Claudeで議会答弁案と想定問答を作る — Projectsに根拠資料を置く手順
一般質問への答弁案と再質問の想定問答を、Claude Projectsに過去の会議録や根拠資料を置いて下書きする手順と、答弁の数字を資料と突き合わせる検証の型をまとめます。
議会答弁案は、質問通告を受けてから答弁調整までの数日で、過去の答弁・計画・予算の数字を引き直しながら書く文書です。担当課の負担が大きいのは、文章を書く工程よりも、根拠を探して突き合わせる工程です。
Claude Projectsは、この「根拠を探す」側に向いています。会議録、計画書、予算資料をプロジェクトの知識に置いておけば、質問ごとに資料を貼り直さずに、答弁案と再質問の想定問答を同じ土台から起こせます。この記事では、その置き方、指示文の書き方、そして答弁の数字を資料と照合する手順を順に説明します。
議会答弁案づくりでClaudeに任せる範囲
Claudeに任せるのは、過去の答弁や根拠資料をもとにした下書きと、想定される再質問の洗い出しです。答弁の中身を決めるのは担当課と幹部で、Claudeはその前段の素案を早く出す役を担います。
分担を表にすると次のとおりです。
| 工程 | Claudeに任せやすいこと | 職員が必ず握ること |
|---|---|---|
| 質問の分解 | Claudeに任せやすいこと通告文を論点ごとに分け、関連する過去の答弁を探す | 職員が必ず握ること質問の真意の判断、通告外の質問への備え |
| 答弁案の起草 | Claudeに任せやすいこと過去答弁の文体に揃えた素案 | 職員が必ず握ること方針・数値・約束の最終決定 |
| 想定問答 | Claudeに任せやすいこと再質問の候補と、答弁の骨子 | 職員が必ず握ること政治的な含みの判断、首長・部長との調整 |
| 数字の確認 | Claudeに任せやすいこと答弁案の数字と資料の食い違いの洗い出し | 職員が必ず握ること原本との照合、決裁 |
議会の想定問答のような公表前の政策情報は、入力してよい範囲を先に決める必要があります。庁内での線引きは自治体職員の生成AI利用と総務省ガイドラインで整理しています。ここから先は、使ってよい環境が確保されている前提で進めます。
Projectsを答弁づくりの土台にする理由
Projectsは、独立したチャット履歴と知識ベースを持つ作業スペースです。プロジェクトに置いた文書やテキストは、そのプロジェクト内のすべてのチャットで文脈として使われます。
答弁づくりでこれが効く理由は3つあります。
- 質問が変わっても、根拠資料の置き場が変わらない
- 指示文に答弁の書式を一度書けば、毎回の入力で繰り返さなくて済む
- 担当者が替わっても、プロジェクトごと引き継げる
注意点が1つあります。プロジェクト内でも、チャット同士は文脈を共有しません。前のチャットで確定した数字や言い回しは、知識に追加するまで次のチャットには引き継がれません。答弁調整で決まった内容は、チャットに残さず資料として戻す運用にします。
プロジェクト作成時に付ける名前と説明も、Claudeは参照できません。「令和8年第4回定例会」のような情報は、名前ではなく指示文か資料の中に書きます。
手順1: 根拠資料を集めて名前を揃える
置く資料は、答弁の根拠になるものに絞ります。目安は次のとおりです。
- 過去の会議録(同じテーマの答弁、関連する委員会の質疑)
- 総合計画・個別計画・実施計画
- 当初予算・補正予算の説明資料
- 決算の主要施策の成果報告
- 国・県の通知や制度の概要
- 庁内の想定問答集(過去の定例会分)
ファイル名は、中身が分かる名前に揃えます。RAG(検索拡張生成)が働いたとき、Claudeは名前も手がかりに必要な部分を探すためです。例えば次のような形です。
会議録_R7第3回定例会_一般質問_子育て支援.pdf
計画_第2期子ども子育て支援事業計画_R7.pdf
予算_R8当初_民生費_説明資料.pdf
決算_R6主要施策成果報告_保育.pdf年度・会議・テーマが名前に入っていれば、「令和7年第3回の会議録で」と資料を名指しした指示も通りやすくなります。ここはあくまで命名の一案で、自治体の文書管理規程に合わせて構いません。
