取引相場のない株式の類似業種比準をClaude for Excelで試算する手順
決算書と法人税申告書の別表から配当・利益・簿価純資産の3要素を拾い、類似業種比準価額を試算して検算するブックの作り方です。設例の数字で、大会社・中会社・小会社の差も示します。
類似業種比準価額は、取引相場のない株式を評価する方式の一つで、評価会社の配当金額・利益金額・簿価純資産の3つを、同じ業種の上場会社の数字と比べて株価を導く計算です。材料は決算書と法人税申告書の別表にあり、計算は四則演算と平均だけで済みます。
手間がかかるのは計算式ではなく、3要素を拾う条件の細かさです。配当は直前期末以前2年間の平均、利益は課税所得の調整後、純資産は別表五(一)から取ります。ここをブックに組み、数式の関係を保ったまま入力値を差し替えられるようにするのが、Claude for Excelの得意な作業です。
この記事では、架空の設例を使ってブックを組み、検算するところまでを順に示します。出てくる業種目別の数値は計算の流れを見せるための仮の数字で、実際の評価には使えません。
類似業種比準で評価するのはどんな会社か
取引相場のない株式は、上場株式と気配相場等のある株式を除いた株式です。相続税や贈与税の評価では、株式を取得した人が同族株主等かどうかで、原則的評価方式か特例的な評価方式かに分かれます。
原則的評価方式では、評価会社を総資産価額、従業員数、取引金額で大会社・中会社・小会社に区分します。区分ごとの評価方法は次のとおりです。
会社の規模区分と評価方法
大会社
原則として類似業種比準方式で評価します。納税義務者の選択で、純資産価額方式を使うこともできます。
中会社
類似業種比準価額と純資産価額を、一定の割合Lで組み合わせます。Lは総資産価額と従業員数、または取引金額に応じて決まります。
小会社
原則として純資産価額方式で評価します。類似業種比準価額は、算式の係数が0.5になる別枠の計算として登場します。
同族株主以外の株主が取得した株式は、会社の規模にかかわらず配当還元方式で評価します。配当還元方式は、1年間の配当金額を10パーセントで還元する方法です。
したがって、類似業種比準の試算が主役になるのは、大会社と、中会社のうち類似業種比準価額を使う部分です。小会社でも、比較用に類似業種比準価額を出しておく場面はあります。
算式と3つの要素を押さえる
類似業種比準価額の算式は、評価通達180に定められています。類似業種の株価をA、評価会社の1株当たりの配当金額・利益金額・簿価純資産を小文字のb・c・d、課税時期の属する年の類似業種の同じ3項目を大文字のB・C・Dとすると、次の形です。
類似業種比準価額 = A × ( b/B + c/C + d/D ) ÷ 3 × 斟酌率斟酌率は大会社が0.7、中会社が0.6、小会社が0.5です。1株当たりの資本金等の額が50円以外のときは、b・c・dを50円の株式として計算し、出てきた価額に「1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数」を掛けます。
入力する値と取り出し元
b 配当金額
直前期末以前2年間の剰余金の配当金額の合計の2分の1を、株式数で割ります。特別配当や記念配当のうち、毎期続くとは見込めない金額は除きます。
c 利益金額
直前期末以前1年間の法人税の課税所得金額が出発点です。固定資産売却益など非経常的な利益を除き、益金不算入だった受取配当等と繰越欠損金の控除額を加えます。
d 簿価純資産
直前期末の資本金等の額と、別表五(一)の利益積立金額の合計を、株式数で割ります。
利益金額には、納税義務者の選択で「直前期末以前2年間の平均」を使う方法もあります。この場合は2事業年度それぞれを同じ手順で計算して合計し、2分の1にします。ブックでは、1年方式と2年方式の両方を並べておくと、どちらが有利かが一目で分かります。
なお、類似業種の株価Aは、課税時期の属する月以前3か月間の各月の株価のうち最も低いものを使います。選択により、類似業種の前年平均株価か、課税時期の属する月以前2年間の平均株価も使えます。つまり、Aには最大で5通りの候補があり、評価額を最も低くする候補を選ぶ作業がブックの中で発生します。
入力シートを組む
