繰越欠損金の控除限度額を計算 — 欠損金台帳をClaude for Excelで組む
事業年度別の欠損金台帳と当期所得から、控除額・翌期繰越額・期限切れ額を出す表をClaude for Excelに組ませます。中小法人等と大法人で上限が違う点も数値例で比べます。
繰越欠損金の控除額は、当期の所得から出る「損金算入限度額」と、台帳に残る使える欠損金の小さいほうで決まります。中小法人等は所得の全額が限度で、それ以外の法人は所得の50%が限度です。Claude for Excelに任せられるのは、事業年度別の欠損金台帳に期限判定・古い年度からの充当・翌期繰越額を数式で組む作業です。法人区分の判定や、申告書への転記は人が決めます。
この記事は3月決算の法人を例に、台帳の列の組み方と、同じ台帳で法人区分だけを切り替えたときの差を数値で示します。金額はすべて説明用の仮の値です。
控除額を決める3つの規則
国税庁のタックスアンサー(No.5762)が定める繰越控除は、次の3つに整理できます。台帳の列は、この3つをそのまま写して作ります。
台帳の列に写す3つの規則
使える年度の範囲
各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度に生じた欠損金額が対象です。平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金額は、繰越期間が9年です。
充当の順序
繰越欠損金が2以上の事業年度にあるときは、最も古い事業年度に生じたものから順に損金算入します。
控除の上限
損金に入る欠損金額は、損金算入限度額が上限です。限度額は、繰越控除などを適用しないものとして計算した当期の所得金額です。
この限度額が、法人区分によって変わります。中小法人等でない法人は、繰越控除をする事業年度の控除前の所得金額に、平成30年4月1日以後開始の事業年度なら100分の50を掛けた金額が限度です。過去の事業年度を計算し直すときのために、開始時期ごとの率も並べておきます。
| 事業年度の開始時期 | 中小法人等でない法人の限度率 |
|---|---|
| 平成27年4月1日〜平成28年3月31日 | 中小法人等でない法人の限度率100分の65 |
| 平成28年4月1日〜平成29年3月31日 | 中小法人等でない法人の限度率100分の60 |
| 平成29年4月1日〜平成30年3月31日 | 中小法人等でない法人の限度率100分の55 |
| 平成30年4月1日以後 | 中小法人等でない法人の限度率100分の50 |
法人区分は台帳の外で先に決める
率を決める前提は、台帳より前に人が決めます。Claudeに「中小法人等か」を推測させず、判定結果を前提セルに入れる運用にします。判定の材料は次のとおりです。
中小法人等は、資本金または出資金が1億円以下の普通法人(100%子法人等と大通算法人を除く)、資本・出資を持たない法人、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等です。資本金が1億円以下でも、100%子法人等に当たると中小法人等になりません。その意義は別のタックスアンサー(コード5800)が定めています。
さらに、次の事業年度は、中小法人等でなくても限度率が掛かりません。
- 更生手続開始の決定などの一定の事実が生じた法人の、その事実から一定期間内の事業年度
- 新設法人の、設立の日から7年を経過する日までの期間内の事業年度
新設法人の側は、株式が上場された日などの以後に終了する事業年度が除かれます。対象の細かな条件は、No.5762の表に載っています。該当するかもしれない法人は、前提セルの率を100%にする前に、この表で確認します。
数値例: 3月決算で台帳4行・当期所得600万円
当期は4月1日開始の3月決算で、2026年4月1日に始まる事業年度とします。欠損金台帳は次の4行です。すべて青色申告書を提出した事業年度で、過去の所得への充当は古い年度から順に行われてきたものとします。
| 欠損の生じた事業年度の開始日 | 欠損金額 | 控除済累計 | 未控除残高 |
|---|---|---|---|
| 2016年4月1日 | 欠損金額2,000,000 | 控除済累計1,200,000 | 未控除残高800,000 |
| 2018年4月1日 | 欠損金額3,000,000 | 控除済累計0 | 未控除残高3,000,000 |
| 2020年4月1日 | 欠損金額5,000,000 | 控除済累計0 | 未控除残高5,000,000 |
| 2022年4月1日 | 欠損金額1,500,000 | 控除済累計0 | 未控除残高1,500,000 |
当期の繰越控除の前の所得は6,000,000円です。まず期限を見ます。2016年4月1日開始の事業年度は、平成30年4月1日前に開始しているため繰越期間が9年です。当期の開始日から9年さかのぼると2017年4月1日で、この年度の開始日はそれより前です。残高800,000円は、使えないまま期限が切れます。
残る3行は、2018年4月1日以後に開始した年度なので繰越期間は10年です。当期の開始日の10年前は2016年4月1日で、3行とも範囲に入ります。使える残高の合計は9,500,000円です。
中小法人等の場合
限度額は所得の100%の6,000,000円です。古い年度から充当します。
| 事業年度の開始日 | 使える残高 | 当期控除額 | 翌期繰越額 |
|---|---|---|---|
