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科研費の申請書に生成AIを使っても大丈夫か — JSPSの自己責任条件

科研費の申請書に生成AIを使っても大丈夫か — JSPSの自己責任条件

JSPSの科研費公募要領は生成AI利用を明示的に禁止していません。著作権侵害と個人情報漏洩のリスクを踏まえ、申請者本人の判断に委ねる条件付き容認である点を一次資料で確認します。

科研費の公募要領は生成AIの利用を明示的に禁止していない

結論から言うと、日本学術振興会(JSPS)の科研費公募要領は、研究計画調書の作成に生成AIを使うこと自体を禁止していません。そのかわりに置かれているのは、リスクを説明したうえで判断を申請者に委ねる一文です。令和8(2026)年度の「基盤研究(A・B・C)、挑戦的研究(開拓・萌芽)、若手研究」公募要領には、次の記載があります。

なお、研究計画調書の作成に当たって、生成AIを利用することは、意図せず著作権の侵害、個人情報や機密情報の漏洩につながるリスクがありますので、このことに留意した上で研究者個人の責任において判断してください。

この一文は「重要説明事項」という、剽窃・盗用の禁止や研究者倫理の遵守を求める段落のすぐあとに置かれています。生成AIの利用を研究不正と同列に禁じているわけではなく、著作権侵害と情報漏洩という2種類のリスクを名指しした上で、最終判断を研究者個人に預ける書き方です。「禁止」でも「推奨」でもない、条件付きの容認という位置づけになります。

どの科研費種目に同じ条件が適用されるか

この一文は基盤研究等の公募要領だけのものではありません。同じ令和8年度公募の「特別推進研究、基盤研究(S)」公募要領にも、句読点まで同一の文言が記載されています。科研費の主要な種目に横断的に適用される標準条項だと分かります。

公募要領公表日対象AI条項の主語
基盤研究(A・B・C)、挑戦的研究、若手研究公表日令和7(2025)年7月14日対象研究計画調書(全般)AI条項の主語研究者個人
特別推進研究、基盤研究(S)公表日令和7(2025)年4月11日対象大型研究課題の研究計画調書AI条項の主語研究者個人
特別研究員-DC(特別研究員の奨励費)公表日令和7(2025)年2月対象博士課程在学者の申請書AI条項の主語申請者個人

3種類とも、著作権侵害と個人情報・機密情報の漏洩という同じ2つのリスクを挙げ、留意した上での自己責任判断を求める構成は共通しています。異なるのは主語だけで、教員・研究者が応募する種目では「研究者個人」、博士課程在学者が応募する特別研究員-DCでは「申請者個人」という語が使われています。すでに研究職に就いているかどうかにかかわらず、科研費に関わる応募書類全般に同じ考え方が及んでいることが読み取れます。

「自己責任」の中身 — 公募要領が名指しする2つのリスク

公募要領が具体的に挙げるリスクは、著作権侵害と、個人情報・機密情報の漏洩の2つです。いずれも「意図せず」起きる点が強調されています。

著作権侵害のリスクは、生成AIが学習データに含まれる既存の文章と類似した表現を出力する可能性から生じます。研究計画調書の「これまでの研究活動」や学術的背景の記述で、先行研究の要約を生成AIにまかせると、元の論文の文章表現がそのまま近い形で出力に紛れ込むことがあります。書き手が気づかないまま提出してしまえば、それは意図しない著作権侵害になり得ます。

個人情報・機密情報の漏洩のリスクは、入力側の問題です。研究計画調書には、共同研究者の氏名や所属、被験者に関する情報、未発表の研究データなど、機微な内容を含む記述が少なくありません。これらを外部の生成AIサービスに入力する行為自体が、情報の外部送信に当たります。入力した内容がサービス側の学習データに使われる設定になっていれば、漏洩のリスクはさらに高まります。

生成AI由来の著作権侵害は「不正行為」の枠組みとどうつながるか

科研費の公募要領には、生成AIとは別に「不正行為」の定義があります。発表された研究成果のデータや情報について、故意または研究者としての基本的な注意義務を著しく怠ったことによる「ねつ造、改ざん又は盗用」を行うことです。不正使用・不正受給・不正行為のいずれかが認められた研究者には、一定期間科研費が交付されず、該当する研究課題については科研費の全部または一部の返還が求められます。加えて、不正の概要は氏名や所属機関を含めて原則公表されます。

生成AIの利用そのものが不正行為に当たるわけではありません。ただ、生成AIの出力に含まれていた表現が結果として他人の研究内容の盗用に該当してしまえば、AIを使ったかどうかに関わらず、この既存の不正行為の枠組みで扱われることになると読めます。公募要領がAI利用のリスクとして著作権侵害を名指ししているのは、この処分規定と切り離して読むべきものではありません。

この処分規定とは別に、科研費には研究倫理教育の受講義務もあります。新規研究課題の研究代表者・研究分担者は、交付申請前までに「科学の健全な発展のために-誠実な科学者の心得-」などの教材の通読・履修か、所属する研究機関が実施する研究倫理教育の受講のいずれかを行う必要があります。生成AI利用への注意喚起は、この研究倫理教育で扱われる研究者倫理全般の一部として読むのが実態に近いところです。

