内定通知書と労働条件通知書の下書きをClaudeで作る手順と点検法
労働条件通知書の明示事項は労基法施行規則5条が定めています。この一覧を材料にClaudeで下書きを作り、記載漏れを号ごとに点検させる手順をまとめました。
労働条件通知書の下書きは、Claudeに条件面を流し込ませて作れます。ただし価値が出るのは文面の生成よりも、明示が義務付けられた事項に漏れがないかを号ごとに点検させる工程です。材料になるのは労働基準法(労基法)15条と、明示事項を列挙した労基法施行規則5条。この2つを最初に渡しておけば、Claudeは「どの項目がどこに書かれているか」を表にして返せます。
内定通知書と労働条件通知書は、法律上どう扱いが違うのか
労基法15条1項は、使用者が労働契約の締結に際し、賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。求められているのは条件の明示です。「内定通知書」という書式名は、同条にも施行規則5条にも出てきません。
実務では、内定通知書に労働条件を書き込む会社もあれば、内定通知書と労働条件通知書を別の書類として送る会社もあります。どちらの形でも、明示が必要な事項が相手に伝わっていればよく、書類の名前で義務の有無は決まりません。Claudeに下書きを頼むときも、まず「この文書に何を載せるか」を先に決めます。
- 内定通知書: 内定の意思表示、入社予定日、承諾の期限や返信方法など、会社ごとに決める部分
- 労働条件通知書: 施行規則5条の明示事項。次の節の表が骨格になる
労働条件が事実と相違していた場合、労働者は即時に労働契約を解除できます(労基法15条2項)。就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷するときは、使用者が必要な旅費を負担します(同条3項)。下書きの誤りは、文面の体裁の問題では済みません。
明示が必要な事項は、施行規則5条で決まっている
明示すべき労働条件の一覧は、施行規則5条1項にあります。このうち書面の交付が求められるのは、賃金・労働時間などの事項です。5条3項が、書面で明らかにする事項を1項の1号から4号まで(昇給に関する事項を除く)と定めています。
| 区分 | 事項 |
|---|---|
| 書面交付が必要 | 事項契約期間 |
| 書面交付が必要 | 事項有期契約を更新する場合の基準(通算契約期間や更新回数に上限があればその上限を含む) |
| 書面交付が必要 | 事項就業の場所と従事する業務(それぞれの変更の範囲を含む) |
| 書面交付が必要 | 事項始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制の就業時転換 |
| 書面交付が必要 | 事項賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切りと支払の時期(昇給を除く) |
| 書面交付が必要 | 事項退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
| 明示は必要、書面の指定なし | 事項昇給、退職手当、臨時に支払われる賃金・賞与・最低賃金額、労働者に負担させる食費・作業用品、安全衛生、職業訓練、災害補償・業務外の傷病扶助、表彰・制裁、休職 |
表の見方には条件が2つあります。更新の基準は、期間の定めがあり更新する場合がある有期労働契約に限って必要です。また退職手当以下の項目(4号の2から11号)は、使用者がその定め自体を置いていなければ明示は要りません。
有期契約の締結で、契約期間内に労働者が無期転換を申し込める状態になる場合は、追加の明示があります。無期転換申込みに関する事項と、申込み後の無期契約の労働条件も明示の対象です(5条5項)。有期契約の通知書を作るなら、この追加分を指示に入れておかないと、Claudeは通常の項目だけで書き上げます。
下書きに入れる材料と、入れてはいけない情報
Claudeに渡すのは、会社側が決めた条件のうち、通知書に書く値だけです。応募者を特定できる情報は、下書き段階では仮名や記号に置き換えます。氏名・住所・生年月日は、ひな形の穴埋め欄として残し、最終の書類に人が入力します。入力した情報がどう扱われるかは、Claudeに機密情報を入力しても安全かで整理しています。
