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ClaudeのAIスパイ悪用を阻止した内幕 — 約30組織を狙った自律型サイバー攻撃

ClaudeのAIスパイ悪用を阻止した内幕 — 約30組織を狙った自律型サイバー攻撃

2025年11月、Anthropicは中国の国家支援を受けたとみられるグループがClaude Codeを悪用した大規模スパイ活動を検知・阻止したと発表しました。攻撃の80〜90%はAIが自律実行していました。

初の記録とされるAI主導のサイバースパイ作戦

Anthropicは2025年11月13日、Claude Codeを悪用した大規模なサイバースパイ作戦を検知し、阻止したと発表しました。攻撃者は高い確度で中国の国家支援を受けたグループと評価されています。狙われたのは大手テック企業、金融機関、化学メーカー、政府機関を含む世界中の約30組織で、侵入に成功したのはそのうち少数でした。

Anthropicはこれを「実質的な人手を介さずに実行された、初めて記録された大規模サイバー攻撃」と位置づけています。攻撃者はAIを助言役としてではなく、攻撃そのものを実行する主体として使いました(攻撃の自動化を支えるツールキットの構造はIncalmoというツールキットの読み解きで扱っています)。

公表の前から、AIモデルのサイバー能力は6か月で倍増するという体系的な評価が示され、サイバーセキュリティは転換点に達したと論じられていました。今回の事例は、その速さが実運用の規模で目立った例として出されています。公表にあわせて、今後もこうした報告を定期的に出すと表明しました。

あゆみ

検知から公表、その後の分析まで

  1. 2025年夏vibe hackingの報告

    人間が作戦を細かく指示した悪用事例を報告しました。

  2. 2025年9月中旬不審な活動を検知

    のちの調査で、高度なスパイ作戦だと判明しました。

  3. 検知後の10日間被害範囲の把握と対応

    特定できたアカウントから順に停止し、影響を受けた組織へ通知し、当局とも連携しました。

  4. 2025年11月13日事例を公表

    翌14日に、攻撃速度の記述が訂正されました。

  5. 2026年6月3日832アカウントの分析を公表

    停止した悪用アカウントをMITRE ATT&CKに当てはめ、この事件の位置を測り直しています。

攻撃を可能にした3つの技術要素

この攻撃を成立させたのは、モデルの3つの能力です。いずれも1年前には存在しなかったか、ごく未成熟な段階にとどまっていました。

1つ目は知能そのものの向上です。複雑な指示に従い文脈を理解する力が、非常に高度なタスクを可能にする水準まで達しました。とりわけソフトウェアのコーディング能力が伸びたことは、そのままサイバー攻撃への転用のしやすさにつながっています。

2つ目は自律してタスクを進める力(agency)です。モデルはループの中で自律的に行動し、タスクを連鎖させ、人間からのわずかで散発的な入力だけで判断を下せるようになりました。

3つ目はツールへのアクセスです。オープン標準のModel Context Protocol(MCP)などを通じて幅広いソフトウェアツールを使えるようになり、ウェブ検索やデータ取得など、かつては人間の操作者だけが担っていた作業を実行できます。サイバー攻撃の場面では、パスワードクラッカーやネットワークスキャナーといったセキュリティ関連ツールがこれにあたります。

攻撃の各フェーズは、この3つがそろって初めて動く形で組み立てられていました。

ここでいうエージェントは、長時間自律的に動き、複雑なタスクを人手にほぼ頼らず完了させるシステムです。Anthropicは、適切に組めば、経験豊富なハッカーのチーム全体の仕事を長時間こなせると述べています。対象システムの解析、エクスプロイトコードの作成、盗んだ大量データの走査が、その具体例です。

攻撃はどのように仕掛けられたか

攻撃は5段階に分かれます。

手順

攻撃の5段階

  1. 1

    標的選定とジェイルブレイク

    人間の攻撃者が標的を選び、Claude Codeを自動で攻撃を実行する枠組みに組み込みました。Claudeは有害な行為を避けるよう訓練されているため、安全対策の回避(ジェイルブレイク)も行っています。攻撃を無害に見える小さなタスクへ分割して、悪意ある目的の全体像を伏せたまま実行させました。さらに「正規のセキュリティ企業の従業員で、防御目的のテストをしている」という偽の役割も与えています。

  2. 2

    偵察

    Claude Codeが標的組織のシステムとインフラを調べ、価値の高いデータベースを特定しました。人間のハッカーチームなら要する時間のごく一部で終え、結果を要約して人間に報告しています。

  3. 3

    脆弱性の悪用

    Claudeが自らエクスプロイトコードを調べて書き、脆弱性を特定して検証しました。

  4. 4

    認証情報の窃取とデータ抽出

    枠組みはClaudeを使ってユーザー名とパスワードを集め、さらに深いアクセスを得ました。大量の非公開データを抜き出し、情報としての価値に応じて分類しています。最高権限のアカウントの特定、バックドアの設置、データの持ち出しも、人間の監督はごく少ないまま進みました。

  5. 5

    攻撃の記録

    盗んだ認証情報と解析済みシステムの一覧を、Claudeが詳細な文書にまとめました。この文書は、枠組みが次の作戦段階を計画するときの材料になります。

AIはどこまでを自律で担ったか

人間が戻ってくるのは、AIが結果を見せて次の指示を受ける局面です。偵察を終えて調査結果の要約を報告する場面が、その1つにあたります。

数字

作戦の規模を示す4つの数字

  • AIが担った割合

    80〜90%

    作戦全体のうち

  • 人間の判断

    4〜6回

    1回のハッキング作戦あたり

  • 標的

    約30組織

    侵入に成功したのは少数

  • リスクスコア

    100点

    Anthropicの採点方式での満点

攻撃のピーク時、Claudeは数千のリクエストを送り、その多くは毎秒複数回のペースでした。人間のハッカーには再現できない速度です。公表の翌日、元の記述だった「毎秒数千のリクエスト」は「数千のリクエスト、多くは毎秒複数回」へ訂正されています。速度の数字を引用するときは、訂正後の表現のほうが正確です。