特別研究員-DCの募集要項でも同じ趣旨の注意喚起がある

科研費の主要種目だけでなく、博士課程在学者を対象にした「特別研究員-DC」の令和8年度募集要項にも、ほぼ同一の一文があります。

申請書の作成に当たって、生成AIを利用することは、意図せず著作権の侵害、個人情報や機密情報の漏洩につながるリスクがありますので、このことに留意した上で申請者個人の責任において判断してください。

特別研究員-DCの募集要項は、特別研究員の採用に関する募集要項と、その研究に対する助成である「科研費(特別研究員の奨励費)」の公募要領を1冊にまとめた構成になっています。この注意書きは冒頭の「はじめに」に置かれており、特別研究員としての採用審査と科研費の助成審査の両方にまたがる文書です。なお、この文書全体を通しても生成AIに関する記載はこの1箇所のみで、応募書類にAIの利用有無を明記させる欄や、利用を申告する手続きは設けられていません。文部科学省の大学向け生成AI通知が学生に利用した生成AIの種類や箇所を明記させる対応を挙げているのとは対照的です。

研究計画調書のどの記述でリスクが高まるか

公募要領のリスクの説明を、研究計画調書で実際に書く内容に当てはめると、リスクの度合いは一様ではありません。「研究目的、研究方法」は公募要領自体が添付ファイル項目の一例として挙げている記述箇所で、「応募者の研究遂行能力及び研究環境」は平成31(2019)年度公募から旧「研究業績」欄を改称した現行の項目名です。

書く内容主なリスク留意点
研究目的、研究方法のうち先行研究の要約部分主なリスク著作権侵害留意点既存論文の要約を生成AIに任せると、元の表現がそのまま近い形で紛れ込みやすい
研究目的、研究方法のうち研究体制の記述主なリスク個人情報・機密情報の漏洩留意点共同研究者名、被験者情報、未発表データを入力すると外部送信のリスクが生じる
応募者の研究遂行能力及び研究環境主なリスク著作権侵害留意点過去の論文や業績の要約整理をAIに任せる場合も、出典と内容の対応を確認する必要がある
研究経費の内訳・積算根拠主なリスク相対的に低い留意点数値の整理や書式調整が中心で、著作物や機微情報を扱う場面が少ない

先行研究の要約や過去の業績整理のように既存文献を要約・引用する記述では著作権侵害のリスクが、研究体制のように人物情報や未発表データに触れる記述では情報漏洩のリスクが、それぞれ相対的に高くなります。逆に経費の積算のような数値中心の記述は、公募要領が挙げる2つのリスクのいずれにも当たりにくい部類です。研究遂行能力欄で引用文献の書式や体裁だけを生成AIに整えてもらう使い方も、著作権侵害のリスクを直接高めるものではありません。ただし書誌情報を生成AIが誤って作ることがあるため、出典の存在と内容が一致しているかを確認する作業までは省略できません。

Claudeを申請書作成の補助に使う場合に確認しておきたいこと

公募要領のリスクが入力データと出力表現の2方向にある以上、Claudeを使う場合の実務上の対応も、この2方向に沿って考えることになります。

入力側では、共同研究者名や被験者情報、未発表データといった機微な内容を、学習に使われる設定のまま入力しないことが要点です。Claudeの商用利用規約ではプランによってデータ学習の扱いが異なり、Team・Enterprise・APIといった商用プランは既定でモデル学習の対象外とされる一方、無料・Pro・Maxのコンシューマープランは設定で学習の可否を切り替える仕組みです。大学が組織として契約するClaude for Educationのような教育機関向けプランを使う場合は、契約形態に応じたデータの扱いを事前に確認しておく対象になります。

出力側では、生成された文章をそのまま調書に貼り付けず、先行研究の要約であれば元の文献と表現を突き合わせて確認する作業が対応になります。文献レビューや先行研究の整理そのものにAIを活用する使い方については、Claude Scienceの文献レビュー実例でも具体的な使い方を扱っています。あわせて、Claudeの利用条件全般はAnthropicの利用規約(AUP)にも定めがあり、学術目的での利用が禁止されているわけではないものの、出力の正確性を利用者側が検証する前提は変わりません。

科研費の自己責任条件は、大学が独自に定める学内の生成AIポリシーに取って代わるものではありません。所属機関が学内規程を設けている場合、科研費の申請書作成であっても、その学内規程を合わせて確認する対象になります。JSPSの公募要領はあくまで科研費という制度側の最低限の注意喚起で、大学単位のルールとは別の階層にあると考えたほうが実務には合います。

まとめ

JSPSの令和8(2026)年度の科研費公募要領は、基盤研究(A・B・C)、挑戦的研究、若手研究、特別推進研究、基盤研究(S)、そして博士課程の在学者向けの特別研究員-DCまで、主要な種目に共通して同じ趣旨の一文を置いています。生成AIの利用を禁止するのではなく、意図しない著作権侵害と個人情報・機密情報の漏洩という2つのリスクを名指しした上で、研究者個人(特別研究員-DCでは申請者個人)の責任における判断を求める内容です。生成AIの出力が結果として他人の研究内容の盗用に該当すれば、科研費の不正行為として一定期間の不交付や返還請求、概要の公表といった既存の処分規定の対象になり得ます。Claudeを申請書作成の補助に使う場合は、共同研究者情報や未発表データといった機微な内容を学習対象外の設定で扱うことと、生成された文章を先行研究と突き合わせて検証することが、公募要領が求める自己責任の中身に対応する実務になります。

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