Claudeで年金の繰下げ受給を試算 — 損益分岐の年齢をExcelで出す
年金の繰下げ受給は何歳で65歳請求を上回るのか。増額率0.7%×月数を固定した式で、Claudeのファイル作成により受取総額の累計をExcelに出し、逆転する年齢を確かめる手順です。
年金の繰下げ受給は、受け取りを遅らせるほど毎月の額が増えます。その代わり、遅らせた期間の分は受け取れません。ではいつ、65歳で受け取った場合の累計を追い抜くのか。これが損益分岐の年齢です。
増額率が月数に比例する制度なので、式さえ固定すれば、Claudeにコードを実行させてExcelの累計表まで作れます。ここでは増額率の式を先に固定し、Claudeには計算と表づくりだけを任せる手順を組みました。結論から言えば、前提を単純にした試算では、損益分岐は繰下げ後の受給開始からおよそ11年11か月です。
増額率の式を先に固定する
Claudeに「繰下げの損益分岐を計算して」と頼むだけでは、増額率を記憶から補われかねません。制度の数字は人が先に確定し、プロンプトに固定値として渡します。
日本年金機構のページに載っている増額率の式は次のとおりです。
増額率(最大84%) = 0.7% × 65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数対象は老齢基礎年金の額(振替加算額を除く)と、老齢厚生年金の額(加給年金額を除く)です。この2つは別々に繰り下げられます。増額率は一度決まると一生変わりません。
繰下げられるのは66歳以後75歳までの間です。昭和27年4月1日以前に生まれた方、または平成29年3月31日以前に受給権が発生している方は、上限が70歳(増額率は最大42%)になります。この区分に当たる人は、以降の表の75歳までの行を使えません。
増額率の早見表は、請求時の年齢ごとに次の値です。月数×0.7%を12の倍数で置いた結果と一致します。
| 請求時の年齢 | 増額率 |
|---|---|
| 66歳 | 増額率8.4% |
| 67歳 | 増額率16.8% |
| 68歳 | 増額率25.2% |
| 69歳 | 増額率33.6% |
| 70歳 | 増額率42.0% |
| 71歳 | 増額率50.4% |
| 72歳 | 増額率58.8% |
| 73歳 | 増額率67.2% |
| 74歳 | 増額率75.6% |
| 75歳 | 増額率84.0% |
この表はあとでClaudeに検算させる基準になります。
損益分岐は式で一本に決まる
試算の前提を絞ると、損益分岐は手計算でも出せます。前提は3つです。
- 65歳時点の年金額(額面)を月額Bとして、繰下げでも増額部分以外は変わらない
- 運用利回りや物価の変動は見ない
- 税金・社会保険料・在職による支給停止は見ない
繰り下げる月数をNとすると、増額率は0.007×Nです。65歳から数えてTか月目に、65歳請求の累計(B×T)と繰下げの累計(B×(1+0.007N)×(T−N))が並ぶとして解くと、次の式になります。
T = (1 + 0.007×N) ÷ 0.007 (65歳からの月数)
T − N = 142.86か月 (繰下げ開始からの月数)繰下げ開始からの月数は、Nがいくつでも142.86か月、つまり約11年11か月で一定です。これは公式ページの数字ではなく、上の式から導いた値です。増額率が月数に比例し、前提を絞ったことで、繰り下げる年数によらず「開始から約12年」で追いつく形になります。
65歳を起点にした損益分岐の年齢は、繰下げ年齢に約11.9歳を足した値です。
| 繰下げ年齢 | 増額率 | 損益分岐(65歳請求との累計が並ぶ年齢) |
|---|---|---|
| 66歳 | 増額率8.4% | 損益分岐(65歳請求との累計が並ぶ年齢)約77.9歳 |
| 68歳 | 増額率25.2% | 損益分岐(65歳請求との累計が並ぶ年齢)約79.9歳 |
| 70歳 | 増額率42.0% | 損益分岐(65歳請求との累計が並ぶ年齢)約81.9歳 |
| 72歳 | 増額率58.8% | 損益分岐(65歳請求との累計が並ぶ年齢)約83.9歳 |
| 75歳 | 増額率84.0% | 損益分岐(65歳請求との累計が並ぶ年齢)約86.9歳 |
70歳まで待つなら82歳手前、75歳まで待つなら87歳手前が分かれ目になります。この年齢まで受け取れれば繰下げの累計が上回り、手前で受け取りが終われば65歳請求のほうが多くなります。
Claudeに累計表をExcelで作らせる
ここからが、Claudeの出番です。ファイル作成の機能は、Free・Pro・Max・Teamなど全プランで使え、Excel(.xlsx)のほかWord・PowerPoint・PDFも出力できます。コードの実行とファイル作成は、Free・Pro・Maxでは既定で有効です。TeamとEnterpriseは組織の管理者が無効にしている場合があり、その場合は管理者側の設定を確認します。
