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弁護士がClaudeで生成AIを使う際の注意点とガイドラインの読み方

弁護士がClaudeで生成AIを使う際の注意点とガイドラインの読み方

東京弁護士会のガイドラインと日弁連AI戦略WGの注意事項が挙げる確認事項を、Claudeの契約形態・設定と突き合わせます。法的助言ではありません。

結論から言うと、弁護士がClaudeを使うときの確認事項は4つです。学習に使われるか、保存と削除はどうなるか、出力を誰が検証するか、依頼者にどう説明するかです。前の2つは契約形態と設定で確かめられ、後の2つは事務所の運用に残ります。

日弁連の生成AIに関する注意事項と東京弁護士会のガイドラインは、どちらも拘束力のある基準ではありません。日弁連の注意事項は会員限りの資料で、一般の読者が読めるのは会報での紹介です。拘束力を持つのは、弁護士法23条の秘密保持と職務基本規程です。

弁護士がClaudeを業務で使う場面は、訴訟書面の下書きから契約審査、依頼者への説明資料の作成まで広がっています。契約書の作成・送付を連携ツールに任せる場合の役割分担はClaudeとDocuSignを連携する方法にまとめています。

この記事は、東京弁護士会(東弁)が会報誌「LIBRA」2026年7・8月号で紹介したガイドラインの解説を主な材料に、Claude側の契約形態や設定で何が確かめられるかを突き合わせたものです。個別の事案への法的助言ではなく、各弁護士会や事務所の判断に代わるものでもありません。倫理上の適否は、所属弁護士会の資料と一次の規程で確かめてください。

ガイドラインと注意事項は義務なのか、参考資料なのか

最初に押さえておきたいのは、両資料の性質です。東弁のガイドライン(2025年3月27日施行)は、LIBRAの解説によれば生成AIの適正利用を促す推奨事項で、遵守を義務付けるものではなく、綱紀・懲戒の直接の基準でもありません。一方で、その内容は弁護士の職務基本規程の秘密保持義務(23条)、信用(6条)、法令等調査義務(37条)と関係するため、AIを使う際には確認しておくことが求められる、と位置づけられています。

守秘義務そのものの根拠は、弁護士法23条にあります。弁護士または弁護士であった者は、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負います。ただし法律に別段の定めがある場合は除かれます。弁護士法や会則への違反、弁護士会の秩序・信用を害する行為、品位を失うべき非行は、同法56条の懲戒事由です。ここでいう会則は、所属弁護士会と日弁連のものです。懲戒は原則として所属弁護士会が行います(56条2項)。日弁連も、自ら懲戒することが適当と認めるときは懲戒でき(60条)、弁護士会の処分への審査請求を裁決します(59条)。

くらべる

3つの資料の重みの違い

拘束力あり

法律・規程

弁護士法23条(秘密保持)と56条(懲戒事由)、弁護士の職務基本規程が土台です。AIを使うかどうかにかかわらず、弁護士に直接かかる規範です。

推奨・参考

東弁ガイドライン・日弁連注意事項

いずれも推奨事項や参考資料の位置づけで、綱紀・懲戒の直接の基準ではありません。注意事項は日弁連の公式見解でもなく、会員限りで会員外への交付は控えるものとされています。

日弁連AI戦略ワーキンググループの注意事項は2025年9月に取りまとめられ、2026年2月に更新版が公表されています。会員外には交付されないため、この記事は中身を引用せず、LIBRAが述べる範囲にとどめます。東弁ガイドラインの原文も会員サイトに掲載されており、会員外が内容を知る手段は、LIBRAのような会報での紹介に限られます。

Claudeを使う前に確かめる順番

東弁ガイドラインは、秘匿性の高い情報を入力する場合の選定で、次の4点を利用規約等で確認することを推奨しています。入力情報が学習に利用されないこと、事業者が正当な理由なく入出力情報にアクセスできないこと、暗号化等のセキュリティ対策があること、入出力情報が一定期間で自動削除されるか利用者が削除できることです。特定のサービス名を指したものではなく、事業者選びのチェックリストです。

LIBRAの執筆者は補足として、無料版と有料版、個人版とエンタープライズ版の差(学習利用の設定、データ処理契約の有無)を挙げ、初期設定のままでは意図しない取扱いになる場合があると指摘しています。Claudeに当てはめると、確認は次の順に進みます。

