Claudeで塾の生徒の個人情報を匿名化して渡す規程の作り方 — 学習設定まで
塾が生徒の成績をClaudeに渡す前の仮ID化ルールと、プラン別の学習データ設定を、社内規程の条文案にまとめます。仮IDにしても個人情報のままとなる理由つきです。
塾の規程に書くのは、渡さない項目・仮IDのルール・学習設定の3点
生徒の成績をClaudeで分析する前に、塾として決めておくことは3つに絞れます。渡さない項目、仮IDへの置き換え方、使うプランと学習データ設定です。
規程の骨格になる3つの取り決め
渡さない項目
氏名・連絡先・学校名・健康や家庭の事情。列ごと手元に残します。
仮IDのルール
無作為の仮IDに置き換え、対応表は別の場所に保管します。
学習データ設定
契約形態ごとに、入力が学習に使われる条件を確かめて記録します。
仮IDにしても、塾が対応表を持つ限り個人情報の扱いは変わりません。だから匿名化だけで終わらせず、設定の確認まで規程に入れます。成績分析そのものの手順はClaudeで塾の模試を成績分析して面談資料にする手順にあります。この記事は、その手前で決めておく運用ルールを扱います。
仮IDにしても、塾の手元では個人情報のまま
個人情報保護委員会の仮名加工情報・匿名加工情報編ガイドラインには、次の趣旨の記述があります。仮名加工情報の元になった個人情報や削除情報等を持っている事業者では、その情報は「他の情報と容易に照合でき、それにより特定の個人を識別できる」状態にあり、個人情報に当たります。
塾に当てはめると、生徒番号と仮IDの対応表を塾が保管しているなら、仮ID付きの成績表は塾にとって個人情報です。仮IDへの置き換えは漏えいの危険を下げる工夫であって、規制の外に出る手段ではありません。法律上の仮名加工情報として扱える加工の基準は、仮名加工情報と匿名加工情報をClaudeに渡す前の加工で整理しています。
もう一つ、委員会の生成AI注意喚起(2023年6月2日)は、個人情報を取り扱う事業者が事前の本人同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で取り扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性があるとします。そのため、提供事業者が個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めています。
つまり、規程の確認項目は「仮ID化したか」だけでは足りません。「入力が学習に使われない条件を確かめたか」が対になります。この注意喚起とClaudeの契約・設定の対応は個人情報保護委員会の生成AI注意喚起と、Claudeの契約・設定の対応表で項目別に見られます。
渡す・変換する・渡さないの3区分で、塾の項目を仕分ける
規程の核になる仕分け表です。列名単位で決めておくと、講師が毎回迷いません。
| 項目 | 区分 | 規程での扱い |
|---|---|---|
| 氏名・フリガナ・電話・メール・住所 | 区分渡さない | 規程での扱い列ごと削除して渡す |
| 生徒番号・出席番号 | 区分変換する | 規程での扱い無作為の仮IDに置換。番号から仮IDを計算する規則は作らない |
| 学校名・担任名・講師名 | 区分渡さない | 規程での扱い学年だけ残す |
| 得点・単元別正答率・出席率 | 区分渡す | 規程での扱い仮IDと組で渡す |
| 面談メモ・保護者連絡の自由記述 | 区分渡す前に検査 | 規程での扱い固有名詞と連絡先を置換。判断に迷う行は渡さない |
| 通院・診断・家庭の事情 | 区分渡さない | 規程での扱い本人の病歴は要配慮個人情報の定義に含まれる(個人情報保護法の第2条第3項) |
仮IDを「S01」「S02」のような連番にしない点も、規程に書いておきます。名簿の並び順と対応が推測でき、仮IDが実質的に出席番号の言い換えになるためです。三者面談の準備で個票を渡さない型でも、出席番号が学級の中では氏名と同じ働きをする点を扱っています。
少人数の教室では、学年・校舎・教科の組み合わせだけで生徒が1人に絞れる場合があります。該当者が数人しかいない組み合わせは、学年を「中学生」に丸めるなど、粗くしてから渡します。
仮ID化は手元の端末で済ませる
仕分け表のルールは、人の注意力に任せず、スクリプトで機械的に適用できます。次の例は、不要な列を落とし、仮IDを無作為に振り、連絡先らしき文字列があれば止まります。対応表は別のファイルに出力します。
import csv, re, secrets, sys
src, out, table = sys.argv[1:4]
DROP = {"name", "kana", "phone", "email", "address", "school"}
