中小企業診断士が生成AIで診断業務を効率化する — Claudeでの進め方
診断士協会の支援マニュアルが示す人とAIの役割分担を、Claudeのプロジェクトとファイル作成で実務に落とす手順と、診断先の情報を守る運用をまとめます。
報告書は診断の流れを「人」と「AI」に分けている
Claudeで診断業務を進めるなら、対話と傾聴は診断士が担い、文字起こしから分析・資料化までをClaudeに任せ、出力は必ず人が検証します。この分担の出どころは、診断士の全国組織である協会連合会の令和6年度調査・研究事業の報告書(令和7年3月)です。報告書は診断業務を工程に分け、人が担う部分とAIが担う部分を一覧にしています。東京都の診断士協会の研究会が取りまとめたもので、診断の事例はジャイロ総合コンサルティングのAIサービスで検証されています。Claudeは特定のサービスとして登場せず、代表的な生成AIの一つとして特徴表に並ぶ扱いです。
つまり報告書の手順は、そのままClaudeに置き換えて試せます。骨格は次のとおりです。
| 診断の流れ | 人の役割 | AIの役割 |
|---|---|---|
| 事前調査 | 人の役割質問事項の検討・作成 | AIの役割アイデア出し、質問の抜け漏れチェック |
| 社長インタビュー | 人の役割対話と傾聴で一次情報を得る | AIの役割録音、文字起こし |
| 議事録の作成 | 人の役割文字起こしのテキスト化、テキストのダウンロード | AIの役割文字起こしの要約 |
| 現状分析(簡易診断) | 人の役割AIの分析に肉付けする | AIの役割現状分析と課題抽出、二次情報の取得 |
| 施策の提案 | 人の役割提案内容の推敲と肉付け | AIの役割施策案の提示、実現可能性を高める方法の検討 |
| 報告書の作成 | 人の役割AIに渡す骨子の作成 | AIの役割報告書のデザイン、誤字脱字チェック |
| 報告書の完成・納品 | 人の役割最終チェックと加筆、報告・提案 | AIの役割なし |
表の議事録の行に「確認」は載っていませんが、AIが作った議事録を原文と突き合わせる作業は、実務では人に残ります(後の節で扱います)。
報告書は、対話と傾聴で経営者の気づきを促す部分を人が担い、一部の作業をAIに代替すると整理しています。診断のすべてを自動化するのは難しいが、簡易的な報告書までは作れた、という結論です。
この記事は、この表のうちAIの列をClaudeで動かすときの設定とプロンプトを扱います。
診断案件ごとにプロジェクトを作り、前提を固定する
Claudeのプロジェクトは、チャット履歴とナレッジを持つ独立した作業場です。文書や背景情報をアップロードでき、プロジェクトごとに指示(instructions)を設定できます。指示の例として、公式は口調の指定や特定の職種の視点での回答を挙げています。
診断先1社につき1プロジェクトを作ると、インタビュー記録、決算書、前回の議事録を同じ文脈で参照させられます。ただしFreeプランで作れるプロジェクトは最大5つなので、同時に抱えられる診断先は5社までです。
公式ヘルプのこの説明は、現行のプロジェクトについてのものです。プロジェクトの新バージョンはベータとして段階的に提供が始まっており、最初の対象はClaude Codeを使う一部のProとMaxです。チャットとCoworkにある既存のプロジェクトは、これまでどおり動きます。
指示には、報告書の前提となる役割分担を書いておきます。例えば次のような形です。
あなたは中小企業診断士の補助を行うアシスタントです。
- 出力はすべて「たたき台」であり、最終判断は診断士が行います。
- 数値を使う分析は、計算式と使った入力値を必ず併記してください。
- 情報源が確認できない一般論は、その旨を明記してください。
- 診断先の固有名詞は、入力時に「A社」などに置き換えてあります。報告書が挙げる「AIの判断は常に人間の監督下で行う」「重要な意思決定は人間が最終判断をする」という方針を、指示文に落としたものです。毎回の依頼で繰り返さずに済みます。
ファイルの扱いにも上限があります。診断先の資料を渡す前に、次の数字を見ておきます。
アップロードの上限
チャットの1ファイル
500MB
1チャットあたり20ファイルまで
プロジェクトの1ファイル
30MB
総量はコンテキストウィンドウに収まる範囲
PDFのページ数
1000
図表まで読むのは100ページまで
決算書のスキャンPDFのように図が重要な資料は、100ページ以下に分けて渡すほうが安全です。