資料の増やしすぎには注意が必要です。プロジェクトの知識が上限に近づくと、有料プラン(Pro・Max・Team・Enterprise)では自動でRAGモードに切り替わり、容量は最大で約10倍まで広がります。仕組みの詳細はClaude ProjectsのRAG検索の仕組みと全文投入との違いにあります。答弁づくりの観点で押さえるのは次の2点です。
- Freeプランではプロジェクトは5つまでで、RAGは使えない
- RAGモードでは、関連箇所の検索で資料を拾うため、質問に資料名や年度を書くほど精度が上がる
手順2: 指示文に答弁の書式と禁止事項を書く
プロジェクトの指示文には、答弁案の書式と、守らせたいルールを書きます。下は、あくまで一例です。
あなたは市議会の答弁案を起草する補助者です。
- プロジェクト知識にある資料だけを根拠にします。資料にない数字・制度・日付は書かず、「資料に記載なし」と明示します。
- 答弁案の数字や固有名詞には、根拠資料のファイル名とページ、または節の名前を括弧で添えます。
- 文体は過去の会議録の答弁(です・ます調、「〜と考えております」の型)に揃えます。
- 答弁案は「結論 → 現状 → 今後の方向」の順で書きます。
- 断定できない事項は、断定せず、担当課への確認事項として末尾に一覧にします。
- 個人名、特定の住民が識別できる事例は、出力に含めません。ポイントは2つです。1つは、根拠を資料の中に限ること。もう1つは、数字に出典を添えさせることです。出典が付いていれば、職員が原本に当たる作業がそのまま検証になります。
ただし、指示文を書いても、Claudeが資料にない数字を書かなくなる保証はありません。指示文は誤りを減らす手段で、検証の代わりにはなりません。検証の手順は後半で説明します。
手順3: 質問通告から答弁案の素案を起こす
質問が届いたら、通告文をそのまま貼り、まず論点の分解を頼みます。いきなり答弁案を求めるより、分解を挟んだほうが抜けが見えます。
次の質問通告を、論点ごとに分けてください。
それぞれについて、プロジェクト知識の中から関連する過去の答弁と資料を挙げてください。
該当する資料がない論点は、その旨を書いてください。
【質問通告】
(通告文をここに貼る)論点と該当資料の対応を確認し、足りない資料があればプロジェクトに追加します。その上で、答弁案を求めます。
論点1と論点2について、答弁案を起こしてください。
- 令和7年第3回定例会の答弁と矛盾しない内容にします。
- 数字は予算資料と決算資料から引き、出典を添えてください。
- 過去の答弁から変わる点があれば、変わる点を冒頭に列挙してください。「過去の答弁から変わる点を先に挙げさせる」のは、答弁の整合性を保つための型です。議会では、過去の答弁との食い違いが再質問の的になりやすいためです。変更が政策判断に当たるなら、それは職員が決める事項です。
手順4: 再質問の想定問答を作る
答弁案ができたら、同じチャットで再質問の候補を出させます。出させ方に工夫を入れると、使える想定問答になります。
この答弁案に対して、議員が再質問しそうな点を、次の観点で挙げてください。
1. 数字の根拠を問う質問
2. 他の自治体との比較を問う質問
3. 過去の答弁との違いを問う質問
4. 予算の裏付けを問う質問
それぞれに、答弁の骨子と、根拠資料を添えてください。
資料から答えられない質問は「資料に根拠なし」と書いてください。「資料に根拠なし」と返ってきた項目が、実務では一番価値のある出力です。答弁案の弱いところが、議場より前に分かるからです。担当課はその項目に、追加の数字や方針を決めて対処できます。
他の自治体との比較は、プロジェクトの知識にない情報を問う質問になりがちです。比較の数字を求める場合は、比較先の資料を職員が用意して知識に置きます。Claudeに求める場合は、出典を明示させたうえで原本を確認します。
手順5: 答弁の数字を資料と照合する
答弁で最も事故につながるのは数字です。Claudeの出力は、もっともらしい文章の中で、数字や年度が少しずれていることがあります。照合は、次の3段階で行います。