PII = re.compile(r"\d{2,4}-\d{2,4}-\d{3,4}|[\w.+-]+@[\w-]+\.[\w.]+")
rows = list(csv.DictReader(open(src, encoding="utf-8")))
keep = [c for c in rows[0] if c not in DROP and c != "student_id"]
used, mapping, clean = set(), {}, []
for r in rows:
while (pid := "P" + secrets.token_hex(3)) in used:
pass
used.add(pid)
mapping[pid] = r["student_id"]
for c in keep:
if PII.search(r[c]):
sys.exit(f"個人情報らしき文字列: {c} / {pid}")
clean.append({"pid": pid, **{c: r[c] for c in keep}})
with open(out, "w", newline="", encoding="utf-8") as f:
w = csv.DictWriter(f, ["pid"] + keep)
w.writeheader()
w.writerows(clean)
with open(table, "w", newline="", encoding="utf-8") as f:
w = csv.writer(f)
w.writerow(["pid", "student_id"])
w.writerows(mapping.items())
print(f"{len(clean)}行を出力。残した列: {', '.join(keep)}")入力は student_id,name,school,grade,eigo,sugaku,memo の列を持つ3行のCSVで試しました(Python 3.12.2)。
python3 pseudonymize.py in.csv send.csv table.csvmemo に電話番号を含む行があると、出力は次のように止まります(仮IDは実行のたびに変わります)。
個人情報らしき文字列: memo / Pbb50e1連絡先を消して再実行すると、send.csv には pid,grade,eigo,sugaku,memo の列だけが残り、table.csv に仮IDと生徒番号の対応が出ます。Claudeに渡すのは send.csv だけです。table.csv は、Claudeの画面を開く端末とは別の保管先に置きます。
このスクリプトが拾えるのは、電話番号とメールアドレスの形をした文字列だけです。自由記述の中の生徒名や学校名は見つけられません。そのため、規程では memo 列を原則削除とし、渡す場合は目視を必須にします。
Claudeにこの処理を書かせるときは、実データではなく架空の値を入れたダミーCSVを見せます。ダミーで試してから、実データは手元で処理する流れは三者面談の準備をClaudeで進めると同じです。
加えて、Projectのカスタム指示に保険を1行入れておく方法があります。例えば次のような文面です。
入力に氏名・電話番号・メールアドレスらしき文字列が含まれていたら、
分析を始めず、該当する列と行番号だけを知らせて止まってください。これは検出漏れを減らす補助にすぎません。Claudeがすべてを見つける保証にはならないので、規程の本線は手元の仮ID化と目視に置きます。
学習データ設定は、契約形態で確認先が変わる
次に、入力が学習に使われる条件です。Anthropicのプライバシーセンターは、個人向け製品と商用製品を別の記事で説明しています。
学習への利用は、契約形態ごとに既定が逆になる
個人向け
次のいずれかのとき、チャットとコーディングセッションが学習に使われ得ます。
- 設定で許可したとき
- 会話が安全性レビューのフラグに掛かったとき
- Trusted Tester Programなどに明示的に参加したとき
許可した場合、データは識別を外した形式で最大5年、学習用の処理に残り得ます。
商用
入力と出力は、既定では学習に使われません。例外は、サムズアップ/ダウンなどでフィードバックやバグを報告したときと、データの利用を自分で許可したときです。
個人向けの設定を切る手順は、設定メニューから名前を選び、Settingsの中のPrivacyを開き、「Help Improve our AI models」のスイッチをオフにします。スマートフォンのアプリでも同じ順です。ただし、オフにしても次の点は変わりません。
- すでに始まっている学習や、学習済みのモデルには、過去のデータが含まれたままになる
- 安全性の分類器が会話にフラグを立てた場合は、信頼と安全に関する用途で使われ得る
