Claudeで社長挨拶の原稿を作る手順 — 過去の発言録との矛盾を点検
社長のトップメッセージを、過去の挨拶・決算説明・社内報と矛盾させずに起こす手順です。Claude Projectsに発言を置き、数字と約束の台帳を作って点検します。
社長のトップメッセージで怖いのは、文章がまずいことではありません。去年の挨拶で約束したことと食い違う、決算説明で出した数字と一桁違う、といった矛盾が、公開後に読者から指摘されることです。
この矛盾は、過去の発言を手元に並べて突き合わせれば防げます。ただ、挨拶、決算説明、社内報、取材記事と発言の出どころは散らばっていて、その突き合わせに時間がかかります。Claude Projectsに発言録を置き、先に「数字と約束の台帳」を作ってから原稿案を出させると、この手間を減らせます。
この記事は、広報や経営企画の担当者が、社長に出す原稿案を作る側の手順です。登壇用に話し言葉へ直す工程はClaudeで経営者の登壇原稿を話し言葉に直して持ち時間に収める手順で扱っています。ここでは、文面を整える前の「過去と食い違わないか」の点検が中心です。
社長メッセージで食い違いが出やすい箇所
食い違いは、文体よりも中身で起きます。担当者が把握している範囲は人によって違うため、複数年の発言を一人で覚えている前提には立てません。
| 食い違いの型 | 例 | 起きる理由 |
|---|---|---|
| 数字の不一致 | 例従業員数、拠点数、売上の前年比が、決算説明と挨拶で違う | 起きる理由集計時点や集計範囲が、資料ごとに違う |
| 約束の消失 | 例前年に宣言した施策が、今年は何も触れられない | 起きる理由担当が替わり、宣言した事実が引き継がれていない |
| 約束の言い換え | 例「必ず実現する」が「目指す」に弱まる | 起きる理由意図せずトーンが変わる |
| 用語のずれ | 例事業名や制度名が、年によって呼び方が違う | 起きる理由資料ごとに書き手が違う |
| 時系列の混線 | 例過去の実績と今後の計画が同じ段落に混ざる | 起きる理由原稿の構成上の問題 |
最初の2つは、読者が一番気づきやすい型です。約束が黙って消えると、「あの話はどうなったのか」と問われます。逆に、言い換えは担当者でも気づきにくく、台帳に並べて初めて見えることが多い型です。
Projectsに置く資料と、置かないもの
Projectsは、独立したチャット履歴と知識ベースを持つ作業スペースです。文書やテキストを知識として置くと、そのプロジェクトのチャットで文脈として使われます。無料アカウントでも使えますが、作れるプロジェクトは5つまでです。
置く資料は、社長が公に話した内容と、その数字の根拠に絞ります。
- 過去の社長挨拶、年頭所感、トップメッセージの全文
- 決算説明会の資料と、質疑応答の記録
- 社内報、株主・取引先向けの通信に載った社長コメント
- 取材記事のうち、社長の発言として公開されたもの
- 中期経営計画の公開版
置かないのは、未公表の数字や人事情報です。Projectsは共有の設定次第で社内の他のメンバーも読めるので、公開前の情報が混ざった資料は、別の作業場所で扱います。
ファイルは、年と媒体が分かる名前に揃えます。Claudeは資料の中身を文脈として読みますが、あとで出典を示させるとき、ファイル名がそのまま手がかりになります。
2024_社長年頭所感_全文.pdf
2024_決算説明会_通期_質疑応答.pdf
2025_社内報_社長コメント_4月号.docx
2025_中期経営計画_公開版.pdfアップロードの仕様も押さえておきます。プロジェクトのファイルは1ファイル30MBまでで、ファイル数に上限はありませんが、内容の合計がClaudeのコンテキストウィンドウに収まる必要があります。文字の抽出が基本で、PDFは100ページ以下なら図表も読み取り、101〜1000ページは文字だけの処理になります。決算説明資料のグラフに数字が載っているときは、PDFのページ数と、数字が文字で拾われているかを確かめてください。
有料プランでは、知識がコンテキストの上限に近づくとRAG(検索拡張生成)が自動で有効になり、容量が最大10倍まで広がります。RAGが働くと全文を毎回読むのではなく、必要な箇所が探されます。ただ、資料が増えるほど、複数年にまたがる突き合わせでは拾い漏れが起きる可能性が上がります。そこで次の工程では、資料全体を一度にまとめさせず、年ごと・媒体ごとに分けて台帳へ移します。
