Claudeで外国人患者の問診票を多言語で院内用に整える — 厚労省の対訳をひな形に
厚労省の多言語問診票をひな形に、自院の質問項目を足して訳文を逆翻訳で確かめるまでの手順です。患者の回答は渡さず、症状は診断せず受診案内へつなぐ線引きも扱います。
外国人患者の問診票を一から訳して作る必要はありません。厚生労働省が、診療科別の問診票を多言語で公開しているからです。Claudeの出番は、その公式の対訳をひな形にして、自院だけの質問項目を足し、足した部分の訳文を確かめる作業にあります。
この記事では、ひな形の選び方、項目の足し方、逆翻訳による確認、そして問診票が症状の判定に踏み込まない線引きを順に扱います。Claudeに渡すのは空欄の問診票だけで、患者が記入した回答は渡しません。
電話口で症状を聞かれたときの応答はクリニック受付の電話対応スクリプトに、患者側が症状を調べる場合の注意はClaudeで症状を検索するときの注意点にあります。
厚労省の資料には何が揃っているか
厚労省の「外国人向け多言語説明資料 一覧」は、日本国内の医療機関向けに、円滑な外国人患者の受入れを目的として提供されています。ページには連番(1)から(53)まで、受付書類から検査の説明書、同意書までが並びます。問診票に当たるのは、診療科別の(14)内科から(29)歯科までの16種類です。
厚労省の多言語資料の規模
診療科別の問診票
16種類
(14)内科〜(29)歯科
対応言語
13言語
日本語を併記
問診票の編集用形式
Excel
麻酔の問診票はWord
対応言語は英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、ウクライナ語、ヒンディー語、インドネシア語、ネパール語、タガログ語、タイ語、ベトナム語、アラビア語です。全文書に日本語が併記され、ウクライナ語とアラビア語の版には英語と日本語が併記されています。
実務で効く記載は次の3つです。
- 問診票は、医療従事者が回答を速やかに把握できるよう、選択肢形式が多く取り入れられている
- 加工・編集できるWord版(一部Excel版)が掲載されている。診療科別問診票(14)〜(29)はExcel、(30)麻酔の問診票はWord
- 使用は強制ではなく、各医療機関の責任において使う
最後の点は見落としやすいところです。公式の資料をそのまま使っても、自院の項目を足して改変しても、内容への責任は自院が負います。AIが訳した部分についても同じで、Claudeに任せられるのは下書きまでです。
資料は更新されています。ページには、2018年3月版への全資料の再点検、英語版の請求書・領収書の一部修正、アラビア語資料の追加などの履歴が載っています。(10)の出産育児一時金に関する説明・合意書は、令和8年7月27日に一部改訂されました。問診票に限らず、使う前に一覧ページで最新のファイルを取り直す運用にしておくと、古い版を貼り続けずに済みます。
Claudeに渡してよいもの、渡さないもの
問診票の作業で、Claudeに触らせる対象を3段階に分けておきます。
| 対象 | 渡してよいか | 理由 |
|---|---|---|
| 厚労省の空欄の問診票 | 渡してよいか渡してよい | 理由患者情報を含まない公開資料 |
| 自院が足したい質問項目の案 | 渡してよいか渡してよい | 理由個人情報を含まない院内の設計 |
| 患者が記入した回答 | 渡してよいか渡さない | 理由病歴などの要配慮個人情報を含みうる |
病歴は要配慮個人情報の典型です。記入済みの問診票をClaudeに入力する場合の考え方は、要配慮個人情報をClaudeに入力してよいかで扱っています。今回の作業は、そもそも渡す必要がない設計にできます。ひな形づくりに患者の回答は要らないからです。回答内容の翻訳が必要になる場面は、別の運用(通訳者や院内の翻訳ルール)で扱います。
ファイルの扱いにも条件があります。サポート記事によると、XLSXファイルをアップロードするには、アカウントでコード実行とファイル作成の機能を有効にしておく必要があります。1回のチャットに添付できるのは最大20ファイル、1ファイル30MBまでです。Claudeは、Excel(.xlsx)、Word(.docx)、PDFなどのファイルを会話の中で作成し、ダウンロードできます。
厚労省のExcel版はファイルサイズが100〜500KB台なので、上限に当たることはまずありません。ただし、言語ごとにファイルが分かれているため、扱う言語が増えるほど添付数が増えます。
作業の場としてはProjectsが向いています。プロジェクト指示に「厚労省のひな形を改変しない」「追加項目だけを訳す」といった院内の決まりを書いておけば、毎回の会話で言い直さずに済みます。Projectsは無料プランを含む全ユーザーが使え、無料プランのプロジェクト数は5つまでです。
自院の項目を足す手順
作業の流れは次のとおりです。ひな形の訳文には手を入れず、追加する部分だけをClaudeに起こしてもらう形にします。
ひな形から院内用の問診票ができるまで
- 1
診療科と言語を決める
自院で外国人患者が多い言語を、厚労省の13言語から選びます。診療科ごとにExcelが分かれているので、自院で使う診療科の分だけ取得します。
- 2
追加したい項目を日本語で書く
たとえば「通訳の希望の有無」「宗教上の理由で避けたい食事・処置」「支払い方法の希望」などです。医療判断にかかわる項目は、医師と相談して文面を確定させます。
