士業事務所の工数集計 — Claude for Excelで顧問報酬の見直し資料を作る
タイムシートを顧問先別に集計し、実質時間単価と必要月額を出して報酬見直しの根拠表にする手順を、列の設計・依頼文・検算の順で説明します。
顧問報酬は月額固定のまま、問い合わせと打ち合わせだけが増えていく。どの顧問先が採算に合っていないかは、タイムシートを顧問先別に足してみないと分かりません。
事務所の作業時間をExcelで記録しているなら、集計はClaude for Excelに任せられます。顧問先別の稼働時間、実質時間単価、目標単価に届くための月額までを1枚の根拠表にまとめれば、報酬見直しの相談を数字から始められます。この記事は、そのための列の設計、依頼文、検算の手順です。
タイムシートから根拠表までの流れ
最終的に作るのは、顧問先ごとに「月額報酬・稼働時間・実質時間単価・目標との差・必要月額」が並ぶ表です。
根拠表ができるまでの4段
- 1
タイムシートの列を揃える
日付・顧問先・業務種別・時間・担当者の5列に固定します。
- 2
顧問先名のゆれを寄せる
略称と正式名称の対応表を渡し、同じ顧問先を1行にします。
- 3
顧問先別に集計する
SUMIFSの式で稼働時間を出し、月額報酬を並べます。
- 4
実質時間単価と必要月額を出す
報酬を稼働時間で割り、目標単価との差を表にします。
集計の前に整えるタイムシートの列
Claude for Excelは、開いているブックの質問や、数式の関係を保ったままの値の変更、新しい表の作成ができるExcelアドインです。Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで使えます。ただ、元データの列がばらばらだと、どんな依頼文でも結果は安定しません。
最低限、次の5列を1シートに揃えます。
| 列 | 内容 | 揃え方の例 |
|---|---|---|
| 日付 | 内容作業した日 | 揃え方の例日付型で入力する |
| 顧問先 | 内容顧問先名 | 揃え方の例正式名称に統一する |
| 業務種別 | 内容作業の種類 | 揃え方の例3〜5種類に絞る |
| 時間 | 内容作業時間 | 揃え方の例時間(h)の数値で統一する |
| 担当者 | 内容作業した人 | 揃え方の例氏名または略号 |
業務種別は「定例相談」「個別相談」「書類作成」「手続代行」「移動」くらいに収めます。細かくしすぎると記入が続かず、ゆれが増えるだけです。
時間の単位は、分と時間を混在させないことが最優先です。「0.5」が30分なのか0.5分なのかは、Claudeにも読み取れません。
顧問先名は、タイムシートの側で直すより、対応表を別シートに置くほうが速く済みます。たとえば次のような2列です。
略称 正式名称
A商事 株式会社A商事
A商事 株式会社A商事
B工務店 有限会社B工務店Claude for Excelに集計を頼む
アドインはMicrosoft AppSourceの「Claude for Microsoft 365」から入れ、Excelで有効にしてClaudeアカウントでサインインします。組織で使う場合は、管理者がMicrosoft 365管理センターから配布できます。
対応するExcelは、Excel on the web、Microsoft 365のWindows版(ビルド16.0.13127.20296以降)、Mac版(バージョン16.46以降、ビルド21011600以降)です。Excel 2016・2019の永続ライセンス版やボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動きません。
事務所のPCが古い永続版のExcelだと、そもそも導入できません。最初に確認する点です。
常設の指示を先に置く
サイドバーの設定にあるInstructionsに書いた内容は、Excelでの全会話に適用されます。毎回書く前提条件はここに置くと、依頼文が短くなります。
・時間は「時間(h)」の数値で扱い、分には換算しない
・金額は円、桁区切りあり、小数点以下は切り捨てずに表示する
・元のシートは書き換えず、集計は新しいシートに作る
・数式は値の貼り付けにせず、セル参照で残すExcelで設定した指示は、PowerPointやWordの指示とは別に保たれます。
依頼文の例
集計の依頼は、範囲・除外・出力の3点を一度に渡します。例えば次のような形です。
「タイムシート」シートの2026年4月〜9月の行を、顧問先別に集計してください。
ルール:
- 「対応表」シートで略称を正式名称に寄せてから集計する
- 業務種別が「社内」の行は除く
- 顧問先が空欄の行は集計に混ぜず、別シートに行番号つきで一覧にする
出力は新しいシート「顧問先別」に作ってください。
列は 顧問先 / 稼働時間(h) / 月平均稼働時間(h)。
稼働時間はタイムシートを参照するSUMIFSの数式にしてください。最後の一文で、値ではなく数式にさせている点が要です。数式なら、あとでタイムシートに行を足したときも集計が追随し、元の行をたどって検算もできます。
顧問先が空欄の行を「混ぜずに別に出す」指定も効きます。判定できない行を黙ってどこかに寄せられるより、人が見る一覧に出すほうが安全です。
実質時間単価と必要月額の式
稼働時間が出たら、報酬の列を足して単価を計算します。Claudeに頼んでもよいのですが、式が単純なので、自分で読んで確かめられる形にしておくと検算が楽になります。
「顧問先別」シートが次の列だとします。
| 列 | 項目 |
|---|---|
| A | 項目顧問先 |
| B | 項目月額報酬(円) |
| C | 項目月平均稼働時間(h) |
| D | 項目実質時間単価(円/h) |
| E | 項目目標単価との差(円/h) |
| F | 項目目標単価に届く月額(円) |
目標単価をH1セルに置くと、2行目の式は次のようになります。