| 2016年4月1日 | 使える残高0(期限切れ800,000) | 当期控除額0 | 翌期繰越額0 |
| 2018年4月1日 | 使える残高3,000,000 | 当期控除額3,000,000 | 翌期繰越額0 |
| 2020年4月1日 | 使える残高5,000,000 | 当期控除額3,000,000 | 翌期繰越額2,000,000 |
| 2022年4月1日 | 使える残高1,500,000 | 当期控除額0 | 翌期繰越額1,500,000 |
控除後の所得は0円で、翌期への繰越額は合計3,500,000円です。
中小法人等でない場合
限度額は6,000,000円の50%で3,000,000円です。2018年4月1日開始の年度の3,000,000円で限度に達し、残りの年度は手つかずで翌期に回ります。
| 事業年度の開始日 | 使える残高 | 当期控除額 | 翌期繰越額 |
|---|---|---|---|
| 2018年4月1日 | 使える残高3,000,000 | 当期控除額3,000,000 | 翌期繰越額0 |
| 2020年4月1日 | 使える残高5,000,000 | 当期控除額0 | 翌期繰越額5,000,000 |
| 2022年4月1日 | 使える残高1,500,000 | 当期控除額0 | 翌期繰越額1,500,000 |
控除後の所得は3,000,000円、翌期への繰越額は合計6,500,000円です。同じ台帳でも、法人区分だけで当期の所得に3,000,000円の差が出ます。台帳の側には区分に応じた分岐を作らず、限度額を出すセル1つだけを切り替える設計にしておくと、この比較がそのまま再現できます。
Excelの式の組み方
前提は別シートにまとめ、台帳はそれを参照します。前提シートのB1に当期開始日、B2に控除前の所得、B3に限度率(中小法人等は1、それ以外は0.5)を置きます。
B4 損金算入限度額 =B2*B3台帳シートは5行目から始め、A列を事業年度の開始日、B列を欠損金額、C列を控除済累計とします。開始日の昇順に並べておくことが前提です。
D5 繰越期間(年) =IF(A5>=DATE(2018,4,1),10,9)
E5 期限内フラグ =IF(A5>=EDATE(前提!$B$1,-12*D5),1,0)
F5 未控除残高 =B5-C5
G5 使える残高 =F5*E5
H5 当期控除額 =MAX(0,MIN(G5,前提!$B$4-SUM(H$4:H4)))
I5 翌期繰越額 =G5-H5
J5 期限切れ額 =IF(E5=0,F5,0)H5の式が、古い年度からの充当を担います。上の行までの控除額の合計を限度額から引いた「残りの枠」と、その行の使える残高の小さいほうを取る形です。H4は見出し行で、SUMは文字列を無視します。
E5の判定は、開始日が当期開始日のちょうど10年前(または9年前)の年度を範囲に含める式です。条文は「開始の日前10年以内に開始した事業年度」と書いており、>=はその文言どおりです。境界の年度は申告書別表の記載と突き合わせます。この記事の数値例には境界の年度を入れていません。
「前提」シートのB1に当期開始日、B2に控除前の所得、B3に限度率が
あります。「台帳」シートの5行目以降に、A列=事業年度の開始日、
B列=欠損金額、C列=控除済累計があり、開始日の昇順です。
D列からJ列に、繰越期間、期限内フラグ、未控除残高、使える残高、
当期控除額、翌期繰越額、期限切れ額を、値の直書きなしの数式で
入れてください。当期控除額は古い行から順に充当し、
限度額を超えないようにします。この依頼文のセル位置は、自分の表に合わせて書き換えます。値を直接書かせず、前提セルを参照する数式にするよう明示しておくと、限度率を切り替えたときに下流の数字が連動します。Claude for Excelは、数式の関係を保ったまま値を更新するアドインです。
Claude for Excelに任せる工程と、人が決める工程
Claude for Excelは、Pro、Max、Team、Enterpriseのプランで使えるアドインです。ブックについての質問に答え、数式の関係を保ったまま前提を調整し、エラーの原因を探り、新しい表を作ったり既存のテンプレートに入力したりします。回答にはセル単位の出典が付き、クリックすると該当セルへ移動できます。
台帳の検算の進め方
- 1
前提を人が確定する
当期開始日、控除前の所得、法人区分、各年度が青色申告書の提出年度かを人が確かめて前提セルに入れます。
- 2
数式を組ませる
上の依頼文で、期限判定から翌期繰越額までを数式にしてもらいます。
- 3
手計算の1行と突き合わせる
数値例のように、最も古い有効な年度の控除額を電卓で出し、Claudeの数式の値と一致するかを見ます。
- 4
限度率を切り替えて差を見る
B3を1と0.5で入れ替え、控除額の合計と翌期繰越額がどう動くかを確かめます。
出力された数式は、次の観点で読み返します。
- 台帳が開始日の昇順に並んでいるか(並びが崩れると充当順序が狂う)
- 控除額の合計が限度額を超えていないか
- 期限切れ額の行が、使える残高に混ざっていないか
検算セルは2つ作らせておきます。1つ目は「当期控除額の合計 ≤ 損金算入限度額」。2つ目は「使える残高の合計 = 未控除残高の合計 − 期限切れ額の合計」で、期限判定の取りこぼしを拾えます。
Claudeに頼む質問の例は、次のように書けます。数式の意味を聞く使い方も向いています。
