Claudeで添付文書の改訂を新旧対照にしてMR向け周知文にする
改訂前後の添付文書PDFをClaudeで新旧対照表にし、改訂指示の文言と突き合わせてMR向けの周知文の下書きにする手順です。
医療用医薬品の添付文書が改訂されると、製造販売業者の学術部門や安全管理部門は、MR(医薬情報担当者)に「何が変わったのか、医療機関にどう伝えるか」を急いで周知する必要があります。改訂箇所を拾い、新旧を並べ、MRが読める文章に直す作業です。
この前半、つまり改訂前後のPDFを突き合わせて新旧対照表を作る部分は、Claudeに任せられます。ただし表の中身は、改訂指示の文言と照らして人が確かめる前提で組みます。この記事では、入力に使う資料の見分け方、対照表の指示文、周知文の下書きの作り方を順に説明します。
入力にする資料は3種類ある
改訂の入り口は、実は1つではありません。PMDAのサイトには、添付文書の改訂に関わる資料が別々の場所に載っています。何を新旧の「新」と「旧」に置くかを決める前に、手元の資料がどれに当たるかを確認します。
改訂に関わる資料の置き場
使用上の注意の改訂指示通知
厚生労働省が発出した、添付文書の「使用上の注意の改訂指示」に関する通知等です。年度別のページに、発出年月日・一般的名称・改訂内容・調査結果の列で並びます。関係する製造販売業者は、この通知に基づいて添付文書等を改訂します。
電子化された添付文書(電子添文)
医療用医薬品の関連文書として、電子添文のほか、改訂指示の反映履歴および根拠症例、インタビューフォーム、RMP資材などが閲覧できます。
添付文書の改訂相談に基づく改訂
PMDAの医薬品添付文書の改訂相談を使い、改訂が可能と判断されたものについて、改訂概要と新旧対照表が掲載されます。
使い分けは単純です。改訂指示が出た直後で、自社の電子添文がまだ更新されていないなら、「通知に付く改訂内容」と「現行の電子添文」を突き合わせる場面になります。通知が出てからPMDAサイトの添付文書情報が改訂されるまでには、ある程度の時間がかかると書かれています。更新済みの電子添文を待たず、通知側の文言を起点に作業を始められるということです。
改訂相談に基づく改訂は事情が違います。改訂概要と新旧対照表がPMDAから公開されるので、対象の品目ならそれを入力にでき、一から対照表を起こす必要がありません。Claudeに作らせるのは、公開資料がない改訂や、自社の電子添文の全文を見直したいときです。
旧版のPDFをどこから得るかは、PMDAのページには書かれていません。改訂前の版は自社で保管しているものを使う前提にして、改訂のたびに旧版を残す運用にしておくと、後の作業が楽になります。
新旧PDFを渡して、対照表にさせる
資料が揃ったら、旧版と新版の電子添文PDFを同じ会話に添付します。指示は「差分を出して」だけにせず、出力の列と書き方のルールを先に決めます。
添付は医療用医薬品X(仮名)の電子添文の旧版と新版です。
新旧対照表を次の列で作ってください。
- 項目(「用法及び用量」「禁忌」「重要な基本的注意」などの見出し)
- 旧の記載 / 新の記載(原文のまま。言い換えない)
- 変更の種類(追加 / 削除 / 数値変更 / 対象変更 / 表現のみ)
- 該当ページ(PDFビューアのページ番号)
守ること:
- 原文にない語を足さない
- 表現の整理だけで意味が変わらない箇所は、表の末尾に分ける
- 読み取れない箇所や表の崩れは推測せず「要確認」と書くここでの工夫は3つあります。
- 「原文のまま」と指定して、Claudeの言い換えがMRに届くのを防ぐ
- 変更の種類を選択式にして、用量や対象患者の変更と、表現の整え直しを区別させる
- ページ番号を求めて、人が原文に戻れるようにする
出力は次のような形になります。以下は書式の例示で、実在する医薬品の改訂ではありません。
| 項目 | 旧 → 新 | 種類 | ページ |
|---|---|---|---|
| 禁忌 | 旧 → 新(旧記載なし) → 「◯◯の既往歴のある患者」を追加 | 種類追加 | ページ2 |
| 用法及び用量 | 旧 → 新1日1回 → 1日2回 | 種類数値変更 | ページ1 |
| 重要な基本的注意 | 旧 → 新「定期的に検査」→「投与開始前および投与中は定期的に検査」 | 種類追加 | ページ3 |
添付できるPDFの上限
電子添文は長い品目が珍しくありません。Claudeに渡す前に、上限を確かめます。
Claude.aiでは、PDFは100ページ以下なら本文のテキストに加えて画像・グラフ・図も読み取り、101〜1000ページはテキストのみの処理になります。1000ページを超えるPDFは受け付けられません。APIでは、リクエスト全体で32MB・600ページが上限で、コンテキストウィンドウが1Mトークン未満のリクエストでは100ページになります。APIの上限はリクエスト単位なので、新旧の2ファイルを同じリクエストに入れるなら足した量で見積もります。
表や小さな文字が多いページは、ページ数の上限より先にコンテキストウィンドウを使い切ることがあります。通常は新旧それぞれで問題になりませんが、長い品目では項目ごとに区切って渡す方法に切り替えます。
改訂指示の文言と照合する
対照表ができたら、それが「改訂指示の内容どおりに反映された結果」になっているかを確かめます。ここが、単なるPDFの比較と違う点です。MR向けの周知文は、指示に書かれた事項が正しく伝わっていることが核になります。
改訂指示の通知本体と、そこに付く改訂内容のPDFを、続けて同じ会話に添付します。
