情報公開請求の不開示情報メモをClaudeで下書きする — 対象文書の特定から
情報公開請求の請求文言の解釈、対象文書の洗い出し、不開示情報ごとの該当性メモの下書きをClaudeに任せる範囲と、個人情報を含む文書の渡し方を条文に沿ってまとめます。
情報公開請求の担当者がClaudeに任せやすいのは、請求文言の読み解き、対象文書の候補出し、不開示情報ごとの該当性メモの下書きの3つです。開示するかどうかの決定、部分開示の線引きの確定、第三者への意見照会の判断は、職員が持ち続ける仕事です。
この記事は、その3つの下書きをClaudeのプロジェクト機能でどう組むかと、個人情報を含む文書を渡すときの注意をまとめます。条番号は国の情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)のものです。
国の法律と自治体の条例で何が変わるか
情報公開法が対象にする「行政機関」は、内閣に置かれる機関や国家行政組織法に基づく機関など、国の機関です。地方公共団体は同法第2条第1項の列挙に入っていません。自治体の窓口では、根拠が条例になります。
条例は自治体ごとに条文の構成も用語も違います。ただ、「不開示情報ごとに該当性を検討する」というメモの型は流用できます。使うときは、プロンプトに渡す条文を自分の自治体の条例に差し替えてください。
以降の例は第5条の分類を軸にします。条例を使う自治体は、「第5条第1号」の部分を条例の該当条項に読み替えます。
Claudeに任せる範囲と任せない範囲
作業を分けて見ると、線はこうなります。
| 作業 | 下書きを任せる | 職員が決める |
|---|---|---|
| 請求文言の解釈 | 下書きを任せる論点の洗い出し、解釈の幅の列挙 | 職員が決める解釈の採用、補正を求めるか |
| 対象文書の特定 | 下書きを任せる管理簿の一覧から候補を絞る | 職員が決める行政文書にあたるか、保有しているか |
| 不開示情報の検討 | 下書きを任せる号ごとの該当性メモ | 職員が決める該当するかの判断 |
| 部分開示 | 下書きを任せる不開示部分の候補箇所の指摘 | 職員が決める区分できるか、黒塗り範囲の確定 |
| 決定通知 | 下書きを任せる通知文の骨子 | 職員が決める開示決定等の内容、期限管理 |
メモの下書きが「該当しそう」と書いても、それは決定ではありません。第5条は、各号の情報が記録されているとき以外は開示しなければならないという構造で、各号の判断は行政機関の長の責任です。第3号と第4号は「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある」という書き方で、判断主体が条文に明記されています。
Claudeの出力は、職員が読んで直す前提の叩き台として扱います。決裁に回す文書に、モデルの文面をそのまま貼らない運用が安全です。
請求文言を解釈する
開示請求は、請求者の氏名・住所と、行政文書を特定するに足りる事項を書いた書面で行います(第4条第1項)。特定が足りないなど形式上の不備があれば、相当の期間を定めて補正を求められ、その際は補正の参考となる情報を提供するよう努める必要があります(同条第2項)。
請求文言の読み解きは、文章を分解して並べる作業なので下書きに向きます。次のように、解釈の幅を先に出させます。
以下の開示請求書の「請求する行政文書の名称等」欄を読み、
次の3点を表にしてください。
1. 請求文言を文書の種類に分解した一覧
2. 文言が曖昧で、解釈が2通り以上に分かれる箇所と、それぞれの解釈
3. 補正を求める場合に、請求者へ尋ねる質問の案
請求書に書かれていないことは補わないでください。
解釈が分かれる箇所は、採用する解釈を選ばず、並べるだけにしてください。
【請求書の該当欄】
(ここに貼り付け)「採用する解釈を選ばない」と書くのが要点です。解釈の選択は補正の要否に直結するので、職員が決めます。補正を求めた場合、補正に要した日数は開示決定等の期限に算入されません(第10条第1項ただし書)。解釈の選択が期限管理に響くことも、職員に残す理由の1つです。
管理簿から対象文書を洗い出す
次の作業は、保有する文書の一覧から請求に関係するものを拾うことです。ここで渡すのは、文書の本文ではなく、一覧の件名や作成部署などのメタデータにとどめます。
行政文書は、職員が職務上作成・取得した文書で、組織的に用いるものとして保有しているものと定義されています(第2条第2項)。官報、白書、書籍など不特定多数への販売を目的とするものは除かれます。一覧から候補を絞る段階では、この定義にあたるかの最終確認までは求めず、「関係しそうなものを広めに挙げる」指示にします。
添付のCSVは、当課の文書管理簿から出力した件名一覧です
(列: 文書番号、件名、作成年度、保存期間、担当係)。
次の請求に関係しそうな文書を、関連度が高い順に挙げてください。
【請求の要旨】
(職員が整理した要旨を記入)
条件:
- 件名だけで判断できないものは「要確認」として別表にする
- 挙げた理由を、件名のどの語に基づくかで1行書く
- 一覧にない文書の存在を推測して書かない最後の条件が大切です。管理簿にない文書が実在するかどうかは、一覧からは判断できません。メールや共有フォルダなど、管理簿の外にある電磁的記録が請求対象にあたるかは、職員が現場に確認します。