社長に出すまでの流れ
- 1
指示文を決める
資料の外の数字を使わせない規則を、プロジェクトに書きます。
- 2
台帳を作る
発言を数字と約束の表にします。
- 3
要点を突き合わせる
今年の要点を台帳に当てます。
- 4
原稿案を出す
語り口を見本にして書かせます。
- 5
完成稿を照合する
最後に台帳と原本で確かめます。
手順1: プロジェクトの指示文を決める
プロジェクトの指示文には、毎回の依頼で繰り返す前提を書きます。指示は、そのプロジェクト内のすべてのチャットに適用されます。
あなたは広報担当を補助する編集者です。
社長の挨拶原稿の案を作りますが、次の規則を守ってください。
1. 数字・年・固有名詞は、プロジェクトの資料に書かれたものだけを使う。
資料にない数字は書かず、「要確認」と書いて空欄にする。
2. 数字や約束を書くたびに、出典(ファイル名と該当箇所)を括弧で添える。
3. 過去の発言と食い違う箇所を見つけたら、原稿に混ぜず、別の表にして出す。
4. 事実(過去に言ったこと)と、今年の新しい主張を、混ぜずに分ける。
5. 最終的に何を言うかは社長が決める。断定が弱い箇所には印を付ける。この指示の要点は、第1項の「資料にない数字は空欄にする」です。数字が抜けたままだと、文章としては自然な値で埋めたくなる場面があります。空欄を許す指示を先に書いておくと、推測で埋めることを防ぎやすくなります。
手順2: 発言から「数字と約束の台帳」を作る
原稿を書かせる前に、まず台帳を作らせます。台帳が、以降のすべての点検の土台になります。
2022年から2025年の社長挨拶・決算説明・社内報から、次の2つの表を作ってください。
年ごと・媒体ごとに分けて処理し、1回の返答で扱う資料は1年分までにします。
表A(数字): 項目 / 数字 / 集計時点 / 出典(ファイル名・ページ)
表B(約束): 発言した年 / 約束の内容 / 期限 / 強さ(「必ず」「目指す」「検討する」) / 出典「強さ」の列が重要です。社長は同じ施策について、年によって「必ず」と「目指す」を使い分けていることがあります。強さを台帳に残しておくと、今年の原稿で弱めるのか維持するのかを、意識して決められます。
落とし穴
台帳は1回で完成と思わない
資料が多いと、1回の返答で拾い漏れが出ます。年ごとに台帳を作らせたら、媒体ごとに「この台帳に載っていない約束や数字はありますか」と聞き直し、足りない分を足してから使います。完成した台帳は、プロジェクトの知識にファイルとして加えると、以降のチャットで参照できます。
プロジェクト内のチャットどうしでは、文脈は自動で共有されません。台帳を知識に加えない限り、別のチャットでは台帳の存在をClaudeは知りません。この点が、台帳をファイルにして置く一番の理由です。
手順3: 今年の主張と台帳を突き合わせる
次に、今年の原稿で言いたいことの要点を、箇条書きで渡します。まだ文章にする必要はありません。
今年のメッセージの要点です。
- 売上は過去最高を更新した
- 海外拠点を増やした
- 来期は人材投資を厚くする
- 昨年の施策は順調に進んでいる
台帳の表A・表Bと突き合わせ、次の3つを表で出してください。
(1) 要点のうち、台帳の数字と食い違う可能性のあるもの
(2) 台帳にあるのに、要点で触れていない約束(期限が今年以前のもの)
(3) 昨年までの表現と強さが変わる箇所(2)の「触れていない約束」が、約束の消失を拾う項目です。この表を見たうえで、社長と広報で、触れるか、あえて触れないかを決めます。触れないことも選べますが、気づかないまま触れないのとは別です。
「過去最高を更新した」のような比較表現は、過去最高の基準が何かで食い違います。台帳に年ごとの売上があっても、連結か単体かが資料で異なれば、Claudeはどちらの数字も並べて示すかもしれません。そのときは、勝手に片方を選ばせず、集計範囲を表に出させます。
数字を原稿に入れる前後
点検前の一文
売上高は前年から大きく伸び、過去最高を更新しました。
点検後の一文
連結売上高は前年比で増加し、決算説明会(2025年通期)で示した過去最高を更新しました。【要確認: 増減率の数字、集計範囲】
