社労士の生成AI活用ガイドブックとClaudeで就業規則たたき台を作る方法
全国社会保険労務士会連合会による生成AI活用ガイドブック公開の要点と、Claudeのファイル編集機能で就業規則のたたき台を作る手順をまとめます。
全国社会保険労務士会連合会が生成AI活用ガイドブックを公開した
全国社会保険労務士会連合会(以下、連合会)は2024年9月9日、イノベーションAIプロジェクトの名で、社労士向けに生成AIの活用方法をまとめた「生成AI活用ガイドブック」を公開しました。同時に、社労士向けの研修システムでも同ガイドブックの解説講座を配信しています。各都道府県の社労士会が会員向けにこの公開を告知しており、福島県社労士会の会員向けお知らせにも同日付で同じ告知が残っています。
ガイドブックの目的は、生成AIに興味はあるが業務への取り入れ方に迷っている社労士へ、実践的な情報と注意点を提示することです。基本概念からChatGPTの使用手順、業務での活用シーン別のプロンプト例、そして利用にあたって注意すべきことまでを1冊にまとめています。生成AIサービスの一例として、ChatGPT・Gemini・Microsoft Copilot・Claudeの4つを挙げていますが、具体的な使用例とプロンプトは代表例としてChatGPTに絞って解説する構成です。Claude固有の使い方や、就業規則のたたき台作成に特化した手順はガイドブックの範囲外になります。
ガイドブックが示す生成AIの得意・不得意と就業規則たたき台への当てはめ
ガイドブックは社労士業務における生成AIの得意・不得意を整理しています。得意な作業として「アイデアを出す」「視点を出す」「たたき台を作る」「情報を要約する」「表現方法を変える」の5つを挙げ、苦手な作業として「正確な情報を回答する」「長い文章を作成する(規程など)」「計算を行う」の3つを挙げています。
この整理を就業規則のたたき台作成に当てはめると、次のようになります。
| ガイドブックの分類 | 具体例 | 就業規則たたき台への当てはめ |
|---|---|---|
| 得意 | 具体例たたき台を作る、情報を要約する | 就業規則たたき台への当てはめ条文の下書き・既存規程の要約 |
| 得意 | 具体例表現方法を変える | 就業規則たたき台への当てはめ条文を平易な表現に書き換える |
| 苦手 | 具体例長い文章を作成する(規程など) | 就業規則たたき台への当てはめ就業規則全体を一から書き上げる |
| 苦手 | 具体例正確な情報を回答する | 就業規則たたき台への当てはめ労働基準法の上限規制の最終確認 |
ガイドブックが挙げる「苦手」は、チャット画面上でテキストを生成する使い方を前提にしています。ガイドブックの活用シーン(5)「規程内の文章から表を作成」では、条文をそのまま表形式に整理させる例を紹介しており、条文の要約・整理という工程自体は「得意」側の作業として扱われています。就業規則のように長い文書をたたき台として作る場合、条文の要約・整理と実際の文書出力を分けて考えると、生成AIの得意な部分だけを使う進め方がしやすくなります。
ガイドブックが示すプロンプトのコツを就業規則づくりに応用する
ガイドブックは、生成AIに質問・指示するときのポイントを3つ挙げています。指示を明確にすること、#(ハッシュタグ記号)で項目を区切ること、そして「より良い回答を提供するために追加で必要な情報があれば質問してください」と付け加えて逆質問を促すことです。あわせて、立場・要望・前提条件・出力形式・事例の5つの要素を指示文に入れると、求める回答が返ってきやすいとしています。
就業規則の条文づくりにこの型を当てはめると、次のような指示文になります。
「あなたは優秀な社会保険労務士です。#前提条件 従業員45名、フレックスタイム制を導入予定の受託開発会社です。#要望 休憩・休日に関する条文案を作成してください。#出力形式 既存の条文番号を保ったまま、変更した箇所には[変更]と印を付けてください。不足している情報があれば先に質問してください」
「#前提条件」「#要望」「#出力形式」のようにハッシュタグで区切ると、Claudeが各項目の役割を読み違えにくくなります。逆質問を促す一文を加えておくと、従業員数や勤務体系のうちどの情報が条文作成に不足しているかを、たたき台を作らせる前に確認させられます。
Claudeのファイル作成・編集機能で就業規則たたき台を作る
