。計算のわかりやすい例を、架空の数字で置きます。
- 自然人Xが直接20%を持つ
- Xが議決権の60%を持つ法人Yが、さらに8%を持つ
- 合計はXの20%にYの8%を足した28%になり、25%を超える
この場合は、Yの持分を按分せず丸ごと足す点が肝です。Yの持分8%のうちXの取り分は4.8%だと考えると、合計は28%でなく24.8%となり、25%以下という逆の判定になります。条文にあるのは支配法人が持つ議決権の割合そのものを足す方式なので、表の備考欄にも「按分しない」と書いておきます。
資本多数決でない法人は、議決権でなく、事業から生じる収益や財産の分配を受ける権利の25%超で見ます。判定の順番は同じで、最後は代表者に落ちます。
法人の本人特定事項を確認する5つの方法
法人の名称と所在地の確認には、規則第6条第1項第3号が定める方法があります。対面しないやり取りのときの追加手順まで表に入れておくと、現場で確認漏れが起きにくくなります。
| 方法 | 概要 | 対面しない場合の追加 |
|---|---|---|
| 本人確認書類の提示 | 概要登記事項証明書、印鑑登録証明書、官公庁発行書類(規則第7条第2号) | 対面しない場合の追加なし(提示を受ける場合) |
| 登記情報の送信 | 概要代表者等の申告と、指定法人からの登記情報の送信 | 対面しない場合の追加代表者等が登記された代表権者でなく、かつ対面しないで申告を受けるときは、本店宛てに転送不要の書留郵便等で取引関係文書を送る |
| 公表事項の確認 | 概要申告と、法人番号の公表事項(名称・所在地)の突合 | 対面しない場合の追加対面しないで申告を受けるときは、本店宛てに転送不要の書留郵便等で取引関係文書を送る |
| 書類の送付 | 概要登記事項証明書などの写しを受け取り、本店宛てに転送不要の書留郵便等で送る | 対面しない場合の追加送付自体がこの手順 |
| 電子証明書 | 概要商業登記法に基づき登記官が作成した電子証明書と、電子署名された取引情報の送信 | 対面しない場合の追加なし |
書類は、提示や送付を受ける日の前6か月以内に作成されたものに限ります。ただし、有効期間や有効期限のある書類は、受ける日に有効であれば足ります。登記事項証明書は期限の記載がない書類なので、6か月の方に当たります。
法人番号の公表事項を使う方法の裏づけとしては、法人番号Web-APIで商号と所在地を引く手順が法人番号Web-APIで取引先名簿を名寄せする記事にあります。窓口の確認で使えるかどうかは、上の表のとおり規則が定める方法に当てはまるかで決まります。
Claudeに表を作らせる手順
条文だけを渡す
法令本文は公開情報なので、そのまま貼って構いません。e-Govの法令APIは、法令ごとの全文を取得できます。取得した版の識別子(law_revision_id)は、表の見出しに書き留めておきます。改正で条文が変わったとき、どの版を元にした表かが後から分かります。
curl -s "https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/\
420M60000F5A001?response_format=json" -o rule.json取得した施行規則のJSONから、第6条、第7条、第10条、第11条、第14条の本文を取り出して貼ります。ClaudeのProjectを使っているなら、同じ条文をProjectの知識として置き、Project instructionsに指示文を書いておけば、毎回貼り直す手間が省けます。Project instructionsは、トーンや立場といった応答の調整に使える機能です。
指示文の例
次は、表を作らせるときの指示文の一例です。
以下に貼る犯収法・施行令・施行規則の条文だけを根拠に、
法人客の取引時確認の確認事項を、法人の種類別の表にしてください。
列: 法人の区分 / 確認事項 / 確認方法 / 使える書類 / 根拠条文
- 条文に書かれていない事項は「条文に記載なし」と書き、補わない
- 各行の根拠条文は、条番号と項・号まで書く
- 判断に迷う区分は表に入れず、末尾に疑問点として列挙する
- 具体的な顧客の情報は扱わない。以降の質問も一般論として答える「条文に記載なし」と書かせるのは、実務の運用で足したくなる確認事項と、法律上の要求を混ぜないためです。社内で上乗せしている確認があるなら、法定の列とは別の列に分けます。
表を検算する
出てきた表は、根拠条文の列を元に1行ずつ原文と突き合わせます。確かめる順番は次のとおりです。
