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適時開示の要否判定をClaudeで一次整理する — 決定事実と発生事実の切り分け

適時開示の要否判定をClaudeで一次整理する — 決定事実と発生事実の切り分け

社内で決めた事実・起きた事実を、取引所の開示項目と軽微基準に突き合わせ、取締役会議事録との整合まで一次整理する手順です。最終判断は証券会社・取引所への相談が前提です。

適時開示の要否判定は、事実の種類と時点を先に決める作業

適時開示の要否判定とは、社内で決めた事実や起きた事実が、取引所の規則にある開示項目に当たるか、当たるなら軽微基準を超えるかを、決まった順に検討することです。東京証券取引所の「適時開示ガイドブック」(2026年7月版)は、開示の手続き全体を要否の検討、スケジュールの確認、開示資料の作成、開示の手続きの4段で示しています。

このうち最初の「要否の検討」が、さらに4つの確認に分かれます。個別の開示項目への該当性、軽微基準への該当性、バスケット条項への該当性、任意の開示の検討です。

手順

要否の検討を進める4つの確認

  1. 1

    個別の開示項目に当たるか

    決定事実、発生事実、決算情報のどの区分で、どの項目か。複数の項目に同時に当たることもあります。

  2. 2

    軽微基準に収まるか

    自社の数字を当てます。収まるのは、基準のすべての要件を満たしたときだけです。

  3. 3

    バスケット条項に当たらないか

    個別項目に当たらない場合も、軽微基準に収まる場合も、毎回検討します。

  4. 4

    任意で開示するか

    義務がないと判断した後に残る、会社としての判断です。

Claudeに任せやすいのは、この突き合わせの下書きです。事実メモと取引所の資料を並べ、どの項目のどの基準に当たりそうかを表にさせます。

一方で、結論を決めるのはClaudeではありません。基準に該当するかどうか明らかでない場合は、開示が必要な側に倒れる仕組みです。ガイドブックも、開示の要否に関する質問は東証に問い合わせるよう案内しています。この記事の手順は、その相談に持ち込む前の一次整理にとどまります。

取引所の資料と社内の事実メモを分けて用意する

用意するものは2種類です。取引所側の資料と、社内で起きたことを書いた事実メモです。混ぜて渡すと、Claudeがどちらの文言を根拠にしたのか追えなくなります。

取引所側の資料は、日本取引所グループのサイトにある「適時開示が求められる会社情報」の一覧と、ガイドブックのPDFです。ガイドブックには、項目ごとに「上場規程に基づく開示義務」の節があり、軽微基準が書かれています。

ガイドブックは章ごとに切って入れる

ガイドブックのPDFは約7MBで、数百ページあります。Claudeのプロジェクトに置くファイルは1ファイル30MBまで、数に上限はなく、合計がコンテキストウィンドウに収まる必要があります。有料プランでは、ナレッジが上限に近づくと自動で検索方式(RAG)に切り替わります。

丸ごと入れて検索方式になると、どの節が参照されたのか見えにくくなります。事案に関係する項目だけを抜き出して入れるほうが、根拠を追いやすくなります。次のようにテキスト化して、条文の注記で項目の位置を探せます。

pdftotext -layout disclosure-guidebook_202607.pdf guidebook.txt
grep -n "【上場規程第402条" guidebook.txt | head

各項目の開示義務の節の末尾に、【上場規程第402条第2号a、施行規則第402条第1項第1号】のような条文の注記があります。この行を目印に、必要な項目の前後だけを切り出します。

プロジェクトの作り方とナレッジの置き方は、株主総会の想定問答をProjectsで作る手順に書いています。

プロジェクト指示で役割と禁止事項を固定する

プロジェクト指示には、Claudeの役割と、してはいけないことを書きます。次の文面は、そのまま使える例です。

あなたは上場会社の開示担当者を補助する一次整理役です。
- 根拠は、ナレッジにある取引所の資料だけを使う。
- 判定は「開示が必要」「軽微基準に該当」「要確認」の3区分で返す。
- 数字が与えられていない基準は、推測で埋めず「要確認」にする。
- 各判定に、根拠の文言をナレッジから引用する。引用できない場合は
  「資料に記載なし」と書く。
- 最終判断は行わない。証券会社・取引所への相談事項を末尾に列挙する。

