Claudeで避難確保計画を作る — 介護施設の水害対策と訓練記録の下書き
国交省の手引と様式、施設の立地・利用者の事実をClaudeのProjectに置き、浸水深や浸水継続時間から避難開始基準を整理して、避難確保計画と訓練結果の報告書を下書きする手順です。
介護施設の水害対策としての避難確保計画は、国土交通省の手引と様式、施設の立地と利用者の事実をClaudeのProjectに置いておくと、手引の項目順に原案を作れます。浸水深や浸水継続時間の数字はハザードマップから人が読み取って渡し、Claudeには「その数字から立退き避難か屋内安全確保か」の整理と、文章化、抜けの点検を任せます。
この記事では、Projectに何を置くか、浸水想定をどう渡すか、避難開始基準と訓練結果の報告書をどう下書きするかを順に示します。BCP全般の様式は別の書類なので、水害に絞ります。
避難確保計画とは何か、Claudeに任せられる範囲
避難確保計画は、大雨による浸水や土砂災害が発生するおそれがあるとき、施設利用者を円滑かつ迅速に避難させるために必要な事項を定める計画です。市町村の地域防災計画に定められた要配慮者の利用施設の管理者は、水防法・土砂災害防止法・津波法に基づいて作成し、避難訓練を実施することが義務づけられています。
作った後にも仕事があります。計画を作成または変更したら市町村長に報告し、訓練を実施したら結果も報告します。
計画の項目と、Claudeに頼める作業
基本的な事項
計画の目的、施設の概要、施設が有する災害リスクです。リスクの数字は人が地図から読み取り、Claudeは表の形に整えます。
防災体制・避難の誘導
防災体制の確立基準、役割分担、避難先、経路、避難に要する時間と開始基準です。事実を埋めた上で、論理の抜けをClaudeに指摘させます。
施設の整備・防災教育と訓練
設備と備蓄品、計画の周知、訓練の実施計画、振り返り、市町村への報告です。訓練の計画案と記録様式は下書きが速い部分です。
自衛水防組織の業務に関する事項は、組織を設置した場合だけの項目です。手引では、水防法で努力義務とされている組織を設置した場合にのみ該当するとされています。
非常災害の対策計画や消防計画がすでにある施設は、既存の計画に避難確保計画の項目を加えれば対応できます。ゼロから別冊を作る前に、手持ちの計画を資料に加えてください。
Projectに置く資料と、置かない情報
国土交通省の「要配慮者の利用施設の浸水対策」のページに、手引・様式・記載例・チェックリスト・訓練の報告様式がそろっています。Projectの知識ベースには次の4種を置きます。
- 要配慮者の利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き(令和8年5月版、PDF)
- 社会福祉施設の様式(Excel)と記載例(PDF)
- 社会福祉施設の避難確保計画チェックリスト(Word)と、訓練結果の報告様式
- 施設の事実シート(次節)と、すでにある非常災害の対策計画
手引のPDFは96ページ、16.7MBです。Claudeのアップロードは1ファイル30MB、1回のチャットで20ファイルまでなので、手引1冊を丸ごと置けます。100ページ以下のPDFは図表も読まれる仕様です。ハザードマップの凡例を示す図のページも、手引からそのまま参照させられます。
Projectは無料プランでも使えますが、作れるのは5つまでです。知識が増えたときに検索で補うRAGは有料プランの機能で、共有はTeamとEnterpriseだけです。法人で複数の職員が同じProjectを見る運用なら、共有できるプランが前提になります。
置かないものもあります。利用者の氏名や病名は計画に要りません。必要なのは昼間・夜間、平日・休日ごとの人数、車いすやストレッチャーが必要な人数といった区分です。個人が特定できる情報は、事実シートの段階で落としておきます。
落とし穴
手引は「いつの版か」を指示文に書く
手引は令和4年3月の全面改定のあと、令和8年5月に改定されています。令和8年5月29日から運用が始まる新しい防災気象情報の名称と体系に対応した版です。令和4年版を置いたままだと、情報の名称が古い計画になります。Projectにはファイル名に版を含めておき、指示文で「令和8年5月版を優先」と書きます。
浸水想定は人が地図から読み取って「事実シート」に書く
避難確保計画で最も重要なのは、施設が有する災害リスクを適切に把握することだとされています。Claudeは住所からハザードマップを引けません。数字を推測させると、もっともらしい浸水深が計画に入ります。
市町村のハザードマップや、国土交通省・都道府県の浸水想定区域図を開き、施設の位置の値を次のシートに書き写します。手引が記載を求めている項目に合わせた形です。
# 事実シート(施設)
施設種別: 特別養護老人ホーム(例)
