取締役会の議事録をClaude for Wordで作り、抜けを点検する手順
文字起こしをClaude for Wordで取締役会議事録に整え、会社法施行規則の記載事項と照らして決議事項や利益相反の抜けを追跡変更で直す手順を示します。
取締役会の議事録は「下書き」と「点検」を分けるとClaude for Wordに任せやすい
取締役会や株主総会の議事録は、Claude for Wordで下書きを作り、法定の記載事項と照らして抜けを探すところまでを任せられます。議事録の内容を確定し、署名や押印をするのは人の仕事です。
Claude for Wordは、開いているWord文書のテキスト・コメント・追跡変更・脚注・表・ブックマークを読むアドインです。文字起こしを議事録の様式に整える作業と、できあがった議事録を条文ごとに点検する作業は、どちらも「開いている文書への読み書き」で完結します。
議事録の要約そのものはClaudeの得意分野で、一般の会議向けの手順はClaude議事録の実践プロンプトにあります。アドインの導入や機能の全体像はClaude for Wordの使い方が扱っています。ここでは、会社法が記載を求める事項に絞って、決議事項と利益相反の抜けを見つける流れを組みます。
議事録を作って点検するまでの流れ
- 1
様式を用意する
議事録のひな形を開き、末尾に文字起こしを貼ります。
- 2
下書きを作らせる
文字起こしから、ひな形の見出しと書式で本文を起こします。
- 3
記載事項で点検する
法定の記載事項を一覧にして、抜けている項目を挙げさせます。
- 4
追跡変更で直す
追跡変更モードで修正を入れ、1件ずつ承認か却下を判断します。
- 5
人が確定する
出席者・決議内容・異議の有無を原本の記憶と突き合わせて署名します。
取締役会議事録に載せる事項を点検リストにする
点検の物差しは、会社法の施行規則101条が定める取締役会議事録の内容です。条文を読み込ませて点検させるのではなく、先に自分で表にして文書の冒頭に置いておくと、毎回同じ基準で抜けを探せます。
| 記載事項 | 点検のポイント |
|---|---|
| 開催の日時と場所 | 点検のポイント場所に出席していない取締役などがいるときは、出席の方法も含める |
| 議事の経過の要領とその結果 | 点検のポイント議案ごとに、可決・否決・継続審議のどれか |
| 特別の利害関係を有する取締役の氏名 | 点検のポイント決議を要する事項について利害関係がある取締役がいれば氏名を書く |
| 法定の意見・発言の概要 | 点検のポイント取締役の取引報告に関する発言など、条文が列挙するものがあれば要旨を書く |
| 出席した執行役・会計参与・会計監査人・株主 | 点検のポイント出席していれば氏名または名称を書く |
| 議長の氏名 | 点検のポイント議長がいるときだけ書く |
監査役が招集した会議や、取締役の請求を受けて招集された会議のように、招集の経緯によっては「その旨」を書く事項もあります。書面決議にあたる場合は、決議があったとみなされた事項の内容、提案した取締役の氏名、みなされた日、議事録を作った取締役の氏名が内容になります。
この表の項目を「入っているか」と「条文の趣旨に合う形か」の2段階で点検させるのが、次のプロンプトの役割です。
文字起こしを議事録に整えるプロンプト
Claude for Wordには、選択範囲だけを周囲の書式を保ったまま編集する機能と、見出しや段落のスタイルを継承してテンプレートを埋める機能があります。ひな形の見出しは自社の様式をそのまま使い、本文だけを起こさせます。
次のような指示が出発点になります。
文書末尾の文字起こしをもとに、上のひな形の見出しと書式で
取締役会議事録の本文を起こしてください。
- 議案ごとに「議案」「審議の要旨」「結果」を分ける
- 発言者が不明な箇所は推測せず、[要確認]と書く
- 賛否を数えていない議案は、結果欄に[要確認]と書く
- 出席者は文字起こしに現れた人だけを書き、肩書きは補わない「推測せず[要確認]と書く」の一文が効きます。議事録で怖いのは、文字起こしに無い出席者や賛否をそれらしく補われることです。[要確認]の印は、後で検索して潰せるので、人が確認した箇所を数える目安にもなります。
出力はあくまで例示した指示に対する下書きです。実際にどの程度ひな形に沿うかは、ひな形の作りと文字起こしの質で変わります。