「引用できなければ記載なしと答える」という一行が効きます。条文の記憶から軽微基準の割合を作られると、検算のしようがないからです。

事実メモは「いつ・誰が・どの機関で」を欠かさず書く

事実メモの出来が、整理の出来を決めます。書くのは、決定事実か発生事実かを判別できる材料です。

欄書く内容理由
事実の内容書く内容何を決めた、または何が起きたか理由開示項目の特定に使う
区分書く内容自社の意思で決めた事実か、外から生じた事実か理由時点の考え方が変わる
決定した機関・認識した人書く内容取締役会、社長、担当役員など理由開示すべき時点の判定に使う
日時書く内容決議・決定・認識の日時理由議事録との照合に使う
金額・数量書く内容取得価額、訴訟の目的の価額、損害の見込額など理由軽微基準の入力値になる
根拠資料書く内容議事録、稟議書、契約書案、通知書理由引用元として残す

Claudeには、この欄が埋まっているかを最初に点検させます。

添付の事実メモを読み、上の6欄のうち空欄または曖昧な欄を列挙してください。
開示項目の判定は、その後に私が指示します。

欄が曖昧なまま判定へ進むと、Claudeが「おそらく取締役会で決定」と補って進めることがあります。先に空欄を出させておくと、その補いを防げます。

決定事実と発生事実では、開示の時点が違う

要否の検討で、議事録との食い違いが最も出やすいのが時点です。ガイドブックは、決定事実と発生事実で考え方を分けています。

決定事実発生事実
性質決定事実会社自らの意思による決定発生事実外部要因などで生じる事実
開示の時点決定事実業務執行を実質的に決定する機関が決議・決定した時点発生事実その発生を認識した時点
例決定事実固定資産の譲渡・取得、業務上の提携発生事実災害に起因する損害、訴訟の提起、取引先との取引停止
実務上の注意決定事実取締役会決議の形式にとらわれず実態で判断発生事実認識できる社内体制の構築が求められる

決定事実で見落としやすいのは、決定した機関が取締役会とは限らない点です。ガイドブックは、取締役会の決議事項は決議後直ちに、社長に決定権限がある事項は社長の決定後直ちに開示することが多いとしたうえで、これら以外の機関や役職者が事実上決定していることが明らかなら、その時点の開示が求められると説明しています。業務執行を決定する機関は、会社法上の最終決定権限を持つ機関を指しません。

株主総会の決議事項も同じです。総会の決議後ではなく、取締役会が総会に付議すると決議した後に、直ちに開示します。

基本合意書や契約趣意書の締結も論点です。それで当該行為を事実上決定したのなら、その時点で開示が必要になります。ただし、単なる準備行為や交渉開始の合意にとどまり、成立の見込みが立たない場合まで求められるものではありません。法的拘束力の有無だけで不要と判断しない点にも、注意が必要です。

開示の時点と、情報管理の時点は別

内部者取引規制の側では、実現に向けた作業の開始を決定した段階から、場合によってはそれ以前から、重要事実に当たり得るものとして情報管理が求められます。ただし、その時点で直ちに適時開示が必要になるわけではありません。ガイドブックはこの二つを分けて書いています。

Claudeには、この二つを混ぜないよう指示に加えておくと整理が安定します。「開示の時点」と「情報管理を始める時点」を、別の行で出させます。

軽微基準を、自社の数字で当てる

開示項目の多くには軽微基準があり、これに収まれば開示は不要です。合併等の組織再編行為のように、軽微基準のない項目もあります。基準は連結純資産、連結経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益などの割合で書かれているため、自社の直前期の数字が要ります。

