独占禁止法のカルテル予防研修をClaudeで作る手順 — 接触場面別の可否表
業界団体の会合や展示会で競合と会う場面を、独占禁止法の条文と事業者団体の指針に当てて可否表にし、研修ケースまでClaudeで作る手順です。
カルテル予防の研修で効くのは、条文の暗記より「この場で、この話題は出してよいか」を具体的な場面で判断できることです。業界団体の会合、展示会、懇親会といった競合と顔を合わせる場面ごとに可否を並べた表と、迷ったときの動き方があれば、営業担当者は自分の言葉で判断できます。
この表と研修ケースは、独占禁止法の条文と、公正取引委員会の「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(以下、指針)を材料にすれば、Claudeで下書きまで作れます。ただし指針に載っていない場面は、条文から導く整理にとどまります。表では、指針に根拠がある行と、そうでない行を分けて書かせます。
研修資料に入れる法の線引きは4つ
カルテルの条文を全部読ませる必要はありません。研修の受講者に必ず伝えたいのは次の4点で、どれも独占禁止法の本文に書かれています。
受講者に伝える4つの線
第3条 — 不当な取引制限の禁止
事業者は、私的独占または不当な取引制限をしてはなりません。カルテルは後者に当たります。
第2条第6項 — 合意の形は問わない
「契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず」、他の事業者と共同して対価や数量などを制限することが対象です。書面や正式な会議がなくても成り立つ定義です。
第8条 — 事業者団体の禁止行為
業界団体にも禁止行為があります。競争の実質的な制限のほか、構成事業者の機能や活動の不当な制限などが並びます。
第2条第1項 — 従業員も「事業者」
事業者の利益のために行為する役員・従業員・代理人も、団体に関する規定では事業者とみなされます。個人の雑談も会社の問題になり得ます。
罰則と金銭面の数字も、受講者の緊張感を作る材料として入れます。
違反したときの規定
個人の刑事罰(第89条)
5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金
第3条違反の不当な取引制限
法人の罰金(第95条)
5億円以下
行為者を罰するほか法人にも科される
課徴金(第7条の2)
売上額等の10%
算定額が100万円未満なら納付を命じない
課徴金の売上額は、違反行為の実行期間で数えます。この実行期間は、立入検査などの最初の処分日から最長で10年前まで遡ります(第2条の2)。損害賠償は第25条で、事業者は故意または過失がなかったことを証明しても責任を免れません。
資料には、自主申告の制度(第7条の4)も1行で触れておきます。違反に気づいた会社が最初に報告すると課徴金が免除され、2番目は20%、3番目から5番目は10%、6番目以降は5%の減額です。ただし、いずれも調査開始日より前の申請であることと、調査開始日以後に違反行為をしていないことが要件に入っています。順位が付く制度なので、社内の報告ルートを研修で示す根拠になります。
接触場面別の可否表 — 指針に根拠がある行とない行
可否表の作りで最も大事なのは、「違反」「適法」の二択にしないことです。指針は参考例を3つの区分で示しています。
- 原則として違反する
- 違反となるおそれがある
- 原則として違反とならない
可否表もこの3区分に揃えます。指針に例がない場面は、4つ目の区分として分けます。
| 場面 | 区分 | 根拠 |
|---|---|---|
| 団体が会員から過去の販売数量を任意に集め、統計処理して社名を出さずに公表する | 区分原則として違反とならない | 根拠指針9―4(価格に関するものは除く) |
| 団体が公的機関の技術動向や市場環境の資料を会員に配る | 区分原則として違反とならない | 根拠指針9―3 |
| 業界全体の需要見通しを概括的に作って公表する | 区分原則として違反とならない | 根拠指針9―7(各社の将来の供給数量の目安を与えない場合) |
| 団体の会合で、各社の価格や数量の具体的な計画・見通し、個別の引き合い内容を出し合う | 区分違反となるおそれ | 根拠指針9―1 |
| 理事会で市況を話し、値上げ幅の「たたき台」を意見交換する | 区分違反となるおそれ。合意に至れば第3条違反 | 根拠指針9―1の違反例 |
| 特定の事業者を「不良業者」として載せた一覧を会員に配る | 区分違反となるおそれ | 根拠指針9―8の注 |
| 団体が平均原価や統一のマークアップ基準を示して原価計算を指導する | 区分違反となるおそれ | 根拠指針10―1 |
| 団体が共同販売・共同購買・共同生産を行う | 区分違反となるおそれ(参加事業者のシェア合計などで判断) | 根拠指針11―1、11―4 |
| 団体が広報宣伝や福利厚生など競争に影響の乏しい共同事業を行う | 区分原則として違反とならない | 根拠指針11―6 |
| 展示会の会場や懇親会で、競合の担当者に次回の見積り単価を伝える | 区分指針に例なし。条文で判断 | 根拠第2条第6項、第3条 |
最後の行のように、指針に例がない場面は「条文で判断」と書かせ、断定を避けます。第2条第6項の定義は、合意の形を問わないとしているだけです。口頭の約束が合意に当たるかどうかは、競争の実質的制限の有無を含めて事案ごとの判断になります。
団体の場を使った情報交換は、団体でなく参加企業の問題になる
指針は、事業者団体の場で情報交換を通じて事業者が不当な取引制限をする場合、それら事業者の行為が第3条違反になるとしています。研修では「団体のせいにはできない」という点を、受講者の言葉で言い直させます。
