マンション総会の議案書と議事録をClaudeで整える — 議決要件の抜けを防ぐ手順
標準管理規約と自組合の管理規約をProjectに入れ、議案ごとの根拠条文・決議区分・通知要件を点検し、議事録の決議事項を書き分ける手順です。
マンション管理組合の総会では、議案書の文章の整え方よりも、議案ごとの決議の区分と通知の範囲を間違えないことのほうが重い意味を持ちます。Claudeに向くのは、その点検と、議事録の書き分けです。
管理規約と標準管理規約をProjectに入れておけば、議案ごとに根拠条文と必要な賛成割合を表にさせ、通知から漏れた事項がないかを洗い出せます。ただし条文の解釈と最終判断は人が持ちます。この記事は国土交通省が示す令和7年改正の標準管理規約(単棟型)の条文を軸に、点検の手順を組み立てます。
Claudeに任せる範囲と、人が確認する範囲
Claudeに任せやすいのは、突き合わせと書き分けです。任せにくいのは、自組合の規約にどう書いてあるかの最終確認と、法的な有効性の判断です。
| 作業 | Claudeに任せやすいか | 人が見るところ |
|---|---|---|
| 議案ごとの根拠条文と決議区分の一覧化 | Claudeに任せやすいか向く | 人が見るところ引用された条文が実在するか |
| 通知事項と議案書本文の食い違い探し | Claudeに任せやすいか向く | 人が見るところ通知の日付・期間の計算 |
| 議事録の決議事項の書き分け | Claudeに任せやすいか向く | 人が見るところ可否の結果と議決権数 |
| 規約の解釈が割れる論点の結論 | Claudeに任せやすいか向かない | 人が見るところ弁護士・マンション管理士への相談 |
作業の入口は、国土交通省のマンション管理のページにある標準管理規約です。ここに示されているのは、管理規約を作成・変更するときのひな型で、単棟型・団地型・複合用途型の3種類があります。最終改正は令和7年10月17日です。
ひな型である以上、自組合の規約とは文言も数字も違い得ます。Claudeに答えさせる優先順位は、自組合の規約が先、標準管理規約は規約に定めがない箇所の参考、と決めておきます。
準備 — 規約と標準管理規約をProjectに入れる
Projectの用意から点検までの流れ
- 1
Projectをつくる
claude.ai/projectsの「New Project」から作成します。名前と説明はClaudeには渡りません。
- 2
資料を入れる
自組合の管理規約、使用細則、標準管理規約のPDFを知識に追加します。
- 3
指示を書く
「Set project instructions」に、根拠の優先順位と引用のルールを書きます。
- 4
議案書案を渡して点検させる
議案書案は個別のチャットに貼り、決議区分と通知要件を表にさせます。
Projectは無料アカウントでも使えますが、無料では作れる数が5つまでです。知識に入れるファイルは1つあたり30MBまでで、ファイル数に上限はありませんが、全体がコンテキストウィンドウに収まる必要があります。有料プランでは、知識が上限に近づくと検索ベースのRAGモードに自動で切り替わり、容量が最大10倍まで広がります。RAGの挙動はClaude ProjectsのRAG検索の仕組みにまとめています。
もう1つ押さえておく点があります。同じProject内でも、チャット間でコンテキストは共有されません。毎回使わせたい情報は、チャットに貼るのではなく知識か指示に入れます。
指示欄の例を挙げます。これは筆者の設計例で、公式の定型文ではありません。
あなたはマンション管理組合の総会資料の点検役です。
- 根拠は、このProjectの「管理規約」「使用細則」を最優先にする。
- 「標準管理規約」は、自組合の規約に定めがない箇所の参考にとどめる。
- 条文を挙げるときは、条番号と該当文言を原文のまま引用する。
- 引用できないときは「該当条文を特定できない」と答える。
- 規約に書かれていない数値や割合を、推測で補わない。最後の2行が肝です。引用を義務づけておけば、Claudeが挙げた条文を人が原本のPDFで引き直せます。法令や規約の点検では、答えの正しさより、答えの裏取りがしやすいことのほうが実務では効きます。
議案書 — 議案ごとに決議の区分と根拠条文を並べる
議案書の点検で最初にやるのは、議案を並べて、それぞれがどの決議の区分に当たるかを表にすることです。標準管理規約の第47条は、総会の決議を、賛成に必要な割合の違いで4つに分けています。
- 普通決議は、議決権総数の過半数を有する組合員の出席のもと、出席組合員の議決権の過半数で決します(第47条第1項・第2項)
- 特別決議のうち4分の3以上のものは、組合員総数の過半数であって議決権総数の過半数を有する組合員の出席を要し、出席組合員とその議決権の各4分の3以上で決します(同条第3項)
