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Claudeで共同研究契約書とMTAを点検する手順 — 帰属・実施許諾・公表の猶予

Claudeで共同研究契約書とMTAを点検する手順 — 帰属・実施許諾・公表の猶予

共同研究契約書とMTA(物質移転契約)を、成果の帰属・実施許諾・秘密保持・論文公表の猶予の4点でClaudeに並べさせる手順です。Projectsの置き方、プロンプト、特許法の初期設定との突き合わせを扱います。

共同研究契約書とMTA(物質移転契約)で揉めやすいのは、成果の帰属、実施許諾、秘密保持、論文公表の猶予の4点です。この記事は、2つの契約書を同じ4つの観点で条項ごとに並べ、食い違いをClaudeに洗い出させる手順をまとめます。法的な結論はClaudeに出させません。出させるのは、人が確認する論点の一覧です。

4つの観点を、2種類の契約で並べる

共同研究契約は研究全体の取り決めで、MTAは試料や材料を渡すときの取り決めです。同じ案件に両方が付くと、同じ論点が別の文言で二重に書かれます。片方で公表を認め、もう片方で禁じていても、1本ずつ読むと気づきません。

並べる観点は次の4つです。

観点共同研究契約で見る点MTAで見る点
成果の帰属共同研究契約で見る点共同発明の権利の持ち方MTAで見る点提供物の派生物・改変物の権利
実施許諾共同研究契約で見る点共有者が自ら実施できる範囲と、第三者への許諾の手続きMTAで見る点提供物の使える用途と、第三者への再提供
秘密保持共同研究契約で見る点秘密情報の定義、期間、例外MTAで見る点提供物と付随情報の扱い
公表の猶予共同研究契約で見る点論文・学会発表の事前通知期間MTAで見る点提供物を使った結果の公表条件

右の列は点検の観点であり、MTAの条項がこの順で並ぶと決まっているわけではありません。契約書ごとに条項の置き場所は違うので、Claudeには「該当する条項がなければ記載なしと書く」よう指示します。

契約書を渡す前に確かめること

共同研究の契約書には、相手方の秘密情報や未公開の研究内容が入ります。Claudeに入力してよいかは、契約の秘密保持条項と、使っているプランの条件の両方で決まります。

AnthropicのPrivacy Centerでは、Claude for WorkやAnthropic APIといった商用製品の入力と出力は、既定ではモデルの学習に使われないと説明されています。ただし、サムズアップ・ダウンで不具合や意見を報告した場合は、会話全体が学習に使われ得ます。この報告はTeamとEnterpriseで、Primary OwnerまたはOwnerが「Rate chats」設定で止められます。

同じページは、Free・Pro・Maxなどの個人向け製品を別の扱いとして、別のページに誘導しています。個人アカウントの設定はClaudeを学習させない設定にまとめています。学習されないことと、秘密保持条項が入力を許すことは別の問題です。機関の規程で外部サービスへの入力が制限されていないかも、先に担当部署へ聞きます。同じ考え方を顧客資料で整理したものがコンサルがClaudeに顧客資料を渡す前のNDA点検表です。

Projectsに2つの契約書と観点を置く

2種類の契約書を横断して質問するので、Projectsを使います。サポート記事によると、プロジェクトの知識ベースにアップロードした文書は、そのプロジェクト内のすべてのチャットで使われます。指示(project instructions)も、プロジェクト内のすべてのチャットに効きます。一方、チャット間の文脈は、知識ベースに入れない限り共有されません。

手順

Projectsの準備

  1. 1

    プロジェクトを作る

    「Projects」から「+ New Project」を選び、案件名を付けます。名前と説明文はClaudeには渡りません。

  2. 2

    契約書を知識ベースに入れる

    共同研究契約書、MTA、別紙(研究計画書・費用負担表)を「+」から入れます。氏名・住所などの個人情報は、点検に不要なら黒塗りしたものを使います。

  3. 3

    指示を保存する

    「Set project instructions」に、次節の固定文を入れて保存します。

メモリが有効なアカウントでは、プロジェクトごとに独立したメモリが持たれます。案件の中身を他のチャットに持ち出したくないときは、プロジェクトのページで「Use account memory」をオフにします。単発のチャットなら、最初のメッセージの前に「+」メニューで「Memory」をオフにする方法もあります。TeamやEnterpriseで共有する場合の権限は、閲覧のみ(Can view)か編集可(Can edit)です。研究室の学生に見せるだけなら、閲覧にとどめると指示の書き換えを防げます。

指示に入れる固定文

指示には、条項の引用ルールと、出力の形を固定します。条項を1本ずつ読ませる基本はClaudeに契約書を読ませてわかりにくい条項を確認する方法にあり、ここではそれを2種類の契約書にまたがる形へ広げます。次は書き方の一例です。

あなたは研究者の契約確認を補助する。法的な結論は出さない。
- 条項は条番号と原文を引用し、要約は引用の後に書く
- 契約書にない論点は「記載なし」と書き、推測で補わない
- 共同研究契約とMTAで内容が食い違う箇所は、両方の条番号を並べる
- 観点は(1)成果の帰属 (2)実施許諾 (3)秘密保持 (4)公表の猶予
- 最後に、専門家(産学連携部門・弁護士)へ確認する論点を列挙する

質問は、一度に全部を聞かず、観点ごとに分けます。たとえば次のようにします。

観点(4)公表の猶予について、共同研究契約とMTAの該当条項を表にして。
列は「文書名/条番号/事前通知の期間/相手方の削除請求権の有無/原文の引用」。
該当条項がない文書は「記載なし」と書いて。

