社労士の生成AI活用ガイドブックとClaudeで就業規則たたき台を作る方法
全国社会保険労務士会連合会による生成AI活用ガイドブック公開の要点と、Claudeのファイル編集機能で就業規則のたたき台を作る手順をまとめます。
全国社会保険労務士会連合会が生成AI活用ガイドブックを公開した
全国社会保険労務士会連合会(以下、連合会)は2024年9月9日、イノベーションAIプロジェクトの名で社労士向けの「生成AI活用ガイドブック」を公開しました。同時に、社労士向けの研修システムでも解説講座を配信しています。
目的は、生成AIに興味はあるものの業務への取り入れ方に迷っている社労士へ、実践的な情報と注意点を示すことです。基本概念、ChatGPTの使用手順、業務シーン別のプロンプト例、利用上の注意までを1冊にまとめています。生成AIサービスの一例としてChatGPT・Gemini・Microsoft Copilot・Claudeの4つを挙げています。ただし使用例とプロンプトは代表例のChatGPTに絞った構成です。手順と例文もChatGPT前提です。Claude固有の手順や就業規則向けの例文はありません。冒頭の心構えは「小さなプロジェクトや業務からAIの使用を始めましょう」です。就業規則のたたき台も、1つの条文から試す使い方が合います。
資料の時間軸も押さえておく必要があります。
ガイドブックの情報はいつ時点のものか
- 2023年10月ChatGPTの学習データの時点
ガイドブックは、ChatGPTが令和5年10月までの情報しか持たないと記しています。
- 2024年5月資料の作成時点
免責事項に「令和6年5月時点の情報により作成」とあり、サービスの最新情報は常に確認するよう求めています。
- 2024年9月9日連合会が公開
福島県社労士会の会員向けお知らせも同日付です。
資料内の料金やモデルの記述は、作成時の2024年5月のものです。たとえばChatGPT Teamは年契約で月額25ドル/人、Enterpriseは要問い合わせと紹介されています。
ガイドブックの得意・不得意は就業規則づくりにどう当てはまるか
ガイドブックは、得意な作業として「アイデアを出す」「視点を出す」「たたき台を作る」「情報を要約する」「表現方法を変える」の5つを、苦手な作業として「正確な情報を回答する」「長い文章を作成する(規程など)」「計算を行う」の3つを挙げています。就業規則のたたき台に当てはめると、次のとおりです。
| ガイドブックの分類 | 就業規則での作業 |
|---|---|
| 得意:たたき台を作る・情報を要約する | 就業規則での作業条文の下書き、既存規程の要約 |
| 得意:表現方法を変える | 就業規則での作業条文を平易な表現に書き換える |
| 苦手:長い文章を作成する(規程など) | 就業規則での作業就業規則全体を一から書き上げる |
| 苦手:正確な情報を回答する | 就業規則での作業労働基準法の上限規制の最終確認 |
ガイドブック自身も、正確さには慎重です。社労士試験の休業手当の問題(労働基準法第26条)をChatGPTに解かせて正答した例を載せたうえで、「不正解となることもあり、まだまだ正確な情報を回答するのは苦手」と添えています。使い方としては、正確な情報の検索には用いず、アウトプットを支える目的に絞るのがよいとしています。
活用シーン(5)「規程内の文章から表を作成」も同じ線上にあります。ここで表にしているのは就業規則ではなく中小企業基本法の第2条の条文で、条文を表に整理する作業は、得意とされる「情報を要約する」「表現方法を変える」に近い作業です。法改正に合わせた規程の見直しでの使い方は、育児・介護休業法改正の差分をClaudeで洗い出す手順にあります。
プロンプトのコツを就業規則に応用する
ガイドブックが挙げる指示のポイントは3つです。指示を明確にすること、#(ハッシュタグ記号)で項目を区切ること、「より良い回答を提供するために追加で必要な情報があれば私に質問してください」と添えて逆質問を促すことです。立場・要望・前提条件・出力形式・事例の5要素を入れる型も紹介されています。
ガイドブックは5要素の1つに「立場」を挙げ、例文でも「あなたは優秀な社会保険労務士です」で始めています。ただ、試験問題の例の吹き出しは「正答率が上がる・・・?」と疑問形で、効果は断定されていません。
就業規則の条文づくりに当てはめると、次のような指示文になります。
「あなたは優秀な社会保険労務士です。#前提条件 従業員45名、フレックスタイム制を導入予定の受託開発会社です。#要望 休憩・休日に関する条文案を作成してください。#出力形式 既存の条文番号を保ったまま、変更した箇所には[変更]と印を付けてください。不足している情報があれば先に質問してください」
この指示文は、5要素のうち立場・要望・前提条件・出力形式の4つを含みます。末尾の質問依頼は、ガイドブックの「より良い回答を提供するために追加で必要な情報があれば私に質問してください」を短くした形です。
逆質問の一文があると、従業員数や勤務体系のうち何が不足しているかを、たたき台を作らせる前に答えさせられます。
ガイドブックの想定とClaudeのファイル編集は何が違うか
ガイドブックが示すChatGPTの使い方の基本は、チャット欄に文章を入力して回答を読む流れです。26頁の比較表は、使えるモデル、ファイル読込、入力字数を並べています。登録済みの無料版は読込が制限付きで可、有料版は可です。
就業規則の既存ファイルを扱うとき
ガイドブックの想定
登録なしの無料版はGPT-3.5で、ファイルを読み込めず、入力も約5,000字までです。条文を貼り付けて回答をコピーする運用になります。
Claude
Free・Pro・Max・Team・Enterpriseのウェブ・デスクトップ・モバイルで、Word文書(.docx)をはじめとするファイルを作成・編集できます。1ファイル30MBまでアップロード・ダウンロードできます。