三つの項目で、基準の形を見てみます。ガイドブックでは、軽微基準を裏返した「開示基準」として書かれており、いずれかに該当すれば開示が必要です。

開示項目(区分)開示基準の一部
固定資産の取得(決定事実)開示基準の一部取得見込価額が直前の連結会計年度の末日の連結純資産の30%以上
訴えの提起(発生事実)開示基準の一部訴訟の目的の価額が直前の連結会計年度の末日の連結純資産の15%以上
災害・業務遂行の過程で生じた損害(発生事実)開示基準の一部損害の見込額が連結純資産の3%以上、連結経常利益の30%以上、親会社株主に帰属する当期純利益の30%以上のいずれか

上の表は抜粋です。固定資産の取得にはこのほかに、内部者取引規制の軽微基準に該当しないことという要件があり、そちらは取引規制府令の条文を見ないと判定できません。ガイドブックは、条文の一覧を上場会社ナビに掲載しているとしています。

仮の数字で計算させる

次の数字は、手順の説明用に作った仮のものです。連結純資産400億円、連結経常利益20億円、連結売上高600億円とします。

事案基準の値事案の数字判定の方向
固定資産の取得基準の値純資産の30%で120億円事案の数字取得見込価額90億円判定の方向この基準には非該当。取引規制府令の要件は要確認
訴えの提起基準の値純資産の15%で60億円事案の数字目的の価額60億円判定の方向「以上」なので該当
損害の発生基準の値純資産の3%で12億円、経常利益の30%で6億円事案の数字見込額10億円判定の方向経常利益の基準で該当

三つの行には、それぞれ見るべき点があります。固定資産の行は、一つの基準に収まっても開示不要とは言い切れない例です。訴えの行は、基準額ちょうどが「以上」に入る例です。損害の行は、純資産の基準では収まっても、別の基準で超える例です。

Claudeに計算させるときは、結論の前に式を出させます。

添付の財務数値(直前の連結会計年度)を使い、次の事案の各開示基準を計算してください。
- 基準ごとに「基準額の式」「事案の数字」「以上か未満か」を表で出す。
- 数字が不足する基準は計算せず「要確認」とし、足りない数字を挙げる。
- いずれか1つでも該当する基準があれば、結論は「開示が必要」とする。

暗算に任せず式を出させる運用は、数値の検算にコード実行を使う方法とも相性が良いものです。拘束時間の判定で同じ型を使った例が、改善基準告示の拘束時間をコード実行で検算する手順にあります。

基準を当てるときの落とし穴

ガイドブックが注記している点を、チェック項目に落としておきます。

  • 軽微基準には複数の要件があり、すべてを満たしたときだけ軽微基準に該当する。
  • 軽微基準に該当するかどうか明らかでない場合は、該当しないものとして扱われ、開示が必要になる。業績への影響額の算定が困難な場合も同じ。
  • 連結の指標が基準の項目と、内部者取引規制を引用して単体の指標が基準になる項目がある。連結と単体の双方を確認する。
  • 他の要因による影響と合算して業績に大きな影響が出ない場合や、影響が業績予想に織り込み済みの場合でも、その事実の影響額自体が基準に該当すれば開示が必要。
  • 同種の行為を連続して行うときは、目的や時期に照らして一連の行為と評価できるなら、影響額を合算して判断する。
  • 直前の連結会計年度の連結経常利益が連結売上高の2%に満たない場合などには、利益が少額の場合の特例がある。
  • 変則決算(12か月でない期)の場合は、12か月に換算した値を使う。
  • 連結財務諸表を作っていない会社やIFRS任意適用会社は、指標の読み替えが必要になる。

Claudeにはこの8点を、判定表の「前提の確認」欄として毎回出させます。とくに「明らかでない場合は開示側」という点は、指示に入れておかないと、Claudeが「非該当と思われる」と穏当にまとめることがあります。

取締役会議事録との整合を見る

決定事実の判定では、議事録が出発点になります。ただし議事録は、開示すべき時点の証拠であって、開示すべき時点そのものではありません。照合したいのは次の点です。

  1. 議事録の決議事項と、事実メモの決定内容が一致しているか。金額、相手方、実行予定日が食い違っていないか。
  2. 議事録にある決議の日時と、開示の予定時刻が、「直ちに」という要請に照らして離れすぎていないか。
  3. 議事録より前に、社長決裁、稟議、基本合意書などで事実上の決定がされていないか。あれば、開示すべき時点が前にずれる可能性がある。
  4. 株主総会に付議する議案なら、総会決議日ではなく、取締役会の付議決議が時点の候補になっているか。
  5. 軽微基準の計算に使った数字が、議事録や添付資料の数字と同じか。
  6. 子会社等の決定事実なら、子会社等が決定した時点を見ているか。