公式ページ同士で、1ファイルの上限の書き方が違います。アップロードのヘルプはチャットで500MBまでとし、ファイル作成のヘルプはアップロードもダウンロードも1ファイル30MBまでと書いています。後者には、30MBを超えるPDFは計算環境で処理でき、コンテキストウィンドウには読み込まないという説明も付いています。
プロジェクトのナレッジは、有料プランなら余裕があります。Pro・Max・Team・Enterpriseでは、ナレッジが上限に近づくとRAGモードに自動で切り替わり、容量が最大10倍に広がります。Freeは、ファイルの総量がコンテキストウィンドウに収まる範囲までです。
事前調査では、質問項目の抜け漏れを見てもらう
報告書は事前調査の使い方として、業界や市場規模の把握と、インタビューで聞く質問の抜け漏れ確認を挙げています。診断士自身の経験をもとに「支援に足りない部分はないか」「社長により深く聞ける質問はないか」をAIに尋ねる形です。
Claudeで同じことをするなら、質問リストを貼って観点の漏れを指摘させます。報告書が示すプロンプトの3要素(指示内容・文脈や背景・出力形式)に沿って書くと安定します。
【指示】以下のヒアリング項目に、抜けている観点を指摘してください。
【文脈】業種は自動車販売店、社長の要望は集客の強化です。
財務データはまだ手元にありません。
【出力形式】観点ごとに、追加すべき質問を1〜2個、表で出してください。
(ここに質問リストを貼る)業界動向をClaudeに語らせた場合は、出力をそのまま報告書に使いません。報告書がCopilotの例で強調するのは、AIがどの情報を参照したのかを自分で確認できる点でした。出典の確認できない数字は、診断士が統計や公表資料で裏取りします。
文字起こしからは、議事録と要約を作らせる
インタビューの録音は、事業者の許可を得たうえで行います。報告書の事例では、LINEのCLOVA Noteで録音と文字起こしをし、そのテキストからAIが数分で議事録を作っています。Claudeに渡すのは、文字起こしされたテキストの部分です。
議事録の依頼は、次のように書きます。
【指示】添付の文字起こしから議事録を作ってください。
【文脈】経営者インタビューです。誤変換らしき語は【要確認】と付けてください。
【出力形式】決定事項 / 課題 / 次回までの宿題 の3見出しで、箇条書きにしてください。誤変換を消さずに印を付けさせるのがコツです。報告書の事例でも、業界用語や専門用語は誤脱が出やすく、賑やかな環境や小さな声の録音は反映されないことが多いと書かれています。診断先の用語や製品名の一覧を匿名化して作り、プロジェクトのファイルに置いたうえで、「この一覧と照らして怪しい語に印を付ける」と依頼に足す手もあります。報告書に載っているPLAUD NOTEの導入事例では、6時間・6名の会議の議事録を人力で作ると作成に1〜2日、確認と修正に1日で合計2〜3日かかっていました。導入後は30分かからず文字起こしと議事録が仕上がったと書かれています。ただし、早口や小さな声の発言は拾われず、誤字も残るため、提出前の誤脱確認は必須だとも述べています。その確認は30分程度で済むとされています。
この事例が示す比率は、Claudeでも同じ運用の前提になります。生成が数分で終わっても、原文との突き合わせが残ります。
もう一つ、文字起こしに残らないものがあります。報告書は営業の育成事例で、文字と音声ベースの出力からは細かな表情や動きまで観測しにくいと述べています。経営者の表情や間といった同席した診断士だけが見た情報は、議事録とは別に自分のメモへ残します。
簡易診断は分析枠組みごとに分けて依頼する
報告書の事例では、文字起こしのテキストを渡し、PEST分析・SWOT分析・STP分析・4P分析・市場分析・競合分析の結果を数分で得ています。マーケティング特化の診断だったため、決算書などの財務情報は事前に読み込ませていないと断られています。
Claudeで同じ流れを組むときは、枠組みを1回の依頼に詰め込まず、1つずつ依頼します。分析ごとに、インタビュー記録のどの発言を根拠にしたかを併記させると検証しやすくなります。
インタビュー記録をもとにSWOT分析を作ってください。
各項目の末尾に、根拠にした発言を「」で引用してください。
記録に根拠がない項目は「推測」と明記してください。財務面では、報告書は売上・原価・売上総利益・販管費・営業利益・経常利益を入力して収益性やコスト構造の分析を得ています。続けて販管費を勘定科目別に入力すると固変分解が行われ、損益分岐点分析を依頼すると変動比率・限界利益率・安全余裕率が出て、図も作られました。
