ClaudeでJIS規格の適合チェック表を作る — 条項ごとに要求事項を抜き出す手順
JIS・IEC規格のPDFから条項番号付きで要求事項を抜き出し、自社設計と照らす適合チェック表にする手順。条項の取り違えを原文で確かめる検証つき。
JIS・IEC規格の適合チェック表は、規格PDFの条項を1行ずつ要求事項に直し、自社設計の該当箇所と並べて作ります。この「条項から要求事項を抜く」工程はClaudeに任せられますが、条項番号の取り違えと、要求の強さの読み違いが起きやすい工程でもあります。この記事では、PDFの渡し方、抜き出しの頼み方、取り違えを原文で確かめる検証、設計との照合表の作り方を順に示します。適合かどうかの最終判断は設計者と審査担当が行います。
先に決めること:どの版の規格を、どこまで渡すか
適合チェック表の物差しになるのは、自社が準拠を宣言する版の規格です。Claudeの記憶にある規格の知識を物差しにすると、版の違いや改正が混ざります。まず次の3点を決めます。
- 規格番号と発行年(例:JIS Q 9001のどの版か)
- 適合を示す範囲(製品の設計か、プロセスか、文書か)
- 表に入れる箇条の範囲(全箇条か、設計に関わる箇条だけか)
規格本文の入手経路も先に確認します。JISCのサイトでは、データベース検索のJIS検索からJISを閲覧できます。規格の内容は画像ファイル(PDF)として掲載され、サイト上で閲覧はできても印刷・購入はできません。購入するときは、原案作成団体等から入手します。日本規格協会が出版するA4判の「規格票」には、多くの場合に解説が付き、制定・改正の経緯や規定項目の説明が載っています。
閲覧したPDFや購入した規格票のデータを、AIサービスにアップロードしてよいかは、入手元の利用条件で決まります。条件が読み取れないときは、入手元に問い合わせるのが先です。許可が得られない場合は、人が条項を読んで要約した表をClaudeに渡す方法が残ります。この方法は、同じ型の別の記事ClaudeでISO 9001の内部監査チェックリストを作り記録と突合するでも扱っています。
規格PDFをClaudeに読ませるときの制約
PDFを渡すと、Claudeは各ページを画像に変換し、ページごとに抽出したテキストを画像に添えて読みます。図や表の中身も読める反面、ページ数と密度に制約があります。
PDFの上限(API / claude.ai)
APIの最大リクエスト
32 MB
パスワード・暗号化のあるPDFは不可
APIの最大ページ数
600
コンテキストウィンドウが1M未満のリクエストでは100
claude.aiのProjectファイル
30 MB
1ファイルあたり。視覚的な解析は100ページ以下のPDF
claude.aiのチャットのPDF
1000ページ
101〜1000ページはテキストのみ処理
規格に特有の注意点が2つあります。
1つ目は、図表が多い規格です。小さい文字、複雑な表、重い図が多いPDFは、ページ数の上限に届く前にコンテキストウィンドウを埋めることがあります。規格は表が多いので、全体を1回で渡さず、箇条の区切りで分割します。
2つ目は、スキャン由来の画像PDFです。JISCが閲覧用に掲載しているPDFは画像ファイルとされています。文字が画像のみのPDFでは、テキスト抽出の結果が空に近くなる場合があります。その場合、Claudeはページ画像だけを頼りに読むことになります。開いたPDFで文字を選択できるかを、渡す前に見ておきます。
渡し方のコツは公式の推奨に沿います。リクエストではPDFをテキストより前に置く、文字は読みやすい状態にする、ページは上向きに回転しておく、といった点です。ページを指定するときは、紙面に印刷されたページ番号ではなく、PDFビューアーが示すページ番号を使います。規格は前付けのローマ数字ページがあるので、この違いがそのままズレになります。
Projectに置いて条項単位で抜き出す
繰り返し使う規格は、Projectの知識ベースに置くと便利です。Projectは独立したチャット履歴と知識ベースを持つ作業場で、知識ベースの内容はそのProject内のすべてのチャットで使われます。有料プランでは、知識ベースがコンテキストの上限に近づくと、RAGモードが自動で有効になり、容量が最大10倍まで広がります。
