就業規則の変更届と意見書をClaudeで点検する手順 — 労基法89条・90条
就業規則を変更したときの届出書類を、変更前後の規則と意見書案からClaudeで点検します。届出事項・意見聴取・意見書の添付・周知の4点を条文と突き合わせます。
変更届の添付書類で見る場所は4つに絞れる
就業規則を変えたときに点検する場所は、届出事項、意見聴取、意見書の添付、周知の4つです。変更前後の規則と意見書案をClaudeに渡し、この4点を条文の文言と突き合わせれば、提出前の抜けを洗えます。
ただしClaudeが見られるのは書面の文面だけです。労働者代表の意見を実際に聴いたか、代表者を適正な手続で選んだかは、社内の記録で人が確かめます。Claudeは「書面に書いてあるか」を点検する係で、「事実としてあったか」を保証する係ではありません。
4つの確認点と、Claudeと人の分担
届出事項
労働基準法89条。変更した条文が、届出対象の事項のどの号に当たるかをClaudeが振り分けます。届出の要否の最終判断は労働基準監督署に確かめます。
意見聴取
同法90条1項。聴く相手の書き分けが条文と合っているかをClaudeが見ます。実際に聴いたかは、日付入りの記録で人が確かめます。
意見書の添付
同法90条2項と施行規則49条2項。意見書に代表者の氏名があるかをClaudeが見ます。署名の真正は人が確かめます。
周知
同法106条と施行規則52条の2。周知メモが3つの方法のどれに当たるかをClaudeが見ます。掲示や備付けの実物は人が確かめます。
就業規則のたたき台づくりは社労士の生成AI活用ガイドブックとClaudeで就業規則たたき台を作る方法が扱っています。ここでは、すでにある規則を変えたあとの届出書類の点検に絞ります。
労基法89条: 変更した条文は届出対象の事項に当たるか
89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成と届出を義務づけています。後段には「次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする」とあり、変更も届出の対象です。届出先は所轄の労働基準監督署の署長で、施行規則49条1項が89条の届出の宛先を所轄の労働基準監督署の署長と定めています。
対象になるのは、条文が号で挙げた事項です。一号から三号までは必ず規則に書く事項で、三の二号以降は「定めをする場合においては」と条件が付いています。
| 号 | 事項 | 変更の例(仮の例) |
|---|---|---|
| 一 | 事項始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、交替制 | 変更の例(仮の例)所定休憩を45分から60分にする |
| 二 | 事項賃金の決定・計算・支払の方法、締切り・支払の時期、昇給 | 変更の例(仮の例)賃金の締め日を月末から20日に移す |
| 三 | 事項退職(解雇の事由を含む) | 変更の例(仮の例)解雇事由に項目を足す |
| 三の二 | 事項退職手当の範囲・計算・支払 | 変更の例(仮の例)退職金の算定式を改める |
| 五 | 事項食費・作業用品などの負担 | 変更の例(仮の例)制服代の負担を新設する |
| 九 | 事項表彰・制裁の種類と程度 | 変更の例(仮の例)懲戒の種類を追加する |
| 十 | 事項その事業場の労働者すべてに適用される定め | 変更の例(仮の例)副業の届出制を新設する |
表では四号と六〜八号を省いています。条文全体は十一の号を挙げているので、Claudeには号の一覧を条文のまま貼って渡します。
Claudeに頼むのは、変更した条文を1つずつ号に振り分けることです。どの号にも当たらない変更は「届出事項の変更ではない可能性がある」と印を付けさせます。文言の整理や条番号のずれがこれに当たります。印が付いた箇所の扱いを決めるのは人で、迷う場合は所轄の労働基準監督署に問い合わせます。
労基法90条: 誰の意見を聴き、何を書いた書面を付けるか
90条1項は、就業規則の作成と変更について意見を聴く相手を、事業場の状況で書き分けています。
- 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合
- ない場合は、労働者の過半数を代表する者
条文は「意見を聴かなければならない」と書くだけで、同意を得ることや協議を求める文言はありません。2項は、89条の届出に「前項の意見を記した書面」を添付するよう求めています。
意見書の中身には、施行規則が条件を足しています。
- 49条2項: 意見を記した書面には、労働者を代表する者の氏名を記載する
- 6条の2第1項: 過半数代表者は、監督または管理の地位にある者でなく、投票や挙手などの手続で選ばれ、使用者の意向で選ばれた者でない
