Claudeで運行指示書を点検する手順 — 輸送安全規則9条の3の7項目
運行指示書のPDFをトラック事業者向けの輸送安全規則9条の3の7項目に照らし、記載あり・なし・該当なし・要確認の4値で点検する手順。変更の記載と1年保存の見方、PDFの渡し方まで。
運行指示書の記載漏れは、Claudeに「第9条の3第1項の7項目が書かれているか」を1項目ずつ判定させると、運行管理者の目視前に洗い出せます。PDFにした運行指示書を渡し、条文の項目を物差しにして、記載の有無と該当箇所の引用を表で返させる使い方です。
ここでは、トラック事業者向けの輸送安全規則(平成2年運輸省令第22号)の第9条の3を点検表に置き換え、プロンプト、API経由で動かす最小のスクリプト、変更記載と保存の見方の順に説明します。運行指示書が必要な運行かどうか、記載内容が運行の安全確保に足りるかどうかは、運行管理者の判断として手元に残します。
運行指示書が要る運行かを、点検の前に決める
運行指示書は、すべての運行で作るものではありません。第9条の3第1項は、第7条第3項に規定する業務を含む運行ごとに作成を求めています。
第7条第3項は、乗務前の点呼と乗務後の点呼のどちらも対面(または国土交通大臣が定める対面と同等の方法)で行えない業務を扱う条文です。その業務をする運転者等には、業務の途中で少なくとも1回点呼を行います。運行指示書は、そうした運行で、運転者等に経路や注意箇所などを書面で指示し、携行させる書類です。
条文の主語は「一般貨物自動車運送事業者等」で、一般の事業者と特定の事業者の両方が含まれます。自社がどちらに当たるかは、点検の前に確かめてください。
つまり、PDFだけを見ても「この書類が必要だったか」は分かりません。Claudeに渡す前に、運行計画を見て「この運行は第7条第3項の業務を含む」と運行管理者が判断し、その結果をプロンプトに書いておきます。
運行の途中で第7条第3項の業務を行わせることになった場合は、第9条の3第3項が別に定めています。業務以後の運行について運行指示書を作り、電話その他の方法で適切な指示を行います。出発前に作った書類の点検とは別の場面です。
点検の物差しは第1項の7項目
第9条の3第1項が挙げる記載事項は、次の7つです。
| 号 | 記載事項 | 点検での扱い |
|---|---|---|
| 1 | 記載事項運行の開始・終了の地点と日時 | 点検での扱い4要素(開始地点・開始日時・終了地点・終了日時)を分けて見る |
| 2 | 記載事項乗務員等の氏名 | 点検での扱い複数人の運行では全員分あるか |
| 3 | 記載事項運行の経路と、主な経過地の発車・到着の日時 | 点検での扱い経過地ごとに発車と到着の両方があるか |
| 4 | 記載事項運行に際して注意を要する箇所の位置 | 点検での扱い位置が特定できる書き方か |
| 5 | 記載事項乗務員等の休憩地点・休憩時間(休憩がある場合に限る) | 点検での扱い休憩の有無は運行計画で決まる |
| 6 | 記載事項運転・業務の交替の地点(交替がある場合に限る) | 点検での扱い交替の有無は運行計画で決まる |
| 7 | 記載事項その他運行の安全を確保するために必要な事項 | 点検での扱い十分かは人が判断する |
第5号と第6号は、条文に「場合に限る」とあります。休憩や交替が無い運行で、その欄が空なのは不備ではありません。判定に「該当なし」を用意しておかないと、Claudeは空欄をすべて「記載なし」にしてしまいます。
第7号は、何が「必要な事項」かが条文に列挙されていません。Claudeには「何か書かれているか」だけを答えさせ、書かれた内容で足りるかは運行管理者が決めます。
この条文には、様式の指定がありません。事項が揃っていれば、書式は事業者ごとに違ってよい作りです。表形式の自社様式でも、手書きの様式をスキャンしたPDFでも、同じ7項目で点検できます。
手順1: 4値の判定ルールを渡してPDFを項目表にする
PDFと一緒に渡すのは、点検ルールです。判定を「〇か×か」にせず、次の4値に分けさせます。
- 記載あり: PDF上に該当の情報があり、原文を引用できる
- 記載なし: 該当する情報が見当たらない
- 該当なし: 休憩や交替が無い運行で、条文上その事項が要らない
- 要確認: 書かれてはいるが、読み取りに迷う、または他の項目と食い違う
プロンプトの例を示します。例示であり、自社の様式に合わせて直してください。
添付のPDFは、当社の運行指示書です。貨物自動車運送事業輸送安全規則
第9条の3第1項の7項目に記載があるかを点検してください。
前提:
- この運行は、第7条第3項の業務を含むと運行管理者が判断済み
- 休憩の有無: あり(運行計画より)
- 運転・業務の交替の有無: なし(運行計画より)
出力は表で、列は「号」「記載事項」「判定」「PDFの該当箇所(原文引用)」
「ページ」「理由」とします。判定は次の4値のみ:
記載あり / 記載なし / 該当なし / 要確認
守ること:
- 「記載あり」には、PDFの該当箇所を原文のまま引用する
- PDFに無い情報を推測で補わない
- 第1号は、開始地点・開始日時・終了地点・終了日時を別々に判定する
- 第3号は、主な経過地ごとに発車と到着の日時が揃っているかを見る
- 第7号は、記載の有無だけを答え、内容の十分さは判断しない
- 最後に、このPDFが営業所保管の写しか、運転者の携行分かを書く「推測で補わない」の一行は省かないでください。運転者の氏名欄が空のとき、配車表の記憶から名前を埋めるような誤りを防ぐための指示です。
前提の2行は、PDFから読めない運行計画の情報を、人が先に渡す欄です。ここを空にすると、第5号と第6号の判定が揺れます。
API経由で動かす最小のスクリプト
件数が多いなら、Claude APIにPDFを渡して同じ点検を回せます。PDFは、base64のdocumentブロックとして渡します。公式のPDF対応ページは、PDFをテキストより前に置くことを推奨しています。
import base64, os
import anthropic
client = anthropic.Anthropic()
pdf = base64.standard_b64encode(
open("unkou_shijisho.pdf", "rb").read()
).decode()
prompt = open("prompt.txt", encoding="utf-8").read()
msg = client.messages.create(
model=os.environ["CLAUDE_MODEL"],
max_tokens=2000,
messages=[{"role": "user", "content": [
{"type": "document", "source": {
"type": "base64",
"media_type": "application/pdf",
"data": pdf}},
{"type": "text", "text": prompt},
]}],
)
print(msg.content[0].text)モデルIDは環境変数で渡す形にしてあります。使えるモデルは、公式のモデル一覧で確かめてください。
PDFの形式にも条件がある
PDFには条件があります。リクエスト全体で32MB、1リクエストあたり最大600ページ(コンテキストウィンドウが1Mトークン未満のときは100ページ)です。パスワードや暗号化のかかったPDFは対象外で、標準的なPDFである必要があります。
各ページは、抽出されたテキストとページ画像の両方として渡されます。画像としても渡るので、手書きをスキャンした運行指示書も読み取りの対象になります。ただし文字が小さい、表が込み入っている、といった書類は、ページ数の上限に届く前にコンテキストを使い切ることがあります。
月末にまとめて点検するときは、1運行ずつ処理すると、上限や読み取りの負荷を避けられます。
渡す前に伏せるもの
運行指示書には、運転者の氏名、荷主名、納品先の住所が載ります。点検に必要なのは「氏名の欄が埋まっているか」で、氏名そのものではありません。氏名と納品先を伏せ字にしたPDFでも、第2号の有無は判定できます。取引先の情報を外部サービスに渡してよいかは、社内の取り扱いルールに沿って決めてください。
手順2: 経路と日時の整合は、判定の外で突き合わせる
第3号は「経路」と「主な経過地の発車・到着の日時」を求めています。7項目の中で、記載の有無より中身の食い違いが問題になりやすい項目です。
Claudeに頼めるのは、記載の有無の判定に加えて、PDF内の矛盾の指摘です。たとえば、経過地Aの到着時刻が発車時刻より前になっている、運行の終了日時が最後の経過地の到着より前になっている、といったものです。これらは判定を「要確認」にして理由を書かせます。
一方で、「その日時で実際に走れるか」は点検の範囲外です。距離と時間の妥当性、休憩の取り方が別の基準に収まるかは、運行管理者が配車の段階で見る事項で、運行指示書の記載事項の点検とは別の話になります。プロンプトにも「妥当性は判断しない」と書いておくと、Claudeの回答が助言の形に広がりません。
手順3: 変更の記載と、写しの扱いを点検する