決議事項の抜けを点検させる
下書きができたら、同じ文書の冒頭に置いた記載事項の表を使って点検を依頼します。
冒頭の記載事項の表を基準に、この議事録を点検してください。
- 表の各項目について、本文のどこに書かれているかを示す
- 書かれていない項目は「未記載」として一覧にする
- 議案ごとに、結果(可決・否決など)が明記されているか確認する
- 本文に出てくる議案名が、冒頭の議案一覧と一致しているか確認するアドインは回答に、該当箇所へ移動できる引用を付けます。「どこに書かれているか」を示させると、Claudeの回答を鵜呑みにせず、クリックして原文を見に行けます。
文書全体の整合性を見るプロンプトとして、公式が例に挙げているものも流用できます。
- 同じ人物や組織が別の名前で呼ばれていないか(「代表取締役 ○○」と「社長」など)
- 議案番号の飛びや重複がないか
- 定義した略称が一貫して使われているか
氏名のゆれと議案番号のずれは、手作業では見落としやすく、点検の費用対効果が高い項目です。
利益相反と特別の利害関係を書き分ける
取締役会議事録で書き落としやすいのが、利益相反の扱いです。似た話に見えて、会社法上は別の論点が2つあります。
議事録に出てくる利害関係の2つの論点
利益相反取引の承認と報告
取締役が自己または第三者のために会社と取引をするときは、取締役会を置く会社では取締役会の承認を受けます。取引をした取締役は、取引後に遅滞なく重要な事実を取締役会へ報告します。報告があれば、議事録に発言の概要を残す対象になります。
特別の利害関係を有する取締役
決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加われません。議事録には、その取締役の氏名を書きます。
前者は「何を承認したか・何を報告したか」を、後者は「誰が議決に加わらなかったか」を残す論点です。1つの議案が両方に当たることもあるため、点検では議案ごとに次を確認させます。
各議案について、取締役と会社の取引、または取締役の利益が会社と
相反しうる内容が含まれるか判定し、含まれる議案は次を表にしてください。
- 該当する取締役の氏名
- 議事録に、その取締役が議決に加わらなかった旨があるか
- 取引後の報告として、取引の重要な事実が記録されているか
判定に自信がない議案は[要判断]としてください。利益相反に当たるかどうかの判断は、取引の相手や内容を知る人にしかできません。Claudeに期待するのは、議事録の中で言及の漏れがありそうな議案を洗い出すところまでです。判定が[要判断]で返ってきた議案は、法務担当者や顧問弁護士に回します。AIの法律関連の線引きは弁護士法72条とAIの契約書レビューで整理しています。
追跡変更モードで修正を重ねる
点検で見つかった抜けは、追跡変更モードにしてから直させます。モードを有効にすると、Claudeの編集は元の文が削除、新しい文が挿入として記録され、Wordの校閲ペインで1件ずつ承認・却下できます。取り消しはWord標準のCtrl+Z(MacはCmd+Z)です。
未記載と判定した項目のうち、文字起こしから事実が確認できるものだけを
追跡変更で本文に追記してください。確認できないものは、本文には
手を入れず、コメントで「何を誰に確認するか」を残してください。コメントを使う理由は2つあります。ひとつは、事実が不明な項目を本文に書かせないためです。もうひとつは、Claudeがコメントスレッドを順に処理できるためで、担当者が返答をコメントに書き込んだあとに「開いているコメントを順に対応して」と頼めば、アンカーされた箇所の修正と返信が進みます。
取締役会の議事録は複数人で回すことが多く、校閲の履歴がそのまま確認の記録になります。Claudeの編集は削除・挿入として残るので、承認前に1件ずつ目を通す前提で回します。
署名・保存・閲覧請求は人の側に残る
議事録の作成には、アドインでは代わりにできない要件があります。条文で確認できる範囲をまとめると、次のとおりです。
- 取締役会の議事録が書面なら、出席した取締役と監査役が署名または記名押印する(会社法369条3項)。電磁的記録なら、法務省令の署名に代わる措置をとる(同条4項)
- 取締役会の決議に参加した取締役が議事録に異議をとどめなければ、決議に賛成したものと推定される(同条5項)
