Claudeでリファレンスチェックの質問票と同意書を作る — 聞く範囲を先に決める
リファレンスチェックの質問票と候補者の同意書をClaudeで下書きする手順です。職業安定法5条の5と個人情報保護法の条文から、聞く範囲と同意に書く項目を決めます。
リファレンスチェックの質問票は、Claudeに「それらしい質問を30個出して」と頼めば一瞬でできます。ただ、質問が多いほど安全というわけではありません。採用側が候補者について集める情報には、法律上の枠があります。
先に枠を決めてから、その枠の中でClaudeに質問票と同意書を書かせる。この順番が、手戻りを最も減らします。ここでは職業安定法5条の5と個人情報保護法の条文を材料に、質問票と同意書の下書きを作り、回答を記録するところまでを扱います。
先に決めるのは「何のために何を聞くか」
職業安定法5条の5第1項は、求人者や労働者の募集を行う者などが求職者の個人情報を収集・保管・使用するときの原則を定めています。要点は2つです。
- 業務の目的の達成に必要な範囲内で扱うこと
- 収集するときに、その目的を明らかにすること
ただし書きとして、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合はこの限りでない、とされています。同条2項は、個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じることも求めています。
この条文そのものは質問項目の一覧を定めていません。ただし48条に基づく厚生労働大臣の指針(平成11年労働省告示第141号)が、収集してはならない個人情報を挙げています。求人者や労働者の募集を行う者も対象で、細目は次の節の枠と合わせて読みます。そのうえで「採用の可否判断に必要か」を項目ごとに自社で説明できる状態にしておくのが実務の出発点になります。
リファレンスチェックの目的は、たとえば次のように1行で書けます。
応募書類と面接で確認した職務経歴・実績・働き方について、前職の関係者から事実面の裏付けを得る。
この1行が、あとでClaudeに渡す前提文になり、同意書の利用目的にもなり、質問票の各項目を採否する物差しにもなります。
条文と指針から決める枠
個人情報保護法にも、リファレンスチェックに直結する条文があります。質問票と同意書の設計に効く部分を表にします。
| 論点 | 条文 | 質問票・同意書への落とし込み |
|---|---|---|
| 利用目的の特定 | 条文17条1項 | 質問票・同意書への落とし込み「採用選考のための職務経歴等の確認」と具体的に書く |
| 目的外利用の制限 | 条文18条 | 質問票・同意書への落とし込み目的を超えて使うには本人の同意が要る。入社後の評価に流用しない |
| 取得時の通知・明示 | 条文21条 | 質問票・同意書への落とし込み本人から書面で直接取得するなら、利用目的を事前に明示する |
| 要配慮個人情報 | 条文2条3項・20条2項 | 質問票・同意書への落とし込み病歴などを含む記述は、原則として本人の同意が要る |
| 第三者提供 | 条文27条1項 | 質問票・同意書への落とし込み回答者側が候補者の情報を渡すには、原則として本人の同意が要る |
| 収集してはならない事項 | 条文職安法48条の指針 | 質問票・同意書への落とし込み社会的身分・本籍・出生地・思想信条・労働組合への加入状況などは質問票に入れない |
指針は、業務の目的の達成に必要な範囲で収集することを求めたうえで、次の個人情報を収集してはならないとしています。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
特別な職業上の必要性があるなど業務の目的の達成に必要不可欠で、収集目的を示して本人から収集する場合は例外とされています。リファレンスの質問票では、この例外に頼る項目は最初から置かないのが無難です。指針はまた、同意を求めるときに事項を具体的かつ詳細に示すこと、必要な範囲を超える収集への同意を条件にしないことも求めています。同意書の設計にそのまま効く点です。
21条2項は、本人から直接書面に記載された個人情報を取得する場合には、あらかじめ利用目的を明示するよう求めています。候補者に同意書へ署名してもらう場面は、まさにこの形です。
27条1項は、個人データを第三者に提供する場合に、あらかじめ本人の同意を得ることを原則としています。前職の上司が候補者の働きぶりを答えることは、状況によってはこの提供にあたりえます。個別の該当判断は事案しだいなので、迷う場合は法務担当や専門家に確認してください。