最初に、元データを置く「入力」シートを作ります。ここに置くのは、決算書と別表から拾った素の数字だけです。計算は別シートに分け、入力シートには数式を入れません。
ブックを組む順番
- 1
入力シートに素の数字を置く
資本金等の額、発行済株式数、直前2期の配当金額、課税所得と調整項目、利益積立金額を、拾った元資料の名前とページとあわせて並べます。
- 2
計算シートで3要素を出す
b・c・dを1株当たりの金額にします。50円換算の株式数を先に求めておくと、3要素とも同じ分母になります。
- 3
類似業種シートに業種目別の数値を置く
国税庁が公表する類似業種の株価と、B・C・Dの値を貼ります。株価は3か月分と平均値の候補を並べ、最小値を式で選びます。
- 4
比準価額と検算を並べる
算式の結果に倍数を掛けて、1株当たりの価額にします。同じシートに検算欄と、特定の評価会社への該当判定を置きます。
Claude for Excelには、新しいモデルを自然な言葉の説明から生成する機能と、既存のテンプレートに値を入れる機能があります。次のように頼めば、骨組みはそのまま出来上がります。
新しいシートを3枚作ってください。
「入力」: 資本金等の額、発行済株式数、直前2期の配当金額、課税所得と
調整項目、利益積立金額を入れる欄。数式は入れない。
「計算」: 入力から1株当たりのb・c・dを出す。1株当たりの資本金等の額が
50円以外の場合に備えて、50円換算の株式数の行を先頭に置く。
「比準」: 類似業種の株価A、B、C、Dを入力し、大会社は0.7、
中会社は0.6、小会社は0.5を掛けた3通りを並べる。指示文には、決算書の項目名ではなく、上の3要素の名前をそのまま使います。指示文で「純資産」とだけ書くと、貸借対照表の純資産の部の合計と読まれかねません。通達が求めるのは、資本金等の額と別表五(一)の利益積立金額の合計で、両者は一致するとは限らないため、取り出し元の別表名まで指示に書きます。
設例で3要素を計算する
以下は架空の会社の数字です。製造業の大会社を想定し、直前期末の資本金等の額は5,000万円、発行済株式数は1万株、つまり1株当たりの資本金等の額は5,000円とします。50円で換算すると、株式数は100万株になります。
| 項目 | 設例の値 | ブックの式 |
|---|---|---|
| 1株当たりの資本金等の額 | 設例の値5,000円 | ブックの式資本金等の額÷発行済株式数 |
| 50円換算の株式数 | 設例の値100万株 | ブックの式資本金等の額÷50 |
| 倍数 | 設例の値100倍 | ブックの式5,000÷50 |
配当金額bの計算
直前2期の剰余金の配当は、直前期が200万円、その前の期が100万円です。このうち特別配当や記念配当は含まれていないものとします。合計300万円の半分の150万円を100万株で割ると、1.5円です。
b = ((直前期の配当 + 直前々期の配当) / 2) / 50円換算の株式数
= (2,000,000 + 1,000,000) / 2 / 1,000,000 = 1.5円ここで入力欄を分けておくのは、特別配当を除く作業が人の判断になるからです。配当金額の列の隣に「うち毎期継続しない金額」の列を置き、計算では差し引いた後の数字だけを使います。Claudeに任せるのは、列の追加と数式の修正までです。ある配当が継続しないものかどうかは、決算書の注記や株主総会の議事録を見て経理担当者が決めます。
利益金額cの計算
直前期の課税所得は3,200万円で、そのうち固定資産売却益が200万円含まれていたとします。受取配当等の益金不算入額と繰越欠損金の控除額はありません。非経常的な利益を除いた3,000万円を100万株で割ると、30円です。
c = MAX(0, 課税所得 - 非経常利益 + 益金不算入の配当等 + 繰越欠損金控除)
/ 50円換算の株式数
= (32,000,000 - 2,000,000) / 1,000,000 = 30円負数のときは0にする決まりがあるため、MAX関数で0に揃えます。この式がないと、赤字の会社で比準割合がマイナスになります。
簿価純資産dの計算
