Coworkの指示、優先順位はどう決まるか — 4つの層の関係
Coworkの指示は組織・グローバル・プロジェクト・フォルダの4層に分かれます。優先順位が明言されているのは組織対個人の1点だけで、残り3層の関係は実務での設計判断が必要です。
Coworkに指示を書く場所は1つではありません。組織インストラクション・グローバル指示・プロジェクト指示・フォルダ指示の4層があり、同じ内容を別の層に書くと、どちらが勝つか分からないまま運用することになります。優先順位が明言されているのは組織対個人の1点だけで、個人が扱う残り3層(グローバル・プロジェクト・フォルダ)の間には、優先順位表そのものが存在しません。
Coworkの指示は4つの層に分かれる
Coworkの指示は、誰が設定するか・どこまで効くか・誰が書き換えられるかがそれぞれ違う4つの層で構成されています。上から順に、組織の管理者が設定する層、個人が全セッションに効かせる層、個人がプロジェクト単位で効かせる層、ローカルフォルダを選んだときに効く層です。
| 層 | 設定する人 | 適用範囲 | 編集方法 |
|---|---|---|---|
| 組織インストラクション | 設定する人Owner / Primary Owner(Team・Enterprise) | 適用範囲組織内の全会話(Cowork含むClaude全体) | 編集方法Organization settings画面のテキスト欄、最大3,000字 |
| グローバル指示 | 設定する人各ユーザー本人 | 適用範囲そのユーザーの全Coworkセッション | 編集方法設定 > Cowork > Global instructionsのテキスト欄 |
| プロジェクト指示 | 設定する人プロジェクトの作成者 | 適用範囲そのプロジェクト内のタスクのみ | 編集方法プロジェクト作成・編集画面のInstructions欄 |
| フォルダ指示 | 設定する人各ユーザー本人、およびClaude自身 | 適用範囲そのローカルフォルダを対象にしたタスク | 編集方法デスクトップでフォルダを選んだ時に追加。セッション中にClaudeが自動更新することもある |
4層のうち、組織インストラクションだけが管理者権限による層で、残り3層はユーザー自身が書く層です。この区別が、次に説明する優先順位の分かれ目になります。
組織対個人はヘルプ記事に優先順位が書かれている
組織インストラクションと個人の指示がぶつかったとき、どちらを採用するかは明文化されています。「両方が設定されている場合、組織インストラクションが優先される」という一文がそれです。例として、組織インストラクションが「常に正式な英語で返答する」と定め、個人の指示が「カジュアルな口調で」と定めていた場合を挙げ、Claudeは正式な口調で返答すると説明されています。
重要なのは、この優先ルールが「範囲の広さ」ではなく「権限の所在」で決まっている点です。プロジェクト指示やフォルダ指示のようにユーザー側の層は、組織インストラクションより狭い範囲にしか効きませんが、狭いからといって組織インストラクションに勝つわけではありません。逆に、組織インストラクションが触れていない話題については、個人側の指示がそのまま適用されます。組織側が全部を書き尽くす必要はなく、決めていない部分は個人の層に委ねられる設計です。
ただしこの挙動には留保も付いています。指示の優先順位付けはプロンプトレベルの指示に依存する仕組みであり、直接矛盾する指示が絡む稀なケースでは挙動が変わることがある、という注記です。組織インストラクションを設計したら、実際に新しい会話を始めて期待通りに反映されているかを確認する運用が推奨されています。
設定できるのはOwnerとPrimary Ownerだけです。Organization settings > Organization and accessの中に「Organization instructions」という項目があります。最大3,000字のテキスト欄に書いて保存すると、Claude製品全体への反映までに最大1時間かかります。書く内容は「常に一貫させたい振る舞い」に絞るのが推奨されています。応答フォーマットの既定、口調の統一、業界特有の用語の解釈(「クレーム」という言葉が保険金請求を指すのか法的な異議申し立てを指すのか、といった業界文脈)などが例に挙がっています。組織インストラクション同士が矛盾する内容を含んでいると、Claudeがどちらも安定して守らなくなるとも注記されています。既存の指示を足し算するのではなく、全体を読み直して整合性を取る運用が必要です。
なお組織インストラクションはCowork専用の機能ではなく、通常のチャットを含むClaude全体に効きます。Coworkのタスクだけでなく、同じ組織のメンバーが交わす普段の会話にも同じ指示が乗る点は、書く内容を決めるときに意識しておく価値があります。トークン消費を抑える目的で組織インストラクションを使う運用はClaude Enterpriseの消費管理で扱っています。
グローバル・プロジェクト・フォルダの間には優先順位表が無い
個人が扱う3層、つまりグローバル指示・プロジェクト指示・フォルダ指示の間には、組織対個人のような明文化された優先順位表が存在しません。Coworkの入門ガイドはグローバル指示とフォルダ指示をそれぞれ独立した機能として説明していますが、両者が同じ内容に触れたときにどちらを優先するかは書かれていません。プロジェクトの解説記事も、プロジェクト指示を「そのプロジェクト内のタスクに適用するルール」と説明するだけで、グローバル指示との関係には触れていません。