手順

Claudeの利用経路ごとの確認順

  1. 1

    契約形態を特定する

    無料・Pro・Maxのコンシューマープランか、Team・Enterprise・APIの商用契約かを分けます。以降の確認項目が変わります。

  2. 2

    学習の扱いを確かめる

    商用製品の入出力は、既定ではモデル学習に使われません。コンシューマー側は、設定でモデル改善への利用を許可した場合に学習対象になります。

  3. 3

    保存と削除の扱いを確かめる

    ZDR(ゼロデータリテンション)の対象経路か、削除の期限はいつか、を見ます。ZDRはAPIなど対象経路に限られます。

  4. 4

    所内ルールに落とす

    入力してよい情報、仮名化の方法、依頼者への説明、出力の検証手順を、事務所の規程に書きます。

商用製品の学習について、Anthropicのプライバシーセンターは「Claude for WorkやAnthropic APIの入出力は、既定ではモデル学習に使わない」と説明しています。ただし、フィードバックボタンで送った内容や、利用者が許可した場合は例外です。フィードバックの会話は最長5年保存されます。

コンシューマープランは事情が異なります。プライバシーセンターの記述では、モデル改善への利用を許可した場合に学習対象となり、その場合は非識別化した形で最長5年保持されることがあります。設定はいつでも変更でき、オフにすると、それまでの会話もこれからの会話も将来の学習には使われません。すでに進行中の学習や学習済みのモデルには、過去のデータの影響が残りえます。Incognito(非記録)チャットは、学習設定がオンでも学習に使われません。プラン別の手順はClaudeを学習させない設定にまとめています。

東弁ガイドラインの項目とClaude側で確かめられること

LIBRAの解説は、ガイドラインを選定基準、誤情報とファクトチェック、依頼者への説明、弁護士報酬、安全管理措置の5観点で整理し、続けて運用上の留意点にも触れています。Claude側の機能と対応させると、次のとおりです。

観点ガイドラインの推奨Claude側で確かめられること
サービスの選定ガイドラインの推奨学習利用・アクセス・暗号化・削除を確認Claude側で確かめられること商用製品は既定で学習に使わない。ZDRは対象経路に限る
誤情報の検証ガイドラインの推奨一次資料の確認を含めて検証Claude側で確かめられることClaudeに検証を任せる機能はなく、確認は弁護士側の作業
依頼者への説明ガイドラインの推奨秘匿性の高い情報の入力では説明し、必要に応じて同意・委任契約書への明記Claude側で確かめられることツール側の設定では代替できない
安全管理措置ガイドラインの推奨弁護士情報セキュリティ規程に沿った措置Claude側で確かめられること契約形態と管理者の設定範囲を確認する
弁護士報酬ガイドラインの推奨効率化だけでなく提供価値に応じた設計も否定されないClaude側で確かめられることClaudeの関与範囲外
運用上の留意点ガイドラインの推奨外部のガイドラインや法令の最新情報を確認Claude側で確かめられること規約・データの扱いが変わりうるので定期確認

Claudeの設定で確かめられるのは、選定と安全管理措置の一部に限られます。誤情報の検証と依頼者への説明は、どのツールを使っても弁護士側の運用に残ります。LIBRAは、生成結果の適切性について弁護士が原則として最終責任を負うと述べています。契約審査そのものが弁護士法72条(弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことの禁止)とどう関わるかは弁護士法72条とAIの契約書レビューで扱っています。

出力の検証:架空判例の件数から見る水準感

LIBRAの解説によると、裁判所への提出書面で生成AIの架空の判例などが問題になった事例を集めた「AI Hallucination Cases」には、弁護士がAIを使って問題になった事件が432件あると記されています。

数字

架空判例データベースの件数(LIBRAの記述から)

  • 弁護士の事件

    432件

    65%が米国に集中

  • 2026年に入ってから

    104件

    432件のうちの件数

事例は4分類されています。存在しない裁判例・書面・条文の生成、裁判例は実在するがその文言が表現されていないものの引用、関連性のない裁判例や条文の引用、その後の判例・法改正で古くなったものの引用です。3番目までが「もっともらしい誤り」で、4番目は新しさの確認漏れです。1番目の確認手順はClaudeが挙げた判例の実在確認にあります。

LIBRAの執筆者は、条文に紐付いて判例が整理されている日本では考えにくい現象にも思えるとしつつ、将来的に民事判決情報の公開が進めば、生成AIで一次的にスクリーニングする場面が増えうると述べています。対策の一例として、プロンプトで根拠の公的機関のURLを示すよう求め、必ず出典を確認する運用を挙げています。「嘘をつくな」と指示しても誤りは出うるため、指示だけでは防げません。

依頼者情報を入れる前に仮名化する

LIBRAの別の節は、仮名化の実務に触れています。ウェブサービス側で機密情報をマスキングする機能は、マスキング前の情報がすでにサーバーへ送信されてしまうため、LIBRAの記述ではWordなどの置換機能(WindowsではCtrl+H)で氏名を仮名にしてから入力するほうが安全とされています。ローカル環境で氏名等をマスキングできるモデルも登場しています。ただしLIBRAの脚注は、非英語では性能が落ちるとの話もあり、最終的には人間による確認が必要としています。