この照合は、Claudeにそのまま依頼できます。

添付の取締役会議事録と事実メモを突き合わせ、上の6点について
「一致」「不一致」「資料に記載なし」で表にしてください。
不一致と記載なしには、確認すべき社内資料の名前を添えてください。

「資料に記載なし」は、議事録だけでは決定時点を断定できない合図として扱います。稟議書や基本合意書の日付を追加で渡し、もう一度回します。

判定表の形で返させ、バスケット条項と任意開示まで入れる

最後に、Claudeの出力を1枚の表にまとめさせます。次の形は、判定結果の例示です。

項目区分時点の候補基準の当てはめ結果根拠の引用
固定資産の取得区分決定事実時点の候補取締役会の決議時基準の当てはめ純資産30%の基準に非該当、取引規制府令の要件は不明結果要確認根拠の引用ナレッジの該当節
業績予想の修正区分決算情報時点の候補新たな予想値の算出時基準の当てはめ差異が判断基準に該当するか結果要確認根拠の引用ナレッジの該当節

表には、二つの行を必ず足します。ひとつは、バスケット条項への該当性です。個別項目に当たらない場合や、軽微基準に収まる場合も、重要な事実で投資判断に著しい影響を及ぼすなら開示が必要になり得るため、常に検討する扱いです。もうひとつは、任意の開示です。義務がないと判断した場合でも、公平な情報提供の観点で任意に開示することを検討します。

決定事実や発生事実が業績に影響する場合は、決算情報の区分である業績予想の修正等の検討も必要です。ガイドブックは、一つの事実が複数の項目に当たる例として、資本業務提携に伴う第三者割当増資を挙げています。この例では、株式を引き受ける者の募集、業務上の提携、主要株主の異動の三つに当たります。決算短信そのものの点検は、決算短信を作成要領と突き合わせる手順で扱っています。

Claudeに任せない範囲と、つまずきやすい点

次の三つは、整理の結果にかかわらず人が決めます。

  • 開示の要否の最終判断。
  • 開示時刻と、開示資料の文言。
  • 証券会社、取引所への相談の要否。

事前相談が必要な項目もあります。ガイドブックは、第三者割当や合併等の組織再編行為などで、公表予定日の遅くとも10日前、2週間前、3週間前といった期限を示しています。日程の逆算は、整理の段階から事実メモに入れておくと漏れません。

つまずきやすい点も、よくある順に挙げます。

  • 資料が古い。ガイドブックは2026年7月版で、取引所の一覧には2026年12月1日や12月11日から適用される項目が注記されています。規程が改正されたら、ナレッジの資料を差し替えます。
  • 別の制度と混ぜる。臨時報告書の提出が不要でも、適時開示が必要な場合があります。提出事由と開示項目は重なるものもあれば、異なるものもあります。
  • Claudeが数字を補う。純資産や経常利益を、前年の数字や概算で補われることがあります。数字は自社の決算資料から入れ、出典の欄を付けます。
  • 未公表の情報を入力する。重要な事実は、公表前の情報です。Claudeに渡してよい範囲は、社内の情報管理規程と契約しているプランの条件で先に確認します。

印紙税の課税文書のように、条文の区分に仕分けていく判定業務の型は、課税文書の号別仕分けの手順にもあります。区分、基準、例外の順に当てていく点が共通しています。

まとめ

適時開示の要否の整理は、事実の区分、時点、軽微基準、バスケット条項の順に、根拠の文言を引用しながら進める作業です。Claudeに向くのは、事実メモと議事録と取引所の資料を突き合わせる下書きまでです。

数字が足りない基準を「要確認」と書かせる運用にしておけば、開示側に倒れるという取引所の考え方と整合した整理になります。最終判断と事前相談は、証券会社と取引所の側にあります。

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