運行指示書の点検は、作成時点の記載だけでは終わりません。第9条の3第2項は、運行の途中で第1項第1号または第3号の事項に変更が生じた場合の手順を定めています。
- 運行指示書の写しに、変更の内容を記載する
- 運転者等に電話その他の方法で、変更の内容を適切に指示する
- 運転者等が携行している運行指示書に、変更の内容を記載させる
変更の内容には、それに伴って第4号から第7号までの事項に生じた変更も含まれます。経路が変わって、注意箇所や休憩地点が変わった場合も、同じ手順です。
運行指示書のPDFが、営業所に残る写しなのか、運転者が携行していた分なのかで、見える範囲が変わります。そこで先のプロンプトの末尾に、「写しか携行分か」を書かせる一行を入れてあります。
写しのPDFに変更の記載があるのに、携行分の記載がPDFから見えないとき、Claudeは「携行分への記載」を判定できません。判定は「要確認」にして、携行分の現物を運行管理者が見る、という分担にします。
変更履歴の欄がある様式かを見る
変更が生じる運行では、変更を書く欄が様式にあるかどうかも、点検の対象になります。欄が無い様式では、追記が余白などに散らばるため、誰がいつ追記したかが追えるかを確かめます。Claudeには、変更欄の有無と、変更が記載されていればその日時と内容を一覧にさせます。
保存は運行の終了の日から1年
第9条の3第4項は、運行指示書とその写しを、運行の終了の日から1年間保存することを求めています。
点検の面では、運行の終了の日が書類から読めることが前提になります。第1号の「終了の日時」が、そのまま保存期間の起点になるためです。終了日時の欄が空の運行指示書は、第1号の不備であると同時に、保存期間の管理もできなくなります。
月次で点検するなら、Claudeの出力に「運行終了日」の列を足し、保存期限の管理表に転記する流れにすると、第1号の点検結果がそのまま保存管理に使えます。期限の数え方や廃棄の運用は、社内の文書管理ルールに合わせてください。
運行指示書と他の記録のつながり
運行指示書の記載は、他の記録とつながっています。
- 第8条の業務記録: 第10号に、第9条の3第3項の指示があった場合の内容を記録する項目があります
- 第16条(乗務員): 運行指示書を乗務中に携行し、変更があれば携行分に記載することが含まれます
- 第20条(運行管理者の業務): 運行指示書の作成、変更の記載、運転者等への指示、携行させること、保存が並びます
点呼の記録と運転日報の抜けを調べる手順は、運行管理の点呼記録・運転日報の確認にClaudeを使うで扱っています。運行指示書は乗務前に渡す書類で、点呼記録・業務記録は乗務の前後で作る書類です。同じ運行について、3種類のPDFやCSVを並べて矛盾を探せます。
PDFを項目表にして不備だけを抜き出す型は、適格請求書の記載事項をClaudeで点検する手順と共通です。判定を4値に分ける考え方や、PDFの形式条件はそちらにも詳しく書いてあります。
つまずきやすい点
落とし穴
空欄をすべて「記載なし」にされる
休憩も交替も無い運行で、第5号と第6号の欄は空のままで構いません。プロンプトの前提に「休憩の有無」「交替の有無」を書かないと、Claudeは空欄を不備として数えます。「該当なし」の判定値と、運行計画から取った前提の2つを必ずセットで渡してください。
次の点にも注意してください。
- 手書きのスキャンは、文字が読めずに「記載なし」と返すことがあります。「記載なし」とされた項目は、現物で見直してください
- 第7号は「その他必要な事項」で、書かれていれば「記載あり」になります。内容の十分さは判定されていません
- 一般貨物自動車運送事業者等以外が、この条文を物差しにしてよいかは別の問題です。軽自動車で貨物を運ぶ事業者は、条文の主語に含まれていません
- Claudeの判定は運行管理者の確認の代わりになりません。表は、目視を始める前の絞り込みとして使います
まとめ
運行指示書の点検は、第9条の3第1項の7項目、第2項の変更記載、第4項の1年保存という3つの物差しで組み立てられます。Claudeには、項目ごとの記載の有無を原文引用つきで返させ、運行計画から取る前提(休憩・交替の有無、第7条第3項の業務を含むか)は人が先に渡します。
任せるのは記載の有無と書類内の矛盾の指摘までで、記載内容が安全確保に足りるか、書類が必要な運行だったかは、運行管理者の判断として残ります。最初は過去の運行指示書を数枚選び、運行管理者の目視結果とClaudeの判定表を並べて、4値の使い分けが合っているかを確かめるところから始められます。