- 学習の対象にはコネクタ(Google Driveなど)の生データは含まれないが、会話に直接コピーした内容は含まれ得る
シークレットチャット(Incognito)は、設定を許可にしていても学習に使われません。ただし、塾の運用では「シークレットチャットに入れればよい」という規程にはしにくいでしょう。履歴に保存されないので、後から何を入れたかを塾側で追えず、講師の自己申告に頼ることになるためです。なおシークレットチャットも、安全のために30日間は保持されます。
商用プランで学習を避けたいなら、フィードバックの経路を塞ぐ設定が要ります。TeamまたはEnterpriseのPrimary OwnerかOwnerは、Organization settingsのData and Privacyにある「Rate chats」で、メンバーのサムズアップ/ダウンの送信を無効にできます。フィードバックを送ると、関連する会話全体が最大5年保存されます。
落とし穴
商用プランでも、フィードバックのボタンを押した会話は学習に使われ得る
商用の「学習に使わない」は既定の話です。講師が回答の出来に不満でサムズアップ/ダウンを押すと、その会話は例外になります。生徒の仮ID付きデータを扱うアカウントでは、Rate chatsの無効化を先に済ませます。
規程の条文案
ここまでを、塾の「生成AIの利用に関する内規」に載せる形にします。条文の番号と語は、自塾の規程に合わせて直してください。
第1条(対象)
生徒・保護者の個人情報を含むデータをClaudeに入力する場合に適用する。
第2条(使用するアカウント)
1. 業務での利用は、塾が契約した組織アカウントに限る。
2. 個人契約のアカウントで生徒データを扱う場合は、
学習利用の設定を必ずオフにし、責任者に報告する。
第3条(入力しない情報)
氏名・連絡先・住所・学校名・通院や診断の記述は入力しない。
第4条(仮ID)
1. 生徒を示す番号は、無作為に振った仮IDに置き換える。
2. 仮IDと生徒番号の対応表は、Claudeを開く端末とは別に保管する。
第5条(自由記述)
面談メモ等は原則として入力しない。入力する場合は、
氏名・学校名・連絡先を置換し、責任者が目視で確認する。
第6条(フィードバック)
組織アカウントでは、Rate chatsを無効にする。
個人契約では、回答の評価ボタンを使わない。
第7条(確認と記録)
学習利用の設定とプランは、四半期ごとに確認して記録する。第2条と第7条は、Anthropic側の設定や記事の更新で前提が動く部分です。プライバシーセンターの記事には更新日が付いているので、確認した日と版を記録に残します。個人向けの記事は2026年3月16日付(学習利用)と2026年8月3日付(設定変更)、商用の記事は2026年8月18日付の版が現行です。
保護者への説明も、規程とセットで決めます。入塾時に取得した個人情報の利用目的の範囲内かどうかは、注意喚起が事業者に求める確認項目の1番目にあたります。成績の分析が「指導の質の向上」の範囲内かどうかは、塾が公表している利用目的の文言と見比べて判断します。
誤って氏名を入れたときの手順も、規程に入れておく
仮ID化をしていても、人が操作する以上、氏名を入れてしまうことは起こります。対応の順序を決めておきます。
氏名を入力してしまったときの対応
- 1
フィードバックを押していないか確かめる
押した場合は、会話全体が最大5年保存される経路に入っています。後の判断材料として記録します。
- 2
会話を削除する
個人向けでは、削除した会話は履歴から即時に消え、バックエンドからは30日以内に削除されます。削除した会話は、将来の学習にも使われません。
- 3
記録を残す
日時、アカウントのプラン、入力した項目、学習設定の状態、削除した時刻を控えます。
- 4
責任者が報告・通知の要否を判断する
学習の設定がオフだったかどうかは、判断の材料の一つになります。
削除しても、すでに進行中の学習処理や学習済みモデルには残ります。また、利用ポリシー違反としてフラグが立った場合は、入出力が最大2年保持されます。誤入力の原因を減らす側の対策が、手元の仮ID化と条文案の第3条です。
2つの設定を確認してから、仮IDの運用に進む
塾の規程で順序をつけるなら、先に契約形態と学習設定を確かめ、次に仮IDのルールを決めるのが現実的です。設定が確認できていない状態で仮ID化だけを整えても、入力の行き先が不明なままだからです。
逆に、組織契約と学習設定が固まっていても、氏名の入った面談メモを入れれば意味は薄れます。設定は行き先の確認、仮ID化は入力内容の制限という別々の役割なので、条文は両方を置きます。契約形態ごとの学習設定の細部はClaudeを学習させない設定に、個人データの入力が第三者提供にあたるかどうかは個人情報を含むプロンプト入力は第三者提供にあたるかにまとめています。