- Claudeに、答弁案から数字・年度・制度名を抜き出させ、表にさせる
- その表に、出典の資料名と該当箇所を埋めさせる
- 職員が原本に当たり、表の1行ずつに確認済みの印を付ける
1の依頼は、例えば次のようにします。
答弁案に出てくる数字・年度・制度名・固有名詞をすべて抜き出し、次の表にしてください。
| 項目 | 答弁案での表記 | 出典の資料名 | 該当箇所 | 資料に記載があるか |
資料に記載がないものは、「記載なし」と書いてください。表の「記載なし」が、確認の優先順位が最も高い行です。記載がある行でも、原本の数字と一字一句合っているかは職員が見ます。Claudeが付けた該当箇所は、探す手間を減らすための手がかりにすぎません。
照合表は、答弁調整の記録としてそのまま使えます。誰がいつどの資料で確認したかが残るので、担当替えのときの引き継ぎ資料にもなります。
数字の照合でつまずきやすい点
- 補正後の予算額と当初予算額を取り違える。資料に年度と「当初」「補正後」を書いておく
- 決算の数字を、当年度の見込みと混ぜる。見込みか確定値かを、答弁案でも明記する
- 単位(千円・万円・円)の取り違え。表に単位の列を足す
- 計画の目標値と実績値を混ぜる。表の項目名に「目標」「実績」を書かせる
- 通告文に議員が挙げた数字を、そのまま前提にしてしまう。通告文の数字も表に入れ、資料と合うかを確かめる
共有と引き継ぎ
TeamまたはEnterpriseプランでは、プロジェクトを組織内の他のメンバーと共有できます。権限は「Can view」と「Can edit」の2段階です。Can viewは、プロジェクトの内容・知識・指示文の閲覧とチャットまでできて、編集はできません。Can editは、指示文と知識の変更、メンバー設定の更新まで含みます。
答弁づくりでは、次の使い分けが考えられます。
- 担当課の起案担当はCan edit(資料を追加し、指示文を更新する)
- 課長・係長はCan view(内容を確認し、自分のチャットで質問する)
プロジェクトを公開にしても、各メンバーのチャットは他のメンバーに見えません。プロジェクトの知識や指示文は共有され、チャットの内容は本人が共有しない限り本人だけのものです。
なお、共有の可否は組織の管理者の設定によります。管理者が共有をオフにしている場合、プロジェクトを他のメンバーに共有することはできません。庁内の利用環境でどうなっているかは、導入担当に確認してください。
終わった定例会のプロジェクトは、アーカイブで整理できます。アーカイブしても、共有の権限やメンバーは外れず、知識もそのまま残ります。アクセスを止めたいときは、共有設定からメンバーを外します。
新しいProjectsとの関係
サポートページには、プロジェクトの新方式(ベータ)が案内されています。新方式では、プロジェクトが1つの会話になり、作業が並列のスレッドに分かれてクラウドで動きます。提供はClaude Codeを使うProとMaxの一部の利用者から始まっており、チャット、Cowork、Team、Enterpriseは後続とされています。
この記事で扱った、知識を置いて指示文を書き、チャットで下書きを起こす使い方は、チャットの既存のプロジェクトを前提にしています。既存のプロジェクトは、新方式の展開後もそのまま動くとされています。ProとMaxでは、展開が進むにつれて新方式へアップグレードされる予定です。画面の呼び名や操作が変わる可能性はありますが、資料の命名や指示文の書き方、照合の型は同じように使えます。
まとめ
答弁案づくりでは、Claudeの文章力より、資料を土台にした下書きと照合の型が成果を左右します。資料の名前を揃え、指示文に出典の添付を義務づけ、数字は表にして原本と突き合わせる。この3点を決めておくと、質問通告が届いてからの数日の動き方が安定します。
同じ型は、議会以外の定型文書にも使えます。文体を過去文書から引き継ぐ使い方はPTAや町内会の文書をClaudeのProjectsで作るでも取り上げています。