- 3
追加項目だけを訳してもらう
ひな形の既存の質問は、そのまま残します。Claudeには追加分の訳文案と、選択肢の並びを、既存の質問と同じ書き方にそろえて出してもらいます。
- 4
ひな形のExcelに追記する
追記した版をClaudeに作らせる場合も、既存セルが書き換わっていないかを元のファイルと見比べて確かめます。
プロジェクト指示の書き出しは、たとえば次のような形にできます。
あなたは医療機関の受付用書類の編集補助です。
添付は厚生労働省の多言語問診票(内科・英語)です。
次の条件で作業してください。
1. 既存の質問と訳文は変更しない
2. 追加項目は日本語の原文と英語訳を併記し、既存の選択肢形式に合わせる
3. 病名の推測や、受診の要否を判断する文言は作らない
4. 医療用語や不安な訳は、確認が必要な箇所として別に一覧にする4つ目が効きます。Claudeが自信のない箇所を自分で挙げてくれれば、人が確認する範囲を絞れます。ただし、挙がらなかった箇所が正しいという保証にはなりません。
訳文は逆翻訳で確かめる
追加項目の訳文は、別のチャットに訳文だけを貼って日本語に戻させる方法で確かめます。同じ会話の中で戻させると、直前の日本語原文に引っ張られて、誤訳を元の意味に読み替えてしまうことがあるからです。
差分は表にまとめます。
| 追加項目の原文 | 英訳 | 日本語への逆翻訳 | 意味のずれ |
|---|---|---|---|
| 通訳を希望しますか | 英訳Do you need an interpreter? | 日本語への逆翻訳通訳が必要ですか | 意味のずれ「希望」と「必要」で強さが違う |
| 食べられないものはありますか | 英訳Are there any foods you cannot eat? | 日本語への逆翻訳食べられない食べ物はありますか | 意味のずれなし |
上の表は書き方の見本です。「希望」と「必要」のような強さの差は、選択肢の回答に直結するので、見つけたら原文か訳文を直します。逆翻訳が元の意味に戻っても、その言語として自然かどうかまでは分かりません。ここが逆翻訳の限界です。
最終確認は、その言語を母語とする職員か、医療通訳者に頼みます。確認先が見つからない言語は、追加項目を増やさず、公式のひな形の範囲で運用する選択もあります。翻訳精度は言語ごとに差が出ることが知られています。比較はClaudeとChatGPTの翻訳精度の比較に、言語別の傾向はClaudeの多言語性能のデータにあります。
多言語の案内文を作る別の場面の例は、インバウンド接客の案内にもあります。
症状は診断せず、受診案内へつなぐ
問診票は、患者の状態を医療従事者に伝える情報収集の紙です。症状から病名を推測したり、受診が必要かを判定したりする紙にはしません。この線をプロジェクト指示とレビューで守ります。
問診票に載せる文言の線引き
載せてよい
「いつから痛みますか」「アレルギーはありますか」「現在飲んでいる薬を書いてください」など、患者が自分の状況を答える質問です。選択肢の並びは厚労省の形式に合わせます。
載せない
「この症状なら受診は不要です」「〇〇の可能性があります」のような、結果を返す文言です。Claudeに追加項目を考えさせると、親切のつもりで入ることがあります。
急を要する訴えの扱いは、Claudeに作らせません。「呼吸が苦しい」「意識がもうろうとする」といった患者が受付に申し出るための案内文は、医師や看護師長が決めた文面を、訳すだけにします。Claudeに任せるのは、決まった日本語を各言語に起こす部分までです。
落とし穴
追加項目に診断めいた補足が混ざる
追加項目の案を出させると、「この症状がある方は早めの受診をおすすめします」のような一文が添えられることがあります。患者向けの紙面に受診の要否を示すと、診察の代わりをする文面になります。プロジェクト指示に「判定・助言の文言を書かない」と入れ、出力を読んで混ざっていないかを確認してください。
運用でつまずきやすい点
- Excelのセルは、言語によって文字数が大きく変わります。訳文が長い言語では、行の高さや列幅の調整が必要になります。印刷して使う場合は、A4に収まるかまで確かめます
- 追加項目を足したファイルは、元のひな形と別名で保存し、厚労省の版との差分を残します。厚労省が資料を改訂したとき、追加分だけを新しい版に移せます
- アラビア語のように右から左へ書く言語は、Excel上の表示と印刷の向きを実物で確認します。Claudeの出力は文字列の下書きで、レイアウトの確認までは任せられません
- 同じ項目の用語は、言語内でそろえます。「通訳」の訳語が書類ごとにぶれないよう、用語集を作ってプロジェクトのナレッジに入れておく方法があります。外国人従業員向けの手順書で同じ考え方を使った例は、作業手順書の多言語化にあります
まとめ
厚労省の問診票は、16診療科・13言語の対訳がすでに公開されている以上、院内用の整備は「足す」作業です。ひな形の訳は変えずに追加項目だけをClaudeに起こしてもらい、逆翻訳で意味のずれを拾い、最後は母語話者か医療通訳者に見てもらう流れにします。
渡すのは空欄の紙と院内の設計案だけで、患者の回答と、診断・受診判定の文言は扱いません。資料の使用責任は各医療機関にあるため、院内の確認者を決めたうえで運用に載せるのが現実的です。