- 3分の2以上で足りる特別な類型もあり、瑕疵の除去に必要な変更、バリアフリーのための変更、建物価格の2分の1を超える部分が滅失した場合の共用部分の復旧などが当たります(同条第4項)
- 建替え決議等は、組合員総数と議決権総数の各5分の4以上が必要です(同条第5項)
議案の例にあてはめると、次のようになります。
| 議案の例 | 標準管理規約の根拠 | 決議の区分 |
|---|---|---|
| 規約の制定・変更・廃止 | 標準管理規約の根拠第47条第3項第一号、第48条第一号 | 決議の区分各4分の3以上 |
| 形状・効用の著しい変更を伴う共用部分の変更 | 標準管理規約の根拠第47条第3項第二号 | 決議の区分各4分の3以上 |
| 瑕疵の除去に必要な共用部分の変更 | 標準管理規約の根拠第47条第4項第一号イ | 決議の区分各3分の2以上 |
| 建替え決議 | 標準管理規約の根拠第47条第5項 | 決議の区分組合員総数・議決権総数の各5分の4以上 |
| 収支決算・予算、役員の選任、長期修繕計画の作成・変更 | 標準管理規約の根拠第48条各号 | 決議の区分第47条第3項・第4項に列挙がないため、原則は普通決議 |
最後の行は読み方に注意が要ります。第48条は「総会の決議を経なければならない事項」を並べた条文で、必要な賛成割合そのものは書いていません。第47条第3項・第4項に挙がっていない事項は、第2項の普通決議に落ちるのが条文の構造です。ただし自組合の規約が別の割合を定めていることもあるので、Claudeには自組合の規約の該当条を必ず引かせます。
標準管理規約には、列挙された事項のほかに「その他総会において本項の方法により決議することとした事項」という受け皿もあります(第47条第3項第五号)。自組合がこの受け皿に何を入れているかは、規約本文を読まないと分かりません。
点検用のプロンプトは次のような形が使えます。
添付の議案書案について、次の点検をしてください。
1. 議案ごとに、決議の区分と根拠条文を表にする
(条番号と原文を引用し、規約の優先順位に従う)
2. 議案の要領が議案名だけになっている議案を挙げる
3. 賛成割合が特別決議の議案に、組合員の承諾が
必要になり得る記述(特別の影響を受ける者)がないか探す
4. 判断できない項目は「不明」と書き、推測しない3番目は、第47条第9項と第10項に対応します。規約の変更が一部の組合員の権利に特別の影響を及ぼすとき、また共用部分の変更が専有部分や専用使用部分の使用に特別の影響を及ぼすときは、その組合員の承諾を得なければなりません。議案書の本文を読んだだけでは見落としやすい箇所です。
通知 — 2週間前と「議案の要領」を点検する
議案書は、招集通知に載せた事項と一体で効力を持ちます。第47条第12項は、総会ではあらかじめ通知した事項についてのみ決議できると定めています。区分所有法第37条にも同じ趣旨の規定があります。
つまり議案書が議案の要領を欠いたまま通知されると、その事項は総会で決議できなくなるおそれがあります。ここが、文章の巧拙よりも通知の範囲を優先して見るべき理由です。
第43条第1項が通知に求める内容は次のとおりです。
- 会議の日時
- 場所(WEB会議システム等を使うときは、その開催方法)
- 目的
- 議案の要領
通知は、少なくとも会議を開く日の2週間前までに発します。会議の目的がマンション再生等に係る決議なら2か月前です。緊急を要する場合は、理事長が理事会の承認を得て、1週間を下回らない範囲で期間を短縮できます(第43条第8項)。法律側の最低ラインは区分所有法第35条の1週間前で、規約で伸長できます。標準管理規約はこれより長い2週間を採っています。
日数の数え方まで機械任せにすると事故のもとなので、Claudeには日付の計算ではなく「通知に書かれた事項」と「議案書本文の事項」の差分だけを取らせます。
招集通知の文面と議案書案を比べ、次を出してください。
- 議案書にあって、通知の「目的」「議案の要領」に
現れない議案(通知漏れの候補)
- 通知にあって、議案書に対応する説明がない議案
- 通知に書かれた日時・場所・開催方法マンション再生等に係る決議は、通知事項が増え、説明会の開催も必要になります(第43条第5項・第6項)。これらの議案を含む総会は、Claudeの点検とは別に、専門家の関与を前提にするのが現実的です。
議事録 — 経過の要領と結果を分けて書く
議事録について、標準管理規約の第49条第2項は、議事の経過の要領とその結果を記載すると定めています。発言を一字一句残す記録ではありません。
署名は、書面なら議長と、議長の指名する2名の出席組合員が行います。電磁的記録で作る場合は、同じ3名が電子署名をします(第49条第3項・第4項)。法律の側では区分所有法第42条が、議長と出席した区分所有者2人の署名を求めています。標準管理規約は署名する2名を議長の指名としている点が特徴です。