建物: 鉄筋コンクリート造 3階建て
利用形態と人数:
入所 平日昼間 ○人 / 夜間 ○人 / 休日昼間 ○人 / 休日夜間 ○人
通所 平日昼間 ○人(車いす ○人、歩行介助 ○人)
洪水浸水想定区域: 内 / 外 想定最大浸水深: ○m
浸水継続時間: ○時間(0.5mに達してから下回るまで)
家屋倒壊等氾濫想定区域: 該当 / 非該当
雨水出水・高潮・津波: 区域内 / 外(区域内なら深さ)
土砂災害警戒区域・特別警戒区域: 該当 / 非該当
地図の出典と確認日: ○○市ハザードマップ ○年版 / ○月○日最後の1行が地味に効きます。ハザードマップは更新されるので、どの版を見て書いたかを残しておくと、改定のたびの見直しで差分が追えます。
数字から基本の避難行動を整理させる
手引には、数字の読み方が書かれています。浸水深が0.5mを上回ると床上浸水相当、3mを上回ると二階の床上浸水相当です。家屋倒壊等氾濫の想定区域に該当する場合と津波の場合は、建物が倒壊するおそれがあるため、原則として立退き避難を選ぶ必要があります。浸水継続時間が長いと、水・食糧・薬の確保や電気・ガス・水道・トイレの使用に支障が出るおそれがあります。
この整理は、Claudeに表で出させると点検しやすくなります。
添付の事実シートと手引(第2章)を読み、次を表にしてください。
- 想定最大浸水深が床上浸水相当(0.5m超)か、二階床上相当(3m超)か
- 家屋倒壊等氾濫の想定区域に該当するか。該当なら基本行動は立退き避難
- 浸水継続時間から、孤立した場合に不足し得るもの(水・食糧・薬・電気・トイレ)
- 屋内安全確保で足りるかの判断材料。結論は出さず、不足している事実を列挙する
地図に載っていない数値は推測せず「事実シートに記載なし」と書くこと。判断材料を列挙させて結論は出させない、という頼み方がポイントです。立退き避難にするか屋内安全確保にするかは、建物の階数、利用者の状態、避難先の受け入れ、職員数まで含めた施設の決定だからです。
手順: 手引の項目順に原案を作る
原案を作る流れ
- 1
Projectの指示文を書く
役割、参照する版、書いてはいけないことを先に固定します。次の「指示文のひな形」を使います。
- 2
基本的な事項を埋める
計画の目的、施設の概要、災害リスクを事実シートから起こします。どの法令に基づく計画かも明記させます。
- 3
防災体制と避難開始基準を作る
警戒レベルごとの体制、組織の役割分担、情報収集と伝達、避難開始のタイミングです。
- 4
避難先・経路・時間を詰める
避難先、経路、方法、避難に要する時間を、施設で実測した値で埋めます。
- 5
チェックリストで自己点検する
市町村に報告するときに添えるチェックリストを、原案に対してClaudeに先に当てます。
Projectの指示文のひな形
あなたは介護施設の防災担当者の下書き補助です。
- 参照順: 手引(令和8年5月版)、様式と記載例、事実シート。
- 計画の文面は手引の第2章から第7章の項目順に書く。
- 浸水深・浸水継続時間・区域の該当は事実シートの値だけを使う。
記載のない値は「要確認」とし、推測で埋めない。
- 避難に要した時間や人数は、施設の実測値だけを使う。
- 警戒レベルの名称は手引の表記に合わせる。
- 利用者の氏名や病名は書かない。人数と区分で書く。
- 末尾に「要確認」の一覧を付ける。避難開始基準は「実測の時間」と並べて作る
手引は、避難開始のタイミングを原則として市町村が警戒レベル3の高齢者等避難を発令したときとしています。ただし、全員の避難完了に多くの時間を要する施設は、発令を待たず早めに開始する必要があります。夜間の立退き避難は危険を伴うため、夜間に状況が悪化する見込みなら日没までに完了させます。
ここで効くのが、施設ごとの実測です。夜間の職員数で利用者全員を避難先へ動かすのに何分かかるか、という数字がなければ、開始基準は書けません。
事実シートの「夜間の入所人数」「夜間の職員数」と、
下記の訓練実測(避難先まで ○分、全員完了まで ○分)から、
避難開始の基準案を3パターンで出してください。
- 日没前に完了させる前提のとき
- 市町村の高齢者等避難の発令を待たず、早めに動くとき
- 屋内安全確保で足りると判断した場合の上階移動の開始時刻
各案に、根拠となる事実シートの行を付けること。避難に使うエレベーター、階段、スロープ、階段昇降機、ストレッチャーや担架は、計画で点検の対象として挙げられています。実測値が出ない項目は、無理に推定させず、訓練で測る項目として計画に残します。
訓練計画と結果の報告書を下書きする
訓練は年1回以上が原則です。実施の時期は、梅雨期・台風期の前にあたる11月頃から5月頃が目安とされています。想定する災害は最悪の事態にします。公共交通の停止、道路の通行止め、停電、夜間の発生を織り込みます。