指針は「決定」の捉え方にも注意を促しています。規程上は意思決定機関でない委員会や部会の合意でも、慣行上団体の決定として扱われていれば、団体の決定に当たります。「正式な会議ではないから」は言い訳になりません。
落とし穴
「妥当な価格のため」という理由は通らない
指針は、価格や数量を団体が制限する行為が原則として違反となるのは、行為の理由を問わないからだと述べています。妥当な価格水準にするため、品質を確保するため、受注の均等化を図るためといった理由でも正当化されません。研修ケースに善意の動機を付けるときは、動機で結論が変わらないことを、ケースの解説に必ず入れさせます。
Claudeに渡す材料と、可否表を作らせるプロンプト
Claudeのプロジェクトに、次の2つを資料として登録します。どちらも原文のまま貼り、要約したものは入れません。
- 独占禁止法の条文のうち、第2条、第3条、第7条の2、第7条の4、第8条、第25条、第89条、第95条(e-Govの法令検索から取得)
- 指針の第二の「9情報活動」「10経営指導」「11共同事業」の本文(令和8年1月1日改正版)
プロンプトでは、出典のない行を作らせないことを条件の中心に置きます。
添付の独占禁止法の条文と事業者団体の指針だけを根拠に、
営業担当者向けの「競合との接触場面別 可否表」を作ってください。
条件:
- 列は「場面」「区分」「根拠」の3列
- 区分は、指針の3区分(原則として違反する/違反となるおそれ/
原則として違反とならない)のいずれか。指針に例がない場面は
「指針に例なし(条文で判断)」と書く
- 根拠は条番号または指針の番号(例: 9―1)を必ず付ける。
添付資料から根拠を引用できない行は作らない
- 私見や一般論で区分を補わない
- 場面は次の6つ: 団体の総会、理事会、委員会、展示会の会場、
懇親会、合同の共同事業の打ち合わせ出力されたら、まず根拠の列を見ます。条番号や指針の番号が付いていない行、または添付資料にない番号の行は、その場で削らせます。
迷ったときの動き方を、社内ルール案として添える
可否表だけでは、会合の最中に話題が変わった場面に対応できません。受講者が現場で使える3つの確認を、社内ルール案としてまとめます。以下は法令の要件ではなく、会社が決める運用の例です。
競合のいる場で話題が変わったとき
- Q話題は価格・数量・顧客との取引内容・設備投資の具体的な内容ですか?答えが次の確認へ答えがはい
指針9―1が「違反となるおそれ」とする内容に近づいています。発言を控えます。
- Q自社の将来の予定(値上げの時期や幅、受注の意向)を伝える流れですか?答えが次の確認へ答えがはい
話さず、同意や相づちも返しません。指針は、情報活動を通じて暗黙の了解や共通の意思が形成されれば原則として違反になるとしています。
- Q団体の会議で、議題にない価格の話が出ましたか?答えが通常どおり参加を続けます答えがはい
その場で異議を述べ、可能なら退席します。後で議事録に残すよう求め、法務に報告します。
接触の記録が残り、法務に届いた
自社の発言と退席が記録に残れば、後から事実を説明する材料になります。
この3問はClaudeに作らせるのでなく、自社の法務が決めた運用に合わせて書き換えます。プロンプトには「この流れを条文・指針と矛盾しない表現に直して」と頼み、矛盾の指摘だけを受け取る使い方が安全です。
研修用ケースは「正解が割れる」3本にする
ケース集は、受講者の意見が割れるものを選ぶと議論が進みます。可否表の行から次の3本を作らせるのが手堅い構成です。
- 統計の提供: 団体が会員の販売数量を集計して公表する。個社名を出さない場合と、出す場合で、結論が変わるかを考えさせる(指針9―4)
- 理事会の雑談: 市況の話から値上げの「たたき台」へ流れる。どの時点で止めるべきだったかを議論する(指針9―1)
- 展示会の立ち話: 競合の担当者から見積り単価を聞かれる。可否表に例がない場面で、条文から何が言えるかを整理する
ケースの形式や、ロールプレイの台本の作り方は研修用ケーススタディとロールプレイの作り方に手順があります。
ケースの解説には、プロンプトで根拠の番号を付けさせます。
上の3つのケースそれぞれについて、解説を書いてください。
- 何が問題になるかを、根拠の条番号・指針の番号つきで1〜2文
- 受講者が取るべき行動を、社内ルール案(Flow)の確認項目に紐づけて1文
- 添付資料に根拠がない主張は「根拠なし」と明記Claudeの出力を資料にする前の確認
作らせた表を研修に出す前に、人が次の3点を条文と突き合わせます。Claudeに自己点検を頼むだけでは、誤った番号がそのまま残ることがあります。
- 条番号の実在: 引用された条・項が、貼った条文にあるか。罰則の数字(500万円、5億円、10%)も本文で確かめる
- 区分の取り違え: 「違反となるおそれ」を「違反」と書いていないか。指針自体が、おそれの区分は直ちに違反とまでは評価されないが問題となり得るものと定義している
- 指針の改正日: 引用した指針が改正後の版か。指針の改正履歴には平成18年から令和8年まで複数回の改正が載っている
出典ページを残して資料にする流れは、校内研修のスライドを作る手順と同じ考え方です。スライドに落とすときは、各行の根拠を脚注にして残します。
弁護士に回す線引き
この資料は、一般的な場面の整理です。次のものは研修の範囲を超えるので、個別に弁護士へ相談します。
- すでに競合と価格や数量の話をしてしまった可能性がある(自主申告の判断が絡む)
- 特定の共同事業や団体活動の適法性を判断したい
- 取引先との契約条項の点検(代理店・販売店契約については独占禁止法の指針でClaudeに点検させる手順にまとめています)
研修の最後には、Claudeが作った資料は一般論の下書きで、個別の事案の適法性を判断するものではないことを、受講者に明示します。