カスハラ対策が義務化された今、Claudeで方針と記録様式を整える
2026年10月1日から事業主の義務になったカスハラ対策のうち、方針文・判断基準・相談窓口の周知文・対応記録の様式をClaudeで下書きする手順です。
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、2026年10月1日から事業主の法的義務になりました。BtoCの店舗だけの話ではなく、取引先の担当者や施設の利用者も「顧客等」に含まれるため、BtoB企業や公共施設の運営側も対象です。
義務の中身は、方針の明確化、相談窓口、事後対応、悪質事案への備え、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止です。どれも「文書にして従業員へ周知する」作業が中心になります。この文書の下書きと、記録様式の整備は、Claudeが得意とする作業です。
この記事では、厚生労働省の企業向けマニュアル(令和8年度改訂版)が示す措置に沿って、Claudeに何を頼み、何を人に残すかを順にたどります。
義務化されたカスハラ対策は10の措置に分かれる
事業主が講ずべき措置は、カスハラ防止指針(厚生労働省が令和8年に出した告示の第51号)に示されています。企業向けマニュアルは、これを①〜⑩の10項目に分けて解説しています。法的義務は10項目すべてです。
| 区分 | 措置 | Claudeで下書きできるか |
|---|---|---|
| 方針の明確化 | 措置①毅然と対応し従業員を守る方針を周知 ②カスハラの内容と対処を周知 | Claudeで下書きできるか方針文・判断基準・周知文を下書きできる |
| 相談体制 | 措置③相談窓口を定めて周知 ④担当者が適切に対応できるようにする | Claudeで下書きできるか周知文・対応手順書の草案を作れる |
| 事後対応 | 措置⑤事実関係の確認 ⑥被害者への配慮 ⑦再発防止 | Claudeで下書きできるか記録様式と確認項目を作れる。判断は人 |
| 抑止措置 | 措置⑧特に悪質な事案への対処方針と体制 | Claudeで下書きできるか方針案は作れる。法的な当否は専門家 |
| 併せて講ずる措置 | 措置⑨プライバシー保護 ⑩不利益取扱いの禁止 | Claudeで下書きできるか規程・周知文の草案を作れる |
表の右端が示すとおり、Claudeが担うのは文書の下書きと整形です。誰を窓口にするか、どこまでを悪質と見るか、警察へ通報するかは、会社が決めることです。
なお、マニュアルは別の注意も添えています。対策を講じるときは、消費者の権利や、障害者への差別を禁じる法律が定める合理的配慮の提供義務に留意する必要があります。障害のある人が社会的障壁の除去を求めること自体は、カスハラに当たりません。Claudeに書かせた文面にも、この観点が抜けていないかを人が読んで確かめます。
作業の順序は「方針→基準→窓口→記録」
下書きは、後の文書が前の文書を参照する順に進めると、用語がぶれません。
Claudeでカスハラ対策文書を整える順序
- 1
方針文を作る
トップメッセージとして出す、従業員を守る方針の草案を作ります。
- 2
判断基準を自社の言葉にする
法律上の定義を、自社の業務で起きやすい場面に置き換えます。
- 3
相談窓口の周知文と手順書を作る
既存の窓口を使うかどうかを決めたうえで、周知文を作ります。
- 4
対応記録の様式を作る
現場から本社へ引き継ぐときの項目を、様式に固めます。
- 5
悪質事案の対処方針と抜け漏れを点検する
チェックシートと突き合わせ、足りない措置を洗い出します。
トップメッセージの方針文を下書きする
①の方針は、「カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、従業員を保護する」旨を明確にして、管理監督者を含む全従業員に示す義務です。マニュアルは、トップ自らが発信することを重視しており、署名を添えた形が例示されています。
方針に含める要素の例として、マニュアルは次の7点を挙げています。
- カスハラは自社にとって重大な問題である
- カスハラを放置しない
- カスハラから従業員を守る
- 従業員の人権を尊重する
- 社会通念上許容される範囲を超えた要求や言動を受けたら、周囲に相談してほしい
- カスハラには組織として毅然とした態度で対応する
- 本方針は企業のトップメッセージである
この7点をそのままプロンプトの材料にします。