渡す材料は次の5点にそろえると、点検も楽になります。
- 労基法15条と施行規則5条の該当部分(号ごとの一覧)
- 自社の就業規則・賃金規程から、該当する条項の抜粋
- 求人票・募集要項の記載内容(職業安定法5条の3で明示した条件との照合用)
- 雇用形態、契約期間、勤務地、始業終業時刻などの個別条件を並べた表
- 自社の通知書のひな形(あれば)
3番目には理由があります。職業安定法5条の3は、募集時に明示した労働条件を、契約締結の前に変更する場合には、変更する内容を求職者に明示するよう求めています(3項)。求人票と通知書で食い違う箇所は、放置せず洗い出す必要があります。Claudeには「求人票の記載と通知書の記載が違う箇所を表にして」と頼めます。
手順1: 号ごとの記載チェックリストを先に作らせる
文面を書かせる前に、施行規則5条を材料にチェックリストを作らせます。順序を逆にすると、書き上がった文面に合わせてチェックリストが作られ、点検の意味が薄れます。
添付の労基法施行規則5条を読み、労働条件通知書に必ず載せる項目の
チェックリストを表で作ってください。
- 列: 号 / 事項 / 書面での明示が必要か / 条件付きか(条件の中身)
- 5条3項の書面交付事項と、それ以外を区別する
- 有期契約の場合だけ加わる項目(更新基準・無期転換申込機会)を別枠にする
- 条文にない事項は追加しない。条文の解釈が分かれる箇所は「要確認」と書く「条文にない事項は追加しない」の一文が要点です。条文にない項目が必須のように混ざる場合があります。追加させないと、任意項目と義務項目が混ざります。
手順2: 個別条件の表から通知書の下書きを作らせる
チェックリストができたら、個別条件の表を渡して文面を作らせます。Claudeにファイル作成が有効なら、Word文書(.docx)やPDFとして出力させることもできます。
次の条件表とひな形をもとに、労働条件通知書の下書きをWord文書で作って
ください。
- 手順1のチェックリストの全項目を、見出し付きで必ず入れる
- 条件表に値がない項目は、空欄にせず「【要入力】」と書く
- 条件表にない数値・日付・金額は補わない
- 賃金の計算(月額、残業代の単価など)は本文に書かず、式だけを別紙に置く
- 候補者の氏名は「(氏名)」のまま残す「条件表にない数値は補わない」が肝心です。賃金や勤務時間の値をClaudeが推測で埋めると、事実と異なる条件が通知書に載ります。施行規則5条2項は、明示する労働条件を事実と異なるものとしてはならないと定めています。空欄は「【要入力】」で目立たせておけば、人が拾いやすくなります。
賃金の計算は、Claudeに任せず、人が別に検算します。式を別紙に出させるのは、検算の材料にするためです。
手順3: 記載漏れを、逆方向から点検させる
下書きができたら、別のチャットか同じチャットの後半で、下書きを読ませて点検させます。文面を生成した直後の出力を、そのまま信用しない構えです。
添付の通知書の下書きを、手順1のチェックリストと1行ずつ突き合わせてください。
- 表の列: 号 / 事項 / 該当する記載(下書きの引用) / 判定(記載あり・記載なし・不十分)
- 「記載あり」でも、条件表と値が食い違う箇所は「不十分」にして理由を書く
- 有期契約なら、更新の基準と、更新上限があればその内容の記載を確認する
- 就業の場所と業務は、変更の範囲まで書かれているかを確認する
- 判定できない項目は推測せず「要確認」にする点検で見るべき箇所は、次の3つに集中しがちです。
- 就業の場所と業務: 「本社」「営業」のように現在の配属だけで終わり、変更の範囲が抜けている
- 有期契約の更新: 更新の基準はあるが、更新回数や通算期間の上限の記載がない
- 始業・終業の時刻: 所定労働時間を超える労働の有無と、休憩時間・休日の記載がそろっていない
いずれも施行規則5条1項の号に対応するため、点検表の「号」の列と突き合わせれば見つかります。
点検結果は、次のような表で返ってきます。以下は、架空の条件表(勤務地は本社のみ、更新の上限なし、休憩の記載なし)を渡した場合の例です。
| 号 | 事項 | 該当する記載 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 1号の3 | 事項就業の場所と業務 | 該当する記載「本社営業部」 | 判定不十分(変更の範囲がない) |