- 国等の行が、4項目でなく担当者の本人特定事項だけになっているか
- 実質的支配者の割合が「25%超」「過半数」になっているか(以上・以下と取り違えやすい)
- 間接保有の合算が、按分でなく割合の足し算になっているか
- 書類の6か月ルールが、有効期限のある書類と取り違えられていないか
Claudeに「各行の根拠となる条文の一文を、そのまま引用して」と頼むのも有効です。引用の文字列が先ほど取得したJSONに存在するか、grep で確かめます。
grep -o '四分の一を超える議決権' rule.json | head -1引用が見つからなければ、その行は言い換えか創作の疑いがあります。最終判断は特定事業者の責任なので、表は担当者が読んで使えるようになってはじめて完成です。
確認記録の列も用意する
確認したあとの記録が、窓口表の出口です。確認記録は取引時確認を行った後すぐに作る必要があり、特定取引等の契約が終了した日などから7年間保存します(法第6条)。施行規則第20条第1項は、記録する事項を定めています。法人客では、次の項目が表の列になります。
| 記録する事項 | 規則第20条第1項の号 |
|---|---|
| 法人の本人特定事項 | 規則第20条第1項の号第21号 |
| 代表者等による取引のときの、代表者等の本人特定事項と、顧客との関係、任に当たっていると認めた理由 | 規則第20条第1項の号第22号 |
| 取引を行う目的 | 規則第20条第1項の号第23号 |
| 事業の内容と、確認に使った書類の名称 | 規則第20条第1項の号第24号 |
| 実質的支配者の本人特定事項と、法人との関係、確認の方法 | 規則第20条第1項の号第25号(国等を除く) |
この表自体は空の様式で、実在の顧客の値を入れるのはClaudeの外にある台帳です。
顧客の個人情報を入れない運用の線引き
法人の取引時確認でClaudeに渡してよいものと、渡さないものを分けます。
- 渡してよいもの: 法令の条文、社内の確認フロー、空の様式、架空の株主構成を使った判定練習
- 渡さないもの: 代表者の氏名・住所・生年月日、本人確認書類の画像、実在法人の株主名簿、実質的支配者の氏名
実質的支配者の判定練習をさせたいときは、前の節のように架空の割合で試します。「Xは20%、Xが60%を持つYが8%」のような形なら、現実の顧客を特定する情報が含まれません。
法務・コンプライアンス部門が生成AIの利用範囲を決めている場合は、その運用に従います。専門職の事務所で生成AIの運用設計を考えるときの切り口は、監査法人のClaude運用設計に読み替える記事にまとめています。本人確認サービスのSumsubをClaudeに連携する手順は、ClaudeとSumsubを連携する方法にあります。
表に入れ忘れやすい例外
通常の取引時確認では、実質的支配者は代表者等の申告だけで確認できます。これが書類の確認に格上げされる場合が、法第4条第2項にあります。
- なりすましの疑いがある取引、または過去の確認で偽りがあった疑いがある顧客との取引
- イランまたは北朝鮮に居住・所在する顧客との取引(施行令第12条第2項)
- 外国の元首や政府・中央銀行の重要な地位にある者、その家族、またはそうした者が事業経営を実質的に支配する法人(施行令第12条第3項)
このような「厳格な顧客管理」の対象では、施行規則第14条第3項により、実質的支配者の確認に書類が必要です。資本多数決法人は株主名簿や有価証券報告書など議決権の保有状況を示す書類、それ以外の法人は登記事項証明書など代表権を持つ者を示す書類を確認します。これに加え、一定額を超える財産の移転を伴う取引では、資産と収入の状況の確認も求められます。
表の通常ルートと厳格ルートは、同じ行に併記すると読み違えます。「通常」と「厳格」で列を分け、厳格な確認に当たる条件を表の上部に1行でまとめておきます。
顧客等と代表者等は、取引時確認に係る事項を偽ってはならないとされています(法第4条第6項)。窓口の表には、虚偽の申告を受けた場合の社内の連絡先も入れておくと、運用が一巡します。
まとめ
法人の取引時確認は、確認の項目は共通で、種類によって「書類」「実質的支配者の判定」「確認が省かれるか」が変わる構造です。表の列はこの3つを軸に組み、Claudeには条文だけを渡して下書きを作らせます。
出来上がった表は、根拠条文の引用を原文と突き合わせて検算し、改正に備えて取得した版の識別子を記録します。顧客の情報は表にも指示文にも入れず、台帳側で扱います。