保管は理事長が担います。組合員または利害関係人から請求があれば閲覧させ、議事録の保管場所は所定の掲示場所に掲示します(同条第5項・第6項)。
決議事項の書き分けは、Claudeの得意な作業です。文字起こしを議案ごとに仕分け、経過と結果を別の欄に入れさせます。文字起こし自体の取り方はClaude議事録の実践プロンプトに譲り、ここでは書式だけを示します。例として、次のような書式を指示に入れる形が考えられます。
## 第○号議案 ○○の件
- 経過の要領: 質疑の要点を2〜3文。発言者は役職名までにとどめる
- 結果: 可決 / 否決 / 継続審議
- 集計: 出席者数・議決権数・賛否の議決権数
(集計欄の項目は自組合の運用に合わせる)
- 付記: 修正動議・条件付き可決があれば、その内容集計欄の項目は、条文が求めているものではありません。条文が求めるのは経過の要領と結果です。賛否の数を書くかどうかは組合の運用で決める事柄なので、書式の指示に入れる場合は「運用に合わせる」と断っておきます。
標準管理規約の第49条関係のコメントには、実務上の注意が1つあります。議事録には個人情報やプライバシーに関わる情報が含まれることが多く、閲覧に応じるときは、発言者や審議内容から特定の個人が識別できないよう加工するなど適切に対応する必要がある、というものです。発言者を役職名にとどめる書式は、この点とも整合します。
議案書と付随資料は保管対象 — 添付資料の扱い
第49条の2は、理事長に議案書と付随資料の保管を求めています。組合員または利害関係人が理由を付けて請求したときは、閲覧させなければなりません。
コメントによれば、付随資料に当たるのは次のようなものです。
- 第48条に挙げる議決事項の書類の案
- 総会で参考資料として配られた資料
- 組合員が書面で議決権を行使したときの書面
- 代理権を証する書面
Claudeで作った下書きがそのまま議案書の案になるなら、最終版は保管対象です。下書きの途中経過まで保管義務の対象になるかは、条文からは読み取れません。判断がつかない場合は、管理会社か専門家に尋ねる項目に回します。
Projectに入れてはいけない資料と、プランの条件
議決権行使書や委任状は、氏名・住戸番号・押印を含みます。組合員名簿も同様です。これらはProjectの知識にも、点検用のチャットにも入れません。入れる資料は、規約・使用細則・標準管理規約・総会の議案書案(個人が特定できない形)までにとどめます。入力の扱いの考え方はClaudeに機密情報を入力しても安全かで整理しています。
Claudeのヘルプセンターは、機微な個人情報や機密性の高い文書の入力には慎重になるよう案内しています。管理組合の資料は、役員個人の判断で外部サービスに渡してよいかを、理事会で決めておくのが筋です。
Projectの共有はTeamとEnterpriseのプランに限られます。共有できる場合の権限は「Can view」と「Can edit」の2段階で、閲覧のみの権限なら、書記や監事が知識と指示を見ながらチャットだけ使えます。個人プランでは、理事長や書記が自分のProjectを使い、出力を理事会に持ち込む形になります。
また、チャットとCoworkの既存のProjectは、現行の動きのまま使えます。ベータで展開中の新しいProjectsは、Claude Codeの利用者から順に提供される別の作りで、ここで説明した知識と指示の使い方とは異なります。
出力を人が検算する手順
Claudeの出力を総会資料に反映する前に、人が行う検算は3つです。
- 引用された条番号と文言を、規約のPDFで引き直す
- 決議区分の表を、第47条の条文と並べて読む
- 議事録の「結果」欄を、実際の採決の記録と照合する
条文を引用させておけば、1番目はPDFの検索機能で数分で済みます。Claudeが条文を特定できずに「不明」と返した議案は、そのまま専門家への質問リストになります。
公益財団法人マンション管理センターは、マンション管理適正化法における適正化推進センターに指定されており、管理組合の運営や管理規約についての問い合わせ窓口を設けています。解釈が割れる論点は、Claudeに結論を出させず、こうした窓口か専門家へ回します。
まとめ
議案書の点検で効くのは、文章の添削より、議案ごとの決議区分と、通知に載せた事項の突き合わせです。議事録は、議案ごとに経過の要領と結果を分けるだけで、読み手の探す手間が減ります。
Claudeの役割は、規約を引いて表にし、食い違いを洗い出すところまでです。個人情報を含む書類はProjectに入れず、解釈が割れる論点は専門家に回します。この線引きを理事会で共有しておくと、役員が交代しても同じ手順が回ります。