業務委託の偽装請負をClaudeで点検 — 契約書と運用メモを突き合わせる手順
業務委託契約が偽装請負にならないかを、37号告示の区分基準でClaudeに点検させる手順です。契約書と運用実態メモを突き合わせるプロンプトと、疑義応答集の判断例をまとめました。
契約書の題名では偽装請負かどうか決まらない
偽装請負は、契約書が「業務委託」や「請負」になっていても、実態が労働者派遣なら成立します。厚生労働省の疑義応答集(第3集)は、発注者と受注者の間で請負契約等の形式をとりながら、発注者が受注者の雇用する労働者へ直接具体的な指揮命令をして作業をさせている場合を偽装請負と呼び、労働者派遣法に違反すると説明しています。
Claudeに契約書だけを読ませても、この点検は終わりません。契約書は指揮命令の有無を書いていないことが多く、問題は現場の運用に出るからです。そこで素材を2つ用意します。
- 契約書(業務委託契約書・請負契約書・準委任契約書、仕様書や作業指示書を含む)
- 運用実態メモ(誰が誰に何を指示しているか、時間・場所・道具・精算の方法を箇条書きにしたもの)
物差しは、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、通称37号告示)です。以下、この基準を点検項目に落とし、Claudeに突き合わせさせる流れを順に示します。
37号告示を8つの点検項目に分ける
37号告示の第2条は、請負の形式で自社の労働者を働かせる事業主について、2つの柱を両方満たさない限り、労働者派遣事業を行う事業主とする、という作りです。
- 柱1: 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用していること。業務の遂行方法・評価の管理、労働時間等の管理、企業秩序の維持(服務規律・配置の決定と変更)の3つに分かれます
- 柱2: 請け負った業務を、契約の相手方から独立して処理していること。資金の調達と支弁、事業主としての法的責任、機械・設備・資材の準備または自らの企画・専門技術のいずれかに分かれます
条文の項目を、契約書で見るもの・運用メモで見るものに振り分けると次の表になります。
| 告示の項目 | 契約書で見る点 | 運用メモで見る点 |
|---|---|---|
| 業務の遂行方法・評価の管理(第2条1号イ) | 契約書で見る点作業手順や順序を発注者が定める条項がないか | 運用メモで見る点発注者の担当者が受注側の個人へ直接指示していないか |
| 労働時間等の管理(同ロ) | 契約書で見る点始業・終業、休憩、休日を発注者が決める条項がないか | 運用メモで見る点残業や休日出勤の指示が誰から出ているか |
| 服務規律・配置(同ハ) | 契約書で見る点服装、人員の配置・変更に発注者が関与する条項 | 運用メモで見る点誰が配置換えやシフトを決めているか |
| 資金の調達(第2条2号イ) | 契約書で見る点業務に要する費用の負担者 | 運用メモで見る点費用を受注側が自ら支弁しているか |
| 事業主としての責任(同ロ) | 契約書で見る点契約不適合や損害賠償の責任の所在 | 運用メモで見る点不具合対応を受注側の責任者が行っているか |
| 機械・資材または専門性(同ハ) | 契約書で見る点設備・資材の提供元と、借りる場合の別契約 | 運用メモで見る点労働力の提供だけになっていないか |
評価の指示や、時間管理の「単なる把握」を除く点など、細かい括弧書きは告示の本文に従います。Claudeに渡す前に、告示の全文(PDFは2ページほどです)をそのまま貼り付けてください。要約を渡すと、要約の誤りまでそのまま点検基準になってしまいます。
さらに第3条は、第2条の各号を満たしていても、法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたもので、真の目的が労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れられない、と定めています。形式を整えるだけの是正では足りない、という条文です。
点検の準備 — 何を伏せて何を渡すか
実在の契約書をそのまま貼る前に、次を伏せるか置き換えます。
- 会社名・担当者名・個人名は「甲」「乙」「担当者A」にする
- 金額は、精算方法(出来高か人数・時間か)が分かる範囲に留める
- 本文中の住所、口座、マイナンバーなどの個人情報は消す