あなたは総務担当の補佐です。次の条件で、従業員向けのカスタマーハラスメント対応方針の草案を作ってください。
【会社の情報】
- 業種:(例:住宅設備の施工・保守)
- 顧客等:一般家庭、工務店、管理組合の担当者
- 署名者:代表取締役社長
【必ず含める要素】
1. カスハラは当社にとって重大な問題である
2. 放置しない
3. 従業員を守る
4. 従業員の人権を尊重する
5. 社会通念上許容される範囲を超えた要求や言動を受けたら、周囲に相談してほしい
6. 組織として毅然とした態度で対応する
7. 本方針は社長のメッセージである
【書き方】
- 400字程度、です・ます調
- 顧客への感謝と、従業員を守る姿勢の両方を入れる
- 「必ず」「絶対に」などの断定的な約束は入れない
- 下線を引くべき箇所や、法務に確認が要る箇所は【要確認】と付ける会社の情報欄を具体的に書くほど、出力が自社の業務に寄ります。逆に空欄のままだと、どの業界にも通じる一般論になります。
マニュアルの方針例は、「お客様に真摯に対応する」姿勢を先に述べ、そのうえで従業員の尊厳を傷つける言動には毅然と対応すると続ける構成です。顧客への敬意と従業員保護を並べる型は、プロンプトの「感謝と保護の両方」という指定で再現できます。
方針文は、自社の顧客層を知っている人が最後に直します。Claudeの草案には、顧客を責めるような語気が混ざることがあるためです。
判断基準を自社の場面に置き換える
②では、カスハラの内容とあらかじめ定めた対処を従業員に周知します。マニュアルは、業種や業態で判断基準が変わりうるため、自社で基準を明確にして現場と共有するよう求めています。
法律上の定義は、次の3つをすべて満たすものです。
- 顧客等の言動であること
- 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されるものであること
2つ目は、さらに「言動の内容」が相当性を欠く場合と、「手段・態様」が相当でない場合に分かれます。前者は、商品やサービスと無関係な要求、契約を著しく超える要求、対応が著しく困難または不可能な要求、不当な損害賠償要求などです。後者は、暴行や傷害、暴言・侮辱、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、長時間の居座りなどが挙げられています。
この定義を、現場が読める「確認の問い」に置き換える作業が、Claudeの出番です。
次のカスタマーハラスメントの定義を、当社の現場担当者向けの確認項目に書き換えてください。
【定義】
顧客等の言動で、(1)内容が社会通念上許容される範囲を超えるか、(2)手段・態様が許容される範囲を超えるかのいずれかに該当し、かつ(3)労働者の就業環境が害されるもの
【当社の業務】
住宅設備の施工・保守。訪問対応と電話受付が中心。
【出力形式】
- (1)(2)それぞれについて、当社で起こりうる具体例を3つずつ(架空の例として明示)
- 「正当なクレームの範囲」に当たる例も2つ添える
- 判断に迷う場合に誰へ相談するかを書く欄は空欄にしておく「正当な申入れ」の例を併記させる点が肝心です。マニュアルは、社会通念上許容される範囲の正当な申入れはカスハラに当たらないと明記しています。基準が厳しくなりすぎて、正当な苦情まで拒む運用になることを防ぎます。
なお、①②のどちらか一方だけが許容範囲を超える場合でもカスハラに該当しうる、とマニュアルは注意しています。Claudeの出力が「どちらも満たさなければ該当しない」という書き方になっていたら、直す箇所です。
相談窓口の周知文と担当者向け手順書を作る
③は相談窓口を定めて周知する義務、④は窓口担当者が適切に対応できるようにする義務です。窓口は、カスハラのために新設する必要はありません。パワーハラスメント等の相談窓口や社内ヘルプライン、苦情対応の体制を使うこともでき、外部機関への委託も認められています。
どの形にしても、人事労務・法務などの関係部署や外部機関と連携が取れる体制にしておく必要があります。
相談の対象範囲も明記が要ります。窓口は、カスハラが実際に起きている場合だけでなく、起きるおそれがある場合や、該当するか判断がつかない場合も受け付ける必要があります。周知文にこの一文が入っているかが、Claudeの出力を確かめる最初の観点です。
当社の従業員向けに、カスタマーハラスメントの相談窓口の周知文を作ってください。
【窓口】人事総務部(既存のハラスメント相談窓口と兼ねる)