出力は、管理簿の原本と突き合わせます。文書番号が一覧に実在するか、Claudeが件名を要約して言い換えていないかを、候補表の全行で見ます。
不開示情報ごとの該当性メモを下書きする
第5条が挙げる不開示情報は、号ごとに次のように整理できます。
第5条の不開示情報の分類
第1号 個人に関する情報
氏名、生年月日などで特定の個人を識別できる情報。他の情報と照合して識別できるものや、識別できなくても権利利益を害するおそれがあるものを含みます。
第2号 法人等に関する情報
公にすると権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの、または公にしない条件で任意に提供されたもの。
第3号・第4号 国の安全、公共の安全
国の安全や他国との信頼関係、犯罪の予防・捜査などに支障を及ぼすおそれがあると、行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報。
第5号 審議・検討・協議の情報
公にすると率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれなどがあるもの。
第6号 事務または事業の情報
監査、契約・交渉・争訟、調査研究、人事管理などの適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの。
第1号には例外もあります。法令の規定や慣行で公にされている情報、人の生命・健康などを保護するため公にする必要がある情報、公務員等の職務遂行に係る情報のうち職と職務遂行の内容の部分は、不開示の対象から外れます(同号イ・ロ・ハ)。この例外を落としたメモは、不開示に寄りすぎます。条文が除くのは「職及び職務遂行の内容に係る部分」で、氏名まで及ぶかはこの条文だけでは決まりません。運用は自治体や機関の基準を確認します。
第2号にも、人の生命・健康・生活・財産を保護するため公にする必要がある情報は除くというただし書があります。
Claudeには、号ごとの該当性を「根拠となる記述」付きで書かせます。
添付の文書(個人情報は【氏名A】のように置換済み)を読み、
情報公開法第5条の各号ごとに、該当性の検討メモを作ってください。
様式:
号 / 該当しそうな記述(文書の何ページ・どの段落か)/
不開示とする場合の理由案 / 不開示としない場合の理由案 / 不明点
制約:
- 各号の判断は「該当する」と断定せず、両方向の理由を並べる
- 第1号は、イ・ロ・ハの除外事由にあたる可能性も必ず検討する
- 条文の要件に当てはまる記述がない号は「該当記述なし」と書く
- 文書にない事実を推測で補わない両方向の理由を並べさせるのは、不開示側の理由だけが並ぶ偏りを避けるためです。第5号の「率直な意見の交換が不当に損なわれるおそれ」や、第6号の「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」は、文書の文面だけでは判断がつきません。事案の経緯、請求者との関係、時間の経過を知る職員の判断が要ります。メモの「不明点」欄は、職員が現場に確かめる項目表として使えます。
部分開示と、存否を答えるだけで不開示になる場合
不開示情報が一部にしかないとき、その部分を容易に区分して除けるなら、除いた残りを開示しなければなりません。ただし、残りに有意の情報がなければこの限りではありません(第6条第1項)。個人識別情報は、氏名や生年月日など識別できる記述を除けば、公にしても権利利益が害されるおそれがないと認められる場合に、その部分を除いた残りが第1号の情報に含まれないものとみなされます(同条第2項)。
下書きとしては、「黒塗り候補の箇所一覧」をClaudeに作らせ、職員が文書の原本で確かめる使い方が向きます。「容易に区分して除けるか」の判断は、原本の形式(紙、PDF、表計算ファイル)によって変わるため、一覧は候補どまりです。
さらに次の2点は、メモの対象から外して職員に渡します。
- 公益上特に必要があるときの裁量的開示(第7条)。不開示情報があっても開示できる規定で、長の判断です
- 存否応答拒否(第8条)。文書があるかないかを答えるだけで不開示情報を開示することになるとき、存否を明らかにせず拒否できる規定です
どちらも、Claudeが「適用できそう」と書く性質の判断ではありません。
期限と第三者への意見照会を下書きに組み込む
開示決定等は、開示請求があった日から30日以内にします(第10条第1項)。事務処理上の困難などの正当な理由があれば、30日以内に限って延長でき、その場合は延長後の期間と理由を書面で通知します(同条第2項)。請求対象が著しく大量なときの特例もあります(第11条)。
文書に国や自治体、請求者以外の第三者の情報が記録されているときは、開示決定等をするにあたって、その第三者に意見書を提出する機会を与えることができます(第13条第1項)。一定の場合は、与えなければなりません(同条第2項)。
Claudeに頼めるのは、期限を逆算した作業工程表の下書きと、第三者への照会文書の骨子までです。照会するかどうか、どの範囲の第三者に出すかは職員が決めます。
個人情報を含む文書をClaudeに渡す
不開示情報の検討は、個人情報や法人の内部情報を含む文書を読ませる作業になります。渡し方は3つの層で考えます。
契約形態を確かめる