左のように曖昧な形のまま原稿に入ると、読者が数字を確かめようとしたとき、どの資料の何を指すのかが分かりません。点検後は、出典のある言い方に直し、確認の済んでいない数字を空欄で残します。
手順4: 論調を揃えて原稿案を出す
台帳の点検が済んでから、原稿案を出させます。ここで、論調を揃える見本を渡します。
過去の挨拶から、社長の語り口の特徴を3つ挙げ、それぞれの根拠となる一文を出典付きで示してください。
(例: 一文の長さ、「私たち」と「当社」のどちらを主語にするか、締めの形)
その特徴に沿って、今年のメッセージの原稿案を600字で書いてください。
数字は台帳にあるものだけを使い、出典を括弧で添えてください。語り口の特徴を言葉にさせてから書かせる理由は、「論調を合わせて」という指示が曖昧だと、Claudeが一般的な社長挨拶の調子で書いてしまうためです。根拠となる一文を示させると、特徴の読み取りが妥当かを担当者が判断できます。
字数は、媒体の枠に合わせます。ウェブのトップメッセージ、年次報告書の巻頭言、社内報の巻頭で、適した長さと構成が違います。社内報向けの構成はClaudeで社内報・ニュースレターを自動作成する方法に書いています。
手順5: 完成稿を台帳と照合し、社長に出す
社長に出す前に、完成稿をもう一度台帳と照合します。原稿案を直しているうちに、数字や強さが再び変わることがあるためです。
添付の完成稿の、数字・年・固有名詞・約束の表現をすべて拾い、
台帳と一致するかを表で出してください。
列: 完成稿の記述 / 台帳の値 / 一致・不一致・台帳になし / 出典「台帳になし」の行は、今年初めて出す数字や約束です。ここが、社長が新しく責任を負う部分になります。出典を示せない数字は、Claudeの出力を信用せず、担当部署の原本で確認します。決算説明資料を使うときは、PDFビューアで見えるページ番号で出典を示させると、原本に当たりやすくなります。ファイルの印刷ページ番号とは違うことがあるので、どちらの番号かを指示で決めておきます。
Claudeが示す出典は、読み取りの誤りで違うページを指すことがあります。点検の最後は、人が原本を開いて確かめる工程として残します。
公表前の情報と開示のルールを分けて扱う
トップメッセージは、公表前の経営判断に触れることがあります。特に上場会社では、決算の数字や業績予想は、開示の時期と方法が決まっています。Claudeに入れる資料は公表済みのものに限り、公表前の数字は、プロジェクトの外で扱います。
開示に関わる表現が適切かどうかは、Claudeの点検では代わりになりません。法務や開示担当の確認を、原稿の最終段階に組み込んでおきます。Claudeに任せるのは、過去の公表内容との整合を見る補助までです。
共有するときの設定
TeamまたはEnterpriseプランでは、プロジェクトを組織内で共有できます。権限は「閲覧可」と「編集可」の2段階で、閲覧可のメンバーは内容を見てチャットはできますが、編集はできません。広報と秘書室で台帳を共有するなら、台帳を更新する人だけを編集可にすると、台帳が複数の手で書き換わるのを避けられます。
共有していても、プロジェクト内の各自のチャットは、共有しない限り他のメンバーに見えません。台帳の更新は、チャットの中ではなく、プロジェクトの知識として加えたファイルの差し替えで行うほうが、全員が同じ版を参照できます。管理者がプロジェクトの共有を無効にしている組織では、共有メニューから新しいメンバーを追加できません。
台帳は挨拶だけの道具ではありません。広報の年間計画を組むときはClaudeで広報の年間計画を組む手順、数字のずれを防ぐ資料を作るときはプレスキットのファクトシートの作り方で、同じ台帳を土台にできます。
まとめ
社長メッセージの矛盾は、文章力ではなく台帳で防ぎます。台帳が一度できれば、毎年の原稿づくりは「去年からの差分を見る作業」になります。
台帳を更新する時期は、決算発表の後と、挨拶を出した後の2回が目安です。更新を担当する人を1人決めておくと、担当が替わっても、翌年に引き継ぐのは台帳のファイルと、「台帳になし」と出た項目の確認結果で足ります。台帳に載らない新しい数字と約束は、社長が今年初めて背負う部分なので、原稿の段階で社長と一緒に確認します。