D2: =IFERROR(B2/C2,"")
E2: =IFERROR(D2-$H$1,"")
F2: =C2*$H$1数字の見え方を、架空の3件で示します。目標単価を5,000円/hとします。
| 顧問先 | 月額報酬 | 月平均稼働 | 実質時間単価 | 目標との差 | 目標に届く月額 |
|---|---|---|---|---|---|
| A社 | 月額報酬50,000円 | 月平均稼働12.5h | 実質時間単価4,000円/h | 目標との差-1,000円/h | 目標に届く月額62,500円 |
| B社 | 月額報酬80,000円 | 月平均稼働30.0h | 実質時間単価約2,667円/h | 目標との差約-2,333円/h | 目標に届く月額150,000円 |
| C社 | 月額報酬30,000円 | 月平均稼働6.0h | 実質時間単価5,000円/h | 目標との差0円/h | 目標に届く月額30,000円 |
B社は報酬の額面がA社より大きいのに、時間単価は最も低い。月額だけを並べた表では見えない差が、時間で割ると出ます。
担当者の単価が違うとき
所長と補助者で時間の価値が違う事務所では、全員を同じ時間として足すと実質単価がぶれます。その場合は担当者別の原価単価の列を別に持ち、時間に掛けた「人件費ベースの原価」と報酬を比べる形にできます。
この計算は事務所ごとに前提が違うため、原価単価の根拠は自分で決めて渡します。Claudeに「適正な原価」を推定させない運用が安全です。
検算:Claudeの数字をそのまま資料にしない
Claude for Excelは、答えにセル単位の引用を付けます。引用をクリックすると参照元のセルへ移動できるので、集計の根拠をたどれます。
それでも、報酬の見直しという金額に直結する資料なので、次の3点は手元で確かめます。
- 件数を合わせる。タイムシートの行数と、集計に含めた行数に、除外した行と空欄の行を足した数が一致するか。
- 合計を合わせる。顧問先別の稼働時間の合計が、タイムシート全体の「社内」を除いた合計と一致するか。
- 1件を手で追う。最も単価が低い顧問先のSUMIFSを、タイムシートでフィルターして足し直す。
合計が合わないときの原因は、ほとんどが顧問先名のゆれか、時間の単位の混在です。対応表に漏れた略称がないかを先に見ます。
ブックの利用上の制限として、Claude for Excelは最終的な顧客向け成果物を人の確認なしに出すこと、監査に関わる計算を検証なしで使うことを勧めていません。報酬の根拠表は内部資料の段階であっても、顧問先に見せる前に必ず人が通します。
また、Claude for Excelはデータテーブル、マクロ、VBAの操作に対応していません。タイムシートをVBAで入力補助している事務所では、集計シートだけをClaudeに触らせ、入力側には手を入れない切り分けになります。
顧問先のデータを扱うときの注意
士業の事務所では、タイムシートに顧問先名と業務内容が載ります。Claude for Excelの取り扱いで押さえておく点は3つあります。
- 入力と出力は、受け取りまたは生成から30日以内にバックエンドから削除されます。ただし、削除の例外に当たる場合があります。
- チャット履歴はブラウザのIndexedDBにローカル保存され、Anthropicのサーバーには保存されず、端末間でも同期されません。設定からいつでも消せます。
- 組織が独自に設定したデータ保持の設定は引き継がれず、Enterpriseの監査ログにも記録されません。Compliance APIを有効にしたEnterprise組織では、セッションがその対象になります。
Excelに載せる内容は、業務種別と顧問先コードに留めるのが無難です。作業内容の詳細(相談の中身、相手方の名前など)は列に入れません。守秘義務との関係は、税理士のClaude利用と守秘義務で、渡す前の確認点を整理しています。
もう一点、外部から届いたファイルには注意が要ります。Claude for Excelには、外部ファイルに仕込まれた隠れた指示で、データの持ち出しやレコードの変更に誘導されるおそれがあります。顧問先から受け取ったExcelをそのまま開いて集計させず、自事務所で作ったタイムシートを元に使います。
リスクのある操作を提案するときは確認が求められます。確認の内容は読んでから進めます。上書き前の警告も出ますが、広い範囲を編集させる前には、信頼できるコピーを取ってから始めます。
根拠表を報酬の見直しにつなげる
根拠表ができても、そのまま値上げの通知にはなりません。数字の使い道は、事務所の判断に委ねられます。
使い方の例としては、次の3つがあります。
- 単価が目標を下回る顧問先の上位から、業務範囲(月の相談回数、書類作成の範囲)を契約書で明確にし直す。
- 目標に届く月額と現状の差を、改定の幅の目安として社内で議論する。
- 稼働時間の多い業務種別を見て、定型化できる作業から手順書化する。
どれも、単価が低い=その顧問先を切る、という話ではありません。時間を使っているのが相談なのか書類作成なのかで、打ち手が分かれます。種別別の内訳を表に足しておくと、その切り分けができます。
なお、事務所の稼働時間を「カレンダーの予定」から拾う場合は、Claudeでカレンダーの稼働集計が手順を説明しています。タイムシートをつけている事務所はこの記事、予定が記録の中心の事務所はそちらが向きます。
試算表から顧問先向けの月次報告を作る場合は、月次報告を試算表ExcelからClaudeで作る手順に続きます。
まとめ
工数の集計は、Claudeの計算力より、元データの列設計に左右されます。日付・顧問先・種別・時間・担当者の5列と、顧問先名の対応表があれば、依頼文は短くなります。
実質時間単価は報酬を稼働時間で割るだけの式です。計算は単純でも、報酬の見直しは金額に直結するので、件数と合計の検算を人が行い、顧問先のデータは種別とコードに絞って載せてください。