法人向けのTeamやEnterpriseなどの商用製品では、入力と出力を既定ではモデルの学習に使わないと説明されています。例外は、フィードバックのボタンで報告したときや、データの利用を許可したときです。
個人向けのFree、Pro、Maxは別の扱いで、プライバシーセンターの当該ページは別ページを案内しています。職務上の文書は、庁内で承認された法人向け契約のアカウントで扱い、個人アカウントには渡さない運用が整理しやすくなります。
フィードバックのボタンで送った会話は、最長5年保管され、モデルの学習に使われることがあります。評価ボタンを使わない運用か、管理者による無効化(組織設定の「Rate chats」)を検討します。Primary OwnerまたはOwnerだけが設定を変更できます。
入力する前に置き換える
文書の本文を渡す前に、個人を特定する記述を置き換えます。
氏名 → 【氏名A】【氏名B】のように連番で置換
住所・電話番号・メールアドレス → 【住所A】【連絡先A】
置換表(対応表)は、Claudeに渡さず庁内の保管場所に別置き置換表をClaudeに渡すと、置換した意味が失われます。置換表は職員が保管し、Claudeの出力を読むときだけ使います。
置換後の文書でも、他の情報と組み合わせれば個人を識別できる場合があります。第1号は、他の情報と照合して識別できるものも含む定義です。置換だけで個人情報の問題が消えたと扱いません。個人情報保護法の観点は要配慮個人情報の扱いにまとめています。
プロジェクトの共有範囲を絞る
文書を繰り返し参照させるなら、プロジェクトのナレッジに置く方法があります。プロジェクトの機能は、Free、Pro、Max、Team、Enterpriseのどのプランでも使えます。共有と可視性の設定はTeamとEnterpriseだけです。
TeamとEnterpriseでは、プロジェクトの可視性を作成時に選びます。
- Public: 組織の全員が閲覧・利用できる
- Private: 招待したメンバーだけが閲覧・利用できる
不開示情報の検討メモのように扱いが慎重な作業は、Privateにして、閲覧権限(Can view)か編集権限(Can edit)のどちらかを必要な職員にだけ付けます。Publicでも各自のチャットは非公開ですが、ナレッジに置いたファイルは組織の全員から見えます。請求対象の文書そのものをPublicのプロジェクトに置く運用は避けます。
管理者は、組織のプロジェクト共有を無効にできます。Enterpriseでは、役割ごとに無効にすることもできます。
添付ファイルの上限と、画像の扱い
プロジェクトのファイルは1ファイルあたり30MBまでで、ファイル数に上限はないものの、内容全体がコンテキストウィンドウに収まる必要があります。ただし有料プランでは、ナレッジが上限に近づくとRAG(検索拡張生成)に切り替わり、容量が最大10倍まで広がります。
内容の読み取りはテキストの抽出が基本です。PDF以外の文書に埋め込まれた画像は、読み取れません。スキャンした紙文書や、画像として貼り付けた表は、テキスト化してから渡します。PDFは100ページ以下であれば図表などの視覚要素も読み取りますが、101〜1000ページはテキストだけです。
チャットに直接添付する場合は、1ファイル500MB、1チャット20ファイルまでです。大量の文書は、請求の範囲で分割して順に処理します。
会話を消すとき、データはどう扱われるか
職員が会話を削除すると、履歴からは直ちに消え、バックエンドの保管からは30日以内に削除されます。シークレットモードのチャットも、利用ポリシー違反で検出された場合を除き、30日以内に自動で削除されます。
利用ポリシー違反として自動検出された会話は、入出力が最長2年保管されます。通常の業務文書でこの対象になる可能性は低くても、保管期間の説明を庁内の規程と照合しておきます。
組織のデータは、契約上の管理者(Primary Owner)が管理し、会話や添付ファイルを含むデータの書き出しを請求できます。職員のやり取りが、組織側から参照可能な構造だという点は、利用者への周知事項です。
出力を使う前の確認項目
下書きを決裁に回す前の確認は、次の5項目です。
- 文書番号や件名が、管理簿の原本に実在する
- メモが挙げた条番号と条文の文言が、原本の法令・条例と一致する
- 号ごとの「該当記述」が、文書の実際の位置を指している
- 除外事由(第5条第1号のイ・ロ・ハ、第2号ただし書)が検討されている
- 開示決定等の期限(30日、延長を含む)が請求受付日から計算されている
条文の確認は、Claudeの出力ではなく、最新の法令・条例の本文で行います。Claudeが条文を引用した場合、改正前の文言になっている可能性が残るからです。
庁内の生成AI利用ルールとの関係は、総務省ガイドラインに沿った庁内文書の下書きの線引きと、政府統一基準のクラウド申請に整理しています。後者は、機密性2情報を情報公開法の不開示情報に当たる蓋然性の高い情報を含むものとして分類しているため、不開示情報の検討で扱う文書は、この分類に照らして入力先を決めます。
まとめ
Claudeに頼んでよいのは、請求文言の読み解き、管理簿からの候補出し、号ごとの両論併記のメモという「判断の材料づくり」です。決定は職員に残ります。
入力の前には、契約形態、個人情報の置換、プロジェクトの可視性の3点を決めます。置換表と対象文書の原本は庁内に残し、Claudeの出力は管理簿と条文の原文で突き合わせます。