RAGモードになると、質問に関係する部分が検索されて渡される形になります。「全条項を漏れなく抜く」依頼には、この仕組みは向きにくいと考えられます。そこで、依頼は箇条の範囲を区切って出します。たとえば「箇条7.1から7.1.5まで」と範囲を指定し、1回の依頼で扱う条項を絞ります。
規格PDFから要求事項の表を作る流れ
- 1
PDFを準備する
規格番号と版を確認し、箇条ごとにPDFを分割します。画像PDFなら、文字が選択できるかも見ます。
- 2
範囲を区切って抜き出す
箇条番号の範囲を指定し、要求事項をCSVで出させます。原文の引用とページ番号を必ず付けさせます。
- 3
原文と照合する
表の各行を、人が原文の該当ページと突き合わせます。取り違えの検証は次の節で行います。
- 4
自社設計と並べる
確認済みの表に、設計文書の該当箇所と判定欄を足して適合チェック表にします。
抜き出しを頼むプロンプトの例を示します。列は自社の様式に合わせて変えてください。
添付の規格PDF(JIS ○○ ○○○○)から、箇条7.1〜7.1.5に含まれる
要求事項を抜き出し、CSVで出力してください。
列: 箇条番号, 要求事項の要約, 原文の引用(該当文の逐語), PDFのページ番号,
要求の強さ(必須/推奨/許容/情報のみ)
条件:
- 箇条番号は、原文に印刷されている番号をそのまま書く
- 原文の引用は、要約ではなく該当文を一字一句そのまま写す
- ページ番号はPDFビューアーが示す番号で書く
- 判別できない箇所は推測せず、「判読不能」と書く
- 注記・解説・附属書の記述は「情報のみ」とし、要求事項に混ぜない「要求の強さ」の列は、規格の文末表現を手がかりにClaudeが分類します。「〜なければならない」と「〜が望ましい」では、適合を示す責任の重さが違います。ここは分類結果をそのまま信じず、原文の引用の文末と見比べて確かめます。
「原文の引用」と「ページ番号」を必須の列にしているのが、この手順の要です。要約だけの表は、読んだ人に確かめる手段がありません。逐語の引用があれば、検証は原文との文字列照合で済みます。
条項の取り違えを原文で確かめる
規格の抜き出しで起きやすいのは、次の4つの取り違えです。
抜き出しで起きやすい4つの取り違え
箇条番号のズレ
表やページの境目で、直前または直後の箇条の要求が別の番号に紐づく。
要求の強さの読み違い
推奨を必須として書く、または注記の記述を要求事項に混ぜる。
複数文の統合による欠落
1つの箇条にある「かつ」「又は」でつながる複数の要求が、1つに要約されて条件が落ちる。
別の版の記述の混入
Claudeの記憶にある旧版・国際規格の記述が、添付PDFの記述として出てくる。
検証は、Claudeに答えさせた後で、別の依頼として行います。同じチャットの続きで「合っていますか」と尋ねても、前の答えを追認しやすいため、検証用に新しいチャットを開くほうが堅実です。
検証1: 引用の逆引き。表の「原文の引用」だけを列挙して渡し、PDFのどのページ・どの箇条にあるかを答えさせます。元の表のページ番号・箇条番号と一致しない行が取り違えの候補です。
次の引用文が、添付PDFの何ページ、どの箇条にあるかを1行ずつ答えてください。
該当がなければ「該当なし」と書いてください。引用文は一字一句の一致で探してください。
1. 「(表から引用文をそのまま貼る)」
2. 「(同上)」検証2: 箇条の抜け落とし。PDFの目次、または箇条の見出し一覧を別途用意し、表の箇条番号と突き合わせます。見出しだけを列挙させて、表にない番号を探す方法もあります。突き合わせ自体は、表計算ソフトの照合関数で足ります。
検証3: 人の抜き取り。全行を人が確認できないときは、箇条ごとに数行ずつ原文を開いて確かめます。「必須」と分類された行を優先して見るのが効率的です。確認結果の表に、確認者と日付を残しておくと、後の審査で説明しやすくなります。