【連絡手段】社内メール、内線(番号は【要記入】)
【含める内容】
- 相談できる範囲:実際に起きた場合、起きそうな場合、該当するか分からない場合
- 相談したことを理由に不利益な扱いをしないこと
- 相談者のプライバシーを守ること
- 現場の上司にまず報告してもよいこと
【書き方】A4一枚、社内掲示にも使える平易な文体マニュアルが引く令和5年度の実態調査では、顧客等からの著しい迷惑行為を受けた後に「社内の上司に相談した」と答えた割合が38.2%で最も高い選択肢でした。現場の上司が最初の受け皿になることが多いため、周知文には「上司への報告も相談に含まれる」と書いておく意味があります。
窓口担当者向けには、相談の聞き取り手順書をClaudeに草案させます。マニュアルは、傾聴の姿勢を保ち詰問にならないこと、軽微に見える事案にも丁寧に対応することを留意点に挙げています。相談者に自殺を暗示する言動があった場合は、人事部門と連携して直ちに産業医などの医療専門家につなぐことが求められます。この部分は、Claudeが書き換えず原文どおり残すよう、プロンプトで固定します。
対応記録の様式を作る
様式の設計は、この記事の中心です。マニュアルは「記録」について複数の場面で触れており、そこから必要な項目を拾えます。
- 本社・本部へ引き継ぐときに共有する項目:対応日時と場所、対応した従業員、顧客等の要望の内容、顧客等の情報、現場監督者の指示、対応結果
- 引き継ぎでは、これまでの対応を時系列で整理しておくと、引き継いだ担当者が対応しやすい
- 事実関係の整理は、起きた状況の時系列把握、顧客等の求める内容の把握、言動の内容の検討、手段・態様の検討の順に進める
- 振り返りのために、カスハラに至らなかった申し出も含めて、申し出内容と対応の経緯・結果を記録する
これを様式にすると、たとえば次のようになります。
| 欄 | 記入内容 |
|---|---|
| 対応日時・場所・対応者 | 記入内容引き継ぎで共有する基本情報 |
| 顧客等の情報 | 記入内容名称、連絡先、関係(購入者、取引先担当者など) |
| 時系列の経過 | 記入内容誰が、いつ、何を言い、どう対応したか |
| 顧客等の要求 | 記入内容求められている内容(原文のまま) |
| 内容の検討 | 記入内容要求が契約や商品と関係するか、根拠があるか |
| 手段・態様の検討 | 記入内容暴言、威圧、反復、長時間の拘束などの有無 |
| 現場監督者の指示と対応結果 | 記入内容指示の内容、結果 |
| 録音・録画の有無 | 記入内容取得の有無と保管場所 |
| 本社への報告要否 | 記入内容訴訟、警察や自治体との連携が必要かなど |
様式の項目を決めたら、Claudeには「走り書きを様式に振り分ける」役を任せます。
次は現場担当者が書いた対応メモです。下の様式に振り分けてください。
【様式の欄】対応日時・場所・対応者/顧客等の情報/時系列の経過/顧客等の要求/内容の検討/手段・態様の検討/現場監督者の指示と対応結果/録音・録画の有無/本社への報告要否
【守ること】
- 「内容の検討」「手段・態様の検討」は、メモにある事実だけで埋め、カスタマーハラスメントに該当するかの結論は書かない
- メモにない項目は空欄にして、末尾に「確認が必要な項目」として列挙する
- 顧客の発言は要約せず、メモの表現を残す
- 氏名・電話番号はそのまま転記し、加工しない「結論を書かない」条件が重要です。事実関係を確認したうえで、言動が社会通念上許容される範囲を超えるかを判断するのは、会社の側です。Claudeの役割は、判断材料を漏れなく並べるところまでです。
録音・録画については、マニュアルが注意を添えています。個人情報保護法などを守り、顧客等の個人情報を適切に扱うことが前提です。様式に「取得の有無と保管場所」の欄を置くのは、この点を現場に意識させるためでもあります。
社内の従業員から受けたハラスメント相談を記録する場合は、行為者に指導や懲戒ができるため、流れが違います。そちらの整理はClaudeでハラスメント相談の一次対応記録を整理する手順にまとめています。カスハラは顧客等との間に雇用関係がなく、懲戒のような直接の措置が取れません。そのぶん、記録が警察への通報や弁護士との連携の土台になります。
悪質事案の対処方針を下書きする
⑧は、特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定め、周知し、その対処を行える体制を整える義務です。マニュアルの対応方針の例は次の5つです。