対応フォーマットや有効化の詳細はClaudeでファイル作成・編集ができる範囲とセキュリティ設定で扱っています。
就業規則のたたき台をClaudeで作る手順
既存の就業規則からWord文書のたたき台を作る
- 1
機能をオンにする
Free・Pro・Maxは「Settings > Capabilities」で「Code execution and file creation」をオンにします。サポート記事のAvailability節は既定でオンとし、Enabling節はこのトグルをオンにする手順を示しています。Team・Enterpriseは組織の管理者の設定に従います。
- 2
元になるファイルをアップロードする
自社の既存の就業規則、または厚生労働省のモデル就業規則を使います。モデル就業規則の入手先はClaudeで36協定届とモデル就業規則のたたき台を作るにあります。
- 3
修正内容を指定してWord形式で出力させる
変えたい条文、会社の前提、出力形式を具体的に書きます。
指示文の例です。
「アップロードした就業規則のファイルをもとに、当社(従業員45名、フレックスタイム制を導入予定)の実情に合わせて休憩・休日の条文を書き直し、Word文書として出力してください。労使で協議が必要な数値には[要協議]と印を付けてください」
出力されたファイルは、ダウンロードするかGoogle Driveへ直接保存できます。見出し番号や体裁が崩れていないかは、出力後に目視で確かめます。内定時に渡す労働条件通知書の下書きは内定通知書と労働条件通知書の下書きをClaudeで作る手順で扱っています。
就業規則を入れる前に見ておく設定と、プラン別の切り分け
ガイドブックは、氏名・連絡先・住所などの個人情報や機密情報を生成AIに入力しないよう求めています。就業規則のたたき台でも、実在する従業員の情報を条文の例文に含めないのが同じ理由で重要です。
ガイドブックによれば、ChatGPTでは入力した情報がOpenAI社のモデルの学習に使われる可能性があります。学習しないよう設定(オプトアウト)もできますが、完全に削除されているかは不明とされ、入力を避けるよう求めています。生成AIサービスごとに個人情報の取扱いに差がある点も指摘しています。一方で、ChatGPT TeamとEnterpriseは入力内容が学習に使われないとも紹介しています。
著作権についても注意があります。生成物が既存の著作物と同一・類似していると、権利侵害となる可能性があります。生成物をそのまま使っても、著作権法で保護されない可能性があるとも書かれています。他社の就業規則やモデル就業規則を土台にする場合に関わる点です。被災者の情報を扱う労災の書類は労災の給付請求書をClaudeで下書きする社労士向け手順で扱っています。
Claude側の設定には、プランで差が出る点があります。
| 使っているプラン | ネットワークアクセスの扱い |
|---|---|
| Free・Pro・Max | ネットワークアクセスの扱い有効で、承認済みのパッケージ配布元などからインストールできる |
| Team・Enterprise | ネットワークアクセスの扱い組織の管理者がOrganization settings > Capabilitiesで制御する |
Team・Enterpriseの既定値は、サポート記事の中で記述が揃っていません。Teamは「Availability」の節ではネットワークアクセスが既定で無効です。
「Enabling on web and desktop」の節では、「Allow network egress」がオンでパッケージ配布元のみとされています。「Configuring network access」の節では、「package managers only」が既定です。Enterpriseは新規組織でオフとされています。自分の組織がどの状態かは、記事の記述に頼らず管理者に尋ねるのが確実です。
もう1つ見落としやすいのが、MCPコネクタ(外部サービスとの接続)です。記事には、MCP連携を有効にしていると、ネットワーク制限の設定にかかわらず、その接続を通じた通信は可能なままだと書かれています。ネットワークを切った組織でも、コネクタを足せば外部との経路が開く点は別に審査が要ります。
Free・Pro・Maxでは、この機能で作成したファイルアーティファクトを含む会話の公開共有は無効化されています。顧問先に確認を取るために会話リンクを共有する運用は取れず、ファイルをダウンロードして渡す形になります。
法改正への追随は学習時点より後ろの話になる
ガイドブックはハルシネーション(存在しない情報をそれらしく回答すること)も注意点に挙げています。最新の出来事に関する回答は得意ではない、という書き方です(ChatGPTの学習時点は上の時間軸のとおりです)。学習時点より後に施行された改正は、サービスごとに学習の切れ目が違っても同じ構造の問題になります。
就業規則の条文が労働基準法の上限規制や育児・介護休業法などの直近の改正に対応しているかは、厚生労働省の一次情報で照合します。Claudeが作ったたたき台は、届出の前に社会保険労務士が確認する工程を通します。
他士業の生成AIガイドラインと読み比べる
「得意・苦手」の切り分けは、サービスを問わず使えます。同様に生成AIの業務ガイドラインが公開されている他士業の事例は、弁護士がClaudeで生成AIを使う際の注意点とガイドラインの読み方や弁理士がClaudeで生成AIを使うときのガイドラインと注意点にあります。法律事務所での活用はClaude法律事務所活用ガイド、診断業務への応用は中小企業診断士の生成AI活用で扱っています。
まとめ
就業規則では条文の下書きと要約までをClaudeに任せ、法令適合の判断と、ネットワーク設定を含む情報の持ち出し経路の確認は人が持つ、という分担が出発点になります。
参照した一次ソース
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