次の手順で進めます。
繰下げの累計をExcelにする流れ
- 1
自分の前提を数字で用意する
ねんきんネットや年金事務所で確認した65歳時点の見込額(老齢基礎と老齢厚生を分けた月額)と、繰り下げたい年齢の候補を手元に置きます。
- 2
式と制約をプロンプトに書く
増額率の式と、計算に含めない項目(税・保険料・加給年金など)を明記して渡します。
- 3
Claudeに検算させてから表を作らせる
先に早見表との一致を確認させ、ずれがあれば止めるよう指示します。
- 4
Excelの数式を自分の目で確かめる
出力されたファイルを開き、累計列がセルの数式になっているかを見ます。
プロンプトの例です。月額10万円は仮の数字なので、自分の見込額に置き換えます。
次の前提で、年金の繰下げ受給の損益分岐を試算し、Excelで出力してください。
[前提]
- 65歳時点の年金額(額面): 月10万円(老齢基礎と老齢厚生の合計)
- 増額率 = 0.7% × (65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)。上限84%(75歳)
- 税、社会保険料、在職老齢年金による支給停止、加給年金、振替加算は考慮しない
- 利回り・物価変動は考慮しない
[手順]
1. コードを実行し、66〜75歳で繰り下げたときの増額率が
8.4%, 16.8%, 25.2%, 33.6%, 42.0%, 50.4%, 58.8%, 67.2%, 75.6%, 84.0%
と一致するか確認する。一致しなければ止めて報告する。
2. 一致したら、65歳請求と、66・68・70・75歳の繰下げについて、
65〜100歳の年齢別の受取総額の累計をExcelの1枚目に作る。
累計列は値ではなくセルの数式にする。
3. 累計が65歳請求を上回る最初の年齢を各繰下げ年齢について求め、
2枚目に一覧にする。
4. 前提(月額・増額率・考慮しない項目)を3枚目に書き出す。3の「上回る最初の年齢」は、年単位の表では読み取りがおおまかになります。月単位の累計か、上の式から導いた約11年11か月との突き合わせも添えると精度が上がります。
出力されたExcelをどう確かめるか
ファイル作成は、Claudeが用意した計算環境でコードを書いて動かす仕組みです。出力されたExcelの中身は、人が数式を読んで確かめます。確認する点は次の4つです。
- 増額率のセルが、
=0.007*月数のように式になっている(値の直書きではない) - 繰下げの累計は、繰下げ開始前を0にして、開始後に増額後の月額×月数を積んでいる
- 年齢の刻みと、
12をかける年換算が合っている - 前提のシートに、考慮しない項目が書かれている
数式の骨格は次のような形になります(例示です。実際のセル配置はClaudeの出力に従います)。
B1: 65歳時点の月額 100000
B2: 繰下げ月数(N) 60 ← 70歳まで繰り下げる場合
B3: 増額率 =0.007*B2
A6: 年齢 =65, 66, 67 ... 100
B6: 65歳請求の累計 =$B$1*12*(A6-65)
C6: 繰下げの累計 =IF(A6>65+$B$2/12,
$B$1*(1+$B$3)*12*(A6-65-$B$2/12), 0)
D6: 差(繰下げ−65歳請求) =C6-B6D列の符号が負から正に切り替わる行が損益分岐です。月額10万円・70歳繰下げ(増額率42%、月額14.2万円)で試算した累計は、次のようになります。
| 年齢 | 65歳請求の累計 | 70歳繰下げの累計 |
|---|---|---|
| 75歳 | 65歳請求の累計1,200万円 | 70歳繰下げの累計852万円 |
| 80歳 | 65歳請求の累計1,800万円 | 70歳繰下げの累計1,704万円 |
| 82歳 | 65歳請求の累計2,040万円 | 70歳繰下げの累計2,044.8万円 |
| 85歳 | 65歳請求の累計2,400万円 | 70歳繰下げの累計2,556万円 |
| 90歳 | 65歳請求の累計3,000万円 | 70歳繰下げの累計3,408万円 |
82歳でわずかに逆転します。上の式で出した約81.9歳と整合します。この数字は、Claudeに作らせたExcelの累計と見比べる基準として使えます。
落とし穴
Claudeの出力が検算と合わないとき
増額率の月数を「年数×12」でなく「年数」のまま掛けたり、繰下げ開始前の月も増額後の額で積んだりすると、損益分岐が数年ずれます。累計が上の表と合わなければ、プロンプトの前提を直してやり直させます。
前提から外した項目が結果を動かす
上の試算は、制度の骨格だけを残した単純な形です。実際の受取額には、次の項目が効きます。いずれも日本年金機構のページに注意点として載っているものです。
- 加給年金額と振替加算額は増額の対象外で、繰下げ待機期間中は受け取れない