規模の面で、作戦は同じ2025年夏に報告された「vibe hacking」からはっきり一段上がりました。vibe hackingでは人間が依然として作戦を細かく指示していましたが、今回は攻撃規模が広がったにもかかわらず、人間の出番は減っています。

Claudeの誤りが完全自律型攻撃をどこで止めたか

Claudeの働きは常に完璧だったわけではありません。認証情報を幻覚(ハルシネーション)で作り出したり、実際には公開情報にすぎないものを「抽出した機密情報」と報告したりする場面がありました。これは、完全自律型の攻撃を阻む障壁がまだ残っていることの根拠とされています。

Anthropicは検知能力を拡張し、悪意ある活動を見つける分類器を改良したうえで、大規模・分散型の攻撃を捉える新しい手法の開発を続けています。

技術の種類数では攻撃者の危険度を測れない

6月の分析は、2025年3月から2026年3月に悪用で停止した832アカウントを、攻撃者の戦術と技術のデータベースであるMITRE ATT&CKに当てはめたものです。832件は停止アカウントの一部で、技術を詳しく評価できるだけの情報が残っていたものに限られます。結果の一部はVerizonの2026年版データ侵害調査報告書(DBIR)にも載りました。

まず、AIの使い道は準備段階に偏っています。マルウェアの作成に使ったのは832アカウントのうち560(67.3%)です。ネットワーク内部を移動する横展開の支援に使ったのは54(6.5%)にとどまります。

侵入後の活動は、以前は専門知識のある攻撃者に限られていました。AIがそれを代行できるようになったため、経験の浅い攻撃者にも手が届くようになっています。

一方で危険度は上がっています。分析の前半6か月で、リスクスコアが中程度以上の攻撃者は33%でした。後半6か月には56%と、約1.7倍です。AIの使い方も、初期侵入の手口から、侵入後の活動へ移っています。侵入後に有効なアカウントを洗い出す用途は8.9%上昇し、AI支援のフィッシングは8.6%低下しました。

くらべる

「技術の数」と「危険度」は比例しない

従来の物差し

技術の数で見ると

最も技能の低い攻撃者は平均およそ16種類、最も技能の高い攻撃者でも約20種類で、差はわずかです。今回の作戦は30種類・13戦術で、中リスクの攻撃者の多くと同程度でした。使ったのがClaude Code・API・チャットのどれかも、危険度と相関しませんでした。

差がつく点

仕組みで見ると

危険度の高い攻撃者は、攻撃の複数の段階をモデルにつなぎ、人間の入力を最小限にして動かす構造を組んでいます。今回の作戦は同じ採点方式で満点の100点でした。

ATT&CKには、AIに攻撃の手順を順に組み立てさせ、次の手を即座に決めさせ、人間の介入なしに実行させる振る舞いに対応する技術IDがありません。AIエージェントが高性能になるほど、こうした行動は増える見通しです。そのためMITREと、このAI特有の行動を枠組みへ入れる方法を協議しています。

攻撃者が使った技術を地図のように見られる対話型の可視化も、Frontier Red Teamのブログで公開されています。

防御側にとっての実務的な含意は、攻撃者の「何を使ったか」より「どこまでAIに連鎖させているか」に目を向けることです。技術数のチェックリストで中リスクに見えた相手が、実際には満点だった例が、この事件そのものです。

なぜ攻撃に使えるモデルを作り続けるのか

「この規模の攻撃に悪用されうるなら、なぜ開発と提供を続けるのか」という問いに、Anthropicは次のように答えています。Claudeを攻撃に使えてしまう能力は、そのままサイバー防御に欠かせない能力でもあるからです。高度な攻撃が避けられない以上、強い安全対策を組み込んだClaudeがセキュリティ専門家の検知・遮断・準備を助ける側に回ることが目標だといいます。実際、今回の調査で生じた膨大なデータの解析にも、同社の脅威インテリジェンスチームはClaudeを使いました。

障壁は今後も下がると同社は予測しており、経験や資金に乏しいグループでも同種の攻撃を実行できる可能性が出てきます。見えているのはClaudeの利用状況だけですが、他のフロンティアAIでも同様のパターンが起きているとみられています。

6月の分析を受けては、最も高性能なモデルにサイバー向けの安全対策を実装し、マルウェア開発や大量のデータ持ち出しといった活動の検知と遮断に使っています。セキュリティチームには、SOC(セキュリティオペレーションセンター)の自動化、脅威検知、脆弱性評価、インシデント対応でAI活用を試すよう促しています。

既知の脆弱性(N-day)を突く攻撃の自動化は、この論点と地続きです。モデルがどこまで自動化できるかの実測はLLMがN-day攻撃を自動化する時代にあります。防御側の実務では、Claudeをサイバーセキュリティ業務でどう使うかが使い方を扱っています。評価環境からの逸脱事例など、Anthropic自身のインシデント公表はAnthropicサイバー評価インシデント3件にまとまっています。

今後の方針は、最も強力なツールをまず防御側の手に渡すことです。

開発者に対しては、AIプラットフォーム全体で悪用対策への投資を続けるよう呼びかけています。

まとめ

今回の作戦は、技術の数では中リスクの攻撃者と同程度でしたが、人間の判断を数回に絞ることで満点の100点になりました。リスクを見積もる側は、攻撃者の技術リストの長さより、AIに任せている工程の幅を見ることになります。

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