H7セルの式がどの行の控除額を参照しているか、セル参照つきで
説明してください。限度額に達した行より下の行が0になっている
理由も教えてください。台帳に載せる前に確かめる4つの条件
台帳の1行は、載せる資格がある欠損金だけに限ります。No.5762、No.5763、No.5930から、行を足す前の確認事項を拾います。
- 欠損金が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を提出していること。その後に提出した申告書が白色でも、その欠損金額は繰越控除の対象のままです
- その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出していること
- 欠損金額から、過去の事業年度の所得の計算で損金に入った額と、欠損金の繰戻しによる還付の基礎になった額が除かれていること
- 欠損金額が生じた事業年度の帳簿書類を、その申告書の提出期限の翌日から10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)保存していること。通常の保存期間は7年です
3つ目は、台帳の「控除済累計」の列に、繰戻し還付を受けた額を足し込むかどうかの判断に当たります。繰戻し還付は、欠損事業年度の青色申告書の提出期限までに還付請求書を同時に提出する制度です。還付を受けた分を台帳の控除済累計に含めないと、同じ欠損金を二重に使うことになります。
他者による特定支配関係を持つことになった欠損等法人が、一定の期間内に旧事業のすべてを廃止し、旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れなどを行うと、その事業年度以後は、それ以前に生じた欠損金額に繰越控除が適用されません。台帳の外に出る事由なので、前提シートに「特定支配関係の有無」のメモ欄を作り、該当しない旨を残しておきます。
検算でつまずきやすい点
数字は合っていても、前提が違っていて見落とす例を挙げます。
控除前の所得に何を含めるかを取り違える
限度額の元になる所得は、繰越控除を適用せず、かつ会社更生等による債務免除益の損金算入などを適用しないものとして計算した金額です。確定申告書の最終的な所得とは別の数字です。前提セルに入れる値が、どの段階の所得かを、セルの隣に書き残します。
法人区分を前年のまま使い回す
中小法人等かどうかは、資本金の額などで決まります。増資で資本金が1億円を超えたり、100%子法人等になったりすると、区分が変わります。前期の限度率を前提セルに残したまま台帳を更新しないよう、決算のたびに区分を再判定する欄を設けます。
繰戻し還付の用語を混同する
繰越控除の限度額の区分は「中小法人等」、繰戻しによる還付の区分は「中小企業者等」と、国税庁の2つのページで用語が分かれています。定義を書く箇所も別のページです。1つの判定セルで両方を代用せず、制度ごとに判定欄を分けます。なお、繰戻し還付は、中小企業者等でない法人の令和10年3月31日までに終了する各事業年度に生じた欠損金額には適用しないとされています。清算中の事業年度などの例外は、No.5763に載っています。
通算法人は別の計算になる
グループ通算制度を適用している法人の繰越控除は、No.5762の注で別のタックスアンサー(コード5900)を参照するよう示されています。この台帳は通算法人の計算を扱いません。通算の適用を受ける法人は、別の様式で組む前提で、このブックの結果をそのまま申告に使わないようにします。
外部のファイルを使うときの注意
Claude for Excelのドキュメントは、信頼できるスプレッドシートだけで使うよう求めています。外部から入手したファイルには、アドインを操って情報を抜き取ったりレコードを書き換えたりする隠された指示が含まれている可能性があるからです。顧問先から受け取った台帳や、ダウンロードした様式は、Claude for Excelを呼び出す前に数値の列だけを手で確かめ、必要な数字を自分のブックに入力します。
欠損金台帳には、事業年度ごとの損益という機微な情報が並びます。社外のブックを開いたままClaude for Excelを呼び出さないよう、作業用のブックを分けておきます。
台帳を更新する手順
翌期に台帳を引き継ぐときは、次の順に行います。
- 当期の確定した所得を、控除前の所得として前提セルに入れる
- 当期の欠損金額が生じた(所得がマイナスだった)場合は、台帳の末尾に新しい行を加える
- 控除済累計(C列)に、当期控除額(H列)を足し込む。未控除残高・使える残高・翌期繰越額(F・G・I列)は数式で連動するので、値では上書きしない。期限切れ額(J列)が出た行は、残高0として残すか、行ごと削除する
2番目の行追加は、開始日の昇順を保つため、必ず末尾に足します。Claudeに「5行目から最後の行までの開始日が昇順か確かめて、崩れていたら行番号を教えて」と頼めば、並びの崩れを拾えます。
評価損や賞与引当金の損金算入の可否は、台帳の外で決まります。たとえば滞留在庫の評価損の仕分けや賞与引当金の期末計上額の検算の結果は、当期の所得に効き、欠損金の発生額や限度額の元になります。2期分の損益を並べて資金の動きを追うなら、間接法のキャッシュフロー計算書の組み方が参考になります。
この台帳は、最終的な申告書の別表を作るものではありません。控除額と繰越額を手計算と照らして確かめるための下書きとして使い、申告書への転記と最終判断は、税理士または社内の経理担当が行います。