契約書をまとめて読ませるなら、ClaudeのProjectsに告示全文と契約書を置いておく形が扱いやすくなります。契約書を読ませる基本はClaudeに契約書を読ませて条項を確認する方法にあります。Projectのカスタム指示には、次のような役割を固定しておきます。
あなたは請負・業務委託契約の点検の補助者です。
基準は添付の37号告示の本文だけです。基準に書かれていない要件を足さないこと。
各項目について、契約書の該当条項と運用メモの該当行を引用して判定する。
引用できる箇所が無い項目は「情報不足」とし、推測で埋めない。
法的な結論は出さず、「要確認」「懸念あり」「懸念小」の3段階で示す。「情報不足」の逃げ道を明示しておくのが要点です。ここを許さないと、Claudeは運用メモに書いていない事実を「おそらく〜」で補ってしまい、点検表に根拠のない行が混ざります。
契約書と運用実態メモを突き合わせるプロンプト
運用メモは、次の見出しで箇条書きにします。書けない項目は空欄のまま渡して構いません。
【運用実態メモ】
- 指示を出す人: (発注側の誰が、受注側の誰に、どの経路で)
- 作業の順序・配分: (誰が決めるか。作業指示書の有無)
- 勤務時間・休憩・休日: (誰が決めるか。残業の指示は誰か)
- 配置・人員の入れ替え: (誰が決めるか)
- 作業場所と設備・資材: (誰の物か。借りる場合の対価)
- 精算の方法: (出来高か、人数・時間か)
- 受注側の責任者: (常駐か、他業務との兼任か)そのうえで、Projectの中で次のように依頼します。
添付の契約書(乙=受注側)と、下の運用実態メモを、37号告示の
第2条1号イ・ロ・ハ、2号イ・ロ・ハの順に突き合わせてください。
出力は表で、列は「告示の項目」「契約書の根拠(条項番号と抜粋)」
「運用メモの根拠(該当行)」「判定」「確認すべき追加情報」。
最後に、契約書の文言は問題なさそうでも運用側に懸念が出ている項目を
別に3行以内でまとめてください。出力の形は、たとえば次のようになります(公式の例ではなく、手順を示すための例示です)。
| 告示の項目 | 契約書の根拠 | 運用メモの根拠 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 第2条1号イ(遂行方法の指示) | 契約書の根拠第3条「乙は自己の責任で業務を遂行する」 | 運用メモの根拠「発注側のリーダーがチャットで作業の順番を指示」 | 判定懸念あり |
| 第2条2号ハ(設備・資材) | 契約書の根拠記載なし | 運用メモの根拠「発注側のPCと席を無償で利用」 | 判定要確認 |
この表で重要なのは、左から2列目と3列目が両方埋まっているかです。契約書の根拠が立派でも、運用メモ側で崩れる項目は契約書の整備では直らない項目です。
契約書が整っていても運用で崩れやすい5つの型
疑義応答集には、現場でよく起きる場面ごとの判断が載っています。Claudeに点検させるとき、運用メモの観点としてそのまま使えます。
運用メモで必ず聞く5つの場面
作業指示書で順序まで細かく指定している
発注者が作業の内容・順序・方法を文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合は、発注者による指示その他の管理を行わせていると判断され、偽装請負になります。
料金を人数や投入時間で精算している
製品や作業の完成を目的とせず、費やす労働力(労働者の人数)に関して受発注し、投入した労働力の単価を基に請負料金を精算している場合は、単なる労働力の提供にあたり偽装請負と判断されます。出来高精算や、日々変動する発注量だけでは偽装請負になりません。
責任者が作業者を兼ねている
受注側の管理責任者が作業者を兼任していても、指示や管理、発注者との交渉といった責任を果たせるなら問題ありません。ただ、作業の都合で事実上管理ができないなら管理責任者とはいえません。作業者が1人だけでその人が責任者を兼ねる場合は、発注者から責任者への注文が、実態として請負労働者への指揮命令になります。
発注者が直接、変更や手直しを指示する
作業工程の見直しや欠陥品の作り直しを、発注者が請負事業主に要求することは契約当事者間のやりとりです。一方、発注者が請負労働者へ直接それを指示すると、直接の指揮命令に当たります。
作業服や設備を発注者が指定・貸与する
作業服を発注者が直接指示すると、服務規律の管理を自ら行っていないことになります。ただし、機密保持や安全衛生など合理的な理由で、双方合意のうえ契約にあらかじめ定めている場合は、それだけでは偽装請負になりません。請負業務の処理に直接必要な機械・資材を発注者から借りる場合は、請負契約とは別の双務契約が必要です。