- 6条の2第3項: 過半数代表者になろうとしたことなどを理由に、不利益な取扱いをしない
労基法106条: 周知の方法が3つのどれに当たるか
106条は、就業規則を労働者に周知させる義務を使用者に課しています。方法は施行規則52条の2が3つ挙げています。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示するか、備え付ける
- 書面を労働者に交付する
- ファイルに記録し、各作業場に労働者がいつでも内容を確認できる機器を設置する
周知メモに「社内ポータルに掲載した」とだけ書かれている場合、3つ目の方法に必要な「確認できる機器を各作業場に置く」点が書かれていないことがあります。Claudeには、周知メモの記述を3つの方法に当てはめさせ、どれにも当たらない記述に印を付けさせます。
罰則も押さえておきます。120条1号は、89条、90条1項、106条の違反を30万円以下の罰金の対象に挙げています。90条の欄で挙がっているのは1項で、2項は条文上そこに挙がっていません。
Claudeに渡す資料と、渡さない資料
渡すのは次の4種類です。
- 変更前の就業規則と、変更後の就業規則(PDFまたはWord)
- 新旧対照表(なければ、Claudeに作らせる)
- 意見書案
- 周知方法のメモ
労働者代表の氏名や、個人が特定できる意見の内容は、渡す前に伏せるかどうかを決めます。点検に必要なのは「氏名の欄が埋まっているか」で、氏名そのものではないためです。氏名欄を「[代表者氏名]」のような記号に置き換えて渡せば、点検の精度は落ちません。
会社の内部文書をアップロードするときの、モデル改善への利用設定とプラン別の扱いは、就業規則PDFをClaudeに読ませて副業規定を確認する方法にまとめてあります。勤務先がClaudeを契約している場合は、管理者の設定を先に確かめてください。
条文は、Claudeの記憶に頼らず、プロンプトに貼って渡します。労働基準法89条・90条・106条と施行規則49条・52条の2・6条の2の本文はe-Govで取得できます。貼った文言だけを根拠にさせると、条番号の取り違えを防げます。
手順1: 新旧対照表を作り、変更条文を号に振り分ける
変更前後の規則を添付し、次のように頼みます。
添付した「変更前」「変更後」の就業規則を比べて、変更された条文だけを
表にしてください。列は次の4つです。
1. 条番号と見出し(変更後)
2. 変更の内容(1文)
3. 下に貼った労働基準法89条の号のどれに当たるか(当たらなければ「該当なし」)
4. その判断の根拠になった規則の文言(引用)
号の判断は、下に貼った条文の文言だけを根拠にしてください。
迷う場合は、断定せず「要確認」と書いてください。
【労働基準法89条の本文】
(ここに条文を貼る)出力の4列目に規則の引用を要求している点が肝心です。引用がない行は、Claudeが規則を読まずに号を決めた可能性があるため、人が読み直します。
手順2: 意見書案を条文と施行規則に当てる
意見書案を添付して、次のように頼みます。
添付した意見書案を、下に貼った労働基準法90条と施行規則49条2項・
6条の2に照らして点検してください。
見る項目:
(a) 意見を聴いた相手が、労働組合か過半数代表者か書かれているか
(b) 過半数代表者の氏名の記載欄があるか
(c) 意見の対象が、手順1の表にある変更条文と一致しているか
(d) 意見の日付が、変更案の確定日より前になっていないか
(e) 使用者の意向で選ばれたと読める記述がないか
各項目に「記載あり」「記載なし」「読み取れない」のどれかを付け、
根拠にした意見書の一文を引用してください。事実かどうかは判断せず、
書面に書かれているかどうかだけを答えてください。(c)と(d)は条文が直接求める項目ではなく、意見書が別の版の規則に対するものになっていないかを見る実務上の確認点です。条文が求めるのは、意見を記した書面の添付と代表者の氏名の記載です。
最後の指示で、Claudeの役割を「書面の点検」に固定しています。「意見を聴いたのは事実か」と聞いても、Claudeの手元にあるのは書面だけで、答えは書面からの推測にとどまります。
点検結果から直す場所を決める
- Q手順2の(b)が「記載あり」か?答えがいいえのとき答えがはい
施行規則49条2項が求める氏名の記載が抜けています。欄を足してから次へ進みます。
- Q(a)が「記載あり」か?答えがいいえのとき答えがはい
相手の区分を書き足します。
- Q(c)で変更条文すべてに意見が及んでいるか?答えがいいえのとき答えがはい
聴取の範囲を確かめます。
書面の形はそろっています
残るのは、聴取や選出が実際に行われたかの確認です。日付入りの記録を人が見ます。