回答を受け取る側にも手順がある
個人データの提供を受けるとき、30条は提供元の名称・住所と、取得の経緯を確認し、その記録を作って保存するよう求めています。リファレンスの回答がこれにあたるかは運用によって変わります。口頭の聞き取りメモだけなのか、書面やデータで受け取るのかで、記録の作り方も変わるためです。
この記事の質問票には、回答者の名称・回答日・取得方法を記録する欄を最初から入れます。あとで必要になったときに、欄が無いと作り直せないからです。
Claudeに質問票を作らせる
ここからClaudeの出番です。前提文を最初に貼り、質問を出させ、そのあと別の依頼で絞り込みます。2段に分けると、増やしすぎた質問を削る作業が楽になります。
候補者の実名や連絡先は、この段階では不要です。「候補者A」「推薦者B」のような仮の名前で依頼し、実名は手元の文書で差し替えます。
採用選考のリファレンスチェックの質問票を作ります。
目的: 応募書類と面接で確認した職務経歴・実績・働き方について、
前職の関係者から事実面の裏付けを得る。
対象職種: 法人営業(マネージャー候補)
回答者: 候補者Aの前職の直属の上司
形式: 電話またはメールで10分程度
条件:
- 質問は事実を聞く形にする(「どう思うか」より「何をしたか」)
- 1問につき、その質問で確認したい採用判断上の目的を括弧で添える
- 回答者の名称・回答日・取得方法を記録する欄を冒頭に置く
- 質問は12問以内「目的を括弧で添える」が肝です。目的を言えない質問は、その時点で見直し対象だと分かります。出てきた質問のうち、目的欄が曖昧なものから削っていきます。
質問を点検する2回目の依頼
1回目の出力をそのまま使わず、別の依頼で点検させます。点検の観点は、先ほどの表の「要配慮個人情報」と「目的との対応」です。
上の質問票を点検してください。次の3つに分けて表にします。
1. 目的に直結していて、そのまま使える質問
2. 目的との関係が弱い質問(削る候補)
3. 回答に病歴・信条・社会的身分などの記述が含まれうる質問
3は、含まれうる理由と、事実面だけを聞く言い換え案を添える。3に入る典型は、休職や欠勤の理由を尋ねる質問です。回答に病歴が含まれると、個人情報保護法2条3項の要配慮個人情報にあたる可能性があり、取得には20条2項で原則として本人の同意が要ります。勤怠を知りたいなら、理由を聞かずに「業務の継続性に支障はあったか」のように事実面へ寄せる、という言い換えが現実的です。
Claudeが出す言い換え案は、あくまで案です。条文の当てはめを任せきりにせず、最後は人が読んで判断します。
同意書を下書きする
候補者本人に署名してもらう同意書は、次の項目を満たすように組み立てます。上の表の条文に対応させた構成です。
- 実施する企業名と窓口
- 利用目的(採用選考のための職務経歴等の確認、に限る)
- 問い合わせる相手(推薦者として本人が挙げた人、など範囲を特定する)
- 尋ねる事項の範囲(職務内容・実績・勤務状況など)
- 回答の保管期間と、選考後の扱い
- 同意しなくても、そのことだけで不利益に扱わないこと(自社の運用として明記する場合)
- 日付と署名
6は条文から直接導かれる項目ではなく、運用上の設計です。入れるかどうかは自社の方針で決めます。
候補者Aの同意書を下書きしてください。
実施企業: 株式会社サンプル(窓口: 人事部)
利用目的: 採用選考のための職務経歴・実績・勤務状況の確認
問い合わせ先: 候補者Aが推薦者として挙げた前職の上司1名
範囲: 職務内容、担当した実績、勤務状況(欠勤の理由は聞かない)
保管: 選考終了後、速やかに削除する
条件: 候補者が一読で分かる文章にする。専門用語には言い換えを添える。保管期間の「速やかに削除する」は、22条が利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めることを求めている点とも整合します。具体的な期間は自社の規程で決め、同意書と食い違わないようにします。
同意書の文章が硬すぎると感じたら、やさしい日本語への書き換えと意味のずれの確かめ方で扱った逆変換の手順が使えます。同意を求める相手に伝わらない文面は、同意として弱くなるためです。
質問票と同意書のずれを突き合わせる
質問票と同意書は別々に作るので、ずれが出やすい書類です。質問票には勤務状況を聞く項目があるのに、同意書の範囲欄には書かれていない、といった形です。両方を貼って、ずれを探させます。