この部分は、Claudeでは計算式付きのExcelとして受け取るのが向いています。Claudeはコード実行とファイル作成の機能で、数式の入ったxlsxを作成し、ダウンロードできます。診断士は数式を目で追って検算できます。報告書は、AIの評価コメントがどの業界情報に基づくのか分からない点を指摘しています。数値の妥当性は、業界平均との比較も含めて人が確認します。
ファイル作成機能は、Free・Pro・Maxに加えてTeamと新規のEnterprise組織で既定で有効です。Free・Pro・MaxではSettings > Capabilitiesから自分で切り替えます。TeamとEnterpriseでは、組織のオーナーがOrganization settings > Capabilitiesで無効にできます。所属組織の設定を先に見ておくと安心です。
施策提案と報告書は、人が骨子を渡して仕上げさせる
施策の提案では、報告書はAIに案を出させ、診断士が推敲と肉付けを担うと分けています。SNSマーケティングの提案では、AIが成功事例のリンクまで提示していますが、事例の実在と内容は診断士が確認します。
報告書の作成では、人がAIに依頼する骨子を作り、完成後の最終チェックと加筆も人が行います。AIに任せるのは、資料のデザインと誤字脱字のチェックです。事例ではGammaでプレゼン資料を作り、読み手を意識した文章への変換も依頼しています。
Claudeでも、PowerPointやWord、PDFを作成できます。骨子を渡して出力させ、次のような校正の依頼を追加します。
この報告書の誤字脱字と、主語述語のねじれを指摘してください。
本文は書き換えず、指摘を「該当箇所 / 理由 / 修正案」の表で返してください。本文を書き換えさせない指定が要点です。診断士が加筆した文面を、AIが黙って変える事態を防げます。
診断先の情報を入れる前に、学習設定と匿名化を決める
報告書の第3章は、生成AIで起こりがちな情報漏洩を扱い、対応策として学習させない設定(オプトアウト)、社内システム、利活用ガイドライン、社員教育を挙げています。診断士の業務では、決算書やインタビュー記録に診断先の機微な情報が含まれます。
Claudeのデータの扱いは、プランで分かれます。個人向けのFree・Pro・Maxでは、次のように分かれます。
個人向けプランで学習に使われる場合と、使われない扱い
使われうる
- モデル改善の設定を許可している
- 会話が安全性の審査対象として検知された
- Trusted Tester Programのように、明示的に学習へ参加した
使われない
- シークレット(Incognito)チャットは、モデル改善を許可していても学習に使われない
- コネクタ(Google Driveなど)の生データは含まれない。ただし会話に直接貼り付けたデータは含まれる場合がある
Claude for Workなどの商用プランとAPIは、別の規定です。
もう一つ、フィードバックのボタンにも注意が要ります。会話に付ける評価(サムズアップ・ダウン)を送ると、会話全体が最大5年間保存されます。診断先の情報を含む会話では、このボタンを使わない運用が考えられます。
この区分を踏まえると、実務では次の3段階の運用が現実的です。
診断先の情報を入れる前の3段階
- 1
アカウントを確かめる
診断案件で使うアカウントのプランと、モデル改善の設定を先に見ます。
- 2
名前を置き換える
診断先の社名や個人名は、入力前に「A社」などへ置換します。
- 3
数字だけを渡す
決算書のPDFは丸ごと渡さず、必要な数字を抜き出して貼ります。
守秘義務の範囲は、診断先との契約や所属団体の規程によって異なります。ツールの設定だけで足りるとは考えず、契約側も確認します。
議事録を全部AIに任せると、若手の育成の場が減る
報告書の事例には、導入のデメリットも書かれています。議事録作成は、備忘録やタスク整理のほかに、新人コンサルタントが業界理解やビジネスマナーを身につける場でもありました。すべてをAIに自動化すると、育成の妨げになるおそれがあると事例は述べています。
診断事務所で若手を抱えるなら、この指摘は設計に反映しておきたい点です。議事録の初稿はClaudeが作り、若手は原文と突き合わせて誤脱を直し、論点の抜けを補うという分担です。報告書で誤脱確認が30分程度で済むとされる工程を、若手の学習機会として残す形になります。
まとめ
AIの出力はどの工程でもたたき台です。人が確認する工数は、AIが速く作った分とは別に、見積もりへ入れておきます。
同じように専門職の生成AI活用指針を扱った記事に、社労士の生成AI活用ガイドブックと就業規則たたき台、臨床心理士の倫理綱領と所見作成、ケアマネのケアプラン下書きがあります。個人情報を匿名化してから入力する考え方は、これらの職種とも共通です。