手順3: 周知メモを3つの方法に当てはめる
周知の方法を書いたメモを渡し、次のように頼みます。
下のメモを、施行規則52条の2が挙げる3つの方法
(掲示・備付け / 書面の交付 / 電子ファイル+確認できる機器の設置)に
当てはめてください。どの方法にも当たらない記述、方法は分かるが
「各作業場」「常時」などの条件が書かれていない記述に印を付けてください。
【周知メモ】
(ここにメモを貼る)事業場が複数ある会社では、事業場ごとに周知メモを分けて渡します。90条が「当該事業場に」労働組合や代表者がいるかで書き分けているため、意見聴取も事業場ごとに見ます。
点検基準をProjectsの指示に固定する
同じ点検を変更のたびに繰り返すなら、基準をClaudeのProjectsの指示に置いておくと、毎回プロンプトを書き直さずに済みます。条文を置く資料の選び方は、育児・介護休業法の改正を就業規則に反映する差分をClaudeで洗い出すのProjectsの節が参考になります。
あなたは就業規則の変更届の添付書類を点検する補助役です。
根拠にするのは、この Project に置いた条文のテキストだけです。
- 労働基準法 89条・90条・91条・92条・106条
- 労働基準法施行規則 6条の2・49条・52条の2
点検する4点: 届出事項(89条) / 意見聴取(90条1項) /
意見書の添付と代表者氏名(90条2項・施行規則49条2項) / 周知(106条)
出力は、確認点ごとに「記載あり / 記載なし / 読み取れない」と、
根拠にした書面の引用を並べた表にしてください。
事実かどうか、届出が必要かどうかは判断せず、「人が確認する点」として
別の欄に書き出してください。制裁規定を変えたときは、91条も置いておく価値があります。91条は、減給の制裁について、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはならないと定めています。92条は、就業規則が法令や労働協約に反してはならないと定め、行政官庁に変更命令の権限を認めています。変更後の規則にこれらと衝突する文言がないかも、同じ表の追加行として点検させられます。
出力の形の例
次の表は、手順1の出力がこの形になるという例示です。条文名や数値は仮のもので、実際にClaudeが返した出力ではありません。
| 条 | 変更の内容 | 89条の号 | 根拠の引用 |
|---|---|---|---|
| 第14条 休憩 | 変更の内容休憩時間を45分から60分へ | 89条の号一号 | 根拠の引用「休憩時間は60分とする」 |
| 第22条 賃金の締切日 | 変更の内容月末締めを20日締めへ | 89条の号二号 | 根拠の引用「毎月20日に締め切り」 |
| 第31条 服務 | 変更の内容条番号の繰り下げのみ | 89条の号該当なし(要確認) | 根拠の引用「第31条を第32条とする」 |
3行目のように「該当なし」でも要確認に倒す指示を入れておくと、判断を人に戻す点が表に残ります。
見落としやすい箇所
落とし穴
意見書の対象が変更の一部にとどまる
条文が求めるのは、就業規則の「作成又は変更」についての意見です。変更条文が10か所あるのに、意見書には2か所しか書かれていない場合、残りの8か所は意見を聴いた範囲に含まれるのか分かりません。手順2の(c)で、変更条文の一覧と意見書の記載を必ず突き合わせます。
落とし穴
Claudeが条文を記憶で引いて号を取り違える
条文を貼らずに「89条の何号か」と聞くと、号の番号が条文とずれる余地が残ります。号の判断は、貼った条文の文言だけを根拠にさせ、引用を出力に含めさせます。
就業規則の届出と並べて36協定届を見直す場合は、Claudeで36協定届の旧テンプレートを点検する方法に別の手順があります。
Claudeに任せる範囲と人が見る範囲
任せられるのは、書面の文面と条文の対応づけです。号への振り分け、氏名欄の有無、日付の前後、周知方法の当てはめがこれに当たります。
人が見るのは、書面の外にある事実です。意見を実際に聴いたか、代表者の選出が投票や挙手などの手続を経たか、署名が本人のものか、掲示や備付けが実際にされているかです。Claudeに「問題ありません」と言わせて終えず、出力の「人が確認する点」の欄を提出前のチェックリストとして使います。
まとめ
変更届の添付書類の点検は、条文が求める4点を表にして、Claudeに書面との対応を取らせる作業です。表の「記載なし」と「読み取れない」が提出前に直す箇所で、「人が確認する点」の欄が、書面の外で確かめる箇所になります。
提出自体や、届出事項に当たるかどうかの最終判断は、社会保険労務士や所轄の労働基準監督署に相談できる範囲です。Claudeの点検は、その相談に持っていく書類の抜けを減らすために使います。