次の質問票と同意書を突き合わせてください。
1. 質問票の質問のうち、同意書の「範囲」に含まれないもの
2. 同意書の利用目的と、質問の目的欄が食い違うもの
3. 同意書にあって、質問票に対応する欄が無いもの(保管・削除など)
見つけたものを表にし、直し方は案として別に示す。ここで見つかった食い違いは、質問を削るか同意書の範囲を広げるかの二択になります。範囲を広げる場合は、候補者がその範囲に同意できる内容かを先に考えます。18条が定めるのは特定した利用目的を超える取扱いの制限で、質問の範囲そのものを縛る条文ではありません。ここでは運用上の前提として、同意書の範囲より広く聞かないものとして直します。
推薦者への依頼文も用意する
質問票とは別に、回答者に最初に送る依頼文が要ります。回答者は候補者本人ではなく、同意の中身を知らない場合があるためです。依頼文に入れておく項目は次のとおりです。
- 候補者から推薦者として名前が挙がっていること
- 採用選考の確認に限って使うこと(利用目的)
- 聞きたい事項の範囲と所要時間
- 答えたくない質問には答えなくてよいこと
- 病気や家族など、質問に含まれていない私的な話は不要であること
最後の2点は、回答者が踏み込みすぎるのを防ぐ役目も持ちます。Claudeには、この依頼文を同意書の文言と同じ語で書くよう指定します。利用目的の言い回しが書類ごとに違うと、どれが正式な目的か分からなくなるためです。
回答を記録して使う
質問票が完成したら、実施のあとの記録も決めておきます。
- 回答者の名称、所属、回答日、取得方法(電話・メール・書面)
- 質問ごとの回答。聞き取りなら発言どおりに書き、評価語への言い換えは別欄に分ける
- 目的外に回ったと感じた話題(病気や家族の話など)は、記録に残さず扱いを人事責任者に相談する
聞き取ったメモをClaudeに要約させるときも、仮名にしてから渡します。要約は事実の欄と解釈の欄を分けて出させると、後から根拠を辿れます。この仕分けは、面接の評価コメントを集約するときの手順と同じ考え方です。
実施する順番と、同意が得られないとき
進め方は、同意書の署名を先に受け、そのあとで回答者に連絡する順です。署名の前に回答者へ接触すると、同意を得ないまま候補者の情報が前職に伝わってしまいます。応募先が決まったことを前職に知られたくない候補者もいるため、連絡のタイミングを候補者と事前に合わせておくと安心です。
候補者が同意しない場合や、推薦者を挙げられない場合もあります。その場合に使える代替の確認手段(提出書類の追加、面接での掘り下げなど)を、質問票と一緒に決めておきます。Claudeには「同意が得られない場合の代替確認の案を3つ出し、それぞれ候補者の負担を比べる」と依頼すれば、比較の材料が揃います。ただし、同意しなかったことを選考の不利な材料として扱うかどうかは、自社の方針と法務の確認が必要な判断です。
つまずきやすい点
質問が多いほど確実だと思ってしまう
質問が増えるほど、目的から外れる項目が混じる確率も上がります。12問以内に収める条件は、Claudeに網羅させない歯止めです。
年齢や家族に踏み込む質問
本籍や出生地、家族の状況は、指針が挙げる社会的差別の原因となるおそれのある事項に近く、前職の上司に尋ねる質問としては目的を説明しにくい項目です。質問票からは外し、知りたいことが勤務の継続性や役割の範囲なら、「直属で何名をまとめていたか」「勤務に支障が出たことはあったか」のように事実面の質問へ言い換えます。Claudeには点検の依頼で、年齢や家族に触れる質問を一覧にさせ、言い換え案を出させます。
募集段階の年齢の扱いは求人票の明示事項と年齢制限表現の点検で扱っています。
外部のサービスにリファレンスを委託する場合
調査会社などに作業を任せるなら、個人データの取扱いを委託することになります。委託先をどう監督し、何を記録するかは委託先監督の点検表の考え方がそのまま使えます。
まとめ
Claudeが得意なのは、質問を並べることではなく、並べた質問の目的を言わせて点検することです。目的の1行を決め、目的の言えない質問を削り、同意書の利用目的と食い違わせない。この3点がそろえば、質問票は短く、説明しやすくなります。
職業安定法と個人情報保護法の条文、それに指針は、質問項目の細目までは決めていません。指針の禁止事項に当たらない質問でも、目的に照らして外す判断は人が行います。社内に法務の担当がいれば、完成した質問票と同意書を一度見てもらってください。