- 取締役会を置く会社は、取締役会の日から10年間、議事録を本店に備え置く(371条1項)。株主総会の議事録も本店に10年間備え置く(318条2項)
- 株主は、権利行使に必要があれば議事録の閲覧・謄写を請求できる(371条2項。監査役設置会社などでは裁判所の許可が必要で、同条3項)
異議をとどめない取締役は賛成と推定される点は、点検の観点を1つ増やします。反対や異議を述べた取締役でも、議事録に異議が残っていなければ賛成と推定されます。そのため、発言が議事録に反映されているかどうかが意味を持ちます。「反対・留保・異議の発言が文字起こしにあるか、議事録に反映されているか」を点検プロンプトに加えておくと、この種の抜けを拾えます。
署名・押印の運用や電子署名の方式は、Claude for Wordの機能とは別の世界です。アドインは文面の整備に専念させ、署名の手続きは自社の規程どおり進めます。
株主総会議事録は記載事項が変わる
株主総会の議事録も、考え方は同じです。会社法の施行規則72条が内容を定めており、取締役会議事録と比べて、点検リストの項目が次のように変わります。
| 項目 | 取締役会議事録との違い |
|---|---|
| 開催の日時と場所 | 取締役会議事録との違い場所に出席していない役員や株主が出席したときは、その方法も書く |
| 議事の経過の要領とその結果 | 取締役会議事録との違い取締役会と同様に議案ごとに記録する |
| 述べられた意見・発言 | 取締役会議事録との違い会計参与・監査役などによる、条文が列挙する意見陳述があれば要旨を書く |
| 出席した役員などの氏名 | 取締役会議事録との違い取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人 |
| 議長の氏名 | 取締役会議事録との違い議長がいるときに書く |
| 議事録の作成を担当した取締役の氏名 | 取締役会議事録との違い株主総会議事録で求められる事項 |
最後の行は、取締役会議事録の点検リストにはない項目です。株主総会の議事録を点検するときは、この項目をリストに加えます。決議があったとみなされる書面決議の場合の内容も、条文に別建てで定められています。
取締役会の議事録をAIに渡す前に確認すること
議事録の内容は、未公表の経営判断を含みます。Claude for Wordに渡すときは、扱いを先に確認しておきます。
データの扱いで押さえる点
保存の範囲
入出力は、バックエンドで受領または生成から30日以内に削除されます。チャット履歴はブラウザのIndexedDBにローカル保存されます。
組織の設定
組織で設定したデータ保持の設定は引き継がれません。Enterpriseの監査ログにも含まれず、Compliance APIを有効にした組織では、Wordのセッションが公開ベータとして対象に入ります。
外部由来の文書
外部から受け取ったテンプレートや共有ファイルには、隠れた指示が埋め込まれることがあります。議事録の文字起こしは、出所が分かるものだけを入れる使い方が前提になります。
向かない使い方も明記されています。人の確認を経ない最終的な送付、検証を経ない監査対象の文書、法務・財務の判断の代替は、いずれも推奨されていません。議事録は、会社の意思決定の証跡であり、監査や紛争で読み返されます。下書きと点検をClaudeに任せ、内容の責任は人が持つ使い方が、この種の文書では前提になります。
動作環境にも条件があります。対応するのは、Word on the web、Microsoft 365版のWindows(Version 2205以降)とMac(16.61以降)です。Word 2016・2019の永続ライセンス版やiPad・Android版では動きません。レガシーの.doc形式も扱えないので、古いひな形は.docxに保存し直します。
まとめ
取締役会の議事録でClaude for Wordを使う価値は、下書きの速さより、条文に基づく記載事項の表を基準にした点検にあります。表を先に作り、記載の有無・議案ごとの結果・利益相反と議決に加わらなかった旨・異議の記録の4点を点検させ、直しは追跡変更とコメントで残すと、確認の履歴まで文書に残ります。
利益相反に当たるかどうかや、署名・保存の手続きは人が決めます。点検の出力は、顧問弁護士や法務担当者に渡す前の論点出しとして使うのが、無理のない位置づけです。