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動は、警察へ通報し、警備員と連携する
- 内容証明郵便などで警告文を出す
- 法令の制限内で、商品の販売やサービスの提供をしない
- 店舗や施設への出入りを禁止する
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる
体制面では、人事部門、カスタマーサービス部門、法務部門などが連携し、取るべき対処を判断する仕組みを定めておく例が示されています。
ここでClaudeに頼めるのは、自社の部署名に合わせた判断フローの草案と、周知用の文面です。ただし、出入り禁止やサービス提供の拒否は、業法によって制限される場合があります。マニュアルも、旅館業法や航空法など、各業法の定めや業種ごとの違いに留意するよう述べています。
そのため、草案を作らせたら、法務部門か弁護士が必ず通します。Claudeの出力に法令の条文や手続きが出てきた場合は、一次の法令で自分で確かめます。プロンプトに「法令名や手続きは書かず、【法務確認】の欄だけ立てる」と指定しておけば、確認の漏れが目に見える形で残ります。
チェックシートで抜けを点検する
マニュアルの付録には、①〜⑤の区分ごとのチェックシートが付いています。たとえば相談体制では、「おそれがある場合や判断が微妙な場合も相談対象としているか」という項目があります。
作成した文書一式を、このチェックシートと突き合わせる点検も、Claudeに向いた作業です。
次の4つの文書(方針文、判断基準、相談窓口の周知文、対応記録の様式)を、下のチェック項目と突き合わせてください。
各項目について「文書内で満たしている箇所」「満たしていない」「判断できない」のどれかを、該当箇所の引用とともに表にしてください。推測で「満たしている」と判断しないでください。
【文書】(ここに貼り付け)
【チェック項目】(マニュアル付録のチェックシートの項目を貼り付け)「引用とともに」と指定すると、Claudeの判定の根拠が確認できます。引用が出せない項目は、満たしていないものとして扱うのが無難です。
顧客や従業員の情報を貼る前に決めておくこと
対応記録には、顧客の氏名、連絡先、相談者の名前、場合によっては心身の状況が入ります。マニュアルは、相談者等の情報はプライバシーに当たり、性的指向やジェンダーアイデンティティのような機微な個人情報も含まれると説明しています。
Claudeに貼る前に、次の3点を社内で決めておきます。
- 実名のまま貼るか、仮名・記号に置き換えてから貼るか
- 利用するプランやアカウントで、入力した内容がどう扱われるか
- 整形後の記録を、どこに、誰の権限で保管するか
入力データの扱いはプランと設定で変わります。Claudeに機密情報を入力しても安全かで、学習利用の既定や入力を避けたい情報を整理しています。法人で保持期間の管理が必要な場合は、Claude Enterpriseのデータ保持期間を管理者がカスタム設定する手順が参考になります。
まずは顧客名と相談者名を仮名にした記録で運用を始め、必要が確認できた項目だけ実名に戻す、という段階の踏み方もあります。
よくあるつまずき
Claudeがカスハラかどうかを断定する。プロンプトに「該当の可否は書かない」と明記します。事実関係の整理と、許容範囲の判断は別の工程です。
様式が項目過多で、現場が書かなくなる。引き継ぎで最低限共有する項目に絞って始めます。残りは本社側が事後に補う欄にします。
方針文だけ作って周知が止まる。義務は「周知・啓発」まで含みます。マニュアルは、研修を全員が受け、定期的に実施することを求めており、中途入社の人やパート・アルバイトにも入社時に説明するよう述べています。研修資料のたたき台もClaudeで作れますが、実際の説明は人が行います。
業種に合わない一般論になる。会社の情報欄に、顧客の種類、典型的な接点、過去に起きたトラブルの型を書き込みます。
まとめ
Claudeに向くのは、方針文・判断基準・周知文・記録様式という、文書の下書きと整形です。会社が決めることは、人が持ち続けます。
- カスハラに該当するかの判断
- 出入り禁止や警察通報などの対処
- 被害を受けた従業員への配慮の内容
プロンプトに「結論を書かない」「空欄は空欄のまま残す」と指定する運用にしておけば、下書きの速さを活かしつつ、判断の責任の所在も保てます。