この空白は実務でも起きています。Coworkのプロジェクト機能を扱った当サイトの別記事でも、似た運用上のつまずきを指摘しています。プロジェクトのInstructionsと全体設定(グローバル指示)に似た内容を重ねて書くと、どちらが優先されているか分かりにくくなるという指摘です。明文化がないことが、そのまま利用者側の混乱につながっている例です。
参考になるのが、Coworkと基盤を共有するClaude CodeのCLAUDE.mdです。CLAUDE.mdは~/.claude/CLAUDE.md(全プロジェクト共通)・リポジトリルート・サブディレクトリの3か所に置けます。この3か所については「広いものから狭いものへ向けて、見つかったものをすべてマージする」という明確なルールが説明されています。Coworkのグローバル・プロジェクト・フォルダの3層について、同じ規則が明言されているわけではありません。それでもCLAUDE.mdの設計思想を踏まえると、狭い層は広い層を上書きするというより「積み重なる」形で効いている可能性が高いと読めます。ここは明言がない領域なので、断定はできません。
フォルダ指示とプロジェクト指示は同じ機構か
ここでもう1つ、ヘルプ記事の中で完全には一致しない記述があります。Coworkの入門ガイドは「フォルダ指示はデスクトップでローカルフォルダを選んだときにプロジェクト固有の文脈を追加する」と説明します。そのうえで、Claude自身がセッション中に更新することもあると述べています。一方、プロジェクトの解説記事では、既存フォルダを取り込んでプロジェクトを作る際に「指示を追加できる」とだけ書かれています。これがフォルダ指示と同じ実体を指すのか、プロジェクト専用の別フィールドなのかは明言されていません。
両者が同じ格納先を指している可能性は高いものの、フォルダ指示の記述にだけ「Claudeが自動更新する」という性質が明記されている点は見過ごせない違いです。プロジェクトのInstructions欄を、ユーザーが手で編集する静的な設定だと考えて運用しているとします。実際にはセッションの中でClaude側の判断により内容が書き換わっている、という食い違いが起きる可能性があります。ローカルフォルダに紐づくプロジェクトを使う場合は、Instructionsの内容が思っていたものと変わっていないか、時々見直す習慣を持っておくと安全です。
実務でコンフリクトを避ける書き方
優先順位表が無い層の間では、そもそも同じ内容を重ねて書かないことが一番の対策になります(「やり方」でなく「欲しい結果」を書く指示の原則も参考になります)。トーンや言語のように全セッションで一貫させたい前提はグローバル指示だけに書き、特定の案件でしか使わない用語や出力先はプロジェクト指示に寄せます。両方に似た指示を置くと、どちらが勝つか分からない状態を自分で作り出すことになります。
フォルダ指示には他の2層と違う性質があります。Claude自身がセッション中に書き換えることがある層だという点です。ユーザーが明示的に編集するグローバル指示・プロジェクト指示と違い、フォルダ指示は会話の中で自動的に更新される可能性があります。
もう一点、指示の優先順位はセキュリティ境界ではないという前提も押さえておく必要があります。組織インストラクションが個人の指示に優先するとしても、それは「行動やトーンの既定値をどちらが決めるか」の話であり、ファイルへのアクセス権や書き込み可否を制御する仕組みとは別レイヤーです。実際、「組織の設定はClaudeの安全に関する組み込みルールやコンテンツポリシーを無効化できない」と明記されています。誰が何に触れるかを制御したい場合は、指示の優先順位ではなくロール設計の話になります。組織サイズ別のロール設計はClaude CoworkのRBAC運用にまとめています。
具体例で考えると分かりやすくなります。グローバル指示に「箇条書きを多用する」、あるプロジェクトの指示に「この案件では文章で説明する」と書いたとします。組織インストラクションが箇条書きについて何も触れていない前提では、この対立は組織対個人のルールの対象外です。明文化された優先順位が無い以上、期待通りの挙動になるかは断定できません。実際にそのプロジェクトで短いタスクを1つ流し、出力形式を確認してから本番の業務に使うのが手堅い進め方です。
同じ例で、組織インストラクションが「社内向けレポートは常に箇条書きで簡潔にまとめる」と定めていた場合は話が変わります。この場合は箇条書きの是非について組織側が明確に定めているため、プロジェクト指示が「文章で説明する」と書いていても、組織対個人のルールが働き、組織インストラクション側が優先されると読めます。同じ対立でも、組織インストラクションがその論点に触れているかどうかで、優先順位が明文化された領域に入るか、明文化されていない3層内の話に留まるかが変わる点は覚えておく価値があります。7階層全体の設計指針はClaude Coworkカスタマイズ、プロジェクトの作成方法自体はCoworkプロジェクトの使い方で扱っています。
まとめ
Coworkの指示は組織インストラクション・グローバル指示・プロジェクト指示・フォルダ指示の4層に分かれ、優先順位が明言されているのは組織が個人に優先するという1点だけです。個人が扱う3層の間には明文化された優先順位表が無く、実務ではこの空白自体を前提に、同じ内容を複数の層へ重ねて書かない設計が最も確実な対策になります。フォルダ指示はClaude自身が書き換えることがある点でも他の2層と性質が異なるため、機密情報を置いたままにしないなど別の注意が必要です。指示の優先順位はあくまで既定の挙動を決める仕組みであり、アクセス権を制御するセキュリティ境界ではない点も、ロール設計と混同しないために覚えておく価値があります。