返ってきた表は、原文の引用が契約書と一字一句合っているかを人が照合します。引用が合っていない行は、要約も信用しません。

成果の帰属と実施許諾は、法律の初期設定と見比べる

共同研究の契約書は、法律の初期設定から外れる箇所を書き込む文書です。何が初期設定かを知らないと、契約書の文言が有利か不利か判断できません。特許法73条は、特許権が共有のときの扱いを次のように定めています。

  • 共有者は、他の共有者の同意なく、持分の譲渡や質権の設定ができない(1項)
  • 共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、同意なく自ら発明を実施できる(2項)
  • 共有者は、他の共有者の同意なく、専用実施権の設定や通常実施権の許諾ができない(3項)

つまり、共有特許を第三者にライセンスしたいとき、契約が何も定めていなければ、共有者全員の同意が要ります。企業側が実施許諾を自由に出したい、大学側が他社へのライセンスを妨げられたくない、といった希望は、契約書に書いて初めて初期設定を変えられます。

Claudeには、次のように頼みます。

特許法73条の1項〜3項を基準に、この契約書の帰属・実施許諾の条項が
(a)初期設定のままか (b)別段の定めか を条項ごとに分けて。
別段の定めは、誰に有利に働くかを一文で書き、断定はしないで。

73条の条文は、頼む前にこちらで貼り付けておきます。Claudeの記憶に頼って条文を引かせると、番号や項のずれに気づけません。

もう1つ、帰属で見落とされやすいのが職務発明です。特許法35条3項は、契約や勤務規則であらかじめ使用者に特許を受ける権利を取得させると定めたとき、その権利は発生時から使用者に帰属するとしています。共同研究契約が「共同発明は両者の共有」と書いていても、研究者が所属する機関がその権利を承継する仕組みを持っているかは、別の話です。契約書だけを読ませても出てこない論点なので、「各機関の職務発明規程の確認が必要か」をClaudeに挙げさせます。知的財産とデータの条項を観点別に抜き出す手順は、委託契約を題材にしたAI開発委託契約の知的財産とデータ利用条項をClaudeで確認する手順が類例になります。

公表の猶予は、新規性の規定とセットで見る

論文や学会発表の事前通知は、共同研究契約でもMTAでも書かれる条項です。通知期間と、相手方が特許出願のために公表を止められる期間が焦点になります。

特許法29条1項は、出願前に公然知られた発明、公然実施をされた発明、刊行物に記載された発明、電気通信回線で公衆に利用可能となった発明について、特許を受けられないと定めています。論文の公開が先になると、出願はできても新規性を欠き、特許を受けられなくなり得るということです。例外として30条があり、特許を受ける権利を有する者の行為で公開された発明は、公開から1年以内の出願なら新規性を失わなかったものとみなされます。ただし、適用を受けるには、出願と同時にその旨を書いた書面を出し、証明書を出願から30日以内に提出する必要があります。

この例外は、猶予条項の代わりにはなりません。契約書の猶予は、そもそも先に公表しないための取り決めです。Claudeには、次の3点を表にさせます。

  1. 事前通知から公表可能になるまでの日数
  2. 相手方が公表を止められる期間の上限
  3. 共同研究契約とMTAで、その日数や上限が一致しているか

MTA側に「結果の公表は提供者の承認を要する」とあり、共同研究契約に「通知後60日で公表可」とあるような食い違いが、この表で見つかります。どちらが優先するかは、契約書に優先関係の条項があれば、それも抜き出させます。優先関係がなければ、専門家に確認する論点に回します。研究データの公開範囲を契約の猶予と合わせる作業は、データマネジメントプランの下書きに続きます。

秘密保持は、定義と期間と例外で3分割する

秘密保持条項は長くなりがちです。Claudeには条項を3つに分けて出させます。

  • 定義:何が秘密情報か。口頭開示の場合に書面化が要るか
  • 期間:契約終了後も何年続くか。MTAと共同研究契約で年数が違わないか
  • 例外:公知になった情報、独自に開発した情報などの除外規定

MTAで渡された試料自体を、秘密情報に含めているかも見ます。試料の分析結果が秘密情報になる場合、その結果を共同研究の成果として論文に載せたいときに、公表の条項と衝突するからです。衝突した箇所は、前節の公表の表に戻して書き足します。

点検結果をそのまま使わないための手順

落とし穴

引用が正しくても、条項の解釈は変わり得る

Claudeが条番号と原文を正しく引いていても、「この条項は共有者に有利」といった評価は、契約全体の文脈で変わります。評価の列は参考にとどめ、判断は産学連携部門や弁護士に任せます。

確認の流れは次の順で進めます。

手順

点検結果の確認手順

  1. 1

    引用を突き合わせる

    観点ごとの表を作らせ、原文の引用を契約書と突き合わせます。

  2. 2

    拾う行を決める

    食い違いの行と、「記載なし」の行を拾います。

  3. 3

    記載なしを区別する

    「記載なし」の行は、法律の初期設定に委ねる意図なのか、書き漏らしなのかを区別します。

  4. 4

    質問票にまとめる

    区別がつかない行を、専門家への質問票にまとめます。

最後の質問票も、Claudeにまとめさせられます。「条番号/論点/確認したい理由」の3列で出させ、相手方との交渉メモにそのまま使える形にします。

まとめ

共同研究契約書とMTAは、帰属・実施許諾・秘密保持・公表の猶予の4観点で表にすると、食い違いが見えます。Claudeには、原文の引用つきの表と、人が確認する論点の一覧を出させます。評価と結論は人が持ちます。特許法73条の初期設定と30条の例外は、条文を先に貼ってから比べさせると、番号のずれを防げます。

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