直前期末の利益積立金額は1億円とします。資本金等の額5,000万円を足すと1億5,000万円で、100万株で割ると150円です。利益積立金額がマイナスのときの扱いは別に定められており、その負数を資本金等の額から控除します。控除後が負数なら0にする規定です。
d = (資本金等の額 + 利益積立金額) / 50円換算の株式数
= (50,000,000 + 100,000,000) / 1,000,000 = 150円類似業種の数値を置いて、比準価額を出す
類似業種の株価Aは、国税庁が業種目ごとに公表しています。設例では、課税時期の属する月以前3か月の株価を420円、400円、410円と置きます。最も低いのは400円です。B、C、Dは課税時期の属する年の類似業種の値で、5.0円、25円、250円と仮定します。
| 比準の項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| b / B | 計算1.5 ÷ 5.0 | 結果0.3 |
| c / C | 計算30 ÷ 25 | 結果1.2 |
| d / D | 計算150 ÷ 250 | 結果0.6 |
| 3項目の平均 | 計算(0.3 + 1.2 + 0.6) ÷ 3 | 結果0.7 |
3項目の平均0.7を類似業種の株価400円に掛けると、280円です。大会社の斟酌率0.7を掛けて196円になり、これは50円の株式に換算した価額です。最後に倍数の100を掛けて、1株当たりの類似業種比準価額は1万9,600円になります。
規模区分を変えたときの値も、同じシートの並びで確認できます。
| 区分 | 斟酌率 | 50円換算の価額 | 1株当たり(100倍) |
|---|---|---|---|
| 大会社 | 斟酌率0.7 | 50円換算の価額196円 | 1株当たり(100倍)19,600円 |
| 中会社 | 斟酌率0.6 | 50円換算の価額168円 | 1株当たり(100倍)16,800円 |
| 小会社 | 斟酌率0.5 | 50円換算の価額140円 | 1株当たり(100倍)14,000円 |
中会社の最終的な株価は、この類似業種比準価額にLを掛け、純資産価額に(1 − L)を掛けて足した額です。Lは大きいほうの割合が使われます。純資産価額方式は相続税評価額で資産と負債を洗い替えるため、別のブックでの作業になります。
Claudeには、Aの候補を選ぶ式を頼みます。
「比準」シートのB4:B8に、類似業種の株価の候補を入れています。
3か月分、前年平均、2年平均の5つです。最小値を選ぶセルを作り、
どの候補が選ばれたかを隣のセルに表示してください。最小値の選択は、MIN と INDEX・MATCH の組み合わせで書けます。Claudeはセルの値を引用つきで説明するので、どの候補が選ばれたかを後から追えます。
検算は「Claudeに別の経路で解かせる」
計算結果を信用してよいかは、作った本人が同じ式を眺めても分かりません。Claude for Excelは、数値の根拠をセルへの引用つきで答える機能を持つため、検算にはこれを使います。
19,600円に違和感があるときの切り分け
- Qb・c・dの分母が、すべて50円換算の株式数になっているか?答えがいいえのとき答えがはい
発行済株式数で割っているセルを探して、分母を揃えます。
- Q利益金額に、売却益などの非経常的な利益が残っていないか?答えがいいえのとき答えがはい
調整項目の欄に非経常利益を入れ直します。
- Q類似業種のB・C・Dは、課税時期の属する年のものか?答えがいいえのとき答えがはい
別の年の数値を貼っていないか、貼り付け元を確認します。
最後に倍数を掛けたか確認
倍数を掛け忘れると、価額が50円ベースのまま出ます。
指示は次の形です。
「比準」シートのF12(1株当たりの類似業種比準価額)について、
元の入力シートの値から式を使わずに手計算した場合の値を、
計算過程つきで示してください。F12と一致しなければ、
最初にずれる行を教えてください。「式を使わずに」と指定するのは、同じ式を再計算するだけでは検算にならないためです。ずれた行が示されたら、ブック側の式が誤っているのか、入力値の拾い間違いなのかを、元の別表で確認します。
もう一つ有効なのは、感度の確認です。利益金額を10パーセント増やしたときに、比準価額がどれだけ動くかを出します。3要素の平均で、利益金額の影響が三分の一であることが、結果に現れているかを見られます。