どの型も「契約書に何と書いてあるか」より、「現場で誰が誰に言っているか」で結果が変わります。運用メモにはチャットの文面やメールの抜粋を匿名化して数行添えると、Claudeの判定の根拠が具体的になります。
準委任やシステム開発の場合
業務委託といっても、請負ではなく準委任契約の場合があります。疑義応答集(第3集)は、請負と同様に委任・準委任でも、実態として発注者と受注者側の労働者の間に指揮命令関係があれば、契約の形式を問わず労働者派遣事業に該当し労働者派遣法の適用を受けると述べています。判断は契約形式ではなく、37号告示に基づいて実態に即して行われます。
システム開発にも同じ考え方が及びます。第3集は、アジャイル型開発以外の開発を請負業務とする場合にも当てはまるとしています。令和3年5月13日付の事務連絡も、疑義応答集のQ10・Q11(技術指導に関する考え方)をシステム開発に当てはめられると示しています。
アジャイル型開発では、発注者側と受注者側が一つのチームで密に連携します。第3集はそれだけで偽装請負になるわけではないとし、両者が対等な関係で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発しているなら、適正な請負等といえるとします。逆に、発注者側が受注者側の担当者へ直接、遂行方法や労働時間等を指示する実態なら偽装請負です。そこで、運用メモには次の項目を足します。
- 発注者側の開発責任者と受注者側の開発担当者の役割・権限が、契約や合意文書で決まっているか
- スプリントの順序や作業分担を、受注者側が自ら決めているか
- 勤務時間や出退勤の指示が、発注者側から受注者側の個人へ出ていないか
点検結果を是正につなげる
点検表で「懸念あり」が出たら、直す場所を契約と運用に分けます。
| 懸念の出どころ | 直し方の方向 |
|---|---|
| 契約書に発注者が指示する条項がある | 直し方の方向受注者が自ら遂行方法を決める条項へ。ただし運用が変わらなければ意味がない |
| 運用で発注者が直接指示している | 直し方の方向指示の窓口を受注側の責任者に一本化し、個人への直接指示をやめる |
| 精算が人数・時間単価になっている | 直し方の方向成果物や出来高に紐づく精算へ見直す(業務の性質上、難しい場合は契約の類型自体を再検討) |
| 設備・資材が発注者の無償提供 | 直し方の方向借用・購入の別契約か、受注者側での準備に切り替える |
懸念が重い場合に備えて、発注側が知っておく規定があります。労働者派遣法第40条の6第1項第5号は、法律の適用を免れる目的で、請負など労働者派遣とは別の名目で契約を締結し、派遣契約に定めるべき事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けた場合、その時点で、派遣労働者に対し、その時点の労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす、と定めています。ただし、行為が該当することを知らず、かつ知らなかったことに過失がなかったときは、この限りではありません。申込みのみなしは、他の号の違反でも生じます。
この規定にどこまで当たるかは個別の事情で変わります。Claudeに「みなし制度の対象か」を判定させず、点検表を労働局の窓口や弁護士に持ち込む資料として使うのが現実的です。
Claudeに任せない部分
個別の契約書に法を当てはめて評価することは、弁護士法72条との関係が論点になります。線引きは弁護士法72条とAIの契約書レビューで整理しています。社内の自己点検であれば、Claudeには「基準に照らした項目別の整理」までを頼み、結論は担当者と専門家が出す、という分担にしておくと運用しやすくなります。
また、Claudeの出力は点検の入口です。引用された条項番号が契約書の実際の文言と一致するか、判定の根拠にした行が運用メモにあるかは、表を見ながら人が1行ずつ照合します。引用がずれている行は、その行だけ再度質問します。
取引先への発注書側の観点(下請法から改正された取適法)は、請負区分とは別の物差しです。発注書の点検は取適法の発注書チェック、フリーランスへの取引条件の明示はフリーランス法3条通知の突き合わせにあります。販売店契約の独占禁止法面は代理店契約・販売店契約の独禁法点検で扱っています。
よくある質問
発注者が受注者の担当者と日常的に会話するのは問題ですか
業務に関係のない日常的な会話は、指揮命令を行ったことにならず、偽装請負にはあたりません。業務の進め方に関わる直接の指示になると問題が生じます。