| 1号の2 | 事項更新の基準 | 該当する記載「更新する場合がある」 | 判定不十分(上限の有無が読み取れない) |
| 2号 | 事項始業・終業の時刻、休憩時間 | 該当する記載始業・終業のみ記載 | 判定不十分(休憩の記載がない) |
判定が「不十分」の行は、理由を読んだうえで、人が条件表のほうを確認します。下書きの直し方は2通りです。条件表に値があるのに通知書へ反映されていなければ、通知書側を直します。条件表そのものに値がなければ、会社として何を定めるかを決める作業に戻ります。Claudeに「不十分」の行だけを直させると、値を推測で補ってしまうので、直す前に「要入力」へ戻す指示を添えておくと安全です。
交付の方法: 書面が原則、電子メールにも条件がある
書面交付が必要な事項の交付方法は、書面の交付が原則です。ただし労働者が希望した場合に限り、ファクシミリか電子メール等で送れます(5条4項)。電子メール等の場合は、労働者が受信した記録を出力して書面を作成できるものに限られます。
会社の都合で「メールで済ませる」と決めることはできません。内定通知書を電子メールで送る運用の会社は、労働者が希望したことの確認を、手順として残す必要があります。Claudeに下書きさせるなら、メール本文の案に「メールでの受け取りを希望されますか」と尋ねる一文を入れさせる使い方があります。
この確認は、手順3の点検表の1行にも組み込めます。点検の指示文に「電子メールで交付する場合は、労働者の希望を確認する記載があるか、受信した内容を出力して書面にできる形式かを、表の1行として判定する」と加えておけば、送付前の見落としを拾う項目が増えます。条文が求めているのは希望の存在と出力できる形式の2点で、ほかの条件は足しません。
使う環境の条件
ファイルの作成と編集は、Claudeのコード実行とファイル作成の機能を使います。Free・Pro・Maxのプランでは既定で有効で、Settings > Capabilitiesで切り替えられます。TeamとEnterpriseでは組織の所有者が設定を管理し、組織単位で無効にすることもできます。この機能はWeb、デスクトップ、モバイルで使えます。作成できる形式はExcel、PowerPoint、Word、PDFで、ファイルの上限はアップロードもダウンロードも1ファイル30MBです。
ネットワークアクセスの設定にも注意が必要です。TeamとEnterpriseでは、組織の所有者がネットワークアクセスを「無効」「パッケージマネージャーのみ」などから選べます。通知書のような機密性の高い書類を扱う組織では、無効のままでも下書きの作成は成り立ちます。逆に有効にする場合は、外部ファイルやWebページに紛れた指示でClaudeが意図しない動きをするリスクがあり、公式も作業を見守り、想定外のデータ利用があれば止めるよう案内しています。MCP連携を有効にしていると、ネットワークアクセスの設定にかかわらず外部との通信が可能になる点も、公式が指摘しています。ファイル作成の機能全体の範囲はClaudeでファイル作成・編集ができる範囲とセキュリティ設定にまとめています。
Word上で直接文書を編集する使い方は、Claude for Wordの使い方を参照してください。
Claudeに任せない部分
下書きの生成と点検は任せられても、次の3つは人の判断です。
- 労働条件の中身: 賃金額、契約期間、勤務地などは会社が決めた値で、Claudeは決められません
- 法令の適用判断: 個別の契約が最新の法令でどの明示事項に当たるかは、法改正で変わります。条文の最新版と、社会保険労務士など専門家の確認が要ります
- 最終の書類の確定と送付: 交付の前に、条件表と通知書を人が読み合わせます
入社手続き全体の確認リスト作りは、Cowork人事の実務が扱っています。通知書の下書きはその一つ前、内定を出す段階の作業です。
まとめ
労働条件通知書の下書きは、条件表をもとにClaudeに作らせ、施行規則5条を材料に号ごとに点検させる流れで扱いやすくなります。文面より点検表のほうが成果物として価値を持ちます。空欄を「【要入力】」で残し、条件表にない値を補わせないこと。賃金の計算は人が検算すること。この2点を守れば、記載漏れと事実との相違という、通知書の主要な失敗を早い段階で拾えます。