利益金額cを10%増やしたとき、比準価額がどう変わるか、
増減額と増減率を表にしてください。ブックの値は変えないでください。Claude for Excelは、値を更新するとき数式の関係を保ち、既存データを上書きする前に警告します。それでも、最初は元のブックの写しで作業するのが安全です。
特定の評価会社に当たらないかを先に判定する
類似業種比準方式で評価できるのは、特定の評価会社に当たらない会社だけです。当たる会社は原則として純資産価額方式などで評価するため、比準価額を出す前に判定が必要です。
- 比準要素数1の会社: 直前期末の3要素のうちいずれか2つがゼロで、かつ直前々期末の3要素のうち2つ以上がゼロの会社
- 株式等保有特定会社: 総資産価額に占める株式、出資、新株予約権付社債の割合が一定以上の会社
- 土地保有特定会社: 総資産価額に占める土地等の割合が一定以上の会社
- 開業後3年未満の会社等: 課税時期で開業後の経過年数が3年未満の会社、または直前期末の3要素がいずれもゼロの会社
- 開業前または休業中の会社、清算中の会社
3要素のゼロ判定は、ブックの中で式にできます。直前期末のb・c・dを3つのセルに、直前々期末のb・c・dも3つのセルに置いたとします。
比準要素数1の判定
=AND(COUNTIF(B20:D20,0)>=2, COUNTIF(B21:D21,0)>=2)TRUEが返れば、類似業種比準価額は使えません。株式等保有特定会社と土地保有特定会社は、資産の割合を一定の基準と比べる判定です。基準の数字は評価明細書の様式で確かめ、別の欄で判定します。
Claude for Excelで試算するときの注意点
落とし穴
外部から受け取ったファイルをそのまま開く
取引先や顧問先から受け取ったブックには、Claudeに意図しない操作をさせる隠れた指示が含まれることがあります。Claude for Excelの説明も、信頼できるスプレッドシートでのみ使うよう求めています。決算データを受け取ったら、値だけを自前のブックに貼って使います。
利用の前提は、Pro、Max、Team、Enterpriseのいずれかのプランです。Excelは、Excel on the web、Windows版のMicrosoft 365、Mac版が対象で、2016と2019の買い切り版、iPad、Androidでは動きません。データテーブルとマクロ・VBAも対応外です。
説明では、監査に使う計算を検証なしで任せること、最終の顧客向け成果物を人の確認なしに出すことは推奨されていません。評価額は、相続税や贈与税の申告の根拠として使う数字です。ブックはあくまで試算と検算の道具として扱い、申告に載せる数字は評価明細書の様式で確定します。
もう一つの落とし穴は、類似業種の数値の取り違えです。業種目の判定は、取引金額の割合が50パーセントを超える業種目で決まります。どの業種目にも50パーセントを超えない場合は、細かな振り分けの規定があり、評価会社の事業内容を見て業種目を確定する必要があります。ブックに貼る前に、業種目の選定根拠を入力シートのメモ欄に残しておきます。
隣接する作業との関係
3要素を拾う作業は、会計と税の別の計算と素材が重なります。別表五(一)の利益積立金額は、税効果会計の一時差異を整理するブックの入口でもあります。入力シートの作り方も同じ考え方です。
利益金額の調整項目のように、元資料の数字を行ごとに突き合わせる作業は、社宅の賃貸料相当額を検算する手順と同じ型です。有利不利を2案で並べて比べる設計は、簡易課税と原則課税を比べる試算が参考になります。類似業種の株価の候補から最小値を選ぶ作業も、比較ブックの一種として組めます。
まとめ
類似業種比準価額の試算は、算式そのものより、配当・利益・簿価純資産の3要素をどの元資料からどう拾うかで差が出ます。入力、計算、比準の3シートに分け、50円換算の株式数を先頭の行に置くと、設例の19,600円まで一直線に追えます。
検算は、ブックの式を読み返すのではなく、Claudeに式を使わない別経路の手計算をさせます。特定の評価会社の判定と、類似業種の数値の出どころは、人が評価明細書の様式で確かめる領域です。