先ほどの対照表に、通知側の改訂内容を照らしてください。
列を2つ足してください。
- 通知の該当記載(原文のまま、通知のどの項目か)
- 照合結果(一致 / 通知にあって対照表にない / 対照表にあって通知にない)
「通知にあって対照表にない」は先頭に出し、理由を1行で書いてください。照合の結果で見るべきなのは、2種類の食い違いです。「通知にあって対照表にない」は、新版の反映漏れか、Claudeの拾い落としです。「対照表にあって通知にない」は、通知に含まれない変更で、他の改訂と同時に入った箇所や、誤って拾った箇所のどちらかです。どちらも人が原文の該当ページを開いて決めます。
MR向けの周知文を書かせる
対照表と照合が済んだら、周知文の下書きに進みます。周知文の読み手は、医療機関の医師や薬剤師に説明する立場のMRです。添付文書をそのまま写した文章ではなく、「何が変わったか」「誰に関係するか」「訪問先でどう伝えるか」の順に並べます。
確定した対照表(照合済み)をもとに、MR向けの周知文の下書きを作ってください。
構成:
1. 要点(3行以内。何がどう変わったか)
2. 変更点の表(項目 / 旧 / 新)。対照表の原文をそのまま使う
3. 影響する患者・処方の場面(対照表の記載から読み取れる範囲に限る)
4. 医療機関から想定される質問の候補(5つまで)
対照表にない内容は書かず、書けない箇所は「社内で確認」と示してください。出力をそのまま配布しないための歯止めが、この指示の最後の一文です。3と4はClaudeが文脈から補う欄で、文書に書かれていることの抜き出しとは性格が違います。想定質問は「候補」であり、回答はMR向けの正式な説明資料として、社内の審査を経て確定させます。
未公開の資料を会話に入れるときの注意
改訂指示が出た直後の文書は、社内向けの未公開資料を含むことがあります。Claudeにファイルを作らせる機能では、Claudeはサンドボックス化された実行環境で動きます。ネットワークアクセスが有効だと、プロンプトインジェクションなどでデータが外部に送られる危険が理論上あります。組織向けの案内では、ネットワークアクセスを無効にした状態から始める運用が最も安全な構成とされています。社内資料を扱うなら、この設定と、所属組織が承認したサービスかどうかを先に確認します。
生成AIを薬剤業務に使う際の線引きは、病院薬剤師の生成AIガイダンスの記事で扱っています。製造販売業者の業務は対象が違いますが、「文書の作成」と「判断」を分ける考え方は共通です。
改訂のたびに回す流れ
1回ごとの作業を繰り返せる形にするには、手順を固定します。
改訂が出たときの作業の流れ
- 1
資料を集める
改訂指示の通知と改訂内容、自社が保管する旧版、反映後の新版を揃えます。改訂相談に基づく改訂なら、PMDAが公開する新旧対照表も加えます。
- 2
対照表を作る
旧版と新版を渡し、列と書き方のルールを指定した指示文で対照表にします。
- 3
通知と照合する
通知の改訂内容を添付し、食い違いの2種類を先頭に出させます。
- 4
原文を確認する
「要確認」の行と食い違いの行は、人が該当ページを開いて原文と見比べます。用量・禁忌・対象患者に関わる行は、全行を見ます。
- 5
周知文を整える
確定した対照表から下書きを作り、社内の審査に回します。
指示文は毎回貼り直すより、会話の最初に使い回す前提で保存しておくと表現がぶれません。複数の担当者が同じ型で作るなら、作業標準書の改訂を現場向けの周知にする手順のように型をSkillに持たせる方法もあります。条文の新旧対照を作る流れは、条例の改め文と新旧対照表を作る手順にまとめています。
よくあるつまずき
落とし穴
対照表に拾われない変更がある
PDFの表の中や脚注にある変更は、本文より拾い漏れが起こりやすい箇所です。対照表の行数と、通知側の改訂箇所の数を見比べ、合わないときは「表の中の記載も含めて再度確認して」と指示して2回目を回します。
落とし穴
スキャンされたPDFで文字が崩れる
画像として取り込まれたPDFは、文字の読み取りが不安定になります。Claudeは各ページを画像としても処理しますが、小さな文字や罫線の多い表は誤読しやすいので、電子添文のテキストが選択できる版を使います。崩れた箇所は「要確認」に逃がす指示を残します。
落とし穴
想定質問の回答に未確認の情報が入る
想定質問に回答まで書かせると、添付文書にない情報が入り込むことがあります。質問の候補だけを出させ、回答は添付文書の該当ページを引いて人が作ります。
対象を広げるときの考え方
同じ流れは、改訂前後の2つのPDFがあれば応用できます。院内の手順書を改訂して研修資料にする場面は院内感染対策マニュアルを改訂して研修資料にする手順に、別の型でまとめています。
医薬品の添付文書は、改訂指示・電子添文・患者向医薬品ガイド・RMPが連動します。周知文を作るときも、添付文書だけを直して終わりにせず、関連文書の改訂の要否を確認するリストを手順に加えると抜けを減らせます。
まとめ
添付文書の改訂では、入力にする資料を見分けることが最初の判断です。改訂指示が出た直後は通知の改訂内容と旧版を、改訂相談に基づく改訂ならPMDAが公開する新旧対照表を起点にします。
Claudeに任せるのは、原文のまま並べる対照表と、通知との食い違いの洗い出しまでです。周知文の「影響する場面」や想定質問は、Claudeが文脈から補う欄にあたるため、候補として扱い、社内の審査で確定させます。用量・禁忌・対象患者の行は、PDFの原文ページで人が確かめてから配布に回すのが、この流れの前提です。