- 65歳以後に厚生年金に加入していた期間や、70歳以後に適用事業所に勤務していた期間があると、在職老齢年金で支給停止される額は増額の対象にならない
- 65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの間に障害給付や遺族給付を受ける権利があると、繰下げ受給の申出ができない
- 66歳に達した日以後の待機中に他の公的年金の受給権を得ると、その時点で増額率が固定される
- 医療保険・介護保険の自己負担や保険料、税金に影響する場合がある
- 繰下げ請求による増額分は、遺族厚生年金に反映されない
このうち在職老齢年金に当たる人は、増額の計算自体が変わります。繰下げ待機中に在職していると、増額分に平均支給率(月ごとの支給率の合計を待機期間で割った値)を掛ける計算になります。単純な0.7%×月数の式をそのまま使うと、実際より多く見積もります。
また、待機中に亡くなった場合で遺族が未支給年金を請求できるときは、65歳時点の年金額で決定したうえで、過去分が一括して支払われます。請求した時点から5年以上前の分は時効で受け取れません。「長生きしたら得」という分岐は、この制度では本人の存命が前提です。
こうした項目は、Claudeにそのまま計算させる前に、該当するかどうかを自分で仕分けます。該当する人は、年金事務所で個別の見込額を確かめます。
75歳を過ぎて請求した場合と、さかのぼり請求の扱い
増額率の計算には上限があります。65歳の時点で老齢基礎年金の受給権がある場合、75歳に達した月を過ぎて請求しても増額率は増えません。増額された年金は75歳までさかのぼって決定され、支払われます。昭和27年4月1日以前に生まれた方は、70歳に達した月までが上限です。
繰下げを考えていたのに、65歳時点で請求しなかった場合もあります。繰下げ申出をせず、65歳到達時点の本来の年金をさかのぼって受け取ることも可能です。さらに70歳に到達した日後にさかのぼって受け取る選択をすると、請求の5年前の日の時点で繰下げ受給の申出があったものとみなして増額された年金を一括で受け取れる、特例的な繰下げみなし増額制度があります。対象は昭和27年4月2日以後に生まれた方、または平成29年4月1日以後に受給権が発生した方です。80歳以後の請求や、請求の5年前の日以前から障害年金・遺族年金の受給権がある場合は適用されません。
この制度を試算に取り込むなら、Claudeには「請求の5年前を起点に増額率を決め、5年分を一括で受け取る」という条件を式で渡します。一括受給は、過去にさかのぼって医療保険・介護保険の自己負担や税金に影響する場合があるため、受取額の比較だけで判断はできません。
損益分岐の見方を広げる
損益分岐の年齢を出したあとに、判断材料として足せるものがあります。いずれもClaudeにExcelの追加シートとして作らせられますが、前提は人が決めます。
- 利回りを入れた比較: 65歳請求の年金を運用に回した場合と比べるなら、累計でなく現在価値で見る形になります。割引率を置いた現在価値の比較は、設備投資の回収期間を扱った設備投資のNPV・IRR・回収期間をClaude for Excelで試算する手順と同じ組み立てです
- ローンとの比較: 繰り上げ返済のように、将来の支払いを前倒しする判断との違いは、住宅ローンの繰り上げ返済と控除をExcelで試算する手順で、条件分岐を式に置く進め方が参考になります
- 手元の書類の突き合わせ: ねんきん定期便などの書類をClaudeに読ませる場合は、Claudeでマイナンバーと年金の手続き書類を確認する方法が扱う範囲に注意が要ります
損益分岐の年齢は、あくまで金額だけの目安です。自分が何歳まで受け取るかは誰にも分かりません。分岐点より前に受け取りが終わる可能性と、後に長く続く可能性を並べて見るために、年齢別の差額の列があります。
使う前の注意
ファイル作成は、通常のチャットより利用上限の消費が大きくなります。累計表を何度も作り直すと、その分だけ上限に近づきます。前提を固めてから1回で出力させるほうが、消費も手戻りも抑えられます。
また、Claudeの出力は、そのまま意思決定の根拠にはなりません。見込額の入力ミス、考慮しない項目の見落とし、式の書き間違いは人間側の確認で防ぎます。繰下げ請求は、手続きを行った時点で増額率が決まります。手続きの時期を決める前に、年金事務所や日本年金機構の案内で、自分の受給権と見込額を確かめてください。
まとめ
増額率が0.7%×月数で決まるため、前提を絞れば損益分岐は繰下げ開始から約11年11か月に収まります。70歳まで待つなら82歳手前、75歳なら87歳手前です。Claudeには、この式を渡して早見表と照合させ、年齢別の累計をセルの数式で出させます。
ただし在職、加給年金、遺族年金、税や保険料は単純な式の外にあります。結果を決めるのは、どこまでを試算に入れ、どこから先を窓口で確かめるかの切り分けです。