検証4: 版の確認。引用文に旧版の文言が混ざっていないかは、検証1で「該当なし」になる行が教えてくれます。添付PDFに存在しない文は、Claudeの記憶から出てきた可能性が高い行です。
自社設計との照合表にする
要求事項の表が確定したら、同じ表に自社設計の情報を足して適合チェック表にします。列は次のように並べます。
| 列 | 内容 | 誰が埋めるか |
|---|---|---|
| 箇条番号 | 内容規格の番号 | 誰が埋めるか抜き出しの表から転記 |
| 要求事項 | 内容要約と原文の引用 | 誰が埋めるか確定済みの表から転記 |
| 設計の該当箇所 | 内容設計書・図面・試験成績書の名前と章 | 誰が埋めるか設計者が指定、Claudeが候補を出す |
| 判定 | 内容適合/不適合/該当せず/不明 | 誰が埋めるか設計者・審査担当 |
| 根拠・備考 | 内容判定の理由、未解決事項 | 誰が埋めるか設計者・審査担当 |
Claudeに任せるのは「設計の該当箇所」の候補出しです。設計書を同じProjectに置き、要求事項ごとに関係しそうな章を探させます。このとき、判定列は空のままにして、候補の根拠となる設計書の記述を引用させます。
添付の要求事項の表と、設計仕様書(PDF)を照らしてください。
各行について、要求事項に関係する設計仕様書の章番号と該当文の引用を
最大3件まで挙げてください。
条件:
- 「適合している」「不適合」などの判定は書かない
- 設計仕様書に関係する記述が見つからない行は「記述なし」と書く
- 引用は一字一句そのまま、ページ番号付きで書く「記述なし」の行が、設計側の抜けの候補です。ただし、記述がないことは不適合を意味せず、設計書以外の文書(試験規格、検査手順書など)にあるのかもしれません。判定欄を埋める前に、設計者が追加の文書を探します。
IEC規格や、IECに対応するJISを扱うときも手順は同じです。JISCのサイトには、ISO/IECの国内審議団体の連絡先情報へのリンクがあり、国際規格の窓口を調べる入口になります。英語の原文PDFを渡す場合も、箇条番号・引用・ページ番号を必須の列にする点は変わりません。用語の対訳が必要なときは、JIS側の用語を表の別列にして、対応を人が確かめます。
規格の改正に備える
規格が改正されたら、表を作り直すのではなく差分を取ります。旧版と新版のPDFを別々に渡し、箇条ごとに要求事項の追加・削除・文言変更を一覧にさせる使い方です。変更のあった行だけを人が原文で確かめれば足ります。
差分の結果は、変更の疑いがある行の一覧として扱います。「変更なし」と判定された行にも、抜き取りで目を通します。
JISの制定等の状況は、官報に毎月20日(休日の場合は直後の平日)に掲載されると、JISCの案内にあります。定期的に更新を確認する担当を決めておくと、表の版が古いまま使われることを避けられます。
つまずきやすい点
- ページ番号のズレ: 紙面の番号とPDFビューアーの番号が違います。プロンプトにはPDFビューアーの番号を使うと明記します。
- 表の読み取りの崩れ: 複雑な表は、表だけを別のPDFに切り出して渡すか、表の内容を人が転記して渡すと崩れにくくなります。
- 長いPDFの一括投入: 全体を渡すと、上限以前に処理が重くなることがあります。箇条ごとに分割します。
- 検証を同じチャットで行う: 前の答えを追認する方向に流れやすいため、検証は新しいチャットで、引用だけを渡して行います。
- 判定まで頼む: 適合の判断は審査や認証に関わります。Claudeには候補と根拠の引用を出させ、判定欄は人が埋めます。
規格PDFの読み込み全般はClaudeのPDF読み込み・画像解析の使い方とアップロード上限に、長い資料の要約の型はClaudeのPDF要約のコツにまとめています。
まとめ
適合チェック表の品質は、要求事項の表をどれだけ原文に結びつけられるかで決まります。逐語の引用とPDFのページ番号を列に持たせ、別のチャットで逆引きすれば、条項の取り違えは機械的に拾えます。残る判断は、要求の強さの確認と適合の判定です。ここは設計者と審査担当が担います。