Claudeには、1回に全部をやらず、種類をローテーションで回す年間案を作らせると使いやすくなります。手引が挙げる訓練の種類は、立退き避難、屋内安全確保、図上、情報収集・情報伝達、避難経路等の確認、設備・装備品・持ち出し品の確認です。利用者の身体的負担を考え、利用者が参加する訓練は短時間に絞り、職員だけで足りる訓練は職員に限ります。
利用者を動かす訓練と、動かさない訓練
利用者が参加する
避難にかかる時間を直接測れます。参加する利用者を限定する場合は、特性ごとに1人あたりの時間を測り、全員分を推定する方法が挙げられています。
職員中心
利用者の負担がありません。情報収集の機器操作や、避難経路が通れなくなった場合の複数経路の検討を、日を分けて繰り返せます。
報告書は項目から先に作る
訓練後は、おおむね1か月以内を目安に結果を市町村へ報告します。複数回に分けて訓練するときは、最終回にまとめて報告できます。報告する内容は、実施日時、実施場所、想定した災害の種別、訓練の種類と内容、参加者と人数、実施責任者、確認した事項、確認された課題と改善方法などです。
訓練中のメモを渡して、この項目順に整理させます。
添付の訓練メモを、訓練結果の報告様式の項目に当てはめてください。
- 書かれていない項目は「記載なし」と書き、推測で埋めない
- 「全員の避難に要した時間」と「避難支援に要した人数」はメモの数値のみ
- 課題は「事実」と「改善案」を分けて書く
- 計画に定めた避難時間との差があれば、差を明示する振り返りは4つの質問で
手引は、訓練後の振り返りに米国陸軍のAAR(After Action Review)の考え方を勧めています。軸は「何をしようとしたのか」「実際には何が起きたのか」「なぜそうなったのか」「次回すべきことは何か」の4つです。Claudeには、職員の発言メモをこの4つに仕分けさせ、仕分けた結果を計画の見直し案に変換させます。ただし、見直した計画も市町村への報告対象です。
チェックリストで報告前に自己点検する
市町村に計画を報告するとき、手引は社会福祉施設のチェックリストを添付するよう求めています。報告済みの場合は、訓練結果を報告する際にこのチェックリストを提出します。添付すると、市町村から助言や勧告を受けやすくなるとされています。
チェックリストの各項目は、施設チェック欄と市町村チェック欄の2列です。施設側が先に「対応済み」「要改善」を付ける形なので、Claudeに先に当てて、要改善の候補を挙げさせます。
添付の計画案を、社会福祉施設の避難確保計画チェックリストの各項目に照らし、
各項目を「対応済み」「要改善」「判断不能」に分けてください。
- 根拠にした計画案の該当箇所を引用する
- 「着眼点」の各項目が満たされているかを個別に書く
- 判断不能は、施設側で確認すべき事実を書く
最終判断は担当者が行うため、チェック欄は埋めない。チェック欄を埋めるのは担当者です。Claudeの点検は「見落としの候補」を出す役割に限ります。
つまずきやすい点
落とし穴
Claudeが浸水深や発令基準を補ってしまう
事実シートに値がない欄があると、一般的な値で補った文面が出ることがあります。指示文に「記載のない値は要確認」と書き、出力末尾の「要確認」一覧を必ず開きます。市町村のハザードマップの値と一語ずつ照らしてから、計画に反映します。
落とし穴
作成して終わりにする
手引は、避難確保計画は作成した時が最善ではなく、訓練と防災教育を繰り返しながら改良するものだとしています。計画を変更したら市町村への報告も必要です。訓練の報告と同じ枠で、変更の報告日をProjectに残しておきます。
自分の施設が対象かどうかは、市町村の地域防災計画で決まります。対象かどうか、報告先の窓口、提出の様式は、市町村の担当部局に確かめてください。避難先や避難経路についても、手引は、不明な点を市町村に確認するよう求めています。
隣接する書類との切り分け
介護事業所のBCP(事業継続計画)は、様式も目的も別の書類です。Claudeで介護事業所のBCPを作るは、ひな形の埋め方と研修・訓練の記録を扱っています。避難確保計画の「避難して命を守る」部分と、BCPの「業務を続ける」部分は、事実シートを共通にしておくと矛盾が出にくくなります。
自治体側の計画が改正されたときに、どこを直すかを洗い出す方法は、地域防災計画の修正箇所を洗うで扱っています。訓練のシナリオを複数の種類で作る考え方は、学校安全計画と避難訓練のシナリオにも通じます。
まとめ
避難確保計画の下書きでClaudeが効くのは、手引の項目順に事実を並べる作業と、チェックリストに照らした抜けの洗い出しです。浸水深・浸水継続時間・避難に要した時間は、地図と訓練の実測から人が書き、Claudeにはその数字を動かさせないでください。手引は令和8年5月版を使い、作った計画と訓練結果は市町村への報告まで終えて初めて一巡です。