個人情報の面では、個人情報保護委員会が2023年6月2日に、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、応答出力以外の目的(学習等)で取り扱われる場合は個人情報保護法に違反しうると注意喚起しています。LIBRAは、規約の確認、学習からのオプトアウト、匿名化・抽象化、本人同意の取得を対応として挙げ、それでもリスクが残る情報は入力しない選択も含めて検討するとしています。

ZDRで保存を止められる範囲と、止められない範囲

Claude APIやClaude Codeを商用契約(Commercial organization)で使う場合、ZDRを結べば、APIレスポンスを返した後に顧客のプロンプトと応答を保存しない運用にできます。ZDRは組織単位で有効化され、Anthropicの営業チームへの申請が前提です。適用範囲の細部はClaude Zero Data Retentionが有効になる契約形態の切り分けで確認できます。守秘義務との関係はClaudeに相談内容を入力しても弁護士の守秘義務は保てるかで個別に扱っています。

公式のデータ保持ページは、ZDRの対象外も明記しています。

  • Claude Consoleの利用(プレイグラウンドを含む)
  • 無料・Pro・Maxのコンシューマープラン(Claude Codeをそれらのアカウントで使う場合を含む)
  • Claude TeamsとClaude Enterpriseの製品画面(ただしZDR有効のEnterprise経由のClaude Codeは例外)
  • Claude for Excelとサードパーティー連携
  • Claude Fable 5.1・Mythos 5.1・Fable 5・Mythos 5(30日の保持が必要で、ZDRでは使えないモデル)

ZDRを結んでいても、法令上必要な場合や違反フラグが立った場合は、Anthropicが最長2年データを保持することがあります。

Claude Codeの対象は、商用組織のAPIキーで使う場合と、ZDR有効のEnterprise経由の2経路です。Claude Codeでメトリクスのログを有効にすると、利用統計などの生産性データはZDRの対象外で、保持されうる点にも注意が必要です。

もう一点、組織の管理者が見落としやすいのが、監査用データの保持です。Compliance APIで取得できるデータには、ZDRとは別の保持モデルがあります。ローカルセッション(Cowork・Claude Codeなど利用者の端末でのセッション)の記録は、既定で6年保存され、組織が有限の保持期間を設定していればその期間になります。ZDRが有効なローカルセッションは、Compliance APIの取得対象に入りません。

著作権と事務所内の利益相反

LIBRAは著作権にも触れています。生成AIへの入力は、情報解析を目的とする限り著作権法30条の4の適用が考えられます。ただし既存の著作物に似た生成物を得る目的で入力する場合は、思想・感情を享受する目的が併存するため、適用が否定される可能性があります。判例集や契約書のひな形を「そっくり似せて作らせる」使い方は、この境界に近い場面です。

事務所内の利益相反は、AI特有の新しい論点として紹介されています。従来はアクセス権限の制御や情報遮断措置(ウォール)で、案件間の情報が分けられていました。事務所共通の生成AIに事件情報を入れ、それが学習や参照の対象になると、別の弁護士が別の事件で使ったときに出力される可能性が残ります。LIBRAは、事件係属中は学習させない、入力自体を制限する運用を例に挙げ、実効性は技術的専門家の関与を得て慎重に検討するよう求めています。

Claude側で案件ごとに資料を分ける運用としては、Projectsの活用が考えられます。ただし、共通のAIを使う場合の情報混線をどこまで防げるかについて、公式資料での説明は確認できていません。運用の一例はClaude Projectsで法務レビューのプレイブックを標準化する方法が参考になります。広告規程に照らしたサイト文言の点検はClaudeで士業の広告規制をチェックする手順にあります。

隣接する士業・医療分野の公開ガイドラインとの違い

日弁連の注意事項も東弁ガイドラインの原文も会員向けですが、隣接する分野には公開の資料があります。日本弁理士会は公開のガイドラインを出しており、弁理士向けのAI利活用ガイドラインの読み方と読み比べると、何を公開資料にしているかの違いが見えます。医療分野では、病院薬剤師の団体が示したガイダンスを病院薬剤師の生成AIガイダンスで薬歴・服薬指導はどこまで任せられるかで扱っています。

まとめ

Claude側で確かめられるのは、学習の扱い、保存と削除、ZDRの対象経路までです。出力の検証、依頼者への説明、利益相反の管理は、契約形態を変えても事務所の規程に残ります。ガイドラインは推奨事項で、拘束力を持つのは弁護士法23条・56条と職務基本規程です。個別の判断は、所属弁護士会や自事務所の規程を確かめたうえで決めることになります。初回相談のメモを仮名化して整理する具体的な型は、初回相談のヒアリング内容を受任前チェックに整理する手順にまとめています。

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