ガイドブックが例示するChatGPTの使い方は、チャット欄に文章を貼って回答をコピーする方式が中心です。Claudeには、この一手間を省いてWord文書(.docx)そのものを生成・編集できる「コード実行とファイル作成」機能があり、Free・Pro・Max・Team・Enterpriseの全プランでウェブ・デスクトップ・モバイルから利用できます。機能の対応フォーマットや容量上限、プラン別の有効化手順はClaudeでファイル作成・編集ができる範囲とセキュリティ設定で扱っているので、まずそちらで有効化を済ませておきます。ガイドブックは事務所でChatGPTを導入する場合の料金として、年間契約のChatGPT Teamが月額25ドル/人、ChatGPT Enterpriseは要問い合わせだと紹介しています。Claudeのファイル作成・編集機能はFree・Pro・Maxを含む個人向けプランでも既定でオンになっており、追加のプラン変更なしに就業規則のたたき台作成を試せる点が異なります。
就業規則のたたき台をこの機能で作る手順は次の通りです。
- Free・Pro・Maxは「Settings > Capabilities」で「Code execution and file creation」をオンにする(Team・Enterpriseは組織の既定設定に従う)
- 自社で使っている就業規則の既存ファイル、または厚生労働省のモデル就業規則をチャット欄にアップロードする(モデル就業規則の入手先はClaudeで36協定届とモデル就業規則のたたき台を作るで扱っています)
- 修正内容を具体的に伝え、Word形式のまま出力させる
プロンプトの例です。
「アップロードした就業規則のファイルをもとに、当社(従業員45名、フレックスタイム制を導入予定)の実情に合わせて休憩・休日の条文を書き直し、Word文書として出力してください。労使で協議が必要な数値には[要協議]と印を付けてください」
チャットに直接テキストを生成させる場合と違い、この方法では既存ファイルの書式(見出し番号や体裁)を保ったままWord文書を更新できます。労使協議前の下書きとして配布するとき、体裁を整え直す手間が減ります。
たたき台作成で確認しておきたいこと
ガイドブックは、氏名・連絡先・住所などの個人情報や機密情報を生成AIに入力しないよう注意を促しています。就業規則のたたき台作成でも、実在する従業員の個人情報を条文の例文や補足説明に含めないことが同じ理由で重要です。
ガイドブックはハルシネーション(存在しない情報をそれらしく回答すること)への注意も挙げています。あわせて、ChatGPTには令和5年10月までの情報しか学習されておらず、最新の出来事に関する回答は得意でないことも挙げています。学習時点より後に施行された法改正は、どの生成AIでも同じ制約を受けます。就業規則の条文が労働基準法の上限規制や育児・介護休業法などの直近の改正に対応しているかは、生成AIの回答だけでなく厚生労働省の一次情報でも確認します。就業規則の条文が最終的にこれらの規制に適合しているかどうかの判断基準になるため、Claudeが作ったたたき台をそのまま届出に使わず、社会保険労務士の確認を経る工程は省略できません。
連合会のガイドブックはChatGPT中心、Claudeでの実践は事務所の裁量
連合会のガイドブックは生成AIサービスの一例としてClaudeの名前を挙げているものの、具体的なプロンプト例や画面操作の説明はChatGPTに統一されています。会員向けの導入教材として1つのサービスに絞って説明する構成自体は理解できる一方、Claudeで就業規則のたたき台を作る場合の具体的な手順は各事務所の裁量に委ねられているのが実情です。ガイドブックが示す「得意・苦手」の切り分けはサービスを問わず使える考え方なので、Claude側の機能(ファイルを直接編集して出力できる点)と組み合わせて使うと、ガイドブックの想定より一歩進んだ運用ができます。
同様に生成AIの業務ガイドラインが公開されている他士業の事例は、弁護士がClaudeで生成AIを使う際の注意点とガイドラインの読み方や弁理士がClaudeで生成AIを使うときのガイドラインと注意点でも扱っています。法律事務所での具体的な業務活用例はClaude法律事務所活用ガイドにまとめています。
まとめ
連合会が2024年9月9日に公開した生成AI活用ガイドブックは、ChatGPTを念頭にした基本教材ですが、生成AIの得意・不得意という考え方自体はサービスを問わず使えます。就業規則のたたき台作成には、Claudeのファイル作成・編集機能を使ってWord文書を直接更新する方法が候補になります。個人情報を入力しない、ネットワークアクセス設定を確認する、そして最終的な法令適合の判断は社会保険労務士が行うという3点は、ガイドブックの注意点とも一致する最低限の確認事項です。この進め方は就業規則の本則に限らず、賃金規程や育児・介護休業規程など、就業規則に